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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − hospital −





撃たれたあと、情けないことに出血多量でグーグー寝てしまった俺は、

伊集院とジジイの間でどんな会話がなされたか、知らなかった。




伊集院が泣いていたことも、忘れてしまっていた。





HAPPY、 HAPPY、 LOVELY !
病院 編






……………人生最大の汚点だ。

全くもって、なんたる失態。

伊集院を庇うなんて!!!


「……お前なぁ。陰気な顔してると思ったらそれかよ」
見舞いに来ていた川原は呆れた声を出したが、知ったことじゃない。
この俺様がそんなコトで怪我するなんて…!
「あ、竜くん、また起き上がってる!」
「もう治った」
「治ってません!!」
俺を寝かそうと伊集院が怒る。
っていうかさ〜、 寝てばっかいる方が病気になるよ俺は〜。
あーも〜退屈だー。
バイトは休むはめになるし。
「…あきた」
「え?」
「飽きた飽きた飽きた! 退院させろ!!」
俺はボーっとしてるのが だっきらいなんだ!
「竜也……お前……」
それまで静観していた由希がハァと溜息をついた。

お母さんに駄々こねるガキみたいだぞ

ピタ。

「おっ、さすが由希。 扱い慣れてるな〜!」
川原が感心したように言った。
けっ。
「……オトーサーン、ぼく退院したいよぅ」
「やめろ気持ち悪い!」
由希は鳥肌を立てて後退った。
へっ、ざまぁみろ。

「お花の水かえてきますね」
俺たちの様子をクスクス笑いながら見ていた伊集院が、そう言って部屋を出て行った。
「なぁ…」
川原が閉じたドアを見ながら言った。
「あ?」
「お前、ばかじゃねぇ?」
「あー?」
んだと、コラ。
「あっっんなに可愛い子と ひとつ屋根の下! ひとつ屋根の下ぁーー!!
興奮して川原が言う。
お前、力みすぎ。

「なんで手出さないの?」
はぁ…。
お前こそ バカ だよ。
「よく考えてみろ? んなことになったら、そっこー結婚させられるだろうが!!!
考えるだけでオソロシイ。
ま、それ以前の問題なんだけどな。
好きじゃないという。
「据え膳 食わぬは男の恥!」
「食ったら恥だよ」
飢えてるみてぇじゃん。



「うーっす、竜、元気か〜?」
能天気な声と共にシズカが病室に入ってきた。
「あれ? だれ?」
川原を見て言う。
「クラスメートだよ。川原、こいつは伊集院の兄貴のシズカ」
「あ、よろしく〜」
川原が言うと、シズカも笑って、
「よろしく〜」
と言った。
「いや〜、さすが真琴ちゃんのお兄さん、カッコイイっすねえ」
感心したように川原はシズカを見た。
「え?そう? やっぱり?」
フッと前髪をかき上げてシズカは言う。
一か月と同じ髪型をしていないシズカの今の髪はオレンジだ。
三日前まではスモーキーボルドー。 ( と、いう色らしい。俺には茶色とどう違うのか わからなかったが)
目は緑だし。
今日は遊び人風で決めているらしい。
「な、な、由希と並べると何かすげえな」
川原が俺にコッソリ言う。
ん〜、別に男が並んでるの見てもな〜。


…とか、呑気に言っている場合ではなかった。

「あ〜、ホントに入院してる〜!」
どやどやとクラスの女どもが入ってきたのだ。
なんだ〜〜?

「聞いたよ〜」

真琴ちゃん 庇ったんだって !?

なっ、 なぜ それを…!?


「一宮のくせにねえ」

「真っ先に よけそうだよね〜」

「偉いじゃん」




好きな子を庇う なんてさ 」


「 やっぱり 一宮でも 好きな子 には優しいんだ〜 」



「 そりゃあ 好きな子 だもんねえ 」




「お、お前ら・・・・・・」






嫌がらせをしに来たのかーー!!!





     大丈夫? とか、平気? とかいう言葉は ないのか!!?





「あったりまえじゃん」
「体育祭前のこんな忙しい時期に怪我するバカに」
まったく、と委員長の高岡が溜息をつきながら言う。
「あ、そうそう」

「競技には出れるわよね? 大丈夫よね?


…………………そっちの 『 大丈夫 』 かよ!!!     これだから女って ・・・


「由希、あとで覚えとけよ…!」
お前がしゃべったってのは判ってんだからな!
「ま、別の話に作り変えても良かったんだけど?」
俺が由希を睨み付けると、由希はニヤリと笑って言った。

……なんか、それはそれで とんでもない話になってそうな……



「あ、そうそう、一宮はアンカーに決まったから」
「アンカー?」
体育祭のリレーのことだ。

………めんどくせ〜…。

約束さえなかったら絶対やらん。
「信っじらんないわよね、この金の亡者」
高岡は体育祭の冊子で俺の頭をはたいた。
「うっせえな、練習とかでバイト時間減らされるんだ」
そんくらいイイだろ。
「早く治してよね〜」
そう言うのは陸上部の坂井だ。
「言っておくけど!」
ビシィ!と俺の鼻先に指差す。
「一位とれなかったら話はナシよ、ナシ!!」
「わーってるよ」
坂井の家は小さなバイク屋で、俺は欲しいバイクを安く譲ってもらえる という話にフラフラとつられて『体育祭全力で頑張ります』宣言をさせられたのだ。

「あ! 真琴ちゃん!」
「やーん、相変わらず可愛い〜vV
花瓶を抱えて戻ってきた伊集院は黄色い声にビックリした顔をした。
「あああ、なんでこんな可愛い子がこんな男…!」
「花が似合う〜〜」
伊集院は女どもに撫でられたり抱きつかれたりしている。
「みなさん いらしてらしたのですね」

にっこり。

「 ・・・・・・か〜わ〜い〜いぃ〜〜〜〜!!!

相変わらずの大人気。
さてはコイツら、俺じゃなくて伊集院に会いに来たな。

「体育祭、頑張ろうね」
「ハイ!」
伊集院は笑って応える。
俺のクラスと伊集院のクラスは一緒の組なのだ。
(1-1 , 2-1 , 3-1 が同じ組、というように分けられている)

クラスの面々は(伊集院で遊んで)帰っていき、 由希や川原も出て行くと、病院の個室に伊集院と二人きりになった。

「………」
「……………」

どうも最近、伊集院の様子がおかしい。
なにが、とはいえないが、変だ。
「伊集院」
「はい?」
「俺が寝てるとき なんかあった?」
なんか違和感があるんだよな〜。
よくわかんねぇんだけどさ。
「…聞いていたんですか?」
「はぁ?」
「あ、いえ…。なんでもありません」
ニコッと ぎこちなく笑う。

明らかにウソだし。

ま、関係ないか。





つづく












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