cinema / 『マッチスティック・メン』

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マッチスティック・メン
原題:“MATCHSTICK MEN” / 原作:エリック・ガルシア(ソニー・マガジンズ刊) / 監督:リドリー・スコット / 製作:ジャック・ラプキ、リドリー・スコット、スティーヴ・スターキー、ショーン・ベイリー、テッド・グリフィン / 脚本:ニコラス&テッド・グリフィン / 製作総指揮:ロバート・ゼメキス / 撮影:ジョン・マシソン、A.C.E. / 美術:トム・フォーデン / 編集:ドディー・ドーン、A.C.E. / 共同製作:チャールズ・J・D・シュリッセル、ジャニーナ・ファシオ / 衣装:マイケル・カプラン / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:ニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル、アリソン・ローマン、ブルース・アルトマン、ブルース・マッギル、シーラ・ケリー / 配給:Warner Bros.
2003年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:岸田恵子
2003年10月04日日本公開
公式サイト : http://www.matchstick-men.jp/
丸の内ルーブルにて初見(2003/10/18)

[粗筋]
 カーペットのわずかなケバも気に障り、食器を汚すのが厭で食事はツナ缶から直に食べ、扉は常に三回開閉しないと出入りできない強迫神経症、そのくせ筋金入りのチェーンスモーカー。傍目にも気詰まりな気性のロイ・ウォラー(ニコラス・ケイジ)は、だが逮捕歴のないベテラン詐欺師として、既に悠々自適の隠居生活を送れるだけの財産を築きあげていた。
 高望みはせず、少額だが確実な手段でもって稼いでいくのが彼のやり方だったが、弟分であり相棒であるフランク(サム・ロックウェル)は大きな仕事をしたがっている。やるならひとりでやれ、とロイは突き放した。そもそも、彼の精神状態は大仕事にはとても向かない。
 ある日、ロイは台所で手を滑らせて、処方されていた安定剤を流してしまった。あろうことかかかりつけの医者は夜逃げして連絡がつかない。薬を切らしたロイは家に閉じこもり、狂ったように調度を磨き立てた。心配してやってきたフランクにドクター・クライン(ブルース・アルトマン)という人物を紹介され、新しい薬を処方してもらってようやく事なきを得る。
 クラインとの会話を通じて、にわかにロイは別れた妻のことを思い出す。酒に溺れ時として暴力を振るったことが原因で、妻は妊娠二ヶ月のお腹を抱えて出て行ってしまった。ふと彼女に連絡する気になったが結局自分では話を出来ず、ロイはクラインに頼み込んで連絡を取ってもらう。数日後、クラインはロイに対して思いがけない話を伝えた。かつての妻はロイに会いたがっていない、だが娘は君に興味を抱いている、と。
 広場恐怖症も併発しているところを強いて外出し、ロイはとある公園のそばで彼女と会った。アンジェラ(アリソン・ローマン)は愛らしく利発で、詐欺のこと以外では人と話すのも苦手としているロイの気持ちをも解していく。彼女との交流でにわかに活気づいたロイは、フランクが提案していた大仕事に手を貸す意を固めた。
 標的は、ウェイターにチップも払わないケチな男チャック・フレシェット(ブルース・マッギル)。国際的な取引を持ちかける、と見せかけてその資金をくすねよう、というものだった。だが、ようやく接点を作ろうとしていた矢先、アンジェラがロイの家を訪れた。母親と喧嘩して家出したと言い、サマースクールが始まるまでの数日でいいから、ここに置いて欲しい、とアンジェラは懇願する……

[感想]
 最近すっかり神経症づいているニコラス・ケイジに、巧いけど大半犯罪者役のサム・ロックウェル、そして娘役が異常に板に付いている24歳アリソン・ローマンという、役者の個性だけでもインパクト充分な作品である。
 そうしたキャラクター設定を丁寧に活かしている点からまず好感が持てる。塵ひとつ見あたらない家で執着的な挙措に出ているロイの姿から、まるで世間話でもするような態度で電話越しに詐欺を働いているフランクの様子を映す過程が実になめらかで、観客を作品世界にスムーズに引きずり込んでしまう。作品のキーマン――というかキーガールと呼ぶか、とにかく重要なキャラクターであるアンジェラが登場するのは結構あとのことになるのだが、その推移を長く感じさせず、尚かつそれ以降となるアンジェラをきっちり際だたせてもいる。
 一方で、詐欺の手口が微妙に常套を外しながら、過剰な悪意を感じさせないというのも巧い。作中のロイが語るとおり、「騙す相手が欲を出さない限り手は出さない」という方針が、実は一方的な詐欺ではなくある意味「騙し合い」の性格を帯びているため、結局は犯罪なのに犯罪とあまり感じさせないからだろう。アンジェラに詐欺師であると感づかれ、やり方を教えて欲しいと請われて成功する寸前まで実践させておきながら、「今度は金を返してこい」という潔さが、作品そのものにも浸透しているからだろう。
 CMでも盛んに喧伝しているとおり、そのあとに待ち受けるクライマックスこそがやはり本編の最大の焦点だろう。衝撃度も高く、それでいて括りもスマートという希有な仕上がりを見せている。ただ、それ故に一部の描写にアンフェアな印象が付きまとうことも否めない。あそこであの台詞を口にさせるのは、些か不自然ではないかと。
 しかし、多少の違和感など封じ込めてしまうくらいに、ラストは華麗で、そのくせ不思議にセンチメンタルな余韻が残る。ロイ自身を巡る境遇が実に劇的に変化したあとのラストシーンであることが最大の要因だが、アンジェラを巻き込んでの大仕事のなかでぽつりとアンジェラが漏らした言葉と、ラストの会話の不思議な調和が、本編をただのコンゲームに終らせなかったもう一つの所以だろう。この二つがなければ、たぶんもっと釈然としない印象が残ったはず。
 全体としては詐欺師の仕事ぶりをテーマにしたコメディだが、それだけに留まらず繊細なドラマとしての側面も見せる、爽快な良品。個人的には『ハンニバル』『ブラックホーク・ダウン』といった大作よりも上に置きたいくらい。

 上で犯罪者役ばっかりと記したサム・ロックウェルだが、具体的に出ている作品と役柄を私の知る範囲で挙げてみよう。『ザ・プロフェッショナル』で若く血気盛んな悪党、『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』で全戦全敗のボクサーから強盗に転身した男、そして『コンフェッション』でCIAに殺し屋としてスカウトされたTVプロデューサー。……な? ほか、私はテレビで部分的に観ただけなので記憶していないが、『グリーンマイル』でも問題を起こしてばかりの囚人を演じ、インディペンデント中心に活動していた時期にもそういう役柄が多かったらしい。本人も楽しんでいるとはいえ、達者なんだからもっと様々な役柄やらせてあげればいいのに。
 ……あ、でも、キャラクターの位置づけはだんだん良くなってるのか。最初は悪事の素人とか囚人だったのが、本編では「逮捕歴なし」にまで到達してるし。

 作品とは何の関係もないが、本編はリドリー・スコットが“サー”の称号を戴いてから初めての作品となるらしい。無論、クレジットにそんなことは書いていないし書く必要もないんだけど。

(2003/10/18)


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