2000年2月下旬の日常

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2000年2月21日(月)

 開店休業状態。池宮彰一郎『四十七人の刺客』(新潮文庫)読了。帰宅後、京極夏彦『どすこい(仮)』に着手する

 ……………………………………………………………………

 直後に読むのはあまりに拙いと判明。ああ四十七士の勇姿が一瞬で蒸気蹴立てて鼻息荒い桃色の洪水に……


2000年2月22日(火)

 半ば開店休業状態。半ばがついたのは、一応仕事はあったから。一点だけ。

 久々にミステリ重点の買い物となりました。まず柄刀 一『ifの迷宮』藤 圭子『絶対悪』(ともにカッパノベルス)。柄刀一は随分前から(長篇デビューの遙か以前から)単行本はチェックしようと決心していたのでいいとしても、問題は藤圭子の方だ。父・藤雪夫との共作『獅子座』がなかなかの出来だったので(今読むとまた評価が変わるだろうが)、以来刊行された藤圭子単独名義の作品も逐一購入しているのだが、まともに読んだものは一作もなく、その間に作風も社会派に傾きつつあるように見える。社会派そのものに悪感情は持っていないのだが、一部の妙な正義感に彩られた社会派擬きは大嫌いなのだ。前々作ぐらいから著者前書きのコメントにその汚臭が仄かに漂っているように思え微かな不安を覚えていたのだが、今回いよいよ危険を感じている。以後も買い続けるか判断するために、そろそろ一、二作ぐらい目を通すべきか。しかし柄刀は「長篇推理小説」なのに藤は「長篇本格推理」なんだよな……何故か。
 さてもう一点、忘れちゃならないのが城平 京・原作/水野 英多・画『スパイラル 〜推理の絆〜(1)』(エニックス・ガンガンコミックス)。『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)の著者が原作を受け持つ本格ミステリコミック……の筈。現在またしてもコミックの積読が溜まっている状況のため、読むのは暫くあとのことになるので確かなことは言えない――が、ひとつだけ、声を大にして言わせて貰う。

 事件の途中で単行本を終らせるんぢゃねぇっっっっっ!!!!!

 ぜえはあぜえはあ。……ともあれ、ちゃんと続きを出させるため話を完結させるため(三巻ぐらいで終らせないため)何より原作者の生活のため、余裕のある方は是非とも御購入下さい……訳あって突如回し者モード。感想は読んだあと気が向いてから。

 夕方からバイト。店内で流れている有線放送は、これまでは主にクラシックのチャンネルに合わせてあったのだが、社長が静養に入ってから誰かが気分を変えるつもりになったのか、「なつかしのポピュラー」なるチャンネルに合わされたらしい。1960〜70年代後半ぐらいのポップス・ロック・フォークの名曲があとからあとから。「カリフォルニアの夢」「名前のない馬」「転がる石のように」「500マイル」「ルビー・チューズディ」「哀愁のヨーロッパ」「Don't Let Me Down」「スパイ大作戦」っておい。私は六割方曲名が解る、解らなくてもメロディはよく知っているという状態だったが5〜6歳年上の店員さんは殆ど解らないらしかった。ジェネレーションギャップ? 絶対違う。

 人伝に『ファイト・クラブ』のサウンドトラックを頂戴する。関連会社の間を巡っていたCDらしく、ブラケースに「見本品」と「要返却」と記された社名入のシール(こちらに廻す前に「要返却」を消したらしい)が貼ってあったりとみすぼらしいがこちらは頓着しない。不穏で不敵で扇情的なサウンドトラックを単独で聴いてみたかっただけだし、そもそもただで頂戴するのに綺麗なものを望むのは流石に度が過ぎる。
 今丁度聴いている最中だが、なかなか危なくていい。Dust Brothersという、知る人ぞ知るDJ&プロデュースコンビの、10年のキャリアで初めての単独名義になるアルバムでもあるという。サンプリングとシンセサイザーによるヒップホップ――と言っていいのかどうか、兎に角ノイズを巧妙に取り込んだビートに異様な不穏さが漂い、綺麗事ではない緊張感が漲った怪作。全て劇中で使用された音楽なのだが、サウンドトラックにありがちな当たり障りのない楽曲はひとつもなく随所に棘が鏤められている。電子音をメインに構成しながら薄っぺらにならず、何より格好いい。刺激的。パット・メセニー・グループの対局にあるようなスタイルだが、こういうのも好きだぞ。
 あ、書き忘れてましたが自費でマキシシングルJungle Smile『翔べ!イカロス』(Victor)も購入しました。「死」というフレーズを剥き出しで使ってしまっているのには首を傾げましたが、なかなかの佳曲なり。


2000年2月23日(水)

 京極夏彦『どすこい(仮)』(集英社)読了。久々に小説でたっぷり笑かして貰いました。しかし怒る人は多分本気で怒ると思う。私は好きだ。特に「理油」のXXXX(特に名を秘す)。

 今日も開店休業。明日は予定が入っているものの、今週はのべつこの調子で終りそうである。『どすこい(仮)』残り50ページぐらいを一気に読んだあとで買い物に出た。バイト先で北村 薫『冬のオペラ』(中公文庫)を買い、そのまま秋葉原で最近贔屓のソフト屋へ。物色する前にまず注文をお願いした。Pat Metheny Group『The Falcon and The Snowman』と単独名義の『Passaggio per il Paradiso(邦題:天国への道)』、双方とも映画のサウンドトラックである。だが、『The Falcon〜』は検索にかけても出てこないようで、店員は「廃盤になったのかも」と言うが恐らくは何らかの事情で日本盤自体発売されていないのだろう。『Passaggio〜』は予め目録で確認してあったので日本盤があるのは確かだったが、こちらも「生産中止になっている怖れがあります」とかで詳細が解ったら連絡するという不穏な展開。どちらにせよ、コンプリートするためには何らかの手段を講じて輸入盤で入手する他ないようだ。何はともあれ、Charlie Haden & Pat Metheny『beyond the Missouri Sky(邦題:ミズーリの空高く)』(Verve/Polydor)を買って帰る。懲りないね私も。

 久々に床屋に行く。いつも五、六ヶ月ぐらい間隔を開けてしまいその都度「今度からはまめに通おう」と決心するのだが実現した例しがない。いつものようにばーっと刈って貰う。頭が寒い。

 帰途、職場近くにあるいきつけのCD屋へ。Pat Metheny『Rejoicing』(ECM)購入――これにてパット・メセニーECM時代のリーダーアルバム完集。最初の一枚を買ってから一年足らず、意識して買い始めてからだと三カ月も経っていないというのに。実際問題として、Geffen時代のものも『Passaggio〜』を含めてもあと二枚だろうし、連名・他社発売のものも……多分『Sign of 4』だけ。リーダー及び署名入アルバムも実質あと三枚を残すのみなのである。さだまさしとか中島みゆきとか、昔填ったアーティストは何れも小遣いのない時分だったから、初期のものは未だに手付かずのまま残っていたりしており、CDでまともに揃ってしまうのは恐らくこれが初めてのこと。自分で自分が怖い。
 更にそのあとバイト先に寄り、漸く入荷した西澤保彦『人格転移の殺人』及び笠井 潔『梟の巨なる黄昏』(ともに講談社文庫)ほか漫画などを買って帰宅する。『人格転移〜』は当然親本であるノベルス版も所有してます。親本と文庫版、読んで印象が違う、というのはあなただけじゃありません。真の好事家は僅か数行の改稿目当てにあらゆる体裁のものを購入するのです。そこまでしてから「業」と言いましょう。

「円盤」が御無沙汰ですが飽きた訳でもネタがない訳でもありません。肝心のCDが埋もれてしまったためデータや楽曲の正確な雰囲気が伝えられないのです。お気に入りのCDを埋もれさすなよという真っ当なツッコミも御座いましょうが、今お気に入りのものまで机に積み上げてしまったら書き物をする空間が無くなってまうのです。そのうち再開します。


2000年2月24日(木)

 いよいよ明日。何が? ないしょ。

 出勤早々にぱたぱたと出力。手を付ける必要のない原稿ばかりなので二、三十分で終る……と思いきや、うちひとつの原稿に填め込まれた画像が、Quark上で指定した線数通りに出力されないのだ。私の職場ではIllustrator形式で届けられたデータをQuarkというソフトに貼り込んで、そこで出力時の線数を指定するのだが、Illustrator上で作成したグレー部分はちゃんと指定線数による網目模様になっているのに、問題のデータは何故か画像部分だけ異様に精細な状態で出力されてしまうのである。データ作成者と電話で話してみたところ、原因はIllustrator以前、画像をPhotoshopで処理している段階で、画像のデータに出力の際一定の線数で出力するようロックがかけられていた所為と解った。その設定を「プリンタの初期値に合わせる」に指定し直して画像を再度保存し、それを貼り込んだIllustratorデータ及びQuarkデータも保存し直して漸く意図通りに出力できた。はー。

 ドラマを見ないでノベライズを買うというのは一体どういう心理か。西荻弓絵『ケイゾク/シーズン壱 完全版』(角川ホラー文庫)を購入。別に映画を見る気もないのだが、漫画版が案外面白かったので(多分に作画担当の新井理恵の技量が助けとなっているのだろうが)何となく。

 ――いい加減迷っていないで宿とチケットだけでも確保した方がいいかも知れん。問題は何処から費用を捻出するかだが……親から借金、はどーも気が退ける。


2000年2月25日(金)

 というわけで当日です。急ぎの仕事がないのを確かめてから買いに行きました『Road Love Story』(Corett・18禁)。一本だけというのも淋しかったのであちこち渉猟して廻る。平台用の低床ワゴンではPC版『FINAL FANTASY VIII』(Erectronic Arts Square)のデモが流れていた――映像は相変わらず美しいがデモの構成は弛みっぱなしで見ていると一、二分で倦んでくる。この辺りのセンスが問題なのではないだろうか。ウルティマシリーズ最新作の3DCGを取るか『ECHO』(FAIRY TALE HARDCOVER・18禁)における新機軸らしいヘッドフォン・ノベルを取るかで迷い、自分が海外ゲームとの相性が極めて悪いこと、一応サスペンスとして作ってあるらしいあたりを踏まえて後者を選択……尤も、このメーカー作品で昔ミステリーを期待して大外れ掴まされたことがあったんだけど……ってそれ程昔の話じゃないな。何故懲りない私。そのあとバイト先で三谷幸喜『気まずい二人』(角川文庫)を買う。夕方の帰途には漸く注文分が入荷されたPat Metheny『Trio 99→00』(Wea japan)Southern All Stars『TSUNAMI』(TAISHITA/Victor)、またしてもバイト先で漫画と実用書一冊。こう捲し立てるように列記すると給料日だから買いまくったように見えるが格別な量でもないんだよなぁこれが。

 さて、久しぶりにげーむれびゅう。まだ取っ掛かりですが『Road Love Story』について、気づいたことのみ。
 システムは極めて標準的なAVGスタイル――即ち、画面下部にテキスト表示エリアがあって基本的に文章を読み続けるだけ、随所に出てくる選択肢で展開が変わったり物語が進行するもの。ただ、主人公の目的がある男の子を捜すことにあるため、その子が越してきたと思しい「潮風半島」各駅を巡らなければならず、毎朝スケジュールを設定する必要があり、その自由度の高さによってアドベンチャーゲームにありがちな展開のだれを回避している。しかし、ここでいきなり問題な点が幾つか見付けてしまった。先ず、スケジュールを設定する際、一個前に決めた行程を変更したいと思ってもそれに該当する操作方法が存在せず、スケジュールを修正したい場合は一旦すべてを白紙に戻さなければならない。スケジュールを決めるのがゲーム中数回程度ならまだしも、ゲーム期間は8月1日から31日まで(フルに使うわけではないにせよ)、その間毎日間違えるたびに消去消去とやっていると苛立ちが募る。
 スケジュールを実行に移すと、全画面に展開した地図上を一両編成の可愛い電車が次の目的地まで動く。そのテンポが作品のローカル色を助けて妙な味わいを醸しているのだが、困るのはこの電車の速度を速めたり移動場面をスキップすることが出来ない点である。どんなに心地よくてもキャラクター攻略やゲームクリアを目指してやっている時にははっきり言って鬱陶しい。加えてメッセージスキップの際にキャラクターのポーズや表情が変わる場合、表示をまともに変更してしまうためスキップを遅らせてしまうのも困りもの。画面構成や細かな演出にはこだわりが見え隠れするが、こうしたシステム上の不親切が目立つのは減点対象となってしまう。
 まだ始めたばかりのためシナリオの是非を強く説くことはしないが、全般にのんびりほのぼのとした雰囲気が昨今のゲーム作品傾向と較べてかなり新鮮で心地よいと思う。説明臭い台詞とか中途半端にメタフィクションめいた会話といった、ゲームのテキストにありがちな不自然さは本編でも散見するが、さほど囂しくないので気にはならない。今までに見たイベントや会話について言えば、突っ込みが甘かったり掘り下げが浅かったりで食い足りないものをそこかしこに感じた。ただ、そうした物足りなさは後々の展開で回収してくれるのかも、という期待もありプレイ上のマイナスにはならないだろう。ゲーム中では時間制限もあって本当はのんびりなどしていられないのだが、急くことなく気長にやってみようという心地にさせるのが良。――以上、あくまでもさわりを遊んだという段階での印象です。例によって話が進むと変わる可能性は大。
 それにしても毎回システムに難癖つけてますね私。『ECHO』はまだ開封しただけでインストールもしてません。だが、パッケージ裏の画面写真にあるテキストを一瞥する限り、表現技量は期待しない方がいいような気がする。


2000年2月26日(土)

 おう、久々にまともにゲームをやってしまった。気づけばこんな時間ではないか(AM2:50)。文章を整理する余裕もないのでざっと。
 日中は鈴木紗理奈『ボクの夜』(東芝EMI・CDS)を探しに行く――某テレビ番組のエンディングテーマなのだが、妙に耳について遂に購入を決意したのであった。ブギーポップのサントラに惹かれたりと店内を彷徨い、最終的に目当てのものとHI-POSI『ジェニーはご機嫌ななめ』(日本コロンビア・マキシシングル)を購入した。前者はどうもサウンド構成に馴染みがあると思ったら編曲が亀田誠治――椎名林檎作品のアレンジ及びベース担当者だった。通して聴いてもなかなかの佳曲。だが、アレンジャーの一致とコンセプトの類似から、ちょっと小綺麗に纏まった椎名林檎、という印象が付きまとって仕方ない。でもいい曲だ。後者はジューシィ・フルーツの楽曲のカバー……だが果たしてこんな曲だったろうかと思った。もりばやしみほの作詞作曲といわれても鵜呑みにしてしまいそうなほど填ってます。作曲者である近田春夫自身によるリミックスも収録されているが、メロディーの扱いが中途半端で食い足りない。

 引き続き『Road Love Story』で遊ぶ。全般にテンポが遅いのに時々苛立ちながら、どうにか二人分のシナリオを終える。取り敢えず攻略したキャラについて言うなら、ストーリー自体は素直というか捻りに欠ける。同じシナリオならもう少し掘り下げてもいいような気がする――とは言え、一通りやってみた感触では、この作品はスケジュール作成の難しさでゲーム性を演出しており、各キャラの行動の予測がつき難いこともあって、これ以上固有シナリオを作ったりすると攻略過程がシビアになりすぎて拙いとも思え、ならばこの分量で妥当と言うことか。判断に苦しむところである。
 あと、システム面での不満がまた出てきた。プレイヤーの懐の中身とその増減の確認がし辛いという点。移動する際に必ずお金がかかり、またイベント上でも思わぬ出費を科せられるのに、それをその場その場で確認できないのはちょっと拙い。メッセージ表示部分の脇にでも付け加えてくれれば有り難かったのだが。
 それと――話がある程度進んだところで、ある場所に移動すると、一度画面が黒くなったあと、すぐに次の場所へ移動してしまう、という展開が何度か発生したのと、した覚えのない約束が予定表に書き込まれており、その上書き込まれた約束の場所に行っても何も起きない、というのは――バグと違うか? だとすれば、あるキャラクターはどう足掻いても攻略不可能、ということになるような気がするのだが……
 もう一点、これ重要。マニュアルは文面・内容共にもーっっっっと吟味してね


2000年2月27日(日)

 行きつけの蕎麦屋でいつの間にか「拓ちゃん」呼ばわりされている私がいた。おいおい。

『Road Love Story』だが……どーも総合評価は辛くなりそう。システム廻りの不親切さは最早言うに及ばず、物語の進展の仕方も気が利いておらず、何度か続けているうちにただの一本道虱潰し型アドベンチャーと似たような印象になってくる。いけないのはキャラクター攻略の上でなんのヒントも伏線も用意されていない場合が多いこと。或いは私が見落としている可能性もあるのだろうけれど、どう読んでも昼日中に起きるべきイベントが夕方遅くに起きたりといった不具合があるのと同時に、攻略の上で必須のくせにやったら発生条件がシビアすぎるイベントがあるのは解せない。ストーリー進行に無関係な場所を訪れると何回も同じテキストを読まされるのはもう仕方ないとして(本当はこれにも異論を唱えたいのだが)、せめてイベントの発生した日時による台詞やテキストの変化ぐらいは気を配って貰えないものだろうか。その気配りがちゃんと行き届いていれば、攻略に必要なイベントも多少余裕を持って設定できるだろうに……兎に角今は、パッケージに描かれているヒロイン二人と泳げない水泳部員をどーやったら攻略できるのか知りたい。自力で出来るものなら何とかするが、これでバグがないなら本当にシビア過ぎるぞ。
 あと一箇所、よく解らないのが、セーブ画面で各セーブデータのゲーム内時間表示の左側に書いてある数字の意味。最初は行動ポイントの残量かと思ったのだが違うらしい。多分大した意味はないのだろうが一旦気にしてしまうと疑問符が頭から消えない。何だ。

「ヘッドホンノベル」なる新機軸を打ち出した『ECHO』やっとインストール、さわりだけ遊ぶが……音は悪くない確かに。だが、それを活かすべき声優の演技と演出は駄目。主要キャラクターはそこそこの演技力があるようだが、冒頭のカタストロフィを充分に表現するべき場面に緊張感も迫力も感じられず、こちらは弛緩しっぱなし。特に台詞の部分で明らかにボタン入力待ちのために設定したと思われる間が随所に取られているのが拙い。どのみち冒頭部分では地の文が存在しないのだから、台詞や音響を一括管理して充分に臨場感を表現してみれば良かったのに。そして声優、もっと勉強しなさい。
 で、災害が発生し漸く主人公の登場となるが、ここから二人目の女性が登場するシーンまで、音響演出の役に立った場面なし。音楽の出来はそれなりだが、近年のF&C作品におけるBGMをすべて請け負いそれなりに定評のある「DOORS」という専門家集団(人数も構成も出自もよく知らんが)が今まで通りに担当しているのだからそれ自体は珍しくも何ともない。だが、折角「ヘッドホンノベル」とまで銘打ったのに、小一時間ほど続けて音響演出の使い道がないというのはこれ如何に。
 そして文章。下手。台詞の前に行っているはずの行動が台詞のあとで表示されたときの腰砕け具合が理解できんのか。その場で必要とも思えない心情吐露や感情表現をだらだらと書き連ねては緊張感を損ねているし(なんかそんなんばっかしや)、語句の扱いが所々で間違っていて物書き志願として苛立つ。そして、そのだらだらとした文章の表示スピードを調整する項目がないのもいけない。長年文章に親しんできた人間の読解速度を理解していないのだろう。この遅さではボタンを押してから文章を読むのに常にタイムラグが出来てしまい、その度に無意味な間が生じる――こういうタイプのシナリオで「間」がどれほど重要か判らないのだろうか?
 同じく「間」に絡むことでは、テキストに合わせてグラフィックが切り替わるとき、それまでグラフィックの上に表示されていた文章を一旦隠してからグラフィックが変わる――まあこれは「サウンドノベル」「ビジュアルノベル」と呼ばれる作品群では共通の手法なのだが、いけないのは、再度テキストを表示させるためにもう一度ボタンを押さなければいけない点。他の作品ではすぐにテキストを表示し、物語の世界に容易く戻れるのだが、このボタン一回分の余計な「間」が感情移入や物語への没頭を阻んでいる。折角浸透した手法があるのに何故それを避けてしまうのか……グラフィックをじっくり見せたいから? そんなのはプレイヤーの自由にさせるべきことで制作者側が決めるようなことじゃない。少なくとも緊張感の持続を妨げてまで見せつけるほど出来のいいCGじゃない、というか曲がりなりにも「ノベル」を唱っているのだからもう少しシナリオを魅せることに配慮して貰えないものだろうか。
 そうした不出来に無理矢理目を瞑って、虚心にプロットのみを眺めるのなら今の処決して悪くはないと思う。どこか謎めいた展開もこちらの興味を繋いでくれる。だが、こういうシナリオは最後まで見ないと評価できないから……そういうのはゲームとは言わない、と未だに思っているのだけれど。ともあれ現時点で確実に言えるのは、
「新機軸」なんて大上段に構えるほどのもんじゃないです
ということ。
 まあ、暫くは続けてみまっす。

 しかし我ながらゲームに対しては容赦という言葉を知らない。


2000年2月28日(月)

 某新潟県警の御偉方及び監察官はみんな階級を剥奪して死ぬまで交番勤務にする、というのはどうだろうか。動けなくなるまで若い警官にこき使わせて、動けなくなってもそのまま詰め所に寝かせておくとか。――そういう極悪な冗談は兎も角、退職金なんかやる必要がないのは確かだと思う。あと、天下りもさせるなよ間違っても。

 仕事の暇なのをいいことに、私はある楽曲を探し求めて数時間ほど奔走した。数年前に煙草のCMのBGMに使われているのを聴いて以来、CDが欲しい欲しいと思い続けながら、曲名もアーティスト名も解らなかったため今日まで探す手だてもなかったのだが、つい昨日、『笑っていいとも』に宣伝のため登場した女性シンガーが歌っていることに気づき、遂に曲名が解った――が困ったことに、肝心のアーティスト名は油断した隙に流れてしまい、スペルの頭が「S」であることの他は殆ど確認できなかった。テロップに音域が五オクターブ、と書かれているのも見て取ったが、こういうのはあまりあてにならないので参考程度に記憶に留めておくとして。
 一仕事終えると、秋葉原でよく訪れる店が開く時刻きっちりに着くよう見計らって職場からバイクを出す。その途上、バイト先に寄ってどーしても欲しい本をちゃんと取り寄せて貰うよう頼むのも忘れない。店に着くと、乏しい情報を許に半ば虱潰しに洋楽関係のCDを扱ったフロアで探し回る。一個だけそれらしいものは見つけたものの、どうも確信が持てないため、レジのお兄さんに持っている限りの情報を提示して心当たりがないか訊ねるが反応は芳しくない。番組の知名度からして偶々チャンネルを合わせていた店員にぶつかる可能性もある、と踏んだのだが甘かったらしい。仕方なく、目星をつけたもの――Sonya『Angel』(Victor)と、注文しておいたPat Metheny『Passaggio Per Il Paradiso(天国への道〜オリジナル・サウンドトラック)』(Geffen)の二枚を買って職場へ戻る。Sonyaはジャケット写真からしてテレビで見たシンガーと同じ黒人であること、多分ソウル系であること、アルバム中に探しているのと同じ題名の曲があったことなどから購入に踏み切ったのだが――撃沈。ソウルというカテゴリに置いてあった割には比較的軽快な印象の曲が多く、問題の曲も捜しているものとは似ても似つかぬ代物だった。
 何故かスタッフの大半を日本人で固めていること、随所に導入されているラップが画一的でヴォーカルの快いイメージを却って殺ぐ結果になっているなど気になる点も見出されたがこれはこれで拾い物と納得するも、諦めがつかず今度は自転車で近場にある行きつけのCD屋へ。今度は昼食時まで時間がないこともあって、ざっと棚を眺め該当するCDがないのを確認すると直ぐさまレジに駆け寄り検索を頼んでみる。だが、彼女は『笑っていいとも』こそ見ていても問題のシンガーは確認していなかったらしく、月曜日辺りにテレフォンゲストで登場したシルバと勘違いして検索を始めてしまう。違うとツッコミを入れて、解っている限りのキーワードで検索をかけて貰うも発見には至らなかった。時間もないのですぐに諦めて家に戻る。
 結局、これだけは何故か躊躇われていた最後の手段に出ることにした。フジテレビに電話をかけて確認する。曲名とアーティスト名の鍵は手許にあるのだからそこまではすまいと思っていたのだが、こうも探しにくいのでは致し方ない。新聞のテレビ欄に記載された番号にかけると総代表に繋がったらしく女性が出た。だがこちらが用件を説明して暫く待つと、何故か制作担当者に替わろうとしたらしく、「五時を過ぎるまでこちらに戻らない」などとすっとぼけたことを抜かしやがる。もう一度用件を繰り返し説明し、「本当にそういう人間に繋がなければ解らない用件か?!」と迫ったところやっと視聴者センターらしき部署に繋いでくれた。私の疑問がそれほど珍しいものとも思えないのだが、対応に現れた男性の声も今ひとつ戸惑いがちである。だが、暫く待たされたのち、ちゃんと問題のアーティスト名を調べて下さった。SHANICE――シャニース。御礼を言い「切」ボタンを押しながらも、何か釈然としない気分が残った。
 食事を終えて午後、データが届く様子もないので、銀行に行くついでに某ファッションビルにある大手CDショップのチェーン店も改めてみることにした。肝心のCD屋を覗く前に、同じ階にある書店もざーっと眺めて廻る――風間一輝が酒口風太郎及び桜井一と同一人物であること、そして昨年11月末に亡くなっていたことを初めて知った。風間一輝『今夜も月は血の色』(幻冬舎)、未完の絶筆長篇と短編二本に、野崎六助らの追悼的文章併載の単行本と、扉絵の美しい加納朋子『魔法飛行』(創元推理文庫)を買う。しかし風間一輝までこんなに早く死んでしまったか――まともに読んだのは未だに短編「夜行列車」のみ、それでも文体と雰囲気に惹かれてなるべく単行本を買うようにしていたのだが……。
 気を取り直してCDショップの方を探し歩く。アーティスト名まで解っていればもうすぐだ、と思ったのだが何故か見当たらない。店員に訊ねると、ソウル系のCDが並ぶ棚を探したあとで「お取り寄せになってしまいます」――すごすご引き下がった。
 半ば意地になっている。午前中に訪れた行きつけのCD屋を再度訪れ、今度はそこの店長にアーティスト名から調べて貰う。何故かデータベースからは捜し出せず、電話帳並のCD目録から「SHANICE」の項目を引いて貰い、私自身の目で懸案の曲名を探り当てようとするが、ない。先日テレビで歌い、同じ声がCMにも流れている筈のその曲のタイトルだけが何故か見当たらない。そして再度棚を一瞥すると、問題のアーティストのCDはちゃんと置いてあり、しかもそのCDは午前中訪れた秋葉原の店でも一度手に取り怪しみつつ、求めている曲名がないことと、テレビ出演時より三倍増しぐらいにけばいジャケット写真に「違う」と言下に退けたものだったのである。おいおいおいおい。こうなれば注文してでも取り寄せて貰う覚悟でいたが、肝心の楽曲が見当たらないのでは仕方ない。申し訳ない、と誤って目録を下げて貰った。
 だがいまいち引っ込みがつかないまま店内をうろうろとしていると、ふと洋楽オムニバス系の棚の前で足が止まった。こういう中に入っていたりしないかなーなどと思い、かなりこっぱずかしい題名のオムニバスCDを手に取り――思考停止に陥る。探している曲の名前が確かにあった。但し、シャニースではない。だけど、ラインナップからするともしかしたら私が昔CMのバックで流れているのを聴いた方――恐らくはオリジナルの方ではないか、と推測された。だが、午前中に一度間違っている為、安易に買ってしまうのは些か躊躇われる――そこで他の収録曲もざっと吟味してみる。オリビア・ニュートンジョン、エルトン・ジョン、ポール・マッカートニー&ウィングス、etc、etc。これならまた間違いであってもまるっきりの後にはなるまい、と判断し、思い切ってレジに運んだ。
 ――結論から申せば、正解でした。私の恋いこがれた楽曲の名はMinnie Riperton『Lovin' You』。しかも作曲者のクレジットにMinnie Ripertonとあるところから推して、これが一番最初の音源、オリジナルであることは確実でしょう。或いは「何故それを知らなかったんや」と呆れた向きもあるかも知れませんが本当に知らなかったんだもん仕方ないやないか。しかしこれが収録されたオムニバスCDの困ったところは、作詞作曲とメイン・アーティスト名は表記してあるもののその他のデータ――引用元であるとか収録年月日或いは発表年であるとか、そういった情報が全く記載されていないこと。恐らく私が最初に聴いたのはこのミニー・リパートンによるバージョンだと思われるのだが、発表年月も記されていないのでは判断のしようがない。しかし何はともあれ、これで長年の胸の支えが降りたのも事実である。ほ、っと深い溜息を吐く。

 職場からの帰り道、またバイト先に寄って今朝頼んでおいた本ともう一冊を買う。エラリー・クイーン『青の殺人』(原書房)香納諒一『ヨコハマ・ベイ・ブルース』(幻冬舎)。前者はリー&ダネイではなくその弟子に当たるエドワード・D・ホックの筆になる作品らしいのだが(何故そういう経緯になったのかは多分解説に書いてあるのだろうが、思うところあってまだ目を通していない)、ちゃんと両氏の監修を受けた正調フーダニットのようなので期待大。

『Road Love Story』レビューは更に続く。早くも攻略ページがひとつ登場していたのでそちらを参照してみると、攻略不可能に見えたキャラもちゃんと攻略できるらしいと解った。安心しながら続行するが、お陰でまたひとつシステムの不親切さが気になりだしてしまう。このゲームではプレイヤー任意による移動を電車及びバスで行い、それに伴って時間が経過するように出来ている。そこで問題がひとつ、移動せずに時間を経過させる方法がない。作中時間は朝・昼・夕方・夜と四つのブロックに分かれ、それが更に三つのブロックに区分けされている。但し、同じ朝のブロック内で発生した出来事は等しく「朝の出来事」として処理されるため、普段は例えば「起床した地点を朝のうちにもう一度訪れたい」と思ったら、一回隣の駅或いは停車場まで行ってすぐに戻れば「朝」に発生するイベントに巧く立ち会える――これだって私には不親切極まりない構成と思えるがまあ許容範囲内でもある。だが問題はプレイヤーが行き先を指示できる最後の一日、30日の場合。この日だけは、その日一日のスケジュールを細かに設定しても、実際に動けるのは最初の一回だけ――つまり、起床したときにその日訪れる必要のある駅にいた場合、無情にもプレイヤーは肝心のイベントを目撃できないままゲームを終わらされてしまうのだ。ただ、この「罠」は今の処特定のキャラのシナリオにのみ不都合を来しているだけで、他のキャラは結末近くのイベントになると時間の進行も移動も強制となるため格別の影響はないと言える。だが、システムの理由から立ち止まる能がない主人公というのもかなり間が抜けている。
 それと、キャラクター攻略については(今の処)バグはないと確認できたが、二箇所ほど音響の設定を誤っている場面があり、それが非常に聞き苦しかった。話では音廻りに注意を払ったようなことを伺っていたので、よもや音廻りでバグなどなかろう、と思っていたのだけれど――?
 システムとの絡みの悪さを見逃し、純粋にシナリオだけを眺めると、まあ及第かな、という気にはなってきた。相変わらず掘り下げが足りない、キャラクターがステレオ過ぎるといった不満はあるけれど、それでもキャラクターは確立され描写もそれほど浮ついていないから嫌味はない。ただ、あまりにもシステムに不備が多いため単純に誉められない、というか純粋にそこだけ眺めるのが難しい。シナリオが外部発注の分、システムを見直す時間も充分にあった筈だと思うのだが、というかそもそも二ヶ月近く発売を遅らせたのは一体何だったのだろうね。結局のところ、遅らせた挙句にこの不出来、という点に私は憤っている訳だ。


2000年2月29日(火)

 寒い。

 二月中に終らせるつもりだったが最早絶対に無理。元々誰かから締切を定められていた訳じゃないから気が急いていた筈もないのだが、或いはどこかしら空回りしていたのかも知れない、二月も晦日になって急にアイディアが綺麗に形になり始めた。これで一応主要キャラクターのアウトラインは固まってきたので、あとはその内側を整えていくのみ――しかし、これを文章化するともの凄い量になるよなーと取り敢えず他人事のように思う。ともあれ、ざっとデータが出揃ったらそれを整形して書類に纏めねばならないし――で、今週中に仕上げるのは先ず無理だろう。となるとその前に某所のトップページ制作を手掛ける方が賢明か。以上、本人以外には意味不明な独白でした。私が一体何をしようとしているのか適当に類推して遊んで下さい。

 郵政省に気象庁。民間企業ではなく行政側に顕著な異常が発生した辺りにこの国の現状が透き見える。一番呑気なのは指導する側だったのだ、と。

 本日のお買い物は漫画と定期購読誌が中心である。特筆すべきは柴田よしき『星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう』(ASPECT)。SFオンラインで発表・頒布された長篇に書き下ろしの続編を加え単行本化したもの。オンライン版では中田雅喜の挿画があったがこちらでは省かれ、装幀も思いの外にハードSFを思わせる硬派な代物でした。――しかし三ヶ月ぐらい前から柴田さんの作品をまとめて読もうとずーっと思い続けているのだが、なかなかタイミングが合わない。そろそろ芦辺さんの作品群が読破できそうなのだが、その次はMYSCONの関係で井上夢人氏の『オルファトグラム』及び未読の旧作(っても『ダレカガナカニイル…』と『風が吹けば桶屋がもうかる』しか読んでないのやけど。因みに両方とも私のツボ)を片付けられるだけ片付けてしまいたいし、そのあとは追いつきかけたところで止まっている倉阪作品を読破したい――結構先だ。

 バイトがある日はゲームしている時間も場所もないです。しかし寒い。あらゆる意味で、寒い。

 そうそう、フジテレビ系ドラマ『モナリザの微笑』の小説版があの斉藤純の執筆で刊行されています。設定は同じながら全く別のエピソードを描いている模様。ドラマ版は第一話がしっくりこなかったのでそのあとは見ていないのですが(今忸怩たる想いでいっぱいです)、それでも買って読んでみるべか、と一瞬思った。値段も手頃だし本当に買うかも知れん。書評/感想系サイトの運営者の方で早々と読まれた方、是非是非感想アップして下さい。それを拝見してから考えます(他力本願)。


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