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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − party −




HAPPY、 HAPPY、 LOVELY !
パーティ編



「ぱーてぃ?」
自室で問題集を開いていた俺は、伊集院の言った言葉を聞き返した。
「はい、おじい様の誕生日パーティを毎年 開くので」
俺のあからさまに嫌そうな顔を無視して、伊集院は相変わらずの穏やかな口調で言う。
ジジイの誕生日パーティに 興味は 全然 ないが、 この屋敷に住んでいる以上 巻き込まれるのは間違いない。
「それ、いつ?」
「来週の土曜日です」
「ふーん」


よ し、 来 週 末 は  旅に出よう


「竜くん……考えていることが行動に出てますよ?」
「あ?」
しまった。 思わず 荷造りを。

俺は登山用のリュックを置いて(じいちゃんと昔よく山に行った)、机に向かい、 今の発言は聞かなかったことにした。
きっと俺は、その日 図書館で勉強を熱心にやりすぎて帰れなくなる。(ことにする)

「はい、勉強のジャマ、出てって出てって」
ヒラヒラと問題集から顔をあげずに手を振ると、伊集院は出て行った。

・・・・・・ふっ。
これで済んだと思った俺が甘かった。

ああ、アホだったさ!



「・・・・・・」
「さすが、お嬢様のお見立てですね!」
「よく似合います
ジジイに居間に呼び出されて行ったら、コレだ。
タキシード、生まれて初めて着ました。

・・・・・・似合ってねぇよ!  明らかに おかしいって!!

俺は鏡に映っている自分の姿を睨み付けた。

しかし、さすが伊集院家、専属のデザイナーやら何やらが居るので 服なんかいちいち買いに行く わけがない。
居間は、ブティックとなっていた。

「なんでサイズぴったりな物が既にあるんだよ・・・」
もちろん、既製品じゃない。
袖までピッタリだ。
そんな俺の疑問に、伊集院は平然と答える。
「竜くんのサイズは全て把握してますから」

・・・・・・何故?  俺、自分のサイズ知らねぇよ・・・


「やっぱり、竜くんには これが合うと思ったんです」
うっとりと伊集院が言った。
「伊集院・・・ 一度 目の検査した方がいいぞ」
俺は うんざりして上着を脱ごうとすると、伊集院は、それを止めて、小さな声で囁いた。

「護衛をして頂きたいんです」

「・・・なんだって?」
俺は脱ぎかけた手を止めて訊いた。
もちろん、伊集院に護衛がついているのは知っている。
流石に学校の中まではついて来ないが、それだって伊集院がボタン一つ押せばすぐに駆けつけられるようになっている。
伊集院本人も護身術の一通りは出来るし、銃の訓練まで仕込まれているのだ。

かく言う俺も少し興味があって、ジジイに頼んで護衛についている人たちの訓練に何度か参加させてもらっていたが、付け焼刃的なものだ。

「本来、おじい様のパーティは屋敷で開くことになっているのですが、今回は都内のホテルなんです」
なるほど。
この山の上にある屋敷なら入れるのは選ばれた人間だけになるが、ホテルとなるとそうはいかない。

「だったら、なおさらベテランがいいんじゃねぇの?」

「 婚約発表 も 一緒に ・・・」

「この話は なかったというコトで


まったく、油断も隙もない。

「・・・本当は、私の御披露目を兼ねているんです」
伊集院が言った。
「一般的に16歳で一人前と見なされますから」
「これまで、パーティ出たことないわけ?」
「いえ・・・」
伊集院が言い淀む。

・・・ああ、婿探しの御披露目ってことか。

「龍弥がいるじゃん」
「婚約解消は もう周知のことですから」
「ふーん」
しかし、変だよなー。
普通、金持ちの家の結婚って家柄とかで決まるんじゃねぇの?(偏見か?)
俺 相手で よく許されてるよな。
俺が思っていることが判ったのか、伊集院が微笑んだ。
「伊集院の親戚は、そういうことに煩いんですけれど、本家には関係ありませんから」
「なんで?」
「昔から決まりごと、というか・・・家訓があるので」



家訓?



「 愛しのマイハニーを見つけること 」





・・・・・・・・・・・昔からって、嘘だろ。 明らかに。 ハニーって




「まあ、要点を言えば、ですけれど」
俺の不信そうな目に、伊集院はニッコリ笑った。
そんなアホな家訓である伊集院家が経済界のトップなのか…。
「人生で重要なことだと思いますけど?」
伊集院が言う。
うーむ。
「兄さまも見つけようと必死になってます」
あー…確かに、あいつの女遍歴は半端じゃねぇ。
そーか、探してたのか…遊んでるわけじゃなかった…いや、遊んでるよな、あれ…

「私も母も早い段階から見つけていたので、焦っているんですよ」

「・・・『 私も 』って俺のことか?」
「はい!」
伊集院は満面の笑みで答えた。

「俺はOKしてないんだけど」
これは言っておかないとな。最近、なんだか訳がわからなくなってるし。
学校の連中はもう俺たちが恋人同士だと思ってるからなぁ。

「・・・まだ私のこと嫌いですか・・・?」
伊集院が訊く。
「嫌いじゃないけど、好きでもない」
きっぱりと答えた。

確かに嫌いでは なくなってる。
一緒に居ても苦痛ではないから、放って置いたけど。
(期待させない方が親切、ってやつかもしれないけどな、俺に そんな親切心は ない)

「俺に好きな奴が出来た場合のことも頭に入れとけよ」
「・・・・・・」
俺の一言に、伊集院が黙る。
泣きそうな顔に、
「いい加減、諦めるか?」
と言ってニヤッと口を歪めると、伊集院は激しく頭を横に振った。
「いいえ!」
ふわふわの髪が、揺れる。
「いいえ、諦めません!!」
必死の顔で、伊集院が言った。
「あっそー」

なんで、そんなふうに信じられるんだろうな。

自分の相手が、その人だと。


不思議だ。


「ただ、好きなだけですよ?」
「ふーん」
俺は生返事をした。
「竜くん」
伊集院が背伸びをして、抱きついてきた。
「・・・さっきの俺の話、聞いてた?」
「はい」
それで、なんで この行動になるんだ?

「竜くんが、好きです。 本当に 好きです」
言葉を一つ一つ切るように言った。

「趣味わりぃ〜…」

もう一度 鏡を見たが、やっぱりタキシードは似合っていなかった。







続く








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