<ブラボー、クラシック音楽!−曲目解説#15>
モーツァルト「交響曲第41番「ジュピター」」
(Symphony No.41, Mozart)

−− 2006.05.01 エルニーニョ深沢(ElNino Fukazawa)

 ■はじめに − モーツァルト交響曲の頂点を成す作品
 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(※1)の『交響曲「ジュピター」』(※2)を初めて掛けたのは第11回例会(=05年8月11日)です。この日は<モーツァルトの曲>というテーマで「オール・モーツァルト」プログラムとし、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」「交響曲第40番」と共に聴きました。何れも彼の器楽の代表作です。
 特に『ジュピター』はモーツァルトの最後の交響曲で彼が登り詰めた頂点を成す作品です。じっくりと聴いてみましょう。

 ■曲の構成とデータ
 通常『ハ長調交響曲』とか『ジュピター』と呼ばれますが、「ジュピター」という標題は作曲者に依るものでは無く壮麗な曲想に対する後世の呼び名で、今日の正式名称は『交響曲第41番 ハ長調 K551「ジュピター」』です。”Kxx”とはケッヘル番号です。曲の構成は
  第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ長調 4/4 [ソナタ形式]
  第2楽章:アンダンテ・カンタービレ ヘ長調 3/4 [ソナタ形式]
  第3楽章:メヌエット・アレグレット ト長調 3/4
  第4楽章:フィナーレ アレグロ・モルト ハ長調 2/2 [ソナタ形式]
という4楽章です。
  ●データ
   作曲年 :1788年(32歳)
   演奏時間:約28〜32分

 ■聴き方 − ”中年モーツァルト”の渋味と安定感を聴く
 第1楽章は「ズン、ズン、ズン」と大地を踏み締める様な低音のトゥッティで荘重に始まりますが、提示部でスタッカートの如何にもモーツァルト的な軽快なフレーズを挟み最後は堂々としたコーダで終わります。第2楽章はゆっくりとした回顧的な楽想で”中年モーツァルト”の渋味が滲み出ている様に思えます。第3楽章のメヌエットは舞曲的では無く寧ろ諧謔的な趣が有り、次代のベートーヴェン以降に第3楽章がスケルツォに置き換わって行くのを予感させる内容です。終楽章はこの曲のみならず彼の全交響曲を締め括るのに相応しい見事なフィナーレで壮麗にして雄大です。
 ハ長調という最も自然な調(ちょう)を使い、「ド・ミ・ソ」の主和音を多用し、統一感の有る建築的構成美が支配するこの曲は、何よりもどっしりとした「安定感」と重厚さを感じさせます。

 ■作曲された背景 − 全てを出し切った三大交響曲
 モーツァルトの最後を飾る第39番〜41番の所謂「三大交響曲」は1988年の僅か2ヶ月の間に立て続けに書かれて居ます。これについては「モーツァルト「交響曲第40番」」の「作曲された背景」の章に既に書きましたので、そちらを参照して下さい。
 彼は88年8月10日に『ジュピター』を書き上げましたが、作曲の動機や初演の状況などの詳細は不明です。この3年後に彼はこの世を去る事に成りますが、もうこの曲以降には交響曲に手を付けて居ません(△1)。恰(あたか)も交響曲に関しては88年夏に”全てを出し切った”かの様で、事実最後の「三大交響曲」は実に充実した内容で、モーツァルト交響曲の集大成として何ら不足は感じられません。
 これ以降モーツァルトの興味は再びオペラに向かい、『歌劇「コシ・ファン・トゥッテ(女は皆こうしたもの)」』(1790年作)と『歌劇「魔笛」』(91年作)を仕上げます。その他の大作としては『レクイエム(死者のためのミサ曲)』(91年遺作、弟子ジュスマイアが補筆完成)、小品の名曲としては『クラリネット五重奏曲』(89年作)、『クラリネット協奏曲』(91年作)が挙げられます。

 ■結び − 「時代の節目」に立つモーツァルトの記念碑
 今回期せずして『第41番「ジュピター」』と『第40番』を聴き比べる形に成りましたが、更に『第39番』とも聴き比べ、「三大交響曲」のそれぞれの個性の違いと『ジュピター』に向かう上昇ステップを感じ取って戴くことをお薦めします。
 更に「聴き方」の章で記した様に、『ジュピター』はモーツァルト交響曲の最後を飾る作品であると同時に次の時代の主流と成るベートーヴェン的響きや技法が窺えます。これはモーツァルトがベートーヴェンの影響を受けたということでは無く、1780年代後半はロココ様式(←そのギャラントなスタイルはモーツァルトの音楽に多大な影響を及ぼしました)や前古典派様式が終焉を迎え、確固とした形式美に裏打ちされた古典派様式(※3)に統合される「時代の節目」であり、モーツァルトの音楽の変化もその様な時代の要請だったのです。そういう意味からは『ジュピター』とベートーヴェン初期の『第1番』『第2番』『第4番』の交響曲と聴き比べることをお薦めします。

−− 完 −−

【脚注】
※1:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)は、オーストリアの作曲家(1756.1.27〜1791.12.5)。古典派三巨匠の一人(他はハイドンとベートーヴェン)。幼時から楽才を現し、短い生涯中、6百曲以上の作品を書いた。18世紀ドイツ/フランス/イタリア諸音楽の長所を採って整然たる形式に総合し、ウィーン古典派様式を確立。多くの交響曲・協奏曲・室内楽曲の他、数多くの歌劇を書いた。
 代表作は交響曲「ジュピター(第41番)」「ト短調(第40番)」ピアノ協奏曲「戴冠式(第26番)」、セレナーデ「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、室内楽曲の「クラリネット五重奏曲」、声楽曲の「レクイエム」、歌劇「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「魔笛」など。

※2:ジュピター(Jupiter)は、[1].ローマ神話の天空神で、国家の三主神の一。ユピテル。元はギリシャ神話のゼウス
 [2].木星。
※2−1:ゼウス(Zeus)は、ギリシャ神話の最高神。空を支配すると共に政治/法律/道徳などの人間生活をも支配する。ギリシャの名家はその祖を神の子に求めたので、ゼウスには人間の女やニンフとの交わりに因る子供が次第に多く成った。ローマ神話のジュピターに当る。

※3:古典派音楽(こてんはおんがく、classic music)とは、バロック時代に続く、1720年頃から19世紀初頭の簡潔で自然な様式の音楽。一般に、1780年頃以降のウィーン古典派を指す。それ以前の前古典派には北ドイツ楽派/初期ウィーン楽派/マンハイム楽派等を含む。ウィーン古典派は円熟期のハイドンモーツァルト、中期迄のベートーヴェンに当たり、今日の音楽教育の基礎と成っている。古典音楽。→ソナタ形式。

    (以上、出典は主に広辞苑です)

【参考文献】
△1:『モーツァルト』(海老沢敏著、音楽之友社)。

●関連リンク
参照ページ(Reference-Page):調(ちょう)や主和音について▼
資料−音楽学の用語集(Glossary of Musicology)
補完ページ(Complementary):モーツァルトの三大交響曲の作曲事情▼
モーツァルト「交響曲第40番」(Symphony No.40, Mozart)
ロココ様式や前古典派様式の音楽▼
モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第3番」(Violin Concerto No.3, Mozart)
この曲の初登場日▼
ブラボー、クラシック音楽!−活動履歴(Log of 'Bravo, CLASSIC MUSIC !')


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