消費税で損する会社と、消費税で損しない会社

会社が消費税をたくさん納付するとき、消費税で損していると感じても、実は損していなかったり。
消費税を納付していないから損をしていないと思っても、実は損(?)をしていたり。

消費税の基本的な話

消費税の基本的な話からスタートします。

まず消費税がない世界の話です。
次の取引例で、利益はいくらになるでしょうか。

会社が、60で仕入れたものを100で売りました。

消費税の基本的な話

利益計算
 売上100-仕入60=利益40

利益は40です。

同じ取引を、消費税がある世界で行うとこうなります。
(消費税率は、便宜上のもので進めます)

会社が60で仕入れる際、消費税3も合わせて払います。
それを100で売る。
売るときには、お客さんから消費税5を合わせてもらう。

消費税の基本的な話

利益は、105-63で42になるかというと、そうはなりません。
もらった消費税5から、払った消費税3を差し引いた差額2は、納税します。
したがって、利益の計算では、消費税を含めません。(税抜き経理)

利益計算
 売上100-仕入60=利益40

利益は、やっぱり40。

利益の計算については、消費税のない世界と同じ結果。
そして利益計算とは別に、消費税の計算があるのです。

消費税計算
 売上の消費税5-仕入の消費税3=納付する消費税2

こうしてみると、消費税があっても、なくても、会社の利益は変わらないことがわかると思います。

そうなんです。
消費税は、会社の利益計算には影響しないんです。

消費税は、会社の利益計算には影響しない

消費税は、その名のとおり「消費」したときにかかる税金。
消費税を負担するのは最終消費者
だから事業者である会社は、最終消費者にならない限り、消費税を負担しないのです。
消費者が負担した消費税を、事業者は代わりに納税しているのです。

ただ、世の経営者の多くは、消費税を納付するときに、多額のお金が外に出ていくので、「損した気分」になるようです。
でも、その中身をひも解けば、損していないことが分かると思います。

消費税がない世界なら本当はもらわないお金を、消費税がある世界では「消費税」として多く受け取っている
その多く受け取っている中から税金を納めているので、会社は本当はまったく損してない。
ただし、コレは原則的な話。

事業者である会社が、損する(負担する)場合もあるんです。
さてそれはどんな場合でしょうか。

会社が消費税で損する(?)場合

消費税がかかる世界ではあっても、「消費税がかからないもの」というのが存在します。
非課税というものです。

消費税の非課税は、主に次のどちらか2つの理由で決められています。

「消費」に対してかかるのが「消費税」だから、「消費」しないものには「消費税」はかからない、という理屈から非課税になるもの。

そして、コレに消費税かけちゃったら、ちょっと大変でしょう、かわいそうでしょう、という感情的、政策的なことで非課税にしているもの。
の2つ。

前者が、

  • ・土地の売買や貸付、・株式などの売買
  • ・利子や、・保険料など

「消費」しないので、消費税は非課税

後者が

  • ・国や地方公共団体などが行うサービス
  • ・医療や、・介護保険サービス
  • ・助産や、・火葬料、埋葬料
  • ・学校の授業料や教科書の販売
  • ・住宅の賃貸など

これらは、消費税がかかると生活が大変になるし、反感も大きそうだから、消費税は非課税。

さてこの非課税の場合には、利益の計算と、消費税の計算はどうなるでしょうか。

売上が消費税非課税の場合の「利益の計算」と「消費税の計算」

例をあげます。

介護事業者が、介護保険サービスを行って100売上げました。
それにかかった経費は60です。

売上100は、消費税非課税です。
経費60は消費税がかかるものだったので、消費税3です。

売上が消費税非課税の場合の「利益の計算」と「消費税の計算」

まず、利益計算
とりあえずですが
 売上100-経費60=利益40

次に、消費税計算
 売上に対する消費税0-経費にかかる消費税3

すると納付額は?
-3ではなく、納付額0、です。

でもこれだと、-3が、計算から浮いてしまうので、経費に含めます。
消費税を、経営活動にかかった費用として利益計算に含めるのです。

したがいまして

利益計算
 売上100-経費63=利益37

消費税計算
 なし

売上が非課税のみの場合、消費税は納税しないことになります。

前述の、原則的なパターン=売上に消費税がかかるパターンの場合には、こうなるとお話しました。
 ↓
消費税を、「負担」するのは消費者。
会社などの事業者は、消費者の代わりに消費税を「納税」しているだけ。
「負担」はしていません。
そして、「納税」している経営者は、損していないのに「損した気分になる」人が多い、と。

今回のようなパターン=売上に消費税がかからない非課税のパターンの場合には、事業者は、消費税を「納税」をしません。
だけど消費税の「負担」はしているのです。
非課税の事業をしている会社は、最終消費者になるからです。
そして「納税」をしないから、その非課税事業の経営者はあまり「損した気分にならない」

このように比較すると、消費税のオモシロイところ、というか、ちょっとコワイところがわかると思います。

「負担する人」と、「納付する人」が別なので、
損していないのに、損した気分になったり、
損している(?)のに、損している気分にならなかったり。

消費税がかかる売上と、消費税が非課税の売上が両方ある場合

今度は、消費税が課税される売上と、消費税が非課税である売上が混合しているケースについて、見ていきます。

さきほど、消費税が非課税になるものとして、簡単でありますが、例をあげました。
そのうち、「住宅の賃貸」を例にあげてみます。

建物や部屋を貸す事業ですが、消費税が非課税になるのは「住宅」の賃貸
人が生活する場所です。住んでいる所。
「居住用」なんて言ったりします。

これに対し、同じ「建物の賃貸」「部屋の賃貸」でも、「事務所」や、「店舗」など「業務」に使う場合、これを「事業用」なんて言ったりしますが、「事業用」の場合は、消費税は非課税ではなく、課税消費税がかかるのです。

ヘンですね。
建物を貸す行為は同じなのに、それを何に使うか、「居住用」か、「事業用」かで、片や消費税がかからない、片や消費税がかかる。
ヘンですね。

では、利益計算と、消費税計算をしてみましょう。

売上が消費税課税と非課税がる場合の「利益の計算」と「消費税の計算」

各階1部屋ずつある2階建ての建物を貸し付けたとします。
1階は事業用の事務所使用、2階は居住用。

売上が消費税課税と非課税がる場合の「利益の計算」と「消費税の計算」

2階賃料80、消費税なし。
1階賃料100、消費税5。

この2部屋とも、リフォーム費用がかかりました。
2階部分40、消費税2。
1階部分60、消費税3。

売上が消費税課税と非課税がる場合の「利益の計算」と「消費税の計算」

利益計算
 賃料収入(100+80)-リフォーム費用(60+42)=利益78

消費税計算
 賃料収入の消費税5-リフォーム費用の消費税3(のみ)=納付額2

実は消費税の計算方法は、この他にもう1つやり方があります。
が、ここではこの原則的なやり方だけピックアップします。

原則的なやり方では、経費などにかかった消費税は、

  • それが課税された収入に対応するものと、
  • 非課税の収入に対応するものとに

分けて計算することになっています。

上の例では、もらった消費税5から差し引くことができるのは、払った消費税3のみ。
払った消費税2は、差し引くことができない。(→利益計算のほうに回ります。)
これを「個別対応方式」なんて言います。

さてさて、こうなってくると、「納税」と「負担」が入り組んでいて、損してるのか、損していないのか、わかりにくくなってきましたね。

消費税の2つの計算方法

消費税納付額を計算する方法には2つあります。
先ほどみた「個別対応方式」
そしてこれから見ていく「一括比例配分方式」です。

先ほどの例を、そのまま使います。
まずは、収益に着目します。

  • 居住用の部屋の賃料80
    その賃料にかかる消費税 なし

  • 事務所使用の部屋の賃料100
    その賃料にかかる消費税

消費税の2つの計算方法

この収益の数字を基に、ある割合を計算します。

課税売上割合

その割合とは、全体の収益のうち、消費税がかかる収益が占める割合

課税売上割合

このようにして計算した割合を「課税売上割合」って言います。

今回の例に当てはめるとこうなります。

課税売上割合

次は、費用に着目します。

  • 居住用の部屋にかかった
    リフォーム費用40、
    その消費税

  • 事業用の部屋にかかった
    リフォーム費用60、
    その消費税

課税売上割合

先ほどの「個別対応方式」では、この消費税3と、消費税2は、それぞれ収益と対応させて計算しますが、この「一括比例配分方式」では、個別に対応させません。

費用にかかった消費税を全部合計し、
 ↓
その合計額に、さきほど計算した「課税売上割合」掛け算して、
 ↓
課税される収益に対する費用にかかった消費税とすることにします。

つまりこうです。
 (払った消費税(3+2))×55.6%=2.78

そして消費税の納付額計算はこうなります。

消費税計算
 収益の消費税5-費用の消費税2.78=納付額2.22

これが、費用にかかる消費税を一括合計して、課税売上割合の比率に比例して配分する方式です。

先述の「個別対応方式」では、こうでした。
 収益の消費税5-経費の消費税3=納付額2

見ての通り、両者で納付額が違います
一連の説明のために使った例では、たまたま「個別対応方式」のほうが、納付額が少なくなりましたが、どちらが多くなるか、少なくなるかは、ケース・バイ・ケースです。

消費税の納付額を計算するときには、会社にとって有利なほう、つまり、納付額が少なくなる計算方法を、好きに選択できます
ただし「一括比例配分方式」は、1度選択したら、2年間続ける必要があります。

平成23年6月消費税法改正 「95%ルール」の見直し

「課税売上割合」には、ある線引きがあります。
95%のラインです。
95%以上か、95%未満か。

ここで95%以上ならば、「まぁほぼ全部でしょ」、と考えるのです。
全部、ということは、消費税納付額を計算するときに、費用にかかった消費税を、もれなく全額差し引いていい、ということです。

「費用にかかった消費税を全額差し引く」ということは、上記『消費税の基本的な話』で見た原則的なパターン。
事業者である会社は、消費税を「納付」するけど、「負担」をしないパターンです。
つまり、消費税によって、損も得もしていない、ということです。
というより、この場合は、本当は差し引けないものまで、差し引くことができるので、その部分、“得”しているのです。

ところで、この話、「割合」でモノを語っています。
「金額」の大小ではありません。
税務によくある、会社や事業の「規模」でもありません。

どんなに小さな会社、小さな事業でも、95%なら、残りの5%は、差し引けます。
ウラを返せば、どんなに大きな会社、大きな事業でも、95%なら、残りの5%を、やはり差し引くことができてしまいます。

小さな会社、小さな事業の、その5%は、金額に直すと、相対的に小さいでしょう。
大きな会社、大きな事業の、その5%は、金額に直すと、相対的に大きくなるもの。
これでは大企業ほど、その恩恵を受けることになります。

消費税法の改正(平成23年6月)

そこで平成23年6月の消費税法改正により、平成24年4月1日からは、消費税がかかる売上が5億円を超える場合には、課税売上割合が95%以上であっても、費用にかかる消費税を全額差し引くことはできなくなり

  • 個別対応方式か、
  • 一括比例配分方式で、

消費税納付額の計算をしなければならないことになりました。

(注)
消費税がかかる売上が5億円以下の会社は、課税売上割合が95%以上の場合には、費用にかかる消費税を全額差し引くことができます

消費税は、身近な税金ですが、その実態は、結構複雑でヘンテコりんで実はすごくわかりにくいもの。
経営者であるあなたにとって、制度そのものを理解することも大事なことではありますが、それよりも思考や感情を間違った方向に向けないようにすることが、経営上は大事なことだと思います。

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