「どうですか?」
ふわっ と伊集院がスカートの裾を掴んで、まわった。
「おお、可愛い可愛い」
シズカが手を叩く。
伊集院は兄の反応に笑って、俺を見た。
「・・・なんか、髪、変」
いつものように垂らしているのではなく、複雑に編み上げられた髪に違和感があった。
首や喉元がすっきり見えて、可愛い・・・んだろう・・・・・・たぶん。
俺には判らんが 。
「ホントだ、えいっ」
シズカは笑いながら、伊集院の頭をグシャグシャと混ぜた。
「あーーなんてことするの兄さま!!」
伊集院はシズカの手から逃れて悲鳴をあげた。
「もう! これじゃあ直す時間もないじゃない…」
ぶつぶつ言いながら鏡を見る。
溜息を吐いて髪を解き、いつものように長い髪を背中に流した。
「真琴」
シズカが悪びれもせずに呼び、少しクセになっている髪を梳かした。
「まあ、竜くんに不評なら髪を上げた意味もないから いいんですけど…」
「いや俺は 『 変 』って言っただけ なんだけど 」
「・・・そういうのを不評っていうんです・・・」
そう言って、伊集院が恨めしそうな顔で睨んできた。
仕方ないだろ、本心なんだから。
「ほい、もうオッケー」
シズカが言う。
伊集院の髪はいつものように、ふわふわと広がった。
それで気を取り直したのか、伊集院は俺に向き直って、
「竜くんは、とても 素敵ですv」
と笑った。
「気のせいだろ」
「真琴、俺は??」
「え? 別に? いつも通りですけれど」
「あ、そっか。 いつも格好いいもんな、俺は」
はっはっは、とシズカが言ったが、伊集院は兄を無視して、俺の腕に自分の手を絡みこませた。
「おい!」
「エスコートなんですから、これくらい」
「咄嗟に行動できないから駄目」
俺がそう言うと、ちぇっと不満そうな顔をしながらも俺の腕を解放した。
「はたから見るとただのバカップルなんですけど・・・」
と言うシズカは当然 俺の鉄拳を食らう羽目になった。
シズカと伊集院と一緒に会場に入ると、ざわっ、と会場中の注目が集まったのが わかった。
今日の主役である伊集院家の坊ちゃん嬢ちゃんが入ってきたのだから、当たり前といえば当たり前なんだが。
きらびやかな会場の中でも更に注目を浴びる伊集院家の存在、というものを改めて認識し直した。
・・・なんか、騒ぎに巻き込まれそうだから、半歩下がっておこう。
次々に声を掛けられ、挨拶をする二人に、俺は目立たないように傍に仕えている護衛になろうとしたが、案の定、伊集院兄妹と会場に入ってしまった俺を誰もそういう目では見てくれなかったようだ。
「真琴さま、そちらの方は?」
そう尋ねられ、伊集院が答える前に俺はニッコリと笑って、
「シズカの友人なんです」
と自己紹介した。
ふっ、バイト遍歴の長い俺にとっちゃあ、営業スマイルなんて お手の物。
伊集院の恋人だと間違われないように昨日の晩 策を練ったからな! ふははは!
その場にいた人間は、俺の偽善者な微笑みに納得してくれたらしい。
「そうですか…学校の?」
「いえ、シズカと一緒に空手を習っているので」
ニコニコと応える。
ジジイの格闘技好きは有名らしいし、それで一緒に教わっている、となったら今日のパーティに出席しても全然おかしくないわけだ。
ああ、俺ってば なんて賢いんだろう・・・(うっとり)
伊集院の悔し〜〜!って顔に、ニヤリと返してやった。
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