月夜裏 野々香 小説の部屋

     

新世紀エヴァンゲリオン 『一人暮らし』
 

碇ゲンドウ物語

 

 1999年

 白銀の世界。南極

 アメリカ太平洋艦隊や各国の砕氷艦が物資を氷の大地に荷揚げしていく。

 そして、南米や南半球の基地から輸送機が飛び立ち。

 南極の飛行場に着陸すると、機材が降ろされていく。

 南極大陸のほぼ中央に巨大なドーム型基地があり、

 基地内部は、常温に近い温度だった。

 基地の底。

 氷の底を刳り貫いて、地表のさらに地下にまでトンネルが掘られていた。

 そこに巨大な空間が存在し。

 2体の巨人と槍が横たわっていた。

 「・・・綾波君。やはり、巨人は、生きているのか?」 葛城博士

 「ええ、なぜ動かないのか不思議ですね」 綾波タケオ博士

 「解読された死海文書だと、リリンがスイッチを入れるまで眠らされているのでは?」 碇ゲンドウ

 「信じたくはないな」 葛城博士

 「・・・槍に書かれた文字の解読が正しければ、人類の歴史観は全て統合できますね」

 「碇君は、委員会と同じ意見なのかね」 葛城博士

 「・・・表立って意見は、いえませんね。相手がスポンサーで生活がかかっていますから」

 「彼らは、尋常ではない」

 「不死の研究が一息ついたから、別のことを考えるようになったのでしょう」

 「いくら、人類の行く末が限界に来ていても、人工的に人を進化させようなどと、傲慢すぎる」

 「個人を限りなく不死に近づけることを出来ても、人類の生存圏は別ですからね」

 「碇君のところの・・・ゲヒルンの研究だったな」

 「クローン技術。そして、サイボーグは、不死の可能性の一つですよ」

 「かなり怪しいが否定はせんよ。使い道次第で便利でもある」

 「しかし、現状で人類がこの技術を使えば、地球の資源の枯渇は加速されます」

 「そうだろうな」

 「現在の科学技術では、宇宙開発と移民も間に合いませんね」

 「だが、人工的な進化が人間らしい生き方と思えない。不自然だよ」

 「不自然? 死にたくないというのは、実に人間らしい自然な欲望ですよ」

 「ふん・・・その人間の欲望が地球を滅ぼしかけているというのにかね」

 「葛城博士。死海文書だと、人類のそれは、想定内になっています」

 「限界になったら、お前たちを滅ぼすから。スイッチを押せ?」

 「勝ち残れば、高い次元で、この星を相続させてやるから。だと」

 「言い方が端的過ぎますね」

 「どのような形であれ、熱力学やエントロピーの法則を超えない限り」

 「人類に未来は、ありませんね」

 「・・・・・」

 「いまさらインディアン生活を送れるわけがない」

 碇ゲンドウが苦笑する

 「・・笑えんね」

 「碇所長。葛城博士。どちらにせよ」

 「このATフィールドを自力で突破できない限り、委員会は動くべきでないと思いますね」

 「当然だな。人類は準備不足だ。17回の災厄を勝ち残れまい」

 アメリカ軍が高出力レーザーを巨人に向けて発射し、

 オレンジ色の壁がレーザーを遮っていた。

 「ふ 栄光のアメリカ軍も形無しか」 葛城博士

 「水爆も試すのか?」 碇ゲンドウ

 「一点にかける圧力なら水爆砲の方が確実ですがね」 綾波博士

 「藪蛇で感心しないな」 葛城博士

 「まったくです。2体の巨人が動かないのは、自制しているだけでしかないのですから」 綾波博士

 「あの槍を委員会が使わないことを祈るばかりだ」 碇ゲンドウ

  

  

 南極

 ガラス越しにブリザードを見ながら・・・・・

 碇ゲンドウと綾波博士

 「・・・綾波。あの娘は?」

 「葛城博士の娘さんだ」

 「委員会が、あの槍を使うかもしれないのに・・・・・」

 「家族に対する。いや、娘に対する贖罪。だろうな」

 「葛城博士が? 娘にわかってくれと?」

 「ふっ 言えんだろうな。葛城博士の辞書にそういう文字はない」

 「あの巨人を娘に見せるのか?」

 「ここで働いている姿を見せれば、わかってくれると思ったのだろう。碇のところは大丈夫か?」

 「ユイは、わかってくれるさ」

 「そうか。お前にユイを取られちまったからな」

 「ちょっとした。誤解から始まったことだがね」

 「いまが幸せなら良いさ・・・どの道、俺は、綾波の姓を捨てられなかった」

 「惣流とは?」

 「いやじゃないさ。翻弄されそうだがね」

 「確かにな」

 「碇。クローンを本当に作っているのか?」

 「倫理に反するかね?」

 「人間の欲望を否定はしないさ。それでも正しいかどうか、立ち止まって考えたいね」

 「人類は、十分に立ち止まったよ。結論を出せずにね」

 「たぶん、この先も結論は出せないだろう」

 「ふっ 目の前に現物を突き出されても結論は出せないだろうな」

 「そうだろうが。しかし、クローンは、欧米の方が反発が大きいようだ」

 「・・・恐れているのは、原罪の問題だろうな」

 「原罪?」

 「人類最初の罪だ。人の胎から出ないのであれば、クローンは当てはまらない」

 「たぶん、その後に研究されている人造人間もだ」

 「ふっ キリスト教だな。しかし、本当に原罪がないのは、どういうものだろう」

 「さぁ〜 善悪知るの木から実を採って、食べていないということだな」

 「クローンには、悪が無いと」

 「心から、善が無くなれば、何が残るかな」

 「碇・・・じゃ 赤木博士の娘は・・・・」

 「・・・・・・・・・」 ゲンドウ

 「そうか・・・」

 「・・・・・・・・・」

 「人類は、勝ち残れるだろうか?」 綾波

 「人類が自力で、あの壁を破壊できればな」

 「碇ユイの人類補完計画が成功すれば、スイッチを入れなくても、いいかもしれないな」

 「あれは両刃の剣だな」

 「人類を人工的に進化させても、人口増加とエネルギー消費増大が早まれば、資源の枯渇が加速してアウト」

 「じゃ 碇。宇宙開発が間に合えばセーフか」

 「ああ・・・」

 「・・・・しかし、委員会が、この南極大陸の資源に目を付けた結果が、これとはね」

 「最低でも、巨人を発見する力がなければ、スイッチを入れる資格もない、ということだ」

 「槍を使って解体しても死なない限りは、スイッチが入らないだろう」 綾波

 「現段階で槍を使うのは不味い。開発中の荷粒子砲が軌道に乗るまで待つべきだな」

 「まったくだ。あの壁が何なのか、わからないというのに」

 「そうだな」

 「・・・碇」

 「なんだ? 綾波」

 「もし、解体が始まったら。解体したものをすぐに運び出してくれないか」

 「次の災厄までのタイムラグ。無駄にしないでくれ」

 「そうならないように。報告している」

 「いくら委員会でも自力でATフィールドを突破できないのにパンドラの箱を開けるようなことはしない」

 「夏季に大型の砕氷輸送艦が、こっちに来るそうだ。空船で帰るような事はしないだろう」

 「勘か?」

 「そうだ」

 「委員会も、そこまで慌ててないだろう」

  

  

 南極基地

 槍を使って、巨人2体の解体が始まる。

 最悪の事態だった。

 しかし、アメリカ軍を止める術はなかった。

 最初の積荷を積んだ輸送艦が機動部隊に護られて氷海を遊弋している。

 「死なない程度に頼むよ」 碇ゲンドウ

 「わかっている。巨人の再生能力からして簡単には死なないはずだ」

 「取り合えず。第一便を持ち出してくれ」 葛城博士

 「わかった。とにかく無事を祈るよ。アメリカ軍の監視だけは怠らないでくれ」 碇ゲンドウ

 「ああ、早く行ってくれ。葛城博士は、ギリギリまで待って次の便で出る」

 「来年の夏に会おう」 綾波博士

 「わかった。来年。会おう」 碇ゲンドウ

  

   

  

 そして・・・・・・・セカンドインパクト

    

  

 ある日の東京

 ホテルで・・・・

 ゲンドウの目の前にキール・ローレンツがいた。

 「・・・仕方がなかったのだよ。碇」

 「それは、解体したことですか?」

 「それとも、セカンドインパクトのことですか?」

 「あの時点で、セカンドインパクトなど望んではいなかった。誰もな・・・」

 「来月には、第2使徒が着ますよ」

 「・・・わかっている」

 「各国とも何とか収拾を付けている途上だ。君が必要とするものを言ってくれ。送ろう」

 「既に準備中です」

 「君の力だけで殲滅できるのか?」

 「成功を万全とするためにも当面は、戦略物資を日本に運んで頂きたいですな。議長」

 「日本に物資を運べばそれだけ、世界で死人が増える。わかっているのだろうな」

 「南半球は壊滅。アメリカと欧州諸国も、物資や食料の奪い合いで殺し合いが起きている」

 「知っていますよ」

 「治安を保つため軍も出動している。それも口減らしの殺戮のためにだ」

 「では、アメリカか、欧州にリリスを運び込めと」

 「いや。こちらの状況を理解してくれれば良い」

 「出来うる限りの物資を運び込もう。予算も人材もだ」

 「被害。大き過ぎました」

 「そうだな・・・そちらの研究資料を渡して欲しい」

 「高くつきますよ。議長」

 「かまわんよ」

 「・・・・・」

 「・・・・君には・・・その資格がある」

  

 そして、使徒戦・・・・・

 

 そして、最終戦争・・・・

  

  

 碇ゲンドウは、リリスの前に立っていた。

 ガチャッ!

 撃鉄の音が後ろから聞こえる。

 ・・・・・・・・・・・・沈黙

 「・・・・・・・・・」 リツコ

 「シナリオとは違うが、想定のうちだ」 碇ゲンドウ

 「どうしても行くのね?」

 「ああ」

 「・・ゲンドウ・・・さん」

 「君には済まない事をした」

 「わたしをクローンと知っていて、受け入れてくれたのは、あなただけだった」

 リツコは、涙を流していた。

 「良い思いをしたのは俺のほうだ」

 ゲンドウは、一歩、リリスへ近付く

 「伝言は?」

 「・・・あいつが、辛い思いをするだけだ」

 リツコがゲンドウの後ろから抱きつく

 「・・・シナリオを変えてまで、行くの?」

 「ゼーレの人類補完計画を修正するより。ワンクッション、おくのも良いだろう。間に合うか、運任せだが」

 「・・・行くのね」

 「・・・君の幸せを祈るよ。息子たちもな」

 「地球資源の枯渇と直結していても、そう願わざるを得ないな」

 リツコの腕に力が入る

 「赤木博士。人類が再建できる目処がついたら。俺のことを思い出してくれ」

 リツコが正面に回ると泣きながらゲンドウにキスをする。

 「・・・・・・」 ゲンドウ

 「本当に・・・酷い人・・・」

 ズシンッ。

 上のほうで音がする。

 「時間だ」

 「あなたと行きたい」

 「君への伝言は、人類と地球を頼む・・・だ」

 「・・・酷い人ね」

 「ふっ そうだな。息子たちには、頃合を見計らって “よくやってくれた。ありがとう” と伝えてくれ」

 「・・・・ええ・・・」

 ゲンドウが異形化した右手をリリスに付けると。

 次第にリリスへと取り込まれていく。

 腕が入り、肩が入り。

 ゲンドウの頭と体全体がリリスに取り込まれる。

 リツコは、涙を流しながら後ずさり。

 ヘブンズドアを出て行く。

  

  

  

楽 天

まさに飛ぶプラモ!フライングスタイロ社の戦闘機

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登場人物