はぁー、と俺がため息をつくと、伊集院が睨んできた。
「竜くん・・」
「あ?」
「いま、アホだなーと思ったでしょ!」
「いやいや・・」
正解ですけどね。
「考えを改めました」
「へ?」
「このチケット」
「うん?」
「一緒に行ってくれなければ、あげません!」
「おい!」
「友達と行くことにします」
こらこら。
「まぁまぁ、考え直せ」
チケットを、俺に捧げる決意をしたんだろー。
「男女ふたりで温泉なんて、ダメですよ?」
よしよし、と伊集院の頭を撫でる。
ニッコリ笑うと、伊集院は一瞬ポーっとしたあと、
「またそんな!騙されません!」
と強気な口調でまた俺を睨んだ。
まったく。
「もっと自分を大事にしなさいねー?」
生意気な顔をした伊集院の頬をつまんで、引っ張る。
「私は、私を大事にしています」
ますます生意気になった顔で、伊集院が俺を見た。
どこがだよ。
「だって私は、竜くん以外には、ふれさせませんから」
毅然とした目を俺に向ける。
「だから、」
「私は、自分を、とても大事にしているってことです」
「・・・ばぁーか」
俺はそう言って、ピンッと伊集院の額を指で弾いた。
「むうー」
「ぜんぜん判ってないね、伊集院さん」
ま、いいけど。
「どっちにしろ、俺の怪我が治るまでは、どこにも行けないけど?」
俺はギプスに固められている脚をブラブラさせた。
「それでもいいなら」
「・・・竜くん!」
わー!バカ!
飛び掛られて、俺は、したたかに後ろの壁に頭をぶつけた。
ピヨピヨ・・
ひよこが飛ぶ。
俺たちの会話を聞いていた周りから湧き上がった歓声、そんなものは、
頭を打った衝撃と、ぎゅうぎゅうに抱き締めてくる腕のせいで、俺の耳には届かなかった。
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