カートリッジ

モノラルなら針以外は自作可能

 磁性体のパーマロイ板は断線したりプラスチックが欠けたりした壊れたカートリッジからとる。巻き線はマブチモータ−をGEAR‐DOWNしてボビンに巻く(オヤイデには適当なウレタン線0.05mmがある-線が細いので手巻きの方がうまく行く)。過去にAudio TechnicaのAT-3Mで改造実験したことがあった。ステレオ用のものを作るにはインダクタンスを測れるLCRメーターがあれば左右同じコイルが巻ける。

ローインピーダンスMMのこと

1980年頃MMで0.3mV出力のカートリッジがPickering/Stantonから数万円で出ていたらしい(現物は見ていない)。DenonにもDL-107の低インピーダンスMMタイプDL-107Bがあった(70年代後半S/Nが良いヘッドアンプが登場しMCタイプのDL-103と互換使用が出来ることなどで放送局用途で登場したらしい)。某所でこのタイプのExcelのSS-20を見たがとにかく安いので買ってしまった(シェル付きで数千円)! 性能は確かにMC並(出力0.3mVインピーダンス10.5Ωat 1kHz)。音はヘッドアンプを通しても低音が甘いが、下の画像の接合楕円針がついているので、後日更に買い足した。コイルのインピーダンスが低いと浮遊容量との高域共振点を可聴域の外に伸ばすことが出来るが、S/Nのことまで考えると実質的メリットは余りなかったようだ。

金属シャンクの先にダイヤのチップが取り付けられている接合楕円針は、丸針の(トレース方向から見て)裏側を斜め方向に研磨加工しているものが多いようだ。Excelは国内で市販されたものをあまり見たことがない(世紀末にラジ館のDACで普通のMMのES-70S/E/EXが売られたのを見たきり)。どれも数千円のものなのに音は悪くないーこんなメーカーもあるのだと感心した。EXCEL SOUNDは輸出やOEMが主で自社ブランドでの国内販売に余り力を入れなかった。

交換針のこと

1970年代のことだが、レコード針を共産圏へ輸出するのにメーカーに見積りをしてもらったら一個十数円だったと記憶している。多分サファイアのロネット針(*註)だったと思うが市販では当時500円だった。 10分の1! 物の値段は製造価格ではなくメーカーを維持発展させるための値段だと思い知らされた次第。 規模の小さいメーカーほど本当の値段がつけられる。それにしてもMM用の交換針については前々から不満がある。交換可能をうたっておきながら交換針が限られた品種しか市販されていない。あっても値段はカートリッジ本体の7掛けで、本体を買わせようという意図がありあり。最近はプラスチックの型代が高いのでMMの開発が少なく、マニア好みのMCばかり売られている。註:Ronette針と一般に言われているものは圧電素子用の交換針でオランダのRonette Electrische Industrie, Amsterdamが普及させたのでその名がある。針交換が簡単で、バネ板の先に針が埋め込まれている構造に汎用性があるのでステレオ初期には一般的だった。余談ですが磨耗した針先を特殊なジグザグの溝(内包角を60度から90度まで変化させたV字断面)を刻んだ研磨ディスク上で再成型する発明を見つけました:松下電器産業の特許公開S60-234206「針先再研磨用ディスク」&234207(並木精密宝石の中塚氏による特許1291143「蓄針の研磨法」も同様)。消費者には夢のような発明ですが、新しい再生針を買ってもらえなくなるなど商業的にはメリットがないので実用化されなかった?

マグネチック・カートリッジの消磁のこと

私のフォノ・アンプにはカートリッジの再生出力自体でコイル(と言うよりコイルの巻芯になっているパーマロイなど)を消磁するためのShortポイントがあり、帯磁して高域の抜けが悪くなった時使うと効果が現れる(ように思える)。それでも十分でない時の最終手段として、昔オープンテープデッキに使った磁気ヘッド用消磁機で、針を抜いてから針が刺さる所や本体周りを直接には触れないようにして消磁することがある。近づけると内部のコイルが振動する。IMなどは本体にもマグネットが在ることがあるので安全な方法とはいえないが、出力低下はないようだ。古いMM/IMカートリッジで音がすっきりしない場合、これでモヤモヤを取る。準備体操か肩こりマッサージみたいなものか?MCは出力電流は多いのでアンプ側の入力をショートしてしばらくミュート再生すれば十分なようだ。MCに消磁機を使うと断線の恐れがある。それでなくともMCは自然断線しやすい(ギャップが狭いのでコイルが前部ヨークに接触するためとも言われている)。尚、カートリッジのコイルの内部抵抗をテスターで測ってはいけないそうだ。磁気回路が直流磁化するのだという。LCRメータは1kHz等の交流で測るので害がないようだ。私の独断的意見だがコア自体よりも磁気回路のヨークやシールドケースに磁気歪が溜まるのではないかと予想しているー80年前後ヨークやマグネチックコアを使わないタイプ(DenonのUS Patent: 4209669)も発明されたが針交換に問題が残りMMタイプでは製品化されなかった模様。Joseph Grado氏はUS Patent 3694586でstray magnetic fieldの存在とそれを防ぐべき磁気シールドでさらに別の磁気歪が生じることに言及している。MMタイプのカートリッジでの磁束漏れ(magnetic flux leakage)がカートリッジの特性に影響を与える(シールドのない裸のカートリッジの方が音が良い)ことは日立製作所の特開S52-109905でも報告されており、シールドケースに磁気が漏洩することにより特性が劣化するのを防ぐためにシールドケースとポールピースの間に銅板を挟むことが提案されているーMMカートリッジで中高域のたるみについて言及されることがありますが、その原因としてシールドケースへの磁気漏洩を指摘した資料は他には見当たりません。ポールピースの先端部がシールドケースと最も近接するのでポールピース周辺のシールドケースを消磁することはそれなりに意味があると思います(一時的ですが中高域の改善が見込まれます)。磁気材料は成型加工などによるヒステリシス(磁気的経歴)などで設計どおりの性能を得ることは簡単ではないそうです。磁気材料にもそれぞれ適材適所がありいろいろな素材(パーマロイ・純鉄・Muメタル・鉄コバルト合金など*下注参照)が適宜使われている。中塚氏のUS特許4637009-1987 (Grounding circuit for pickup cartridge moving coilー日本実用新案出願公開S60-174395)では「磁気回路系の接地点をフロントヨーク面上に設定したことを特徴とするカートリッジ」を提示し後のZYXのカートリッジYATRA[=Hindiで祝祭の意味?]などに応用されているらしい?Shure/Stantonの一部カートリッジでは針の金属の鞘→ポールピース→コア上部のX接続部→金属バネ→金属外装→出力ターミナルの片方のアースに電気的に接続されることにより誘導ハムを防いでいます(Shure Me97 Encoreを分解して知りました)。金属外装のない低インピーダンスのMCカートリッジの場合は中塚氏の図面にあるようなポールピース後面への接続配線は見られないと思うのですが。。。磁気回路を螺子止めしているOrtofon MC20Superや金属外装のDenon DL-102でも磁気回路からアースは取られていない(不可思議です)。中塚氏の日本特開S61-194998は『金属外装の接地方法』となっています。注:パーマロイ[Permalloy]は主にニッケルと鉄の合金で、permeability(透磁率)とalloy(合金)の合成語だそうです。ニッケル78.5%パーマロイ[通称78パーマロイ]にモリブデンを加えるとスーパーマロイになり、パーマロイに銅とクロムを加えるとMuメタル、パーマロイにニオブやタンタルを加えると磨耗性を高めたハードパーマロイ等用途に応じていろいろな組成が開発され、JIS規格ではニッケル含有量の違いでパーマロイA−Dにクラス分けされているそうです。

針交換可能なMC

一般にはMCカートリッジは本体交換ですが、サテンのMCカートリッジは元々針交換ができました。1980年頃のオーディオテクニカのAT-30E・AT-31E(海外モデルAT3100XE)・高出力化した海外モデルAT-3200XE(出力2mV)・T4P化した海外モデルAT-3230などは発電機構が取り外せるVC(VMにならって命名)で、他のメーカーにもOEM供給されましたがあまり評判がよくありませんでした。80年代ATとは別にアツデンやパイオニアも発電機構が”かっぽリ”取り外せるMCカートリッジの特許を得て製品化もされていますが、一時的なものに終わったようです。80年代初め、それぞれ独自にMCカートリッジの針交換タイプを開発し特許申請もしていた事実は興味深いーMCボディを発売元に返送する必要が無く、サービスセンターのない海外向けには有利だと考えられたようです。そのためか日本国内では余り話題にならなかった。

針先のクリーニング

毛糸のマフラー?

レコードをトレースすると針先にゴミがつく。それを取り除くのに私は次のようにしています。

  1. 綿埃や糸くずのようなものには毛先の長いブラシを常用している。よくクリーニング・キットについてくる密植の短い刷毛は便利だが、日常的に使うとブラシ自体にゴミが入り込んでブラシを洗ってもきれいに取れない。そのようなブラシでこすると清潔な針まで2次汚染されてしまうのに気が付いた。糸くずがマフラーのように針の根元に巻きつく。そこで化粧用ブラシ(アイシャドウ・ブラシ)を使うことにした。何しろオーディオ用でないので安い。毛先が長目の柔らかいブラシはゴミも中に入りにくいので洗って使える。
  2. グリスのようなシツコイ汚れには液式のDisc WasherのSC-2やLeiqwaのDr. Stylusを使っている。液式の中ではDr. Stylusはよく汚れが取れるが値段が高い。クリーニング液で針の接着が弱くなることはないようだが、液が多すぎるとカンチレバーを伝わってダンパーを痛める恐れがある。ただの水でさえダンパーが傷む場合があるので注意したい。針先を下にして軽くブラシで擦るのが良いようだ。
  3. インテルの顕微鏡で見るようになってから、白い削りカスのようなものが針に付着しているのに気が付いた。これはスプレーの残滓か剥離剤か静電防止剤等が析出したもの?このカスが密植ブラシに入ると汚染の連鎖になるので始末が悪い。これは固めのブラシで擦ると取れる。製図で使うドイツ製の鉛筆型ガラスファイバー・字消しが便利だが使い方は慎重に。

カートリッジの音質の違いは本当はない?

「MMの音」「MCの音」と一般に言われる。その違いはカートリッジ本体よりもほかの要素の方にあるようだ。アームの場合はシェル込みのカートリッジの重さによって共振点が変わる。アンプ側の入力インピーダンスや使用するアームコードの静電容量によって変わる。それらを音の違いとしているだけで、どのカートリッジも本当はすばらしい。余談:Shure系のMM(”The bearing [damper] and the spring wire constitute a means for providing an elastic return force to the stylus”,即ちBearingが弾性体のダンパーで、長めの四角柱マグネット端から針の鞘の終端にspring wireを張る構造)の弱点とされる針の支点については:明確な支点を持つMM型カートリッジもいろいろ製造されました。よく見受けられる工夫はリング型磁石の中心をピアノ線で留める方法ですが、日立MT-202E(米国特許3904837-1975)とミタチ=Glanz G-7(米国特許4123067-1978)は他に例を見ない特殊なものでした。日立はワンポイント宝石軸受けを採用し、ミタチは太いカンチレバーの根元をフックで内側から留めるというユニークなものでしたが、どちらも一時的な製品に終わったようです(その複雑な構造のためaftermarket用=社外品の交換針が製作供給できないハメになりました)。ところで、誰が最初にMMの磁石にspring wireを繋ぐ構造を考え製品化したかは不明ですが、W.O.Stanton氏が1960年申請し1964年米国特許3146319を取得したMMカートリッジ特許図面には既にspring wireが示されています(その取り付けプレートの特殊形状から恐らくカートリッジモデルはStanton 481AAでワンポイント・アームStanton/Pickering Unipoise 194用に設計された模様)。Stanton氏が1958年申請、1962年米国特許3067295のMIカートリッジにも同様の針構造が提示されています。

MMカートリッジの負荷については:フォノアンプを参照されたい。

自重/コンプライアンス/針圧

カートリッジによってはアームを選ぶ。又は、アームはカートリッジを選ぶ。 上の3点が相関している。 粘度の高いオイル制動をかけたアームにグラドのハイコンプライアンスカートリッジをのせたことがある。 針を落とした瞬間からアームが左右に震えているのが見える。 アームの共振点が低すぎた。

高感度軽量アームx軽いカートリッジ(High Compliance)x軽い針圧(MM)

左右低感度重量級アームx重いカートリッジ(Low Compliance)x重めの針圧(MC)

古いタイプのカートリッジには上の図式がほぼ適用される。 最近では軽量でハイコンプライアンスなMC型が出現したので、軽針圧(1-1.5g)でトレース可能になった。其の場合、アームの設定はMMと同様な使い方が出来る。

MJのテストレコードに機械インピーダンス(Zm)を測る時の式([Zm]=980・Wc/Vh (dyne・sec/cm)がありました。Wcは針飛びを起さない最低針圧、Vhは水平方向の速度振幅です。どの本でも唐突に980という数字が出てくるので常々不思議に思っていましたら、何のことはない<重力単位系では一定の質量に作用する力の単位dyne(1g・cm/s2)は標準重力加速度(980cm/s2)による力を基準としている>ためでした。力学や工学に疎い私には新鮮な発見(遅すぎる!)でした。レコードで高い周波数の音溝をトレースする時、カートリッジの機械インピーダンスが高かったり振動系の実効質量が多いと、側壁への圧力がレコードを削るほど異常に増えるそうです。

重力単位系の力の単位:質量1グラムの物体に働いて、1cm/sec2の加速度を生ずる力を1ダインとする。

地球上の重力加速度Gの値=約980cm/s² (正確には緯度により異なる)
力の単位1N(ニュートン)kg・m/s²=100,000dyne(1g・cm/s²)
基準のMKSとCGSで100(mとcm)x 1000(kgとg)=10^5倍違う。   
1mN(ミリニュートン)=100dyne。    
1kgに働く重力(加速度x質量=力)1kgf(kp)=9.8N。1グラムには1gf(p)=0.0098N=9.8mN=980dyne 
pはドイツ語Pondポントでグラムの理学的表現だそうです。
∴1mNを約0.1g(グラム)とすることが多い。3g(980x3dyne)は約0.03N(30mN)。
IECではテストする時の針圧単位はmNになっているようです。

中低域のTrackabilityは主に315Hzを比較的高いレベルの溝(amplitude 50〜100µm)を再生して試験することになっていました(DIN・IECなど)。オルトフォンのカートリッジMC-20SIIのスペックシートにはTrackability at 315Hz lateral: > 90µmとなっていますが、これを正弦波の速度振幅に換算すると: velocity(cm/sec)=2p x a(最大変移振幅amplitude) x f(周波数cycle/sec)なので、尖頭値17.8cm/sec(実効値12.6cm/sec)まで指定の針圧で問題なくトレースできる意味です。

Static ComplianceはDIN 45500によると<針先に7.5mNの力を加えて60µm変位する場合、Complianceは0.8cm/N (8x10-6cm/dyne)>との記述からGoldring Eroica GXのコンプライアンス18mm/N(=18µm/mN)は18x10-6cm/dyneに相当することを知りました。この変位をどうやって実測するかは分かりませんが。。。 Dynamic Complianceは一定の周波数の信号(例えばテストレコード)で機械インピーダンスを計測してそれから逆算した数値を表すそうですが、単位はcm/dyneまたはmm/NでStaticの場合と共通になっていますが実数はStaticに比べて小さい数値になっています。

アームの項のレゾナンスの式(mt=1/4ppftftCb)を参照していただければ分かるように、カートリッジのコンプライアンスが25(単位は無視)あったとすると低域共振周波数を10Hz程度にするためには一番等価質量の少ないSME 3009impでも6.5g(Detachable Shellの3009/S2 impは9.5g)ですので、カートリッジ自重は3.6g程度にしなければならず実際的ではありません(下注参照)。軽針圧にはある程度のコンプライアンスが必要ですが極端にするとアームが対応できません。一時流行った超軽針圧=ハイコンプライアンスのカートリッジは今では見かけなくなっています。現在の標準的カートリッジのコンプライアンスは10前後になっているようです。その場合カートリッジ込みのアームの等価質量は25g前後とかなり多くても良いことになりカートリッジ選択の幅が広がります。下に10Hz程度にするために必要なアームの等価質量とコンプライアンスの組み合わせを示しました。2段程度ずれるのは許されるとしても数段以上ずれると影響がでると思います(レコードの反り/偏心やモータの振動が強調され不明瞭な低音など)。要するにコンプライアンスとピックアップ全体の等価質量を掛けて253.3になるとき10Hzということです。Cb*Mt=1000000/(2*PI()*10)^2=253.3 分子は本来1ですがコンプライアンスの単位を簡易化するため10の6乗にしています。但しカタログ上のコンプライアンスはダイナミック(大抵100Hz)で測ったりスタチックで測ったりして10Hz前後のコンプライアンスは実際には不明ですのでこれは目安です。針位置から見たアームの慣性質量もカウンターウェイトの位置で変わりますので一定ではありません(SMEは平均化した実効質量を発表しています)。水平・垂直コンプライアンスは必ずしも同じではありませんので、当然アームの共振も水平・垂直で違うそうです。それを測るためには水平・垂直信号の2つが必要です。HiFi Newsのテストレコードには垂直記録の超低周波も含まれいるようです。垂直コンプライアンスは水平コンプライアンスより少なめなので共振周波数も高めになることが多いようです。テストレコードによる測定は未完成ですが別ページに纏めました。その測定によると公表コンプライアンスは当てにならず共振周波数は測ってみなければ分からない結果になってしまいました(苦笑)。コンプライアンスの値はアームの共振計算のためではなく針圧とTrackabilityの相関を示しているようです。むしろShureのように指定針圧だけ発表しコンプライアンスを示さない方が簡単明瞭かもしれません。
注:「アームの実効質量の軽量化の優位」の理論に従って1983年前後Sony XL-MM1/2 2.7g、XL-MC1/3 3gやAT-UL3/5 4.2gやOrtofon MC200 Universal 2.3g(サブウエイト付5.3g)等が発売されました。これらのカートリッジは中程度のコンプライアンスを持っていました。重いヘッドシェルや取り付けネジが好きな理論無視の使用実態が今でも現存します。1970年以降アームを軽量化する代わりにカートリッジのコンプライアンスを程々に抑えて対応していると感じます。1970年代後半からは極端なハイコンプライアンス及び軽針圧化競争は下火になった。High-Fidelity 1975年10月号50頁にADC XLM IIについて「CBS Labs notes that this cartridge requires 0.75 grams, compared to 0.4 grams for its earlier counterpart. Again it is fair to point out that many thought the original XLM too compliant」と述べています。前モデルXLMについては同1972年7月号29頁に広告があります。XLM IIはPritchardの設計ではなくPritchardはSONIC RESEARCH INCを立ち上げ1975年Sonusブランドのカートリッジを発売しました。[いくら軽針圧のカートリッジを開発してもそれを搭載するアームや盤の状態等に問題があれば意味をなさない。]

Compliance of Cartridge:Cb Total Mass of Tone Arm with Cartridge & Fittings: mt Remarks
5 51g Ortofon RMG 309+SPU
10 25g SME 3012R(14g
15 17g SME 3009R(12.7g
18 14g  SME 3009/S2 imp(9.5g
20 13g  SME 3009 imp(6.5g

単位を無視した早見表
mt*Cb Resonance frequency
1583 4Hz
1013 5Hz
704 6Hz
517 7Hz
396 8Hz
313 9Hz
253 10Hz
209 11Hz
176 12Hz
150 13Hz
129 14Hz
113 15Hz
99 16Hz
88 17Hz

カートリッジに関する規格

カートリッジの端子は色分け又は記号で示されている(リード線の色もこれに準じる)。

赤→Rh(Rホット)→R+
白→Lh(Lホット)→L+
緑→Re(Rアース)→RG(R-)
青→Le(Lアース)→LG(L-)
ピンの出し方は様々:1979年のJISの解説文では針を下にしてピン側から見た時Rチャンネルが右、Lチャンネルが左を推奨しているがSMEタイプのシェルにつなげるとリード線が左右交差してしまう。同じメーカーでも一貫性がありません。JIS C5503(1979)ではカートリッジの極性について<針先が水平方向に駆動されたとき同相であって、しかも針先がレコードの外周方向に動いたとき、正の電圧が発生する端子をプラス(+)とする>と定め、さらに<極性はディスクリート4チャンネルステレオレコード再生用ピックアップの場合に必要であるが、一般のステレオ用ピックアップもこの規格に準ずることが望ましい>と解説しています。モノラルには言及していないことと下線部分が意味深です。多重マイクや周辺機器の接続関係で一部もしくは全部逆相になっていることは十分ありえる:絶対極性などはオーディオマニアの暢気な夢想にすぎません。1964年のIEC98(第2版)でもステレオレコードのチャンネル間の位相(channel phasing)だけ定義し絶対極性には触れていません。1987年版IEC98(第3版=最終版)では従来のchannel phasingの記述に加えて新たに(先行するJISに影響されたか?)channel polarityの項目8.2.4があり『2チャンネル再生装置で針先が外側方向に動いた時、左右スピーカに音源と同様の増圧を生ずべし』とあり、JISと同内容の記述です。外側方向に針先が動き始める時、正の電圧が生じスピーカにも正の電圧が供給され、スピーカ振動板が前に出る(圧力も正=密)、ということらしい。尚、CD-4チャンネルの極性についてはラジオ技術社1979年発行【レコードとレコードプレーヤ】の188頁に記載があります。歴史的経緯:モノラル時代は極性を指定していない(発電素子共有のターンオーバータイプでは上下を変えると極性も逆転する)→ステレオ時代になり左右の相(channel phasing)だけ揃えた(±は便宜的なもの)→CD4の時代にdemodulatorを通した再生上の理由から厳密な±極性が指定された(とはいっても録音上の絶対極性なんかは問題にされなかった)。下図左の出力はモノラルカートリッジの場合で、モノラル溝の水平偏移に対してステレオカートリッジでは±70.7%(=1/√2)の発電効率になります。<感度と出力表示の違い>の項目を参照ください。

 

JIS C5503(1979)Phonograph pick-ups(1995年廃止)から以下書き出します。

*カートリッジ本体の取り付け穴の間隔は12.7mm(1/2 inch)±0.2mm。ちなみに取り付け幅half inchとネジ止め方法は米国EIAの前身RETMA/RTMA/RMAの"Phonograph Pickups"REC-125A(1949)に端を発するらしいが、シェルやカートリッジ全般に及ぶ規格ではない。
*取り付けネジはメートル並目ネジでM2.5(M2.6も併用するが将来廃止する)。
*取り付け穴から針先までは10±3mm。カートリッジの高さ(針から取り付け面まで)は最大22mm。
*ピンの直径は1.25±0.05mmが望ましい。カートリッジにシールドを施す場合には、シールドのアースはRe(R-)端子に接続統一することが望ましい。

図(JIS)のa(全幅), b(取り付け穴から前面), l(全長), h(高さ)のそれぞれの値は最大値を示しています。

比較のためにIEC98(1987)=現在のIECコード60098からの図も紹介します(独訳 DIN IEC98−1989より)。11.5項には「取り付けネジはM2.5推奨だが多くの国々ではM2.6も当分の間併用」、「カートリッジの最大重量は12gを超えてはならない」とあります。図の上でも記述の上でも最大全長が示されていません(何故か前面部が省略されています)。規格も製品の趨勢によって変わることを忘れてはなりません(規格が製品を作るのではなく、当座の大勢を占める製品が規格を左右する)。取り付け穴から先端まで15mm以内と先端部の5mm以上の凹みは古いタイプの(補強用に縁を曲げた)ヘッドシェルを想定している為らしい。

ネジ3種:上から昔Shureについていたインチネジ3/32-48(1インチに48山)、日本の2本はどちらもPitch0.45mmですが、よく観察するとネジ山の形状(谷底の幅と山の角度)が違います(ナットは共通で使えました)-どうも普通付属で付いてくるアルミのネジはM2.6でM2.5ではないようです。GoldringのカートリッジにはM2.5が付いていました。手持ちのプラネジを調べてもM2.6(黒)M2.5?(透明)がありますがナットは共通で使えました。カートリッジ側に深い雌ネジ溝が切ってあるものに使う場合は注意が必要なようです(ねじ山をナメてしまうことがある)。

上記(取り付け穴から針先まで10±3mm)を検証してみます(日本でよく言われているオーバーハング許容量±3mmはこれをもとにしているのかも知れない)。シュアーなど海外の単体カートリッジは<通常の針圧を掛けた状態で9.5±1mm>に以前から標準化の傾向があったようです(1987年のIECの記述はいわば後追い規格で9.5mmという半端な数字は3/8inchに由来すると思います)。シェル一体型の針先とヘッドシェルの根元の距離はオルトフォンのSPUで52mm、Sony XL-55monoは49mmになっていました。IECではさらにカートリッジの高さ(及び幅)を最大20mmとしています。Ortofon MC20の高さは20mmでDenonのDL-102/103が低い方の代表で14.8/15mmです。これらはシェルを選ぶかスペーサーを挟むかしないと、アームの高さ調節が必要で厄介です。

Maker Model Stylus Point from mounting hole   VTA(degree) Dynamic Compliance at 100Hz (?=Static?)
Audio-Technica AT33PTG 9mm 23 10
  AT150 9mm 23 10
DENON DL-102 10.2mm 16? 5?
  DL-110 8.3mm 20? 8
  DL-103 7.5mm 16? 5
Dynavector DV-50A 9.8mm 20 20?
  Karat 19R 8mm 20 14?
Excel ES-70S/E/EX 6/10mm 20? 10/15/20?
  SS-20 8mm 20? 10?
FR FR-6SE 13mm 18 10?
GRACE F-8L'10 11mm 23 20?
IKEDA 9CV 0/6mm 20? 6 at 1KHz 
TECHNICS 205C 9mm 20 12
ADC XLM II improved 9.5mm 20? 25?
Goldring Eroica GX 9.5mm 20 18?
Ortofon MC-20 SII  9.5mm 20 16 at 10Hz
Pickering XV15/625E 11mm 22?
Shure V-15 III 9.5mm 15 more than 35?

垂直トラッキング角(Vertical Tracking Angle)と針先アオリ角(Stylus Rake Angle)

これは模式図です。実際のSRAは溝との接触点と針先を結ぶ線=針先の中心軸、または溝との接線の傾きのことです。VTAも溝の中心での接触点とカンチレバーを結ぶ線と盤面との角度です。どちらも肉眼ではとても観察しにくいものです。

レコード再生は畝に鍬入れするのに似ていると常々思っていました。垂直トラッキング角は鍬の柄の角度、即ちカンチレバーの盤に対する角度です。70年頃は15度(EMT/SPU/V15)、今は20度前後(SPU Classic & MC20)になっているようですがLP初期は8〜36度とバラつきがあったようです。これの何が問題かというと、本来は再生側でなくレコード制作時のカッター針の角度を試行錯誤したようです(ラッカーの弾性で戻るためカッターの角度は実効垂直録音角より深くしなければならない)。つまりラッカー塗膜盤に角度をつけて録音するので、完成ビニル盤を再生するときに実効垂直録音角にあったカートリッジで再生をすればよいわけです。VTAは針圧を加えたときの状態であって、無加重の場合にはカートリッジのVTAは当然大きめに見えます。図で”SRAは針先の中心軸からの角度”としていますが、最近の特殊形状針は前後非対称なので、ラインコンタクト針が溝に接する縦型楕円の接触部分の中心角度、とすべきでしょう(GYGERの針参照)。縦方向成分を持つステレオのカッティングにおいてラッカー盤の弾性によるspring back効果は米コロンビアのBauer氏などによって1963年頃報告されました(その骨子はUSP3490771に見ることが出来ます)。例えれば鋼板を90度に曲げようとすれば、その矢を受ける型は90度以下にしないと90度を達成できないのと同じ。Westrexの場合カッターヘッドアングルは23度でしたが22〜23度程度のラッカー盤のspring backにより記録された実効垂直録音角は0度程度になっていましたーそこで14度程度の楔をカッターに入れることにより実効録音角15度(当時の規格)を達成しました。実効録音角VMA=vertical modulation angle(それに準じるステレオカートリッジのVTA=vertical tracking angle)は1960年代初め(RIAA-1963&IEC98-1964)に15度と規定されたのですが、1970年代になると15〜25度に変更になり(BS1928-1965へのamendment slip No. 1 published 26 January 1972等)、さらに1980年代に20〜25度に変更されました(DIN45547-1981&IEC98-1987等)。現在規格上有効(IEC)なのは20〜25度(中間値22〜23度)です。これら変更の背景にあるものは市場にあるカートリッジの実勢によるものです。15度を謳いながら実際には15度とは程遠いカートリッジが多かったからです。テストレコードを使った1980年The Boston Audio Societyの測定レポートではDenonとATのカートリッジはほぼ公表どおり20度前後だったのに対しシュアV15II/III/IVのどれもが28度以上になっていてV15の名とは程遠かったと報告しています。但しVTAにも見かけのカンチレバー角度static(geometric)と実動のdynamic VTAがあり、一般にテストレコードを使ったdynamic VTAの方が大きい。Shure社はdynamic VTA(IECの説明)はテストレコードや音溝振幅などで変わるので見かけのgeometric VTAをスペックとしている(1978年6月号AUDIO)。コンプライアンスが高めのカートリッジにおいてVTAの品質管理は難しいようです。詳しくは英文のVTAのページをご覧ください。ラッカー盤の品質も均一でないのでそのspring back量も実は一様ではない。指摘された例を知りませんが、水平方向にもspring back効果は記録波形の歪として或る程度認められるハズです。このようにして作られるレコード盤はプディングのようにfuzzyだと痛感します。

理解しやすいように山本武夫氏の本(レコードプレーヤP.101)から下図を転載します。

鍬入れ運動の角度で再生される波形が変形しています。今は実効垂直録音角の多くが22度程度になっているようですから、カートリッジを水平に取り付けさえすれば一般のステレオLPの再生についてVTAを気にする必要はありません(さらにモノラル=水平記録=左右同相信号の場合は垂直成分がないのでVTAの影響を無視できる)。アーム台の上下調整±5mmで変えられるVTAは±1.3度以内ですので本来のVTAとは関係ないと思います。但しこの上下調整で針先のアオリ角(SRA)が変わるので楕円針など特殊形状の針は注意が必要です。鍬の刃は真っ直ぐ地面へ入るのがよいはずです。面白いことに針先のアオリ角のことを英語では熊手(Rake)の角度といっています。丸針は点接触なので余り影響がないそうです。この方面の専門家(Jon Risch)はVinyl Asylum で<ダイヤ針の軸頭はアーム垂直軸から離れ前傾し/針先端は2度程度アーム寄りに傾斜がよい>と発言しています。確かに食い込みがよいかもしれませんね。私自身は出っ歯の方がよい場合もあると思っています(その場合には鍬の刃は食い込まずに引きずる形になります)。ハイコンプライアンスのカートリッジでは針圧でカンチレバーが相当浮き沈みするので影響が出ると思います。針圧推奨値は針飛びだけでなく、発電系と針が設計どおりの最適なところに収まる範囲ではないかとも思います。IEC60098(1987):11.3.3でも丸針以外のSRAはメーカーの推奨針圧で<+4度から−8度の間>(許容値)になるべきとしています。Jon Rischが推奨する最適値は真ん中の-2度にあたります。他にこの規格から特記されることを書き出します。
*8.1 VTAは20度+5°/−0°その際のSRAは0と-5度の間が最適値
*11.3.2 丸針の場合、内包角が55度を超えないこと。普通40〜55度程度です。溝は90度で切られていますが直線ではなく音溝はカーブしています。高い周波数で大振幅の水平信号溝は丸針から見ると90度より狭まります(特に内周側)。ピンチ効果と呼ばれるもので接触点が上下してしまうのをなるだけ避けるためチップの内包角とチップの大きさ(半径15μ=約0.6ミル推奨)を制限しているのです。その場合接触点間距離は一定と見なせるので完全な球と比べると4割くらい改善できる。図に示されたbottom radiusはカッターで整形される溝底部の形状であって針の底部の半径ではありません(完全V字ではない溝底と針底のクリアランスは2ミクロン以上必要とされています)。

水平トラッキング誤差はアームの方の問題なのでアームの項をご覧ください。

[Pinch Effect] ピンチ・エフェクト

最内周(半径6cm)にR/L同相の1.3kHzを記録した音溝を各種形状の針でトレースした場合の概念図を示します。再生点の振幅は約±15μm(0 to peak)で速度振幅にすると約12cm/secになりますからかなり極端な場合です。特に内周で振幅が大きく周波数が高いと余計に傾斜がきつくなるので<音溝に挟まれて針が上下する効果>が顕著に表れます。再生点というのは針先の中心位置の偏移と言う意味です。針は音溝の左右を別々にトレースしているわけではなく音溝偏移の中心点が本当の意味での偏移ですーそうでないと幅広の溝や太い針からは大きな太い音が出ると言う変な誤解が生じます。水平上の接触点間の傾きはトレーシング歪の一因になりますが左右の位相がずれるわけではありません。厳密に言えばピンチエフェクトで発生する垂直成分によりステレオカートリッジでは同相にならないがモノラルカートリッジのようにその垂直成分を抑えられる限り水平上の接触点の傾きはさほど問題ではないー見かけ上の原因と結果を一緒にしてはいけない=自戒の言葉です。一般にトレーシング歪とは:一波長の内部で進む部分と遅れる部分が生じ、結果的に水平記録では主に3次高調波、垂直記録では主に2次高調波のトレーシング歪となります。後述のごとく水平記録(左右同相モノラル)でも丸針でトレースすると副次的に垂直成分(2次高調波)が生じ、その歪をピンチエフェクトとよぶのですが一般のトレーシング歪とは別扱いされています。詳しくはEXCELファイル(distortions.xls)を参照ください。補足するとSP時代とステレオLP時代ではピンチエフェクトの意味合いが異なります:30g以上の針圧が普通だったSP時代にはピンチエフェクトによりさらに荷重がかかり針と音溝双方を傷める原因になっていました(その点では横記録よりもhill-and-dale縦記録の方が有利とされ戦前までは縦記録のSPレコードもあった)。軽針圧になったステレオLP時代のピックアップの場合は縦方向にも感度とコンプライアンスがあるので歪(二次高調波)の発生の方が問題になっているのです。SP時代にはカンチレバー(片持ち梁)を使わないピックアップが主流でしたので縦方向のコンプライアンスが小さかった。

top view

小さな○が曲率半径18ミクロンの丸針だとすると溝に接触する各点の距離は25ミクロンくらいで信号斜面ではピッタリでも山谷部分で沈みます。山谷部にピッタリの針(大き目の○)は斜面では持ち上げられます。曲率半径の小さい(偏平な)楕円針ではその影響が少なくなります。上記の信号による上下動の周波数は元の信号の2倍になるのが下図からも分かります。Inclination(傾斜)は音溝の傾斜=接点の傾斜で丸針と音溝との接点はこの場合水平面で最大30度も傾いています。丸針の接触点間距離を一定と見なした場合、接点に挟まれた音溝の垂直角度Groove Angleは以下のように変化します。18ミクロンの丸針で中心線軌跡からずれる横方向のトレーシング歪は別として上下動だけ近似計算しました。

現実的な速度振幅3.14cm/secの5kHzを18ミクロンの丸針で再生した時、内周と外周の歪の近似計算。これを見ると(Vertical Complianceが少なく発電機構が互いに45度に傾いていない)モノ専用のカートリッジを使った時のモノーラル・レコードの音がよい一因が分かるような気がします。歪率は周波数と針先の曲率半径と速度振幅に正比例します。後で分かったのですがPinch Effect による歪率は垂直トレーシング歪の式(p*f*rs*v/V^2)をSQRT(2)で割ったものに相当するようで、f=周波数, rs=針先曲率半径、v=水平信号速度振幅(cm/sec), V=線速度とした場合 {p*f*rs*v/V^2/SQRT(2)}x100%になります。ここで言う歪率はV/L比(ピンチエフェクトで発生する垂直速度振幅を本来の溝信号即ちモノラル水平速度振幅で割ったもの)としています。

極端な歪波形の様子は下図(パラメータ:R/L同相の1.3kHz振幅±15μm=速度振幅12.25cm/sを半径18ミクロンの丸針で半径6cm音溝をトレースした場合)。直列接続をすればピンチエフェクト歪がキャンセルされる様子も示しています。ステレオカートリッジの出力をR/L並列接続したり電気的にR/Lを合成しモノラルにしても同様にピンチエフェクトによる2次歪を消去することが理論的には可能だと思います。Relative Outputの縦軸は相対的発電効率を表します。45/45ステレオカートリッジでモノラル溝を再生すると片チャンネル70.7%(=1/√2)。

これらの計算をして実感したのは、速度比例型のカートリッジ(=MC/MM/IM)は溝のサイン波形から90度位相がずれて再生することです。サイン波の場合傾斜(=速度)が一番きつくなるのはその波のNode節の部分です。一番速度(=変移量/時間)が遅くなるのは山谷の部分です。従って溝のサイン波は出力ではコサイン波になります(というよりもサイン波=原音>録音溝=コサイン波>再生=サイン波)。録音カッターも速度比例型といえますので、可逆性が理論上なリたちます。矩形波は音溝としては三角波として刻まれ、それを速度比例型カートリッジで再生すると矩形波になります。DIN 45549 のTrackability Test Recordには1kHzの矩形波(溝は三角波)が含まれているそうです。

水平記録(横記録=Lateral cutting)溝における丸針の水平トレーシング歪とピンチエフェクトを比較した模擬図:円の大きさの違いはピンチエフェクトによる上下動を示し、中心線の軌跡は本来の中心線からずれて少しとがった軌跡を描く水平トレーシング歪です。一般にモノラル溝を丸針のステレオカートリッジでトレースしたとき、水平トレーシング歪(横方向)よりピンチエフェクト歪(縦方向)の方が大きい。

針先の形状

インテルの顕微鏡で針を見てみました(200x)。チップ軸は正方形だったり縦横扁平だったり様々です。末尾の画像は接合針のチップ落ちした土台です。残念ながら針先の研磨形状は平面部を除いては200倍では分かりませんでした。接合針の接合についてナガオカの特許公開文書S62-38501「再生針及びその製造方法」で「接合部に含まれる銀や銅は電気化学的に腐食・溶出し易く、塩水噴霧等の一般的環境試験によって接合部の接合強度が低下してしまうという問題があり、この対策として表面処理や防錆剤塗布などを行っている」とあり、この特許申請は「合金ロウ材を用いないで、(チタンまたはチタン合金製)柄と(ダイヤモンド)先端部材を接合し、接合部の接合強度が低下しないようにすることを目的とする」とありました。扁平軸〈短辺1に対し長辺1.2〜2の比率)については小倉の1980年特許公開S55-89904に記述があり:1)ダイヤ材料の節約→軽量化 2)最近の細くなり過ぎたカンチレバーの先に穴を開けるとき面積が小さいのでその強度が増す 3)カンチレバーに取り付けるとき方向性があるので取り付け間違いが起こらない、等の利点を挙げています。JIS S8516-1976〈スタイラス)ではサファイヤ及びブロック形ダイヤモンドの内包角40〜55度に対し、接合形ダイヤモンドの内包角について独自の案(40〜60度)を提示し(理由は接合形ダイヤモンドの内包角が小さすぎると接着面積が小さくなり針落ちする恐れがある)、針圧の10倍負荷(垂直方向)による針の取付け強度テスト及び引っかき試験(横方向)による針先の強度テスト法を示しました。針の使用時間限界については『得られた結果は再現性がなく、実際の使用条件によって変動しやすい要素を考慮に入れると規定が困難であった』と解説されています。さらに『実験結果からみてこのスタイラスの交換時間の目安として磨耗部の幅がだいたい25μになる時間を示せば、次の通りである:針圧7g、針先曲率半径18μの条件において、サファイヤスタイラス:20〜40時間、ダイヤモンドスタイラス:500〜1000時間ーただし使用条件により上記の値が更に変動する。』 結局、丸針以外の形状については一切規定されないままでした。スタイラスのJIS規格はピックアップのJIS規格に関連して制定されたが改定されることは無かった。

標準的楕円針の軸デンオンDL-110の特殊形状針(軸は横扁平)これは珍しい縦扁平軸(DV-19A)チップが落ちた部分(火山の外輪山みたい)

極小のチップ軸(0.05x0.1mm)をつけたDL-303の針先。チップの形は上の画像の2(0.1x0.2mm)と同等だが、接着剤で固めてチップ落ちを防いでいる(頭の先が出ているだけ)。接着剤が多すぎるように見えるのは薄く加工されたダイヤが折れるのを防ぐためか?と邪推してしまいます。

針の取り付け方もいろいろあります。左はアルミパイプの先端を平らに潰してから取り付ける一般的なものー先端を加工する主眼はカンチレバー先端が音溝に平行になる=針が垂直に立つためのようです(上のDL-303のように丸パイプのまま斜めに小さな穴を開けて針を差し込んでいるタイプもあります)。真中の画像はチップ落ちしていますがあらかじめチップが埋め込まれた特殊な部材を使っています。安物の交換針に最近よく見られますーこのカンチレバーはたいへん頑丈でめったなことでは折れません。接着部が特殊でカンチレバー先端断面は○なのにチップ側部材は菱形◇です(Nagaoka製造AN-2)[部材をカンチレバーに接着する時に垂直を視認しやすくするためこのような形状になっていると思われる]。一番右の画像は同じくアイワ用AN-2で(カーボンファイバー?)丸棒の先に針が斜めに直接埋め込まれ接着されていました(JICO製)。

rhombus tip base for bonded tip and black round cantilever: tip itself is fallen out in this picture.

楕円針の研磨面も前にあったり後ろにあったり前後にあったりさまざまです。

最後にSP用サファイア針の画像です。通称ロネット針です。大きなチップと小さな内包角(50度以内)が特徴的です。基部が円柱状ですが接合ではなく単一素材で作られるのはサファイヤ針特有のものです。ダイヤ針では円柱形の基部(シャンク)を持つものが接合針で、基部が角柱のものはダイヤ単一素材で作られています。

Ronette stylus assy for SP=coarse grooveSP stylus tip

LP用針先の形状分類:いろんな形状の針がいろんな名前で出ています。楕円針やラインコンタクト針の曲率半径は溝壁面に沿って横方向の半径(side contact radii)と縦方向の半径(frontal radius)ですー従って接触幅(接触点2点間距離)とは無関係で、丸針より接触地点が異なるわけではなく、一般に音溝接地高さと音溝の底とのクリアランスは半径15〜18ミクロンの丸針と同程度に設計されているようですーShure社の1973年のカタログを見るとLP用楕円針の接触点間隔は1milで楕円針のfrontal radius(=丸針半径r0.7milと等価)が無音溝に接触する間隔と同じになっていました。日本コロムビアの特許公開S59-33603に次のような文章を見つけました:「従来からレコード針の高性能化を計るためにはレコード溝に対接するチップの曲率半径を小さくして接触面積を小さくすることでレコードの等価スティフネスを小さくしていたが、あまり接触面積を小さくするとレコード溝を削るだけでなく高域共振周波数が低くなる問題が発生した。このような問題を解決するためにレコード溝との接触を線状にしたラインコンタクト針が用いられている。このラインコンタクト針は通常の丸針や楕円針に比べて製作工程が極めて複雑であり、加工された再生針も高価と成り又、使用している間に磨耗のために接触面積が増大し、特性の変化を来たし、寿命の短い欠点があった」とし、ダイヤ薄片を保持部材で挟む方法を提案しました(特許は公開までで取得に至らず)。この高域共振周波数とは振動系等価質量と盤のstiffnessとの共振で、針の接触面積が小さく圧力(g/cm2)が大きくなるとレコードの見掛けのstiffness(等価スティフネス)が小さくなるので共振周波数(通常20kHz以上)が可聴域内に移動することを指しています。針圧と接触面積は比例するのですが、針の形状によりその比例の度合いが違います。これが4chレコードには針の接触面積が大きく且つ軽針圧のカートリッジが要求されていた背景です。一定針圧下(2g前後)での接触面積は一般に丸針13micron(0.5mil)が楕円針と同等で小さく、丸針18micron(0.7mil)がシバタ針などラインコンタクト針と同等で大きい。但し接触面積と溝の沈下などの計算(ヘルツの弾性接触式stylus.xls)は静加重によるものなので、溝の上を実際に針が滑る時はsurfboard効果により接触面積も溝の沈下も計算より少なくなると考えますーそうでなければ4ch溝などは元来トレース不能だったはずです。演奏中の針の下に潜って見てきた人はいないので、針通過後もしくは静加重(一定時間加重)を取り除いた後の痕跡を検証しているだけです(針下のプラスチックシートが歪むholographyも見たことがありますがそれは針を動かした時の画像ではありませんでした)。限定要素によるシミュレーション方法に問題がある測定極端な事例(製品の出来/不出来)は整合しないことが多いと感じます。以下の3分類は私見ですが、接触関係から見ると球体に近い<丸針>spherical、鉄亜鈴のように小球体が横に並んだ<楕円針>bi-radial、線をU状に曲げた<ラインコンタクト>と擬似できますが実際の工作では規格モデルとは違い、中間形や変形がかなり見受けられます。ラインコンタクト針はparabolic shaped diamondとも呼ばれています。Weinz発明のParocやB&OのSubir K. Pramanik発明のPramanik(pramanic)針(Beogram6000に搭載されたMMC6000など):これらについては形状モデルではなく円錐曲線のいろいろを考えてみてください(上辺の文字や画像だけ見て概念を考えないと誤解を生みます)。Ortfon Replicantを含め接触部はその曲線の一部に過ぎないのです。実際に全周接触してはトレースは不可能です(下注参照)のでラインコンタクトよりもparabolic shapedの方が的確な言葉です。ラインコンタクトを線形接触と考えないでください(図式的には縦長楕円接触と考えられていますが実際の音溝では接触深さは一定ではない)。高級そうなスペックも含め見かけやcatchyな言葉で遊ばれるのが人間の性でしょうか? 注:V溝の音溝角度の標準は90度ですが90±5度まで変化が許され、SP時代のCapps氏のUS特許によるカッター針は研削時前後に±5度傾くことがあると報告があり、ステレオ時代の音溝も偏移に従って(その研削抵抗やカッター針の構造により)左右に多少傾く事は自明の理です。従って曲率100ミクロン以上の針を作っても意味が無かったのが事実です。あたかも音溝がsolidで完全なもののように妄想している人が多いのには辟易しています。それでも(trotzdem)レコード盤と音楽は素晴らしい。私はレコードが好きですがハイファイという理由から好きなのではありません。

針先の形状 呼称 LP用Dimensions (例)
Spherical  丸針 0.5-1mil (13-25micron) for fine groove 
Elliptical/Bi-Radial 楕円針0.2,0.3,0.4x0.7,0.8mil

左図はGrado氏のUS Patent 3,292,936(1966)から取りました。頂角60度以内の円錐の前後を斜め研磨加工して楕円に近づけているものが多いが研磨面が平面に見えない精巧な加工もある。その研磨面も前にあったり後ろにあったり前後にあったりさまざま。
特殊楕円(Denon/Dynavector/Ikeda等) 詳細不明
Line Contact/Contact Line/Line Touch/Fine Line/Multi-radial/Micro Linear/Micro Ridge etc 基本的に曲率半径比が1:5以上のもの

Vital PH(=polyhedron?) オグラ宝石精機工業のUS Patent 4,105,212(1978)はMulti-radialのバイタル針

0.32x1.57mil (8x40micron) 

オグラ宝石精機工業の沿革によると1971年から「4chステレオレコード再生用PM型ダイヤモンド針の開発・販売」をしたとある。シバタ針やこのVitalとは別のタイプらしいが詳細は不明(左の特許の日本側の特許出願S50-114324では東京芝浦電気の特許出願公告S47-4410がシバタ針とともに<変形針>の例として引用されている)。

もっと古い変形針の代表例にはフランスPathe Marconi社による1957年英国特許768,414があるがLP用ラインコンタクト針と呼べる製品が流布しはじめたのは70年代以降だと思います。

Shibata US Patent 3,774,918(1973)/日本の特許出願公告S49-37526

円錐を2面斜めカット後研磨

TYPE A: 7x75micron 又は7x65micron (業務用途)

TYPE B: 7x40micron (使いやすさを考えた一般用途)

並木精密宝石ではTYPE Aをシバタ針(S), TYPE BをタイプIIIと呼んで区別したこともあった。リーフレット参照

井上敏也監修「レコードとレコード・プレーヤ」(ラジオ技術社1979)P.260で「使用する時の留意点は、正規の使用状態に対しての傾きの発生がないことだけですが、その許容値はあらゆる方向に対して5度程度なので、楕円針の7度や丸針の10度にくらべて、とくにきびしすぎるものではありません」とビクターの柴田憲男氏は解説しています。これは「使用」を針の「採用」として読み替えれば、製作側の取付け誤差許容範囲を率直な打ち明け話として示していると思います。最終ユーザーへの注意としては不可解だからです。針をカンチレバー先端に取り付ける際にはいろいろ厄介な問題があります。並木の日本特開S53-138304にて水平面での取り付け誤差角=針回転の改善について説明がありますが、垂直面側の誤差=針の傾きも実際にある。無垢ダイヤは1970年代中ごろまで角柱が多く使われ穴もダイヤ型だったが、後に長方形のシャンクと長方形の取り付け穴が見られるようになったのは水平面での誤差角を少なくする工夫でもありました(長辺/短辺の比が大きいほうが誤差を少なくできる)。 

Van den Hul Type I  

US Patent 4365325 & 4416005

Van den Hul Type II

3x85micron for High-end MC
7x45micron "less critical of fit in the groove, so a moving-magnet cartridge, with less support to keep it in the correct position, will do well" 
Fritz Gyger I (variation of VdH Type I?) 4.5x80micron VdHが発明した針の特許はスイスで初めて申請し成立した。その特許はオランダと米国以外の国々[スイス・オーストリア・カナダ・ドイツ・デンマーク・スペイン・フランス・日本・英国]ではGyger社が申請し権利を取得した。

スイスの宝石金属精密加工会社Fritz Gyger AGとVan den Hulは協力関係にあるらしいがUS Patent 4855989-1989では以下のようにGyger独自の形状(断面台形)を数種発表している(左記のVdHタイプとは別タイプ?)。

Fritz Gyger II (variation of VdH Type II?) 5x50micron 
HE (Hyper-elliptical) 超(長)楕円(Shure V15V 0.2x1.5mil=5x38micron etc)
Stereohedron (Stanton/Pickering) 0.3x2.8mil=8x71micron etc A stereohedron is a convex polyhedron. 80年代のStereohedron(商標)なるものは以前4チャンネル用カートリッジXUV-4500Qなどに使われていた”QUADRAHEDRAL"(商標) stylus とは異なるらしい(Pickeringは兄弟分として詳細を明かしていない)。XUV-4500Qのマニュアルに米国特許番号3871664が引用されておりそれはDiamagnetics社の算盤のコマのような前後対称型(シバタ針の前後非対称を改善したタイプ)でした。

Micro Ridge (Shure V15VxMR 0.15x3mil)/Micro Linear (AT)/Micro Track
これらは並木精密宝石のUS Patent 4,521,877(1985)の"ridge-like edge"を持った針と同等らしい。エッジ幅は0.5-15µmが最適で実効曲率半径はその約半分との事。曲率r0.15ミル≒3.8ミクロンならエッジ幅は約7.6ミクロンで実際のエッジ幅はやはり中間値が採用されているようだ。"0.5ミクロン以下ではエッジの強度が保てず15ミクロン以上では高域の再生に劣化が生じる"と述べられている。この技術背景には溝パターンを針でトレースしてその静電容量変化を信号に変換する70年代のRCAのビデオディスクやinformation disk recordやprofile scanner用途に開発された各種特殊形状針があるようです(TED/CED/VHD用再生針)ーRCAのUSP4104382-1978:”Method for forming keel-tipped stylus for video disc systems”を参照するとridge/keelの加工工程が分かります(並木も日本特開S58-164001でridgeの加工法の特許を申請しています)。多少磨耗しても曲率(=エッジ幅の半分)の変化が少ないので楕円針などより性能劣化が遅く長寿命とされています。

LAC針(Empire) LAC stylus=Large Area of Contact Stylus (EIA)
Orto Line (Ortofon) 4.5x100micron
Ortofon Replicant 80/100  5x80,100micron similar to cutting stylus
Philips SST (Super Sonic Tracking) mainly for CD-4 records  Special cut bi-radial tips: 7x18x25micron, 7x18x35micron etc. 私の理解では:最後の大きな数字は縦方向の曲率を表し、18ミクロンは溝の底から接触壁面までの距離又は底方向の曲率を表すので実質的には他の針の接触高さと同等になる。特殊形状針は溝底方向について明記することが少ないのですがフィリップスは生真面目に記述しています。
AKG Analog-6 1980年代初頭のAKG P25MD/35(MD=micro diamond)に使われていた針。算盤のコマのような横断面を持つ形状だが、曲率は5x18micronと控えめ。後のP25Sの針はMulti-facet profileで曲率は8x18micronとなっており特殊形状針の正確な曲率は生産管理に依存することが分かりますー曲率の定義も上記Philipsのように異なる場合があり数字だけでは簡単に比較できません

カッター針に近いラインコンタクト針は確かに音溝の全てをピックアップするかもしれないが設定調整がクリティカル(針が正しく製作され且つ垂直水平角度設定も十分でないと音溝を痛める)で、古い音盤には雑音を拾う又は高域がうるさいだけでいいところがない場合もあります。考えてみると、楕円針など特殊な再生針は60年代中ごろから導入されたが、ラッカー盤やテストプレスをプレイバックして音決めしていた時代の再生針は基本的に丸針だったハズで、そのような音源はその時代の丸針(ステレオ以前は1mil, 60年以降は0.6-0.7mil)で再生するのがAuthenticではと思うこともあります。音溝の底と十分なギャップがとれしかも溝の縁に触れないように丸針の半径は決められているようですーとは言っても実際の音溝幅(top width)は録音条件でさまざまです。以下の表の丸針の音溝の接地高さはそれぞれの溝の深さ最小値の60-70%になります(中心より高めに設定されているのは音溝の底のゴミや不整形を避けるためと思われます)。この表のminimum/maximumの意味を誤解するといけないので念を押しますが:「ステレオLPの溝について明確に区別できる種類があるわけではない」のです。ステレオ溝でカッターの偏移振幅が大きければその最小溝幅は見かけ上小さくなる傾向があるだけです。最小溝幅とは常態(plain groove溝幅)ではなくmodulation形態上の最小値であることに注目してください。「どうでもいいけど説明がくどいなぁ!」と言う声が聞こえてきそうです。

Applied maximum spherical tip radius is half of minimum top width of groove

tip radius 76micron (3mil): Minimum top width about 152micron for monophonic coarse groove (SP)  
tip radius 25micron (1mil): Minimum top width about 50micron for monophonic fine groove (LP) 
tip radius 18micron (0.7mil): Minimum top width about 35micron for mono & stereo fine groove (LP)  
tip radius 15micron (0.6mil): Minimum top width about 30micron for mono & stereo fine groove (LP) 
tip radius 13micron (0.5mil): Minimum top width about 25micron for stereophonic fine groove (LP)  

出力周波数特性

電磁型(electromagnetic)のピックアップの周波数特性についてJISでは以下の範囲に収まるよう規定されていました(圧電型の場合は以下の2倍くらいの許容値)。左右間のチャンネルバランス許容偏差も200Hz-6kHzまで下図と似たものになっています。ということは1kHzでは許容偏差0dBになるべきですが、左右間の感度差及び公称出力電圧からの偏差は1kHzで3dB以内とされています。これは矛盾するようですが、この規格の内容は<メーカーのカタログ・公称・表示値と実際に試料をテストした時の特性がどれだけ違っていても許されるか>の適用条件を示しただけで実際の周波数特性そのものを規定したものではないようです。C5503では<周波数特性を規定しようとしたが、音質については各人の好みがあるので規定しなかった。しかし、メーカー発表の周波数特性について、本文のような許容値を規定した。>と解説しています。

DIN45500ではピックアップの周波数特性の最低限(minimum performance requirements)として以下のように規定しています。f1、f2、f3、f4という記述法はDINのものではなくIECからのものですが、内容はDINを踏襲しています。但しIECの方はf1-f2間とf3-f4間は許容幅5dB,f2-f3間は許容幅4dBとし、f1とf4の外側の範囲まで周波数が伸びていると表示した場合には5dBまでを許容幅としています。ステレオカートリッジのチャンネル出力バランスはIEC/DINともに<1kHzで2dB以内>が要求されています。

感度と出力表示の違い

現在のIEC98(1987)では:ステレオピックアップの出力感度は45度記録の右壁からの出力と左壁からの出力の平均値を溝の速度振幅で割った値とし、モノラルピックアップの出力感度は水平録音溝からの出力比とし単位はどちらもmV/cm/sです。IECの記述法では溝の速度振幅と出力電圧は共に実効値(RMS)又はピーク値であれば相対値に変化はありませんが、実際には溝の速度振幅はピークで表しカートリッジの出力を実効値mVrmsで表すことが多いので感度mV/cm/sを表示することはまれです。テストレコードの基準信号が水平方向(モノラル)なのか45度方向(ステレオ片チャンネルLまたはR)なのかそして実効値又はピーク値なのか明記しなければそれぞれのカートリッジの感度比較は成立しません。しかもテストレコードの基準レベルは決して一定ではありません:45°方向の1kHz速度振幅ピーク値はCBS STR-100で5cm/s、B&K QR-2009で3.2cm/s、DIN45543で8cm/s、JISに基づくレコードは3.54cm/sなど。測定目的によっては違った速度振幅を採用することもあります。
JIS C5503(1979)「ピックアップ」の解説に:カートリッジの出力電圧測定について「ステレオレコード用の場合は、速度振幅35.4mm/sのR方向又はL方向の音溝を使用しても、水平方向の速度振幅50mm/sの場合と同じ値が出る。JIS C5514以外を使用して測定するときは、モノラルレコード用は速度振幅50mm/sに、ステレオレコード用は速度振幅35.4mm/sに換算しなければならない」とあります。C5503で感度測定用に推奨されたステレオ基準レコードC5514はステレオであるのにもかかわらず、「1kHz水平方向速度振幅ピーク 50mm/sの音みぞ溝を使用して出力電圧を測定する」ことになっていました(ステレオカートリッジでは45°方向の速度振幅ピーク3.54cm/sに対しての出力と同等になる)。これはJIS C5514に先立つモノラル基準レコードJIS C5507(1958年制定1971年廃止)の水平方向の速度振幅ピーク50mm/sを現在まで踏襲している証拠です。IECとは単なる表記法の違いですが、出力電圧と同時に左右感度差を測定するには水平信号の方が便利だったからではないかと思われます。

セパレーション

スペックで1kHzで25dBとか書かれていますが、これは電気的な要素よりも機械構造的な原因によっているようです。山本氏によるとその原因として以下のことをあげています。

  1. カートリッジ振動系が互いに90度をなしていない場合
  2. カートリッジが横に傾いて取り付けられている場合
  3. 垂直水平方向の感度が相違する場合
  4. 垂直トラッキング誤差がある場合

20dBのセパレーションを得るためにはそれぞれ:1.振動系が80〜100度以内    2.傾きが5度以内    3.カンチレバー支点と針先を結ぶ線がダンパー中心線に近い(クランク型や針軸の長いものは不向き)とされています。これらが相互に働くので1kHzで他チャンネルへのリークが-25dB(約1/18)を達成するのは簡単ではないようです。しかも右→左と左→右へのそれぞれのリーク量が実際のカートリッジでは違う。普通1kHzあたリのセパレーションが最大値になっています(高低端とも悪化し20Hz-20kHz全域では15dB以下になる)。IEC60581-3(1978)では1kHzで20dB以上、315Hz-6300Hz間15dB以上を最低要件として提示しています(セパレーションとクロストークは左右の出力が同じである場合にのみ同意義という注が付いていました)。IECのセパレーション測定法はL/R片チャンネル録音溝をそれぞれ再生して、左チャンネルの右チャンネルからのセパレーションは: 20log(L output voltage from L channel signal divided by L leakage voltage  from R channel signal), 右チャンネルの左チャンネルからのセパレーションは:20log(R output voltage from R channel signal divided by R leakage voltage from L channel signal)、としているので+もしくは正負記号のないdBで表されます。IEC98-1987では1kHzで測定した左右セパレーションの小さい方の値を示すとしています。このセパレーション測定方法はクロストークと違ってカートリッジの左右出力感度差に影響されないので正確です。このIECの記述によりセパレーションとクロストークの違いについて教えられました。JIS C5503-1979 も同様にセパレーションを規定しています:「今回の改正でチャンネルセパレーションは、旧規格の解説で触れられていた本来の測定法に改めた。従来の方法よりは、手法において煩雑さを増したことは否めないが、左又は右それぞれ単一のチャンネルにおける左又は右の信号に対するチャンネルセパレーションを測定することになった」と解説しています。

溝と針の動き

針が縦にも動く場合を考えてみました。つまり右チャンネルと左チャンネルが別の周波数(例えば500Hzと1kHz)で記録されている場合です(音溝偏移傾斜角が60度を越えているので模擬図です)。速度振幅の差に関係なく水平と垂直の偏移の最大値は理論上同じになります。図はtop viewなので各音壁の縁を示しています。水平偏移は溝の底のラインと同じですー溝底にゴミがなく完全な整形であれば極小の針で底をトレースするのが一番Hi-Fiになるのですが?! 私は左右逆相になることは滅多に無く、縦の動きより横の方の動きの方が大事だと思っていましたが、ステレオである限りは縦も同じコンプライアンスを持たなければいけないようです。モノラル(水平記録)と違い、ステレオ溝は溝幅top widthが変化します。図の溝幅は約68ミクロンから約32ミクロンまで変化していますので、前に述べた論旨から言えばこの溝には半径16ミクロン以下の丸針(接触点間隔=16*√2=22.63ミクロンで最小溝幅の時でも音壁の中腹に接する)が相応することになりますーとはいってもこの溝上の球の接点間を結ぶ線は必ずしも溝の進行方向に向かって直角ではないのであくまでも目安です。底のゴミに接触しない限り小さめの曲率が良い〈トレーシング歪みが少ない)と言えます。

下のモジュレーション模式図をみると縦方向には物理的な制限がありことが分かります(アルミ板上ラッカ塗幕厚さは150-180ミクロンでカット可能な深さは最大約0.1mm)。振幅の大きい低域の縦方向だけ制限する方法がカッティング時に存在するのか?この種のLimiterについてGoldmark等の米国特許3013125[Stereophonic Recording]に次の記述があります: "Normally, these two signals [sum and difference] are of similar amplitude and it is difficult to design a pickup which will follow them without generating distortion. We have discovered that the difference signal can be limited in amplitude so that it will be as little as one-half that of sum signal, or less, without impairing substantially the stereophonic character of the recorded information."  アナログ盤へのステレオ録音は最初からリニアな忠実度とはかけ離れたもののようです。人の低域の方向性感度が鈍いことが幸いし、この種のlimiter (depth control)が有効で違和感がないとされています。レコード録音の慣習として、逆相縦振幅が大きくならないように150Hz以下の音は水平モノラルに合成されているそうです。テストレコードではなく一般のレコードで140Hz以下の音に逆相の縦振幅があるときは外乱でしかない、とのことです。ドラム等で方向性が感じられるのはその高域成分によっている、ということなんですね。ステレオ時代のモノラル・カートリッジでステレオ盤をモノラル再生することがありました。ステレオのモノラル化ですがそれでも普通に音楽を楽しめた訳は「水平成分が大半で垂直成分は小さく作られたステレオ盤」故と考えられます。

 

意図的にカッティングレベルや記録密度(*)を変えない限り、カッターの形状はステレオ時代になっても大きな変化はないので、モノラル時代の溝とステレオ時代になってからのモノラル溝に違いは認められないはずです(モノラルEP/LP溝幅50・55ミクロン以上でかつ一定幅:1963年のRIAA Bulletin No. E 4では最大幅も規定していました、即ち0.0022"-0.0032"inch)。ステレオ溝でもDJ用録音では無音溝で70ミクロン以上の溝幅を取ることが多いようです。記録密度はcmまたはinch幅に対しての記録溝本数で表します。密度が高いほど長時間収録ができますがその分カッティングレベルが小さくなる傾向があります。LP初期の技術では200本/インチが限界で12インチLPでは片面最大20分程度しか録音できなかった(10インチ盤では片面14分程度)。両面合計30分程度の初期モノラル録音盤が70年代以降(LPのカッティング技術が円熟した時代)のモノラル再発盤ではLP片面に収められるのはメリットではありますが無理をしていると思われる場合もあります。ステレオが普及しモノラル新録音がなくなり、モノラル盤については再発やSimulated Stereo(擬似ステレオ)だけになった時、モノラルの溝幅は35ミクロン前後(従って再生針半径はその半分以下=0.7mil以下が最適)に狭くなったようです。BS1928-1965に対する1972年Amendment Slipにある文言"For both monophonic and stereophonic application, the preferred range of tip radius should be: 0.015 to 0.018mm (0.6 to 0.7mil)"がその変化を傍証していると思います(私のComparative Table of Standards for 30cm LP参照)。DL-103が頑なに16.5ミクロン(0.65mil)の丸針を踏襲している理由は:旧来のモノラルLP、ステレオ及びモノラル再発盤に併用できるからではないでしょうか? 各時代の規格要求:1963年頃のRIAAではステレオ溝については0.5milが望ましいとあり1964年のIECでも0.013〜0.018mmとしていたのですが上記1972年BS及び1975年DIN45500及び1978年IEC60581-3ではモノラル・ステレオ共通で標準丸針は0.015〜0.018mm(0.6〜0.7mil)になっています。0.5mil丸針が推奨されなくなった理由はその接触面積が小さいことにより高域共振周波数が可聴域にずれ込むことが判明したからだと思います。規格も時代によって変わり、先進と思われたものも製作及び使用の現実に沿わない事実が後に分かって昔の規格に戻ることがある:例えば溝底のr<7.5→6.35→4→8μ。
注:RIAA Bulletin E 4の1978年11月改訂版では”The Groove Width for monophonic recording was revised to 0.0022"and the 0.0032" maximum was deleted"とあり、これら寸法規格は機器の設計と互換性のために示されたものであり、質や実施標準を示唆するものではない、としています。つまりモノラルの溝幅は35ミクロンであっても構わないし、0.013mm(0.5mil)の丸針交換針が市場に流通していても構わない?

溝を上から見たときの概念図です。テストレコードにあるような特殊な溝(逆相/水平モノラル/片チャンネル)を示しましたが、実際のステレオ溝はこれらの混合だという事実を忘れてはいけません。ステレオ溝は『針と溝の動き』に示したようなもので、同相成分と逆相成分の両方から成り立ちます。モノラル録音(R/L同相)の時、45/45ステレオシステムでは水平モノラルとなり、ステレオ以前のone channel 水平記録モノラルとの互換性を維持しています。現在モノラル音源を片スピーカだけで聴く本来のモノラル再生をしている人はどれだけいるでしょうか?SP盤など古い音源はやはり1本スピーカで聴くほうが趣があります。

断面から見たときの概念図。外壁に右チャンネルが刻まれ内壁に左チャンネルが刻まれるのは世界共通の約束事です。45/45のモノラル水平溝(内壁と外壁の同時水平移動)もそれに準じているのでステレオ・カートリッジでは同相出力になります。


なんと21世紀になっても米国のCEA(Consumer Electronics Association)ではカートリッジの測定について暫定規格(CEA-9)を発表しています。又ターンテーブルの測定についてはCEA-11を発表していますーそれらの目次だけはネットで読むことができました。暫定規格(CEA-9)のカートリッジの測定項目だけ列記すると:
        Sensibility
        Channel Balance
        Frequency Response
        Channel Separation and Crosstalk
        Tracking Test
        Harmonic Distortion Test
        Intermodulation (IM) Distortion Test
        Dynamic Compliance
        Vertical Tracking Angle
        Phasing and Polarity Test
        Square Wave Response
CEAの文書のNoticeが振るっています。1987年以降IECはアナログレコードの規格を更新していないことを揶揄しているように感じました:
"This CEA Standard is considered to have International Standards implication, but the International Electrotechnical Commission activity has not progressed to the point where a valid comparison between the CEA Standard and IEC document can be made."

2023年現在CEA-9は正式規格とならずに廃止されたようです。ターンテーブル測定の方はCEA 11-2004(R2009)が更に改定されてCEA 11S-2014になっているようです。


Classification of PICKUPS in LP era

Group 1. Linear to velocity: sensitive to the speed of moving tip

a. Moving Coil type called as "electro-dynamic": Ortofon (pure iron frame for coil)/Denon (permalloy)/FR (non-magnetic=aluminium or no frame)/Satin (similar to Westrex 10A with links from stylus to coils, in case of Satin stylus is replaceable due to joint links)/Ribbon type is equivalent to one turn of coil (invented by Williamson and produced by Ferranti etc). Often these moving coils cartridges are called “electro-dynamic” or simply “dynamic” transducers. 

b. Moving Magnet type called as "magneto-dynamic": SHURE/ELAC/AT/TECHNICS- there are variations of magnets such as rod/disc/tube/dual magnets/magnet+mu-metal pipe and yokes for coils construction etc. 

c. Moving Iron type: EMPIRE (with mu-pipe on the end of cantilever) 

d. Induced Magnet type: ADC 

e. Variable Reluctance type: GE

The last three types (often called as "electro-magnetic") plus MM type are simply called as "magnetic" because they have moving magnetised piece or magnet. There is confusion in classification or names - all the generating systems in Group 1 can be called "dynamic"(=sensitive to the velocity) pickups actually.

IMHO: What is new with Ortofon VMS (variable magnetic shunt: miniature ring magnet around armature) or Grado (Flux Pre-charger with mu-disc) or Micro VF (Variable Flux) or Pickering Fluxvalve? These are variations within MI/IM group. It is difficult to classify cartridges from appearances. Hence better to classify as Dynamic=MC (basically lower output) and Magnetic=MM/MI/IM/VR (generally higher output). Anyway all velocity sensitive cartridges are using magnetic principle coupled with pickup coils.

RIAA equalising compensation is matching with the above velocity linear cartridges.

Group 2. Linear to Amplitude: sensitive to the displacement of tip. The frequency response of this type has ideally -6dB/Oct to a constant velocity of signal on groove. 

f. Piezoelectric elements from X'tal/Ceramic with Ronette type exchangeable stylus assembly. Usually no need for equalising at easy playback of LP provided that the input load resistance is selected properly (more than 500k Ohm). Some ceramic cartridges such as Connoisseur Type SCU1 cartridge have special features: with load 50-100kOhm=almost flat response for input to RIAA equalising phono-stage and with load 1MegOhm=self-compensating and not requiring phono-stage. Thus the frequency characteristics of playback curve esp. high frequency range can be adjusted by load to piezoelectric elements. Sonotone supplied VELOCITY EQUALIZER for their advanced ceramic cartridges. Micro-Acoustics model 2002e had built-in microcircuit for velocity/magnetic phono input.

g. Condenser type Stax CP-X and Electret condenser type Toshiba C-401S etc. There was much earlier embodiment of this type by Weathers etc. Also Sinnet in his US patent 2423208(1947) & Snepvangers in his US patent 2426061(1947) invented electrostatic pickup for RCA - it seems that this technology was adopted for video or information disks in '70s.

h. Semiconductor type: Euphonics CK-15-P and National(=Technics) EPC-95SS etc.

i. Photoelectric type: Trio Supreme 20 (combination of lamps/moving mask on the end of cantilever/photocells) and Toshiba C-100P(combination of lamp/moving mask with slits/photo transistors). Finial/Elp Laser Turntables [its output  corresponds to velocity so that usual RIAA/IEC phono input can be used] have no stylus while those old types from the late 60s had styli. There was much earlier embodiment of photoelectric type around 1940: "Beam-Of-Light Pickup" by Philco Radio and Television Corporation. Similar method was already shown in 1578645(1926) assigned to Western Electric, 1768273(1930) assigned to Bell Telephone Laboratories.

Compensation or circuit quite different from RIAA/IEC reproducing characteristics is required each with some exceptions for Group 2.


Do you know the last cartridge model by Grace? 
In the Stereo Guide 1984 I find their new cartridge model F-14BR/MR Yen 39,000
BR=boron cantilever (Technics/Pioneer patents?) and MR=micro-ridge shaped tip developed by Namiki.
At the same time the following variations were introduced:
F-14RC rare ceramic cantilever (Nagaoka/Kyocera patent?) Yen 37,000
F-14BE beryllium cantilever (Pioneer/Shure patent?) Yen 31,000 
F-14Ruby ruby cantilever Yen 29,000
F-14AL aluminum cantilever (maybe alumite=aluminium hardening finish) Yen 26,000 
F-14SAP sapphire cantilever Yen 37,000
These variations had all 0.2x0.8mil elliptic tip instead.

Please click to find Japanese leaflet for more famous F-8 series: total 9 models - variation was their style of distribution. 

Then the users were left puzzling how to select one from these variations as we are vacillating in the choice of a coloured furniture.
The heat for the new materials or the extreme technology or engineering applied on products was crazy and it was not much concerned with the sound to be produced as a whole. Anyway these new experiments including CD-4 gave much experiences and progress in the audio field.

Recently there is almost nothing new technology or material used on analog devices, but there is a fashion to put strange names on new products.

From above and past raving fests I learn to be careful about any "new" products with sweet and catchy wording.
Audiophile should buy and buy and buy any products new to him for his study and experiences and tell his experiences to the next generation (grin. The posterity or inheritors would be puzzled how to dispose of the old & rubbish legacy. The pleasure and feeling brought with these items in the past cannot be transferred while the nature of human pleasure and feeling might remain unchanged - newcomers will seek new garments or products or music to find similar pleasure in other formats and designs: "new wine into fresh skins" as per Matthew 9.17 in the New Testament.

BTW: I enjoyed Japanese TV drama series "Trick".
The mother (calligrapher/sibyl) of heroine (magician) would say: "character (ideograph) has the power of itself". It reminds me of a Japanese word "KOTODAMA" (the spirit of words).


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