LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - summer festival - |
竜くんが、心配している
。
それだけで、もう祭りのことなど どうでも良くなってしまった。
自分でも安上がりだなあと思う。
でも本当に、『 一宮クン嫌がるわよ 』と本條さんが微笑んだ瞬間、 どうでも良くなってしまったのだ。
「…あれ?」
と言って私の顔を見下ろす。
心配してくれて、の言葉を聞いた竜くんは意外にも否定せず、驚いた顔をした。
「………俺、心配してたのか」
いまいち腑に落ちない、という寄せた眉が可笑しい。
信じて、と口で言うのは簡単だ。
好きになって、と同じくらい。
竜くんが撃たれて入院したとき、私は離れる決心をした。
『わかっていた』、と、竜くんは兄さまに言ったそうだ。
『こうなることはわかっていた』……と。
口で言うだけなら簡単なのだ。
好き、も、信頼、も。
竜くんは突然 訪れた私の言葉を信用していなかった。
そして……私はその通りのことをした。
もちろん、竜くんが思っていたような理由ではなかったけれど。
好きだ、一緒にいたいという言葉を裏切ったのは、私だ。
夜空に光る花火に、竜くんが目を細める。
手は繋いだまま。
…ねえ、竜くん。
私も、もう信用しないよ。
口の悪い竜くんの言うことなんか、もう信用しない。
振り払われない手。
それが意味することを。私は。
黄、青、光が水面に反射して河原を照らす。
竜くんの横顔が色を映した。
「ねえ竜くん」
空に目線を戻す。
「…本條さんと、また会う機会はないと思います」
「そーか」
短い淡白な応えが返ってきた。
『アイツは、やばいんだ』
竜くんの言葉は、なんとなく理解できた。
暗い、暗い目をしていた。
狂気を宿す闇を持った人だ。
人を惹きつける、引きずり込む闇を。
柔らかな物腰で隠しているのだろう。
ちらりちらりと見え隠れするモノは底が知れなかった。
「アイツ、壊れてんだよ」
竜くんは、その狂気を見たことがあるのかもしれない。
キレイな澄んだ瞳の奥に隠したもの。
見てはいけなかったもの。
竜くんも惹かれたのだろうか。
大きな光が連続して上がる。
小さな花火大会だから、そろそろ終わり。
やだな。
ぽつんと思った。
やだな、手を離したくないな。
そんな思いを裏切って、終了のアナウンスが途切れ途切れに流れた。
そっと手を離す。
歩き辛い、と竜くんは いつも嫌がるから。
人垣がざわざわと動き出して、人波に紛れて別れを口にする。
また明日、じゃあね、気をつけて帰って。
みんなと別れ、 すぐに距離が伸びてしまう背中を半ば小走りでついていった。
「伊集院」
その後姿が止まると、振り返った。
「手」
手首を引かれる。
「ちっこいからドコ行ったか判らなくなる」
竜くんは また人波の中をズンズン歩き出し、私は 手首を掴まれたまま少し後ろをついていった。
繋がれたところから泣きたくなるような幸福感があふれた。
竜くんは。
一緒にいるのが、当然だと思っている。
一緒に帰るのが、あたりまえだと思っている。
竜くんがそのことに気がついたら手を離されてしまうから、 言わないけれど。