Books / Page 3  (Asia, Japan, China etc.)
日本
 裁判で名誉毀損、プライバシー侵害が問題となった小説(ゼミでを読む):三島由紀夫・宴のあと、城山三郎・落日燃ゆ、柳美里・石に泳ぐ魚、伊佐 千尋・逆転。このうち、文学小説としてコメントをしたいのは、三島由紀夫の「宴のあと」だけ。
 日本書紀(岩波古典文学大系):編年体なので時間的前後がわかりやすい。神話は飛ばして、とりあえず歴史的におもしろい下巻から読む。武烈天皇から。天皇家内の後継争い、国内で豪族と天皇家との緊張関係、大化改新などの国内制度の整備、対外的には朝鮮半島の激動と大和朝廷との関係など、いずれも次々と展開する緊迫感がおもしろい。
 芥川龍之介・歯車

 井上友一郎『桃中軒雲右衛門』(講談社、昭和28)桃中軒雲右衛門が師匠の梅車の妻、お浜と駆け落ちしてから死ぬまでのことが書いてあるが、中身はまだ読んでない。どうも小説というよりは劇の台本になるようなものを意図してたのではないか。中身よりも、本書の前書きを小林秀雄が、後書きを亀井勝一郎が書いているのでびっくり。

 川端康成『名人』 高校生のときに一読んで、囲碁のことはほどんど知らなかったが、何となく迫力を感じた小説だった。最近、電車の中で読もうと思って、また読んだ。今回は、小説中で取り上げられている本因坊秀哉名人と木谷7段(小説中は「大竹」)の棋譜を見ながら読んだ。改めて迫力とともに、戦う2人の心の機微(超人ではなく、普通の人間としての気持ち)が描かれていておもしろい。しかし、川端康成のどこか突き放した冷たさを感じる(冷静さという方がよいかしれない)。
 『雪国』やはり高校生のときに読んだ。そのときの感想は覚えていない。今読むと、おやおや、ずいぶんと大人の内容だなと感じた。高校生の時にはわからなかったのも無理はない。今の感想は、身につまされるところもある。駒子が本気をぶつけているのに、男が真剣でないのが嫌になる。川端康成はこれに何を書こうとしたのか。書かれた時代のせいなのか、著者の懺悔か、単なる空想の遊びか?
 『伊豆の踊子』青年の淡い恋心(とまで行かない、単なる「あこがれ」、といっても年下の少女に対する)を描いたものとしては、よく描かれている。しかし、一高生と旅芸人という設定が、少しいやらしい。

中国
 「顔真卿展」見学記  東京国立博物館(平成館) 2019年2月 
 
王羲之(303年ー361年、東晋の時代)の書と言えば、「蘭亭序」が有名だが、その模本の1つ(王羲之本人の書は、唐の太宗・李世民が自分の陵墓に副葬品として埋葬させたので、我々は模本でしか見ることができない)、欧陽詢チョ遂良、唐玄宗、その他の書、そして目玉の顔真卿の書を一堂に集めた展覧会である。多くは、日本各地にある博物館所蔵のものだが、顔真卿直筆の「祭姪文稿」は台湾の国立故宮博物館の秘蔵品で日本初公開である。私は書については全くの素人であり、展示されている書についての説明は「別冊太陽ー王羲之と顔真卿 (2月22日号)」を参照するとよい。王羲之の書は、躍動感があり、ピチピチしている。顔真卿の書は楷書としての完成形という感じがする。端正であるが、剛直で、力強い。「祭姪文稿」は、安禄山の乱で非業の死を遂げた姪(zhi 、中国では、兄弟の子をいう。日本の甥。簡体字では「イ至」、人偏に至と書く.
中国語の甥 shengは、姉妹の子)の顔季明(実際には従兄弟の子)の弔辞の草稿である。草稿なので、激高・感情がにじみ出ているが、これが墓誌などになると、剛直な字体でまとめられるのであろう。
 今回の展示で興味を持ったのは、「荘子知北遊篇第二十二」、「大方広仏華厳経巻第八」(いずれも国宝)である。特に、後者は、則天武后の時代(695年)に武后から長安に呼ばれて華厳経の漢訳をした実叉難陀(西域の僧侶)の書で、次に説明するように、面白い。普賢菩薩が「承仏神力、観察十方而説言」と述べて語る言葉の中に、次のような言葉がでてくる。「一切宝中放浄光、其光普照衆生海、十方土皆周遍、咸令出苦向菩提」。この「」=國という字は、則天武后が作った則天文字で、武后の死後は使われなくなった字である(禁止された)。そのため、日本人は、「水戸光圀」に使われているので、知っているが、中国人は相当に教養がある人でもこの字を知らない。中国でかつて使われたが、その後、使われなくなり、日本でのみ残っているという意味で面白い。中国各地の博物館などを旅行したときにも、則天文字に出会わないか注意していたのであるが、ついに見ることがなかった。しかし、今回、初めて、則天文字が実際に使われている書を見ることができて、私としては心躍る思いである。なお、先の文中の「照」という字も、武后の名前が武照であり、則天文字が作られたが(空の下に明と書く)、この華厳経では、その部分は則天文字になっていない。照に相当する則天文字は、武后の名前を表すので、他人は使ってはならないことになっていたからであろう。
、  

 紅楼夢 曹雪芹の作。第80話までは曹雪芹の作だが、その後の第120話までは別人が付け加えたとされている。ある山頂にある大岩は、かつて茫茫大士(僧)と渺渺真人(道士)に頼んで、人間界を経験させてもらった。また時が経ち、後世の空空道人が面白い話が岩に刻まれているのを発見、これを書き取り、巷間に伝えたという設定である。岩の話は、ある貴族の館における出来事を、貴族の美男の賈宝玉(Jia Baoyu)と美女の林黛玉(Lin Daiyu)を中心にその他の女性達の恋や嫉妬の物語。しかし、2人は結ばれることなく、宝玉は薛宝釵(Xue Baochai)と結婚する。恋物語の部分だけを取り出すとありきたりだが、人の運命、栄枯盛衰を描く。ただ、日本のこの種の話と違って、人の運命の「はかなさ」を描くものではない。もっと前世との因縁のある話である。宝玉も林黛玉もその前世におけるつながりがある。ちなみに、宝玉は、美しい玉を口に含んで生まれてくる。この玉こそがあの山頂の岩が形を変えた仮の姿なのである。本書の楽しみ方はいろいろある。中国社会を知るために読むのもよいし(明・清時代の貴族社会、裁判の場面も出てくる)、源氏物語と比較するのも面白い。
 中国語の原文は、中国のいろいろなサイトで見たり、ダウンロードできる。原文を片手に読むならば、幸田露伴, 平岡龍城共訳・ 國民文庫刊行會(1920)が逐語訳なので参考になる。しかし、物語の中身を楽しむのであれば、岩波文庫版の訳がよい。
 
ーー>中国中央電視台製作のDVD(Conny Video)もある(regional freeなので心配ないが、私のコンピュータでは、DVDを入れるとリセットされることがある)。テレビのシリーズはもっと長かったが、DVD3巻にまとめたもの。未見だが、最近は6巻のものが販売されているようで、これはTVシリーズ全部を録画したものかもしれない。
  
以下の挿絵は、国民文庫版から(元の中国の出所・原典は確かめてない。原画の著作権は切れているので、自由に使えるが、文庫本のカバーに使っている岩波書店も、原画の出典については明記してないようだ)。
   賈宝玉(Jia Baoyu)    林黛玉(Lin Daiyu)     史湘雲(Shi Xiangyun)  薛宝釵(Xue Baochai)
      


金瓶梅  ちゃんとした文学だが、ここから何を読み取るかが問題だ。 主人公:西門慶 ・潘金蓮・・・昔、野沢那智とチャコこと白石冬美(?)の深夜ラジオ番組があった。これを聞いてのめり込み過ぎると大学受験に失敗すると言われた。

官場現形記(李宝嘉)
平妖伝  
西遊記 Tangseng(唐僧、三蔵法師) Sun Wukong(孫悟空) Zhu Bajie(猪八戒)、沙悟浄(Shaseng)
      西遊記は、京劇などで見るのが一番面白い。

子供用の本
 王倹亮ほか編著 「辣手神探 狄仁傑」 沈香詩扇、錯中錯、陽案陰審、屋 殺手、黄金案、雨師、四漆屏、荷唐蛙声の8編が収録されている。子供用の本で、つたない私の中国語でも何とか読める。中国語初級者・中級者にはお勧めである。但し、全部わかろうとして辞典を引くようなことはしない方がよい。大体わかればよしとする。この8編のどこまでが編著者の創作で、そこまでが他の文献(たとえば「狄公案」)の編集かわからない。「黄金案」は、van GulikのChinese Gold Murderと同じ話であることは確かだが、いろいろな違いもある(なにか元になっている共通の話があるのであろう)。他の話は、私が読んだvan Gulikの話とは重なっていないが、全部読んだわけではないから詳しいことはわからない。この中国版狄仁傑を読むと、van GulikのJudgeDee seriesとは異なる。後者には洋風の味がある。この本の中の狄仁傑は、やはり唐代の司法官であり、彼個人はできるだけ刑(拷問の道具)を用いること控えるが、時に刑(拷問)をちらつかせて自白させることがある。8編の中では沈香詩扇、四漆屏、荷唐蛙声が面白い。「沈香詩扇」は、ジンコウの扇子に書かれている五言絶句「郎去春遠、郎帰秋水清、別来人寂寞、何処寄離情」を手がかりに若妻黎玉の殺人事件を解決する。「四漆屏」は四面の屏風の画のとおりに進んでいく牟平県の県令の身辺に起きる事件を、同県を訪れていた狄仁傑が解決する。奇怪な出来事の裏には必ず人為的な何かがあるという方針で事に臨むところは合理的な発想だ(妻曰く「お化けは怖くないが人間は怖い」)。「荷唐(本当は土偏あり)蛙声」は、蓮池の蛙の鳴き声がヒントとなる。多くの話を通じて、貞淑な妻は美徳で、不貞の妻(女性)が犯罪に絡むという考え方が根底にあるようであり、この点は違和感を感じる。配偶者以外との恋愛関係は、難しい状況下で行われるから、いろいろ無理があるが、犯罪とは関係ないし、仮に、無理が高じて犯罪になることがあるとしても、男女で同じである(ただ、昔は男性は自由度が大きかったので、女性の方が大変だったということはある)。ーー>狄仁傑 (Di Renjie)


中国関連
長安牡丹花異聞 (森福 都 本屋でふと手にとって見た本だが、面白い。舞台は、唐の長安、妖しい光を放つ牡丹、夜光牡丹をめぐるミステリアスで、スリリングな話しである。唐についての知識も豊富であり、物語も奇抜、アイデアが実に面白い。これだけの発想がどこから生まれてくるのか。もし、中国の奇伝小説に頼ることなく生まれてきたとしたら、すごい(夜光牡丹(yeguang mudan)は、中国にあるようだ)。ただ、結末のところ少し物足りない。
 
Robert van Gulik (ファン・グーリック)  (オランダ) Judge Dee Seriesは知る人ぞ知るシリーズ。 主人公の狄仁傑(Di   Renjie)は、唐の高宗と則天武后(中国では武則天と呼ぶ)の時代の清官(清廉な官僚)で司法を担当する大理寺の長官を務めた。ファン・グーリックの略歴および狄仁傑(Di Renjie)の詳細については、ーー> 狄仁傑 (Di Renjie)  
 なお、CCTV(スカイ・パーフェクト783チャンネル)で武后の物語を放映していた。狄仁傑が武后に忠実に仕えながらも武承嗣・三思(武后の一族)らとやり合うところは、一歩間違えば死に繋がるハラハラする場面の連続で面白い。
ーー>無字碑歌 (武后の石碑には字が書かれていない。後の人間が恨んで削ったのではなく、武后の意向で初めから書かなかったという)




           top page      Books / Page 1 (German books)  Page2 (English books)