あっせん期日の通知が来た!
  そのとき社長はどう対応しますか?

 東京労働局(ほか管轄の道府県労働局)から、
 あっせんの期日が決定された旨の通知が会社に届いた。
 そのとき、中小企業経営者、人事労務担当の管理職者は、
 どう対応すればよいでしょうか。

 次の3つの方法が考えられます。

 ・あっせんに参加する旨を労働局に連絡する。
 ・あっせんに参加しない旨を労働局に連絡する。
 ・通知を完全に無視する。

 このいずれかです。

 まず、郵送された通知に対して「完全に無視」した場合です。
 このようなときには、数日後、労働局から社長宛に
 電話がかかってきます。
 そして、労働局の担当官は、
 会社があっせんに参加するか・参加しないかの意思確認を
 直接電話ですることになります。
 ですから社長は、当初の通知を無視しても
 結局はあっせんに「参加する」「参加しない」の判断と
 意思表示が必要になります。


「あっせん」とは

 では、あっせんに「参加する」か「参加しない」かの判断の前に、
 「あっせん」とは何かを知っておきましょう。

 簡単に言えば、
 「会社と個々の社員の、労働に関するトラブルを、
  裁判をしないで解決する手段」です。

 これを専門用語を使って表現すると、
 「事業主と個々の労働者との間の
  労働関係に関する事項についての紛争
  (これを『個別労働紛争』といいます)に対する
  裁判外紛争解決システム(ADR)
  ということになります。

 「あっせん」という仕組みは
 「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」によって
 定められています。
 この「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」は、
 個別労働紛争の未然防止や、迅速な解決を促進することを
 目的としてつくられ、次の3つの制度を規定しています。

 ○ 総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談
 ○ 都道府県労働強調による助言・指導
 ○ 紛争調整委員会によるあっせん

 つまり「あっせん」とは
 「紛争調整委員会によるあっせん」のことです。


「紛争調整委員会によるあっせん」とは
 労働問題について争いのある当事者の間に
 学識経験者である第三者が入り、両者の主張の要点を確かめ、
 場合によっては、
 両者が採るべき具体的なあっせん案を提示するなど、
 紛争当事者間の調整を行い、話合いを促進することにより、
 紛争の円満な解決を図る制度です。


「紛争調整委員会」とは
 弁護士、大学教授等の労働問題の専門家である学識経験者により
 組織された委員会であり、都道府県労働局ごとに設置されています。
 この紛争調整委員会の委員のうちから指名されるあっせん委員が、
 紛争解決に向けてあっせんを実施することとなります。

 この「紛争調整委員会によるあっせん」は、
 労働問題に関するあらゆる分野の紛争がその対象となり、
 具体的には下記に掲げるようなことです。

 (対象となる紛争:例1

 ○ 解雇、雇止め、配置転換・出向、昇進・昇格、
  労働条件の不利益変更等、労働条件に関する紛争
 ○ セクシュアルハラスメント、いじめ等職場の環境に関する紛争
 ○ 労働契約の承継、同業他社への就職禁止等の労働契約に関する紛争
 ○ その他、退職に伴う研修費用の返還、
  営業車等会社所有物の破損に係る損害賠償をめぐる紛争  など

 (対象とならない紛争:例2)

 ● 募集・採用に関する紛争
 ● 裁判所で係争中または民事調停中の紛争
 ● 裁判所で判決が確定し、または
  民事調停もしくは和解が成立した紛争
 ●「個別労働紛争解決法」による都道府県労働局長の
  助言、指導もしくは勧告が行われている紛争、
  またはあっせんが開始されている紛争もしくは成立した紛争
 ●「男女雇用均等機会均等法」による都道府県労働局長の
  助言、指導もしくは勧告が行われている紛争、
  または調停が開始されている紛争もしくは成立した紛争
 ● 労働基準監督署において
  労働基準法等に係る法令違反があるとして、
  当事者に対する指導が行われ、もしくは行われた紛争
  または処分が行われた紛争
 ● 労働関係調整法における会社と労働組合との間の
  労働争議に当たる紛争


どういう手順であっせん期日の通知が来たのか

 では、どのようにして
 あっせん期日の通知が会社に届いたのでしょうか。
 下図のような流れです。

  申請人が、
   都道府県労働局や総合労働相談コーナーに
   あっせん申請書を提出する
      ↓
  都道府県労働局長が、
   紛争調整委員会にあっせんを委任する
      ↓
  紛争調整委員会の会長が指名したあっせん委員が、
   あっせん期日(あっせんが行われる日)を決定し、
   紛争の当事者である両者に期日を通知する


 このようにして、あっせん期日の通知が会社に届くのです。

 つまり、
 ・上記(例1)に掲げた範囲の中の項目について
 ・不満を持つ社員または元社員が、
 ・その不満を解消するために、
 ・いくつかある解決制度の中から「あっせん」を選んで
  申請した結果、
 あっせん期日の通知が社長の手元に送られてきた、ということです。


あっせんに参加するか、参加しないか

 あっせんに参加するか参加しないかは、会社の自由です。
 参加しなくても罰則はありません
 「参加しない」ことを表明した時点で、あっせんは打ち切られます。

 ではこれですべて終わりか、と言えば、それは何ともいえません。
 会社に不満を持つ社員または元社員(=あっせん申請者)の不満が
 解消されたわけではありませんから。

 あっせんで解決の糸口をみつけられなかったあっせん申請者には
 「裁判」という手段を選択する可能性があるわけです。

 それでは参加する場合はどうなるでしょうか。

 まず、あっせんが実施される場で、あっせん委員は
 ・紛争当事者である両者の主張の確認、
  必要に応じ参考人からの事情聴取
 ・紛争当事者間の調整や話し合いの促進
 ・紛争当事者の両者が求めた場合には
  両者が採るべき具体的なあっせん案の提示
 などを行います。

 会社側とあっせん申請者の両者の合意が成立したり、また、
 両者があっせん案を受諾した場合には、
 トラブルが解決されたということで、あっせんは終了します。
 しかし、合意しなかったり、あっせん案を受諾しないことも
 もちろん可能です。当然罰則などもありません。
 「あっせん(案)」には裁判の判決のような拘束力はないのです。
 この場合、これであっせんは打ち切りです。
 (注:両者が合意した場合やあっせん案を受諾した場合には
    民法上の和解契約の効力が生じます。


 あっせんが打ち切られ、トラブルは未解決である状態で、
 あっせん申請者は何を思うでしょうか?
 第三者に話しを聞いてもらえただけで、少しでも気の済む人も
 いるかもしれません。
 会社側の言い分を聞いて、少しでも理解を示す人も
 いるかもしれません。
 トラブルは解決したいが、できるのはあっせんまで、
 裁判までは無理。泣く泣くあきらめる、という人も
 いるかもしれません。
 でも、手段として、制度として、「裁判」の道は残されています。


 さてここで、あっせんに「参加する」か「参加しない」かです。

 ポイントが2つあると思います。

 1.参加しても「相手と合意しない」「あっせん案を受諾しない」
   という選択がまだできる、ということ。
   → これは、「裁判」の前に解決を探るチャンスである、
     と言えます。

 2.あっせん打ち切りの場合に、
   あっせん申請者が即裁判へ行動をとるかは何とも言えないが、
   会社としては、
   「あっせん」と「裁判」を天びんにかけてみる必要がある、
   ということ。

 そこで下の表に「あっせん」と「裁判」の、特徴的な箇所の比較を
 まとめてみました。


あっせん
裁判
時間
原則1日で終了
長期にわたることが多い
手続き費用
無料
訴訟の価額に応じた
金額が必要
プライバシー
非公開
公開
拘束力
あっせん案に応じるかは
自由
判決には強い拘束力がある
代理人
社会保険労務士
弁護士


 さて、表を見てどう思いますか?
 比較してみると、積極的に「裁判で争う」「勝訴判決に意味がある」
 というわけでなければ、
 あっせんに参加してみる価値はあると私は思います。

 こんなこともあります。
 例えば[いろはサービス株式会社]という会社が
 元社員から訴えられたとします。
 そして長い年月をかけて戦い抜き、
 幸いにして[いろはサービス株式会社]は正当性を認められ
 裁判で勝訴しました。
 しかし!です。
 たとえ勝訴判決を勝ち得ても
 [いろはサービス株式会社]に関する労働裁判であれば
 「いろはサービス事件」として判例が残ります。
 だれでもそれを目にすることができます。
 判決の中身まで見れば[いろはサービス株式会社]に
 非はないことはわかるとしても、
 パッと見では世間的にあまり良いイメージとはいえません。
 あっせんは非公開ですから、こんなこともないのです。


あっせんに参加するにあたり、労働法の知識は十分ですか
あっせんについて会社の味方がいます

 裁判において弁護士が代理人となってくれるように、
 あっせんにおいて社会保険労務士が代理人となることができます。
 この制度を「あっせん代理」といいます。

 あっせん申請をした側はあっせん代理人をたてることができます。
 同じく、あっせんの通知を受けてあっせんに参加した側も
 あっせん代理人をたてることができます。

 相手側が労働に詳しい専門家を代理人としている。
 こちら側は労働法に詳しいわけではない。
 こんな場合、交渉において圧倒的不利は目に見えています。

 また、相手側が代理人をたてず、
 その本人も労働法にくわしくない、という場合。
 こちら側が労働法の専門家にあっせん代理を依頼すれば、
 交渉は有利に進められる可能性が高いです。


あっせん代理人はこんなことをします

 ○ あっせん委員から会社に事情聴取がある場合、これに答えます。
 ○ あっせん委員の調査に対して陳述します。
 ○ トラブルの内容を吟味し、会社に解決案を提示します。
 ○ 期日にあっせんに参加します。
 ○ あっせんに必要な書類の作成をします。

 会社側からあっせん申請をすることも可能です。
 その場合のあっせん代理もします。


でも、本当は・・・

 あっせんの場に持ち込まれるようなトラブルに発展させないことが
 一番です。
 そのためにも、日頃から相談できる労務顧問を持つことが得策です。
 トラブル未然防止の予防法務としても機能します。
 万が一あっせんに持ち込まれても、
 あわてて探した社会保険労務士より、
 日頃から付き合って信頼関係を築きあった社会保険労務士が
 何より頼りになるものです。


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