"心ならいらない" 強がる自分が追い込まれる

「Sweet Silence」

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豪は僕を抱きしめたままの格好で動かない。 いつもと違う様子に変に不安が募った。 「豪、どーした?」 もう一度、声をかけてみる。 「・・・なんでもねーよ」 抱きしめられたままの格好で、その顔はみえないけれど。 声だけで伝わるほど、苦しげな。 それは、痛々しいほどの。    でも、僕はそれに触れちゃイケナイ。 「それよりさ、続き、してもいー?」 相変わらず僕からは豪の顔は見えない。 さっきまでより幾分甘えの入った声。 わざとらしく出された声に隠れた感情を問いただすことは許されなくて。 だから、僕はお前の三文芝居につきあってやる。 「やだって言ったらやめんのか?」 こんな時にはちょっと呆れたよーな声で応えてるのが妥当。 「んー・・・、ってゆーか、兄貴、やだって言わないだろ?」 そう言いながら、すっと内腿に手をのばされた。 予感とか、そーゆんじゃないけど。 今日の豪は何か変だ。 何がかなんてわかんないけど・・・切羽詰まったカンジ。 しかし、そのまま脇腹から胸にかけて撫で上げられ、慣れた刺激に身体が反応しはじめると 思考能力はさがっていく。 「兄貴って、肌白いよなー」 何を、今更。 初めて肌をあわせるわけじゃあるまいし。 ボーっとしてきた頭でぼんやり思う。 「こんなキレイなのに・・・あの女ともヤってるの?」 なに・・・・・・? 「もったいねーな」 豪の言葉に急速に思考が戻る。 やっぱり、今日の豪はおかしい。 "彼女"の話はタブーだった。 お互い相手がいることは知ってる。 豪は付き合うサイクルが早くてコロコロ変わるけど そのうち何人かとは顔だってあわせてる。 でも、こんな時に、それを持ち出しすなんて。 しかも楽しむような口調で。 なんでそんなこと・・・と豪の方に顔を向ける。 そこにあったのは、口調とは裏腹に泣きそうな情けない顔。 ・・・・・・やっぱり変だよ、豪。 「・・・自分だって・・・・・・オンナノコと寝るじゃないか」 動揺を悟られないようにと思うのに、わずかに声が上擦る。 「寝てないよ」 え・・・・・・? 「前に女と別れたって言ったろ・・・あれから、他の女とは寝てない。  "彼女"もいない」 これ以上、言わせちゃダメだ。 「俺にはもう・・・・・・」 言うな。 「兄貴だけだ」 ダメだよ。 だって、ホンキで求めたら・・・ 「全部壊すつもりかよ・・・」 僕が言おうとした言葉は、瞳を閉じた豪の唇に呑み込まれた。              φφφ    φφφ    φφφ 目を閉じたキスがタブーになったのはいつからだっけ。 でも、今、閉じた瞼に浮かぶのは烈兄貴ただ一人で。 こんなにハッキリ自分は兄貴のことだけ感じてる。 "兄貴といられるなら、どんな関係でもいい"なんて。 無意識に自分をごまかしてた。 違うだろ。 本当に心の底で思ってたのは・・・"兄貴だけいれば、他には何もいらない"。 「・・・・・ん・・」 最初は自分の腕から離れようともがいていた烈兄貴は次第にその力を弱めていった。 完全に抵抗が無くなったところで、そっと唇を離す。 この腕から抜け出そうとはしないけど、顔を俯けて、俺の顔を見ようとしない烈兄貴。 「烈兄貴」 俺だけしかできない呼び方。 「烈兄貴」 お願い、応えて。 「烈兄貴」 これは後悔とかそんなんじゃない。 「烈あに・・・」 相変わらず顔を上げてくれないから、表情は見えないけど、 俯けたままの顔からパタパタと落ちる雫ははっきり見える。 シャワーでできた雫、じゃない。 兄貴は何も言わないで、ただただ涙を落とす。 だけど、俺だってここで引くわけないはいかない。 今更ながら、直線勝負の俺がここまで随分遠回りをしたと思う。 「烈兄貴」 そっと、頭に手を置いて、優しく、ちゃんと、烈兄貴の心の底の底まで届くように。 「兄貴が好きだ」 触れた肌から、烈兄貴が体を固くしたのを直に感じて、なんとも言えない気持ちになる。 「・・・・・・ダメだ・・って・・言った・・・」 文字通り絞り出したような声に胸は痛むけれど、俺は悪びれもせず、返す。 「うん、約束やぶって悪ぃ」 でも。 「兄貴、知ってるだろ。  俺、自分が一番って決めたら絶対一番じゃなきゃ嫌なんだよ」 兄貴の涙はいつの間にか止まってる。 「だから、兄貴にとっても1番じゃなきゃ嫌だ」 だって、自分の本当に欲しいモノがはっきりわかってしまったから。 「ただ一緒にいるだけじゃ、足んねーんだよ」 兄貴がダメって言っても。 「俺もう、決めちゃったから」 俺の言いたいこと、ちゃんと兄貴に届いてる? 「俺、絶対、兄貴の1番になるって」
出逢いをすべてを悔やまぬ様に

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兄弟ってゆーのを乗り越えてつきあい始めたのに一線を許さない烈兄貴。 というのはよくみかけるので、 身体は許すけど心は許さない烈兄貴をお届け。<それもどーよ・・・。 もうすぐ終わります。ほんと、あとちょっとでね。 そうそう。 烈の無言のセリフをドラッグすると・・・。あら? こういう小演出(ってほどのもんじゃないけどさ)って、HPならではですよね。 せっかくタグ使ってるんだから紙上じゃできない手法を使ってみたかったのだ。ははは。