「あれ、伊崎も来てたのか」
シズカが伊崎 花に気がつき、何やら難しい話をしていたオッサン達を放り出して俺たちのところへ来た。
「シズカ先輩、こんばんは」
伊崎はスカートの端を掴んで優雅に頭を下げた。
「先輩?」
「花と兄は同じ藤白葉なんですよ」
「トウハクヨウ? ああ、あの金持ち学校」
学校名などには疎い俺でも知っている有名なトコロだ。
そういえば伊集院もそこから転校して来たんだっけ。
「ははは、シズカ、お前そんな坊ちゃん学校 行ってんのか」
俺が からかうように言うと、シズカはニヤッと笑って、
「そうヨ? 俺 坊ちゃんだも〜ん」
と言った。
「いーなー。私立は冷暖房完備だからな〜」
これから来る夏のことを考えると憂鬱になるよ、ホント…。
公立は金ないから仕方ないけど。
っつーか、お嬢サマの伊集院に耐えられるのか?
「伊集院は夏に耐えられず、もう一度 転校だな(希望)」
「そんなことは有り得ません」
俺が希望を込めて言うと、伊集院はきっぱりと否定した。
「俺も真琴も夏の道場で稽古してたんだぜ〜?」
シズカがのほほんと言う。
「まあ、それもそうですけれど、それより!
竜くんの勇姿を見ると決めているんです!」
「あー体育祭か…」
そうなんだよ、こういうとき俺は ここぞとばかりに競技に出させられるんだよなー。
かったりぃー。
まあ、掛金はガッポリ頂くが…っと、これは秘密な!
こんなことでもないと出る気もしないからさ〜。
はっはっは!
「面白そうね〜。 いいなぁ。 真琴が転校しちゃったからツマらなくて」
伊崎が言う。
「そーだなぁ。 いっそのこと俺らも転校するか?」
「いい考えですね、シズカ先輩!」
トンでもないシズカの提案に伊崎が頷く。
「やめろ。 来るな。 ぜってぇ来んな!!!」
「そうです!」
俺が強く拒否すると、伊集院もそれに同意した。
「 ふたりの愛の時間を邪魔しないで 」
「そうそ………って、
違う ! なにが愛の時間だ!!!」
俺の安息の時間を奪うな!
本気で嫌な顔をした俺を見て、シズカと伊崎は笑った。
「冗談ですよ」
「あはは、おもしれー」
くっそー。
やっぱり俺の予感は当たりか。 伊崎は間違いなくシズカと同類だ。
「藤白葉でのコネは、のちのち重要ですから」
伊崎が言う。
なるほど。
そうやって金持ちネットワークを若いうちから築くわけだな。
「伊集院もコネ必要だろ?」
「…別に? 兄や花に紹介してもらいますから」
「ちっ」
「も〜、すぐ追い払おうとする…」
伊集院が呆れたように言った。
「あ、あれ、由希じゃねぇ?」
「ホントだ」
シズカが指差した方を俺も見る。
なにやら高そうなスーツを着た由希が二十代後半くらいの女性と話し込んでいた。
アイツも本当にコネ作る気で来たんだなー。
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