「は? 由希も来んの?」
俺が弁当から顔を上げて訊くと、『野菜日常』を啜っていた由希が頷いた。
「招待状がきた」
「なんで?」
「シズカに頼んでおいたんだよ。 高校も今年で卒業だし、そろそろ本格デビューしようと思ってさ」
にやりと笑う。
・・・・・・野菜ジュースを飲みながらってのがサマにならないが。
由希は基本的に食に関して興味がない人間なので、昼は簡単だ。
俺は食べるのは好きだが、好きなものしか食べないので偏りがち。 まあ今は、昼は弁当だし夜は伊集院家で食べているので、全然問題はない。ジジイに散々言われてる、というのもある。
「人間、年取ると健康マニアになるんかね」
は~、と俺が首を振りながら言った。
じいちゃんもうるさかったんだよな。
「そうでもないだろ。ウチのじいさんはもうすぐ死ぬんだから好きなことやるって、
煙草も酒もすごいし、野菜もほとんど食べなくて肉ばっかだ」
「あーいいよな、そういうの…」
俺はうっとりと窓から空を眺めた。
・・・あの雲、ギョーザに似てる・・・ギョーザ食いてぇ・・・
「ギョーザ…」
「餃子がどうしたんですか? 竜くん?」
「おわっ」
横からニュッと現れた伊集院の どアップに俺は椅子から落ちそうになった。
「そんな驚かなくても」
伊集院が心外だ、という顔をする。
「なんで気配を消して近付くんだ!」
あー、びっくりした。
伊集院もシズカも、小さい頃お互いにイタズラをし合っていたとかで、やたら気配を消すのが上手い。
「え? なんとなく」
絶対に面白がってやがる。
「ふーむ、真琴ちゃんは護身術も仕込まれているし、銃も使えるんだよね?」
由希が言う。
そーなんだよ・・・。
伊集院家の兄妹って良家のお育ちっていうより、暗殺者 育成プロジェクト
って感じなんだよ。
「ひどいです、竜くん!」
伊集院は芝居がかった口調でふるふると頭を振った。
「竜くんに相応しくなるため、料理をはじめとする家事全般、
言語は六カ国語以上 (←まだ勉強中のもある)、帝王学も学び、
」
「・・・むしろ相応しくないだろ、それ」
一般人の俺 相手に。
「しかも嘘」
だろ? と俺が伊集院を見ると、バレた?という風に笑った。
「興味があったから、勉強してみただけです」
「そーだろーよ」
俺が投げやりに言うと、伊集院はにっこりと微笑んだ。
「竜くんと 愛の勉強 も・・・」
「いらん」
「いいじゃないか。しろよ、お勉強」
「由~希~!」
俺は弁当のフタで由希を殴った。
「俺も見合いするし」
・・・・・・
「は!?」
「本当ですか?!」
俺と伊集院は驚きの声を上げた。
「うん。親父が酔っ払って取引先から写真もらってきてさ」
「はあ~? マジで?」
「真琴ちゃんと同い年だって」
にこっと伊集院に笑い掛ける。 無駄に笑顔を振り撒くヤツだな。
「由希さまはそれで宜しいのですか?」
おずおずと伊集院が訊いた。
「うん。面白そうだからね」
そう言う由希に、俺は呆れて物が言えなかった。
相変わらず判断基準がそれしかないんだなー。
変わってねぇ。
「竜也が結婚するっていうのに、俺も負けてられないし」
「しねぇよ!」
「 俺も愛のレッスンしようかな~って 」
『 も 』ってなんだ! 『 も 』って!!! レッスンってなんだーーー!!
「真琴ちゃん、竜はキス上手くなった?」
「それがあんまり・・・」
上手くなるわけねぇだろーが!!!
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