「え? アリーがそんなことを?」
「そー」
どうにかしてくれよ~、アレ~。
「勝負するんですか?」
伊集院が心配そうに訊いた。
屋敷に遊びに来ている由希と一緒に星の見えるテラスでお茶をしている。
昼は結局 授業が始まって うやむやになったんだよな。
「まぁ聞けよ」
俺もよく考えたぜ。
「 剣道で勝負すりゃいいんだよ 」
「な? フェンシングなんて似たようなモンだろ? 」
名案、名案。
………………………おい…
なんだ その馬鹿を見るような哀れむ顔は。
「竜くん……剣道とフェンシングは まっっったく 違うと思います」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが…」
むかぁ。
「 わかったよ。
向こうはフェンシング、 こっちは 剣道で。 」
「どんな勝負だよ」
注文の多いやつだなぁ。
「駄目だ真琴ちゃん。コイツの考えることは俺たち凡人には理解できない」
「やっぱり そうでしょうか…」
をい。
お前らが凡人だと?
「竜くん剣道できるんですか?」
「じいちゃんにやらされたから、それなりに」
まぁ大分ブランクがあるから、昔みたいにはいかないけどな。
「もっと違うことで勝負しろよ」
「だからソレを考えてんだろー?」
俺がそう言うと、由希はニヤリと笑った。
「勝負したいのは、したいんだな?」
「まーな」
面白そうじゃねぇか。
「そうか。じゃあ俺が今の時期にピッタリな勝負を」
「? 水泳か?」
「いや」
「 模試 」
も、模試?
「日曜の模試、受けるだろ?」
「受けるけど…」
「その英語…」
英語教師相手にか!?
「…と、現代文の合計点」
…………………………う…………。
「お互い母国語と外国語同士だぜ?」
そーだけど…。
「あ! 残念! もう申し込み終わってんじゃん!」
「大丈夫、俺のでアリー先生は受ける」
受けるって…。
「『 はーはっはっはっは ! 』」
いつもの冷淡顔で高笑いをする由希。
「『 覚悟しておけコテンパンにしてやるイチミヤ !! 』」
「以上。アリー先生からの伝言」
すでに決定ッスか?
コテンパン?
「由希先輩は模試 受けなくていいんですか?」
「一回くらい受けなくても変わらないから」
にっこりと微笑んで由希が言う。
くっ…!
そんなんやってられっか!
………………………………………とでも言ったら、
由希は嫌味ったらしく、
『 あ?逃げるの?別にいいんじゃない?そうだよね、苦手だもんね、うん、いいんじゃない、
勝負から逃げてもさ。うん、別にね。
臆病者とか卑怯者
なんて言わないよ、誰も。うん。』
とか言うのであろう……!!
← 言われた経験があるらしい
「なんの話~?」
「シズカ」
ちょうど外出から戻ったシズカが言った。
伊集院が軽く説明をする。
「だったら俺ので受けたら? 申し込んでたけど、俺 受けないからさ」
「え? なんで?」
「デート♪」
「へ?」
あれ?
コイツが女と遊ぶのは、たいてい時間の余ってるときなのに。
珍しいな。
「…? シズカ、お前 くさい」
なんだ?この匂い。
俺が鼻を押さえて言うと、伊集院が頷いた。
「あ、ホント。薔薇の香り」
へー。 バラなんだ。
変な匂いだなぁ。
「あ、女にバラあげたのか?」
「そぉよん」
俺が訊くとシズカは笑って答えた。
両手を広げて言う。
「千本の薔薇」
「せんぼんん!!?」
マジ!?
「いいなぁ ! 」
「いくら すんだよ !? 」
俺と伊集院は同時に言って、お互いに顔を見合わせた。
「だって千本だぞ??」
前に母親の見舞いで買わされたから覚えてるぞ。
確か一本300円とか、それ以上するんだ。
考えてみろよ、
300 × 1,000 = 300,000 だぞ?
さんじゅうまんえんだぞ !!?
「別に千本とは言いませんけど……」
「真琴ちゃん…、竜に期待は やめた方がいいよ…」
「…ですよね…」
一生 花なんて貰えないかも、とガックリ伊集院は肩を落とした。
いや、だって、30万…。
って、そういえば。
「お前らって いくら小遣い貰ってるわけ?」
ポンと大金出せるくらいなんだから相当だよな?
バイトしてる風でもないし。
「貰ってませんよ」
「は??」
そんな馬鹿な。
「いやホントホント」
シズカが言う。
「俺たち、高校に入ると株をもらえるの。あとは増やすも減らすも個人の自由」
へ~。
英才教育の一貫ってやつ?
「だから俺もう一生 遊んで暮らせるよ」
儲けてるも~ん とシズカがVサインを出す。
「伊集院も?」
「まぁ、それなりに」
遠慮がちに言うが、相当 持っているみたいだ。
「だから伊集院家 継がずに逃げても安泰」
シズカは笑って言った。
ぽむ。と微笑みながら俺の肩を叩く。
「俺が逃げたら婿養子になって継いでくれ」
ぜってーイヤだ 。
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