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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − fight ! −





……駄目だ。

ぱたり、と俺の手が落ちる。
ベッドに寝っ転がっていた俺は、手に持った単語帳を顔の上に載せてこのまま寝てしまおうかと 考えている。 暗記は苦手だ。 高校受験のときに猛烈に勉強したから英文法は多少身に付いているが、高校になって一気に増えた 単語に根を上げている。

「竜くん?」
遠慮がちな伊集院の声が聞こえる。
「あー?」
「入ってもいいですか?」
「あー」
寝腐っている体勢のまま、適当な声を上げる。
単語帳を被って目を瞑っているので見えないが、伊集院が部屋に入ってくる気配がした。
「どうですか調子?」
「ぼちぼち」
明らかにやる気をなくしている声で応えた。

「竜くんって」
「なに」
「初恋もまだだったんですね」
「あー…」
由希から聞いたか。
すでに眠気が襲い始めていた俺は返事らしい返事もせずに目を閉じたままだった。
きしり、とベッドが重みに揺れる。
「竜くん」
単語帳が俺の顔から持ち上げられ、 唇に柔らかい感触がした。
薄目を開けると、ベッドの横に腰掛けた伊集院が俺を見下ろしていた。
「俺からキスしてほしいんじゃなかったの」
「私からしないとも言ってません」
「あそ」
「……だってしたかったんだもの」
「真理だな」
別にしたければすればいい。
またゆるゆると目を閉じる。
「どうでもよさそう」
「かもな」
退院してからというもの何を遠慮しているのか怖がっているのか知らないが、 伊集院は俺との身体の接触を避けた。
どうやら脅えているようだというのは判ったが、その理由を考えてやるほど優しくない。
病院で振り回されたから学習はした。
またワケのわからんことにグルグルとなっているのだろう。
俺は俺の好きなようにするし。

「由希先輩が『 竜のはじめてv 』は 真琴ちゃんのモノだねって」
「………」
あのアホめ。
俺が心の中で毒づくと、ぽてりと腹の上に重みが乗った。
こら。
俺の腹を枕にするな。

「…竜くんは私といてもドキドキしたり緊張したりしないんだ」
「しないな」
俺の恋愛感情の話も聞いたのか。

「あ」
「あ?」
「お腹 鳴った」
「鳴ってねぇぞ」
聞こえん。
「消化してる音かなぁ。ごろごろ言ってる」
「ほう」
ご主人様が意識してないときでも懸命に働いているのだな。感心感心。

「……心臓の音、聴く勇気は ないな…」

ぽつりと伊集院が言う。

まあ、賢明だな。
ヤツは平常に働いている。

「竜くんって、好かれることに興味ありませんよね」
「そうか?」
「自分『が』好きなものにしか興味がない」
「みんな そんなもんだろ」
俺の言葉を伊集院は苦笑することで否定する。

好かれたいとは思っていないから八方美人にはならない。
言いたいことを言う。
自分を曝け出すことも恐れない。
嫌われることも、怖くは ないからだ。

「そーかねぇ?」
よくわかんねぇや。
伊集院も理屈を考えるのが好きな奴だよな。
腹の上に乗った伊集院の頭を撫でる。

ふぁ、と一つ欠伸が出た。

眠りにつく間際、目蓋に柔らかい感触がしたが、夢の浮遊感と混ざって よくわからなかった。





つづく













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