「どうよ、それ」
「んー、イマイチ」
「こっちは いける」
「どれ?」
コンビニ新作アイスを試すのは、男子高校生の役目と言えよう。
「中の氷がガリガリいうのが好きなんだよなー」
俺は歯応えのあるのが好きだ。
ジュースの氷もすぐに噛んでしまう。
「このオレンジさっぱりしてて いい」
由希は小粒のアイスを齧りながら言った。
「ほんとだ」
その横から川原が一個 取り出して食べる。
ただいま俺たちは高校で行われている夏期講習の真っ最中。
俺は英語と地理、古典を取っている。
理数科目は自分でも出来るが、文系科目は放っておくと手をつけない可能性があるので
取ることにした。
今は休み時間で校門を出て すぐ横にあるコンビニで涼んでいる。
「おごれよ竜~~」
「ふざけんな」
川原をデコピンする。
「俺の金欠はお前のせいだ! おごれ!」
「なんで俺のせいだよ」
「お前が あそこで付き合ってるって言えば…」
「付き合ってねーんだよ」
まったく、人を使って賭けなんぞしおって。
「鈴木に奢ってもらえよ」
すいかアイスを食べている鈴木を指して言う。
コイツは付き合っていない方に賭けて儲けたらしい。
「川原も馬鹿だよな~。見りゃ付き合ってないのくらい判んじゃん」
「見てたからだよ! 退院してからメッチャ仲良かったじゃねーか!!」
サギだー!!と川原はアイスを振り回した。
やれやれ、と鈴木は我関せずの姿勢。
「だいたい『一番大切な女の子』とか言っといて恋人じゃないって どういうことだよ?」
「だって俺、 伊集院に 恋愛感情 持ってねぇもん」
あんま恋人とかってピンと来ない。
「なんじゃそりゃ?」
「だからさー、伊集院は好きだけど、別にお前ら…」
そこまで言い掛けて、由希がニヤリとしたので慌てて言い直す。
「ゴホン。 別に…、えーと、そう、テツを好きだとか言うのと変わらないからな」
危ねぇ、危ねぇ。
コイツら相手に好きだとか言ったら、どうなるか判らねぇ。
「テツ…由希の弟か」
「っつーと、真琴ちゃんは妹みたいな感じか?」
まぁ強いて言うなら そんなモンかね~。
「竜也が恋愛感情というものを理解してるのか疑問だけどね」
由希が涼しげな顔をして言った。
夏だというのに なぜか由希は いつも涼しげだ。
(きっと中身の冷徹さが外見にも表れてるんだろう)
「ははは、まさか竜といえども…」
「なぁ?」
「ったりめーだ。馬鹿にすんなよ」
恋愛感情っつったら、えーと…、
「ドキドキしたりすんだよな?」
確か…。
「顔が赤くなったり緊張したりすんだろ? な?」
バッチリ判ってんだろ?
えっへん。
……………なんだよ、その顔は。
「…由希。お前が正しい」
「コイツは恋というものを したことが ない 」
「というか、そういう感情さえ ない かもしれん」
失礼だな、お前ら!
俺だって恋ぐらい………恋……コイ………………鯉?
「竜、お前…。 初恋も まだだろ…」
……そうかも………………………………………しれません。 ハイ。
「そっかー、初恋も まだかー」
「なるほどなー」
と友人達は妙な納得をして、頷き合っている。
俺は納得いかないぞ。
そんな枯れた人生を ・・・ ?
……。
…………。
ま、いっか。
「イ ー チ ー ミ ー ヤ ~~」
「うぉ!」
幽霊! 幽霊だ!!
「マコトと決闘するというのはホントウか !!!? 」
違った。 アリーだ。
先生~、その長い髪ユーレーみたいで怖いッスよ。
「ホントウなのかっ!?」
「ええまあ、なんかそういうコトに…
ダマされた というか、 ハメられた というか ・・・ 」
「Oh No !! 」
大袈裟に頭を抱える。
わはは。 最近はアリーのこういう仕草も慣れてきて面白い。
アリーは伊集院のホームステイ先の息子で、伊集院家と関わりのある
名門といわれる家の お坊ちゃまだ。
伊集院が行ったとき、ちょうど夏休みで寮から帰宅したアリーが一目惚れして
猛烈アタックを開始したらしい。
それを聞いたタイセイさん(伊集院の父親)が激怒して、
一年の留学の予定が夏だけの一か月に変更させられ日本に帰国したそうだ。
そういう事情があるので、アリーは『 表向き 』 伊集院家 立ち入り禁止なのだが、
朝季さんが許可しているので意味はない。
「女性に手を上げるなんて…!」
手を上げるって…。
「俺が言い出したんじゃねぇし」
でも、そうだな、伊集院とは勝負してみたかったんだよなー。
ちょうどいい機会だったな。
「お前ーー! それでも男か!? じぇんとるめぁ~ん か!?」
襟を掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。
ハイハイ。
俺は どうせ紳士じゃありませんよ。
「よし、わかった」
何が?
「お前がそこまで言うなら…」
何も言ってません。
「 私が勝負してやろう !! 」
「 は? 」
「勝負だイチミヤ!!」
バシン!と白い手袋を投げられた。
どこから出したのソレ…。
「どうだ!受けるのか!?」
ふーむ…。
意外と強そうだな…。
……………よし。
「 ちょっと待った 」
なんだよ由希。
邪魔すんなよな。
「 竜也……お前が もうすでに
ワクワクドキドキ☆
しているのは判るが、 ちょっと落ち着け?」
落ち着けって…
俺は いつでも冷静だぜ?
「 ドキドキ? 竜の恋愛感情か? 」(鈴木)
「なあ?」(川原)
「あ!」
「由希! テメー!! お前だろアリーに勝負のこと言ったのは!!」
「それは置いておいて」
置いとくな!
由希は俺を無視してアリーに向き直る。
「アリー先生、勝負は何でする気ですか?」
「 フェンシング 」
………………
…………………………
……………………………………
「当然だろう?」
………………
…………………………
……………………………………
んなモン出来るかっっ!!! ぺしん!
↑ 手袋を叩き落した
「 だから待てって言ったんだよ 」
「バカだ」
「馬鹿だな」
うるせー!
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