cinema / 『がんばれ!ベアーズ <ニュー・シーズン>』

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がんばれ!ベアーズ <ニュー・シーズン>
原題:“Bad News Bears” / 監督:リチャード・リンクレイター / オリジナル脚本:ビル・ランカスター / 脚本:ビル・ランカスター、グレン・フィカーラ、ジョン・レクア / 製作:J.ゲイヤー・コシンスキー、リチャード・リンクレイター / 製作総指揮:マーカス・ヴィシディ / 撮影:ロジャー・ストファーズ,N.S.C. / プロダクション・デザイナー:ブルース・カーティス / 編集:サンドラ・エイデアー,A.C.E. / 衣装:カレン・パッチ / 音楽スーパーヴァイザー:ランドール・ポスター / 音楽:エドワード・シェアマー / 出演:ビリー・ボブ・ソーントン、グレッグ・キニア、マーシャ・ゲイ・ハーデン、サミー・ケイン・クラフト、ジェフリー・デイヴィス、ティミー・ディータース、ブランドン・クラッグス、リッジ・キャナイプ、タイラー・パトリック・ジョーンズ、アマン・ジョハル、トロイ・ジェンティル、ジェフリー・テッドモリ、ケネス・“K.C.”・ハリス、カルロス・エストラーダ、エマニュエル・エストラーダ / 配給:UIP Japan
2005年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:松崎広幸
2005年09月23日日本公開
公式サイト : http://www.bears-movie.jp/
日比谷みゆき座にて初見(2005/09/29)

[粗筋]
 モリス・バターメイカー(ビリー・ボブ・ソーントン)はかつてマイナーリーグにおいて切れ味鋭いカーブを武器に三振の山を築いた名選手であった。が、メジャーに移った途端に問題を多数起こして現役を退き、妻と娘のアマンダ(サミー・ケイン・クラフト)を家に残して出奔、いまは害虫駆除の仕事をしながらのトレーラー暮らしで、アルコールと女に溺れっぱなしの毎日を送っている。
 そんな彼に突如、思わぬ仕事が舞い込んでくる。敏腕弁護士にしてシングル・マザーのリズ・ホワイトウッド(マーシャ・ゲイ・ハーデン)が息子のトビー(リッジ・キャナイプ)の所属するベアーズを指導してもらうため、彼にコーチを依頼してきたのだ。
 しかしこのベアーズというチーム、さしものダメ人間であるバターメイカーでさえ呆れ果てるほどのダメチームだった。どのくらい駄目かというと、試合が成立するレベルにすら達していない。彼が就任して間もなく開催されたサウス・バレー・リーグの初戦でレイ・ブロック(グレッグ・キニア)率いる優勝候補のヤンキースと対したベアーズは、ろくにアウトも取れない有様で、棄権による敗北という醜態を晒す羽目になる。
 やる気のなかったバターメイカーもこれには見かねて、遂に重い腰を上げた。とりあえず確実な戦力を得るために彼が向かったのは、娘アマンダがアルバイトをしているアパレルショップ。かつて彼自らが仕込んだ娘の豪腕をあてにしてのことだったが、三年も音沙汰なしだった父に対してアマンダの態度は素っ気ない。そのうえベアーズの子供達は、バターメイカーが留守のあいだに勝手に多数決を取って、チームの解散を決めてしまっていた。
 半ば脅迫にも等しい説得でとりあえず解散は見送らせ、バターメイカーも自らの野球経験を活かして本腰を入れた指導を開始する。翌週末に行われた第二戦、やはり手も足も出ないまま敗北を喫したベアーズであったが、棄権することなく全六回を戦いきった。それは誇りに思っていい、と励ますものの、やはり子供達同様落胆は隠せない。
 だが、ふたたび説得に訪れた彼の淋しげな様子に、アマンダの気持ちが動いた。男子顔負けの剛速球は打者のバットに容易く掠らせることさえせず、続く第三試合でベアーズは大善戦を繰り広げる――だが、それでもまだ勝てない。幾らアマンダが相手の打線を限界まで封じ込めたところで、打線が火を噴かなければ勝てるものも勝てないのだ。
 もうひとつ決定力に欠く打線を何とか補強できないものか、とバターメイカーが頭を悩ませていた矢先、彼は思いがけないところに逸材を発見する。それは開幕式にバイクで乱入してきた少年ケリー・リーク(ジェフリー・デイヴィス)であった。喧嘩相手の腕を折ったとか教師を妊娠させたとかろくでもない噂に事欠かない彼だが、かつてはブロックのヤンキースに所属しており、走攻守三拍子揃った名選手でありながら、素行の悪さから追い出されていたのだ。バターメイカーは娘の協力で彼をスカウトしようとするが……

[感想]
 本編の監督リチャード・リンクレイターはもともとアート系作品で名を為してきた人物である。『恋人までの距離』で評価を確立したのちも、密室における心理劇をリアルタイムで描いた『テープ』、いちど実写で撮影したものに全篇デジタル・ペインティングを施し麻薬的な映像世界を構築した『ウェイキング・ライフ』、『恋人までの距離』から九年後の再会をやはりリアルタイムで追った『ビフォア・サンセット』といった具合に実験的・意欲作を繰りだしている。が、その一方でジャック・ブラックを主人公に、落ちこぼれのロッカーが秀才の子供達をロックンローラーに仕立てていく、家族層をもターゲットに収めた作品『スクール・オブ・ロック』を興行的にも成功させ、アート系の枠を外しても活躍が可能である資質を覗かせた。
 そのリンクレイターが『スクール・オブ・ロック』に続いて手懸けた一般向け作品が本編であり、同時に初のリメイクでもある。1976年に製作され、続編からテレビシリーズまで登場することになった人気作品であるが、昔は本当に映画に興味のなかった私はちゃんと観たことがない。ゆえに、比較で語ることは出来ないので、純粋に本編の出来のみで評価させて頂くが。
 何せ頻繁に劇場通いするようになって観た作品すべてクリーンヒットだった監督の作品だけに不安はもともとなかったが、これは本当にお見事だった。
 まず、キャラクターがひとり残らず完成されている。アル中で女誑しの落ちこぼれ、という設定にはうってつけのビリー・ボブ・ソーントンは無論のこと、威勢ばかりのいいチビのティミー・ディターズ、デブでやたらと口の悪いインゲルバーグ、経歴書に“野球”と書きたいだけの理由でチームに入ったデータ分析マニアのプレム・ラヒーリ……ぜんぶで12人にも及ぶベアーズの子供達がひとり残らず特徴的な面を備えており、全員に存在感をアピールする機会が与えられているのが素晴らしい。野球映画はどうしても数名のヒーローに焦点が当たりがちで、本編でもバターメイカーの娘アマンダと札付きの不良ケリーが気を吐き、そのために終盤で話がこじれていくのだが、その前後の流れで個々のキャラクターを充分に活かし、活躍の場を与えているのは、物語の精神をそのまま反映していて実に好ましい。
 話の構成も巧い。闇雲に感動させようとしたりドラマティックにしようなどとはせず、ごく自然に登場人物たちに変化を齎し、柔らかに緩急をつけながらクライマックスへと引っ張っていく。コメディ部分ではさすがに「これは嘘だろー」とか「さすがにちょっとやりすぎだろ」と感じさせる箇所はあるが、極端なものはない。子供達の成長の早さも、この手の物語ではお約束のようなものゆえ、寧ろお約束であることを意識させないテンポを作りあげている点で評価に値する。
 リメイクを手懸けた脚本家によると、本編はビル・ランカスターによるオリジナル脚本の構成をそのまま踏襲しているのだという。設定は現代風に変更したし、台詞もリニューアルに携わった脚本家が書き上げたものであるが、話の展開についてはほぼ変えていないそうだ。「壊れていないなら直すな」と判断してのことだというが、確かに、決してわざとらしくなく、無理矢理感動を煽ることのないプロットは、素晴らしいまでに完成されている。数年前に物故しているビル・ランカスターの名前を脚本担当として明記しているのもその事実に敬意を示してのことだが、そういう姿勢を選択したリメイク版のスタッフにも私は敬意を表したい。優れた美的感覚を備えたリンクレイター監督の見識もあろうが、やはりキャラクター造型と構成の確かさは、オリジナルを尊重してリメイクすることに徹した脚本家ふたりの功績が大きいに違いない。
 ベアーズのメンバー全員に活躍の場が用意されていることは無論、それぞれのキャラクター性を膨らませるために随所に伏線や象徴を設け、すべてを結末までに回収しているバランス感覚がまた心地よい。
 主人公のバターメイカーはやっぱりどこかダメ中年なままだし、チームメイトの成長の仕方は如何にもアメリカ式のベースボール・スタイルでいささか乱暴な印象がある。それ故、こと日本では抵抗を感じる方もあるだろうが、その点さえ許容できるなら、間違いなく安心して楽しめる理想的なベースボール・ムービーであり、優秀なファミリー映画である。
 強いて弱点を挙げるなら――主人公のアル中・女好き・ダメ中年にビリー・ボブ・ソーントンを起用していることだろうか。この人はこういう役柄が嵌りすぎて、冒険が足りないという気はする。しかし、さすがにこれは過剰な要求というものだろう。第一、こういう役柄をソフトに愛らしく演じられる俳優というのもそうそうおらず、適役を選んだこともまた、本編の優秀さを証明していると言えよう。

(2005/09/29)


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