古いLPイコライザーカーブについて

主なソースはおおよそ以下のものです。

  1. 当時の雑誌の記述:Dialing Your Disks (High Fidelity Magazine 1953-57) 一例として1955年1月号(58頁)をみると、新録音はRIAAカーブに1954年頃から統一され始めたことも脚注に記されています。米国でDeccaは米国Deccaであり、英国デッカの海外ブランドがLondonであることにも注意ールーツは同じなのですが別会社です。
  2. 50年代のプリアンプやコンペンセーター製品McIntosh/Fisher/Quad/RCAなどの記述と特性分析。それらのAES/NAB/RCAカーブはそのアンプ独自のものでイコライザー定数だけでなく総合特性が絡んでいるので他社アンプにおけるそれぞれのカーブと同一ではない。さらに始末が悪いのは古い資料にある素子の値や単位の間違いを繰り返している回路図資料もあり録音特性カーブと一致しないこともある。そもそも録音特性と再生特性が真逆になって整合することになるのは後のHi-Fiの時代になって実現したことなので石器時代の実情を再現したと主張・捏造しても確かめようがない(最後は個人の耳)!

ややこしいのは1で述べられている<Turnover LP>の定義です。これはOriginal LP=Columbiaで500Hzとしているのですが、CCIRと同じく354Hzのようにもみえます(ffrr/DECCAとCCIRはRolloff共通?でよく似ている)。 QUAD22はPosition Set 3でIEC98 Eq.1=New SP(CCIR+bass limit 50Hz)としているようです(1はRIAA, 2はColumbiaの低域制限変形=100Hz>50Hz, 4はOld SP)。

カーブの外見から推測するのは極めて怪しいのです。低域制限を変えればTurnover 500Hzでも354Hzでも似たようなカーブになりますー例えば普通Decca ffrr再生特性はturnover500Hz/rolloff 3kHz/bass limit 125Hzとされているようですが、IEC98 第一カーブ (SP用イコライザーカーブNew SP)= turnover354Hz/rolloff 3.183kHz/bass limit50Hzとも似ていて、1951年当時のCCIRの経緯(戦勝国の英国主導立案)から後者ともとれます。しかし200Hzで+7.5dB程度を考量するとturnover500Hz/rolloff 3.183kHz/bass limit 100Hz近辺(これは50Hz〜125Hzまで可能性があり、DECCAとして記述引用されている諸カーブにもこのあたり食い違いがある*)がRIAA=BSになる前のカーブに近くなります。元来Full Frequency Range Recordingとはカッターヘッドを含めた録音技術のことであり特定のカーブを意味するものではなかったようです(RCAのOrthophonicと同様)。ffrr技術は敵Uボートのスクリュー音を記録することに起源があるとされ第二次世界大戦後ffrrのSPが発売され30Hz-14000Hzまでの録音が可能になった。米国Brush Companyも圧電ピックアップで水中音を記録するなど、戦争は科学を進歩させる(合理的な科学を利用する不条理な戦争がある)という面が結果的には大きかった。潜水艦は第一次世界大戦で初めてドイツ軍によって大規模に使用されたそうで、攻撃を受けた英国では潜水艦の位置を特定する研究は早くからなされていました。Adrian Francis SYKESは1915-1918年Improved Means for Detecting and Locating Subaqueous Soundsの題名で幾つか英国特許申請し後年Cylinderタイプの電気録音再生も試みましたが、ほぼ歴史から忘れられています。
註*:turnover500Hz/rolloff 3.183kHz/bass limit 50Hzの場合IEC98 第二カーブ (LP/SP共用で主にTranscription用途)そのもので、実際にIEC98 第二カーブをDECCA FFRRと同一視しているサイトもある。SP/LPカーブや適用時代に混同があるらしいが、レコードの製作時にも同じくそのような混同があったとしたらまさに五里霧中! キングレコードのマントヴァーニ an album of Favourite Melodies From the Operas LLB20014 (DLRなので1960年頃の製作でグルーブガードもなく一様に厚く重たい盤)に「ロンドン・レコードのffrr吹込みについて」が添付されているのを見つけました。そこに見られる新旧特性のうち古い方はIEC Eq.1又はEq.2によく似ており、新しい方はIEC Eq.3=BS=RIAAそのものです。どの時代の新旧なのでしょうか?特性自体も一部入れ替わって記述されることも多いので本当にどれがどれだかは確定できず、キングレコードの解説の通り「試聴により」再生音を調整するしかないようです。以上を総合するとLPにもかかわらずffrr録音はIEC98(1958)で規定された3種類のカーブの三役揃踏と言う結論になります。但しDECCAのテストレコード(Monaural Fine Groove) LXT5346の宣言を信用すれば少なくとも1957年頃以降(LPではARL2539-2A以降MPではTRL392辺りから)はリカッティングも含めて全てBS=IEC=RIAAになるわけです。描画上1dB程度のカーブ誤差は古いDIN45537(1962)[モノラルレコードの録音特性]などにも見られ、時定数は同じなのに30Hz-200Hzあたりの線はいい加減なところに引かれていました(30Hz:DIN45537では-17.5dBに対し正確なDIN45547の図では-18.6dB)。このことからも古い時代のカーブ描画を信用してはいけないと思いました。個々のカーブは傾向としては概ねその通りだったのでしょうが、ある時代ある会社によって発表されたものを他のカーブと直接比較しその描画上の差異を云々すること(=私のやっている行為)は極めて怪しいと言わなければなりません。以下は参考シミュレーション。旧ffrrのテストレコードLXT2695 (Sept.1952)の低域録音カーブが何故か直線に近くなっているのでどのシミュレーションとも合致しませんが、オレンジの線(50/318/1592μセコンド,即ちtop-lift/rolloff 3.183kHz, crossover/turnover 500Hz, 低域 100Hz)が<いい線いっている>のかも。1950年代前半の再生環境(低音再生能力が低いラジオ的な音)を考慮してIEC Eq.2が旧ffrr再生カーブとして当時妥当だったのかもしれないが、現在では曲種や再生環境によって印象が異なることもあるかもしれませんーキングレコードの栞にあるとおり、ピックアップ、アンプ、スピーカ(と部屋)の総合特性をフラットにして初めてハイファイとなりうるのですが現在でもその実現は難しいと感じています。特に部屋の音響特性は影響が大きいと思います。「SN比の良い部屋」という言葉の意味を引越をして初めて実感しました。縦長面と横長面のどちらにスピーカセットを置くかー昔の私は部屋が狭いこともあってスピーカからの距離をとるために鰻の寝床状態でしたが、引っ越して横長面にスピーカを置くようになってからはCDの再生音に違和感を覚えることが少なくなりましたーザラ付く感じが少なくなりスムーズになった。以前の私はCDとLPと比べたときCDの再生音に異質なもの(LPは最適編集してあるのにCDの編集が未熟なのではないか)を感じていました。

2018年追記:古いバリレラ型Goldring 500のパンフレットに周波数特性表がありDecca LXT 2695(旧ffrr)の時定数が64・320・2200マイクロセコンド(2500Hz/497Hz/72Hz)と記載されていますー何だこれは!LPジャケットにある特性表(dB)と齟齬(約2db)があるではないか!再生機器同様に周波数テストレコードのレベル表示も余り当てにはならないようです。古いイコライズ・カーブは広い意味での「傾向」でしかない。

発表年度や番号のない規格の記述には信用が置けませんーそれ以後に改訂版が出ていることが多いのでSP時代の規格とLPになってからの規格を混同しかねない。NABとNARTBの呼称問題ーテレビが脚光を浴び始めた一時代(1951-1958年頃)、NARTBが正式名称だった(1923年設立以来その期間を除いてNABが正式名称)。モノLPはNARTBの時代の筈だが、LP用NARTB=通称NAB規格の発表年度が不明(テープの方は1953年と分明)。SP時代発表された横記録トランスクリプション・ディスクのNAB放送規格と異なるモノが通称LP用NABとされています。1940年代後半LP登場以前のRCA Transcription Turntable Type 70-Dに装備されたフィルターなどの記述やhttp://en.wikipedia.org/wiki/Audio_Engineering_Society,_Coarse-groove_Calibration_Discsから判断すると:当時のNAB standard for lateral recordingの時定数は100/250or253/2242マイクロセコンド=rolloff 1590Hz/turnover629-637Hz/Bass limit 71Hz〈下注)だったらしいのですーでは何処から何時33.3回転LP用のturnover500Hzが出てきたのか不明です。BartokやBrunswickやElectraなどの一部LPがturnover 629Hzでrolloff NABとされている背景はそこにあるようですーLPが出現した当座はSPカーブを適用した場合があるようです。
JAES(1964)にPickering社のBubbers氏による発表”A Report on the Proposed NAB Disc and Playback Standard”がありそのAbstractで”The 1963 (Proposed) NAB Audio and Reproducing Standard for Disc Recording and Reproducing are reviewed and discussed. Direct comparisons are made with the 1953 Standards and the changes are explained. The new sections covering stereophonic reproduction are discussed from the point of view of the state of the art and the requirements of the broadcaster.”と述べられている。1942年採択(Transcription)/1953年採択?(=RIAA mono)/1963年提案(=RIAA stereo)=1964年公開。1953年については提案年と採択公開年を混同している恐れがある。NABによるレコードの標準化(NAB's Committee on Recording and Reproducing Standards)は1941年に始まり1942年に16点の規格を採択したことが1947年NAB会合から分かります。NABの最初のLP規格は1949年発表という説が有力。
:Bass limit 71Hzは時定数ではなく低音の増幅上限値だった可能性がある(RCA Type 70-DのフィルターL-1カーブ:Lateral transcriptions, for reproduction of transcription records according to the NAB standard lateral characteristic)。1964年のNAB:RECORDING AND REPRODUCING STANDARDS FOR DISC RECORDING AND REPRODUCING(pdf)は前年の1963年に提案された規格を1964年2月1日公開した文書で、過去に1942/1949/1950/1953年と4回の改定があったと記されています(レコード盤に限らずテープや放送関係の規格を含む)。その再生カーブは現在のRIAA/IECと同じです。「特定の周波数特性を持つ再生側機器で録音盤のバランスや音質を評価するのがレコード録音の通例で、国際規格となった再生側周波数特性は1953年6月NARTB時代に録音再生カーブとして発表したうちの録音カーブの逆特性で今回は新生NABとして録音カーブよりも再生カーブを規定した」とありました。回りくどい言い回しですね。録音カーブと再生カーブが不整合? LPが誕生した当時は再生機器(主にカートリッジ)が未発達だったので最終的に高音質に聞かせるために再生特性を調整しようとしたのか、それとも逆に録音特性をいじる風潮が録音現場にあったのか?それらを改め録音特性と再生特性を整合させようとしたのが1964年の文書です。1951年1月のAES文書も再生カーブを主に定義しています。太字で示した部分は何回も噛締める必要がある文言なので原文画像を添付します。

古いモノラル・レコードを最近の特殊針やレーザーターンテーブルなどで再生すると再生ロスが少ない分、標準の丸針で再生した時より高域過多に聞こえることがあります(それは忠実再生とは違うと感じます)。アナログ盤では、どのような再生環境を対象とするかによっても折々の録音手法は変わっていたのです。US特許にみる録音自動補正の歴史(特にPrestoの項:線速度が遅くなる低速時の補正)も参照ください。実際の録音は単純なRIAA/IEC/BSなどの録音特性だけで録音されているのではなく、内周に向かい線速度が減少するに従い丸針でトレースした時高域が減少するのを補正するために、内周に向かってハイ上がりに録音補正されることが多いことを忘れてはなりませんーだからこそ古い録音には最適な曲率をもつ丸針が推奨されるのです。Percy Wilsonは1957年の”THE GRAMOPHONE HANDBOOK"でこの種の録音補正を"radius correction"と呼んでいました。この事実を無視して見かけ上のHI-FIに走るマニアが多いと感じます。カートリッジメーカーもこの問題を論じることなく丸針/楕円針/ラインコンタクト針など値段に応じて供給しています。レコード会社はradius correctionの使用を公表していませんが、特殊形状針がまだなかった時代(4チャンネル以前)少なくともモノラルLP時代には内周と外周の全域にわたって高低のバランスを取るために、録音特性+radius correctionが一般に使用されていました。私の経験では古いレコードを特殊形状針で再生するとき、内周側で高域と低域のバランスが崩れ、煩く感じられることが多くありました(特に管弦楽)。

Orthophonicのロゴは1955年頃の盤にも見出せる。 本来”Orthophonic Recording”とはイコライザーの種類を言うのではなく、1925年以来の電気録音に端を発しテープ録音やLPまで続いたVICTOR=RCAのOrthophonic(正しい音)即ちHifi録音の商標に過ぎないようだーKelloggによればOrthophonicとはベル研究所のH.C.Harrisonが開発した電気録音方式のことで、1925年初頭にコロンビアとビクターがそれぞれWestern Electric(ベル・システムの製造&商業部門)からこの技術を使用してOrthophonic typeのレコードを製造するライセンスを得た由ーそしてビクターが初めてこのタイプのレコードを製作しOrthophonicと名づけて発売した。 イギリス盤にRIAAの記述がないように、RIAA規格の元(New Orthophonic)を提案したRCAも当初はRIAAとは記述しなかった("俺が本家"流のエゴ)。アメリカのレコード産業のハード面において当時RCAの技術部長だったH. E. Roys氏が規格統一のキーパーソンだった(ColumbiaのBachmanも1953年RIAAに参画)。1952年にRIAAが設立された当初から意見交換は始まったと見てよい。RCAのカーブがRIAAの元になったのも技術的な理由だけでなく人間的な力関係が背景にあったのかもしれない。1953年頃RIAA規格が誕生したもののその実効勧告が諸般の事情により1955年まで延びたのか一般にRIAA特性適用は1955年からという記述が多い。註:1940年頃RCAと関係の深い放送局NBCなどで使用され始めたorthacoustic recordingはイコライザーの最適化を目指すものでしたが市販レコードとは別物で、主に16inch放送用Transcription Diskに適用されました。それが1942年NABの高域時定数100マイクロセコンドに反映されていると思われます。LynnとHathawayによって発明されRCAに委譲された米国特許2286494(pdf)並びにIEEEの前身IREのInstitute News and Radio Notes1941年5月号からの抜書き画像参照ー後者ではorthoacousticという綴りになっていますが両者は同じものですーNBCのLynnは1940年6月27日IREの年次総会にて”RCA-NBC Orthacoustic Recording"の発表をしています。

戦後10年頃までCCIRカーブが一部欧州のレーベル(Odeon/Polydor=DGG/Parlophone?)でSPと初期LP両方に採用された理由は、あくまでも憶測ですが、第二次大戦で疲弊してLP専用装置を開発導入するのが後れたからではないかとも思います。米国でRIAAカーブが発表され1955年には同様のものを英国BSが採用しました。それ以後にも古いカーブが適用されたものがどの程度あるかは実証がありませんーステレオ時代に古い音源を再発する場合には最適化等価を行ったハズですから。器楽やヴォーカルだけのモノラルレコードはあらが目立ちませんがビートルズやフルトヴェングラーのレコードの一部が酷い音なので等価カーブを疑う人が出てくるのかなと思っています。

抜け落ちた穴(底なし沼):
1.規格も人間が作った覇権の歴史なので、時代と民族性を反映している。IEC98草案はモノラル時代の1954年IECの英国部会によって準備され各国代表の議論異議認証をへて正式に1958年発行-その間に米レコード工業会によるRIAA、それに準じる英国BS1928改訂ならびにLP製造の技術革新がありそれらを盛り込んだ。50年代半ばにはステレオテープ録音が確立されておりIEC98初版が発表された年にはステレオLPが登場。ちなみにオープンテープ(38cm/s以上)の録音再生時定数についても欧州系(CCIR=IEC=DIN)と米Ampex系(NAB=EIA)では違いがありました。
2.特定の規格カーブと言うよりヴァンゲルダーなどの名録音技師による録音編集補正の問題はどうか? <ステレオ時代に古い音源を再発する場合には最適化等価を行ったハズ>と言うのは希望的観測に過ぎない。録音技師とその現場は規格にあまり配慮しないのは現在も変わらない。彼らは独自に自分たちのハイファイを目指したが、誇張のないリアリズムとは少し離れた所にある、と感じることがある(その仕事を敬する心には変わりがない)。

あるイギリス人から<RIAA以後の独自カーブ残存については日本のオタクに聞けば分かるのでは>と問い合わせがありました。彼はオタクという言葉を知っていました。さらにZANDENの件も知っていましたー<録音手法はレーベル系列内で変わらない>という珍説でRIAA発表以後のステレオにまで古いカーブを適用しています。現在コンペンセーターを提供しているEsoteric Soundの製品マニュアルのデータは前述の"Dial Your Discs" や研究者Powell氏などが1985-92頃各誌に発表した資料を編集(compilation)したものです。典拠を示さずに転載したものが多く流布しています。1958年IEC98の後書きに商業レコードの録音再生について興味深い指摘があります(指摘されている正確な記録再現の諸問題は現在でも解決されておりませんーホームスタジオが宇宙船内のごとくに規格化されない限り解決不可能)。私は先の英国人にはその文章をコピーして送りました(IEC同文は以下に掲載)。同じく規格の歴史を語り個々のレコードに立ち入らない賢い記述はGary A GaloによるThe Disc Recording Equalization Demystifiedにありました。そこでも録音再生チェインはもっと複雑でイコライザーだけを問題にするだけでは不十分なことが指摘されています。再生カートリッジやモニタースピーカはもちろん、カッターやマイクの特性まで各時代一様でなかったからです。私はTranscription(フォーマット変換)技師やレコード演奏家?になるつもりはありませんのでRIAAのままでトーンコントロールを少しいじる程度にとどめ凸凹遊びはやりませんが、古いLPをたくさん集めて悩みたい人もいるようです。私の場合、<珍しきを尊しとせず>−これを負け惜しみinverted snobberyとも言うそうです(笑。

私の持っている資料DIN45537(1962) Schallplatten M33(モノラルLP)の欄外に前版(1959年)からの変更点が列記されている:<IECに従い、サブタイトルを変更、括弧にくくられた値は省略、リードインとリードアウトの記載、溝角度ならびに高域周波数特性を変更、ほか編集の変更>とある。 高域周波数特性を変更とはhttp://www.badenhausen.com/VSR_History.htmなどを参照するとtime constantが50 μセコンドだったのをIECやRIAAと同じ75に変更したことを指している。AESの英国部会報告によると:
Dr. Sean Davies (The University of Liverpool) said at meeting held by British Section of Audio Engineering Society on 10/6/2003: "Through the RIAA, a 75 microsecond top lift record curve was standardised in the US. In Europe, Deutsche Grammofon[ママ] initially adopted a 50 microsecond top lift curve - which was technically preferable - but, to avoid confusion in the marketplace they later adopted the RIAA de facto international standard."
Sean Daviesはノイマンのカッターレースの修復などもやる学者というよりオーディオ技師。

IEC98(1958)の第一カーブ=CCIR(本来はSP専用=通称New SP)もロールオフ50μセコンドだったので当時のPolydor=DGGをCCIRカーブとする資料が多い:EMTのOBのFabritius氏(ブランド名Fabtech)のページはEMTの資料を転載しています。http://www.fabtech.de/docs/parameter_alter_schallplatten.pdf 
その表の特異点は10kHzだけでなく200Hzの特性を示している所。 Odeon/Polydor=DGG/Parlophoneは200Hzで+6dB,10kHzで-10dB。 これはCCIRと同じだが通称DECCA=LONDONにも近い(LONDONは同表では200Hzで7.5dB)。他の資料でもこれらのレーベルのターンオーバーを78回転SPと同じく300Hzとしているものが多い。従ってOdeon/Polydor=DGG/Parlophoneの初期LP(1955年まで)はCCIR=New SPのカーブと同等と結論付けてよいと思う。Parlophoneはビートルズの時代には既にRIAA=BS=IECになっているはずだが前述のごとく録音環境が酷いので他のカーブの方が心地よく聴こえる場合がある(個人がカーブを誤解する一番の原因)−1957年発行Percy Wilson著THE GRAMOPHONE HANDBOOKの末尾のADVERTISERS' ANNOUNCEMENTSの欄にあるページIV&V:EMI RECORDING&REPLAY CHARACTERISTICS参照。 もちろん原録音と再編集特性は必ずしも同一でないのは認めます。例えば70年代ビクターの名録音技師によって音がいじられていたと言う<噂>があるソ連Melodiyaの国内盤など。火のないところに煙はたたないが(つまり一部そんなこともあった)、噂を拡大して家庭のボヤ(特殊例や個人的印象)を大火事(総じてビクターは云々)として報道するのはいけないと思いますー正確な記事が面白くなく、噂の種としては大火事の方が面白がられるのは世の常。

いまだOLD RCAと通称NABの出自については疑義を抱いておりますが、EMT/ZANDEN/Mozart Phono≒Dialing your diskのレーベル比較表も含めこれらのカーブの外観などについてExcelファイル暫定版作りましたので興味があるならご覧ください。後記:2008年ARSCにGalo氏がTHE COLUMBIA LP EQUALIZATION CURVE(pdf)の題名で発表した文書に私のExcelファイルがreference 14として載っているのには驚きました。

誰かが言ったから、または自分の所でいい結果が出たから、古い資料にあるからと言ってイコライザーとレーベルを関連付け一般に適用するのは(私自身も含め)誤解や間違いの元になります。私は使いませんが、イコライザー可変アンプを否定しているのではありません。トーンコントロールと同じくそれへのアプローチはユーザー環境ごとに違うだろうということを言いたいのです。
追記:カートリッジの高域特性は平坦ではなく、かなり偏差がありますーそれらを考慮するとrecording curve間の違いだけを論じてもはじまりません〈Frequency Recordなどで自分の装置と部屋の音響特性を測定する人は稀で大体は測定するとがっかりします)。High Fidelity Magazine1954年3月号50頁「After 5 years: Uniform Equalization」によるとAESとNARTBは共にRIAA特性を新採用し、1952年New Orthophonicのレコード(トスカニーニのベートーベン第九とホロビッツ演奏の皇帝コンチェルトが最初)に続き公表することなくCapitolが1953年夏からWestminsterは1953年秋からそれぞれNew Orthophonic(後のRIAA)に変更した由。コロンビアはまだRIAAを採用していないが追々RIAA特性に変更する。recording curveの変更を公示しないのがレコード産業の通例らしい。1954年6月号の記事Audio Forumでコロンビアの技師BachmanがコロンビアカーブとRIAAカーブの差はさほど重要ではなく「Account must also be taken of the fact that studio acoustics, type and placement of microphones, control room acoustics, monitor speaker characteristics, and the musical judgment of the recording director can have far greater effect upon the resulting sound balance than the difference represented by these curves」と指摘しているのは正しい。To equalize Columbia records properly, RIAA compensation could be used with a slight cut from the bass tone controlとしていますが、低音再生能力の低い私の装置ではむしろ高域端の強調(roll-off)の方が気になります。High Fidelity Magazineの1957年4月号84頁でA FAREWELL TO OBFUSCATION(混乱よさらば)の題名でDialing Your Disksの表(DYD chart)の中止を表明し、「マイナーなレコード会社を除きいまや全てRIAAカーブが使われている。各社がそれぞれ独自の録音カーブを使用していた時代は終わりついに歴史の問題となった。古いレコードを再生するのにDYD chartを参照したい方は25セントでDYD cardが入手できます」と述べています。実質的に1955年から新録音はすべてRIAA特性になり1955年12月号のDYD chartのBartok/London/Mercury/Columbia等には*マーク (Currently re-recording old masters for RIAA curve)が付いています(つまり旧録音の音源はRIAA用にリカッテングして発売されることになった)。それでも例外はあるようで私が1970年代に入手したBartokレコードはマイナーレーベルだからかキンキンの高域でre-masteringをしなかったように聞こえるが、録音技師としてPeter Bartokはそのような音が好みだったようでモノラル時代には同傾向の録音を多くしましたーピリオド盤Janos Starker演奏コダーイ無伴奏チェロ・ソナタでは「松脂が飛ぶ」音と形容されました。Bartok Recordsは父親Bela Bartokの小編成器楽曲のモノラル録音を特徴としていました。同音源でも発売レーベルやプレス(*注)が違うと音も違うのは何故でしょう?これもアナログやオーディオのfuzzyなところか(HI-FIよりも好みの音)? Record Reviewの1ページとして開始されたDialing Your Disks(レコード会社からの不承不承の回答を鵜呑み)は概ね正しいようですが、レコード制作側の標準再生システムが何だったのか、誰が評価したのかは明記されていません。最後のDYD(1957年3月号86頁)(500R.はミスプリントで500R:が正しく、BRSはBartok Recordsを指すらしい)では新旧対照表の形式(1955年10月号から)になっています。Turnoverの500C(コロンビアグループ)と500R(RCAグループ)と500は誤解を生みやすい表現ですが実質同じです。時定数 microsecond(75/318/3180)を周波数に変換した時New Orthophonic t1 2122.066Hz, t2 500.49Hz and t3 50.05Hzで整数にならない[換算式はf=1/(2*pi)/t]。又、古いカーブは1kHzを基準にしていない事が多いので度々誤解・誤用されてきた背景があります。
注:音質の違いは主に録音レベルの違いとして顕著に認められ、各時代のプレス機/プレスした国/ビニール材料/スタンパーの摩耗度(初めの方か1000回を超えた限界か)/録音テープの品質(マスターかコピーか)等に起因すると思われ特定は難しい。 Eric Dolphy at Five Spotは同じ日(1961年7月16日)の録音なのに発売日とプレスが違うVolume 1と2では格段の違いがあり困惑しています。アナログ盤は聞いてみなければ分からないということか。レコードを聞いている人の大半は録音現場の音と音量は知らないのですから「それらしい音=好ましい音」と感じるだけ。録音レベルが高いと迫力があるが歪も多く、録音レベルが低いと迫力がないが歪感は少ない。再生側のカートリッジ出力感度と同様の傾向で一長一短のように感じます。迫力を求める音マニアと突出した音ではないが曲想が見通しよく感じられる音楽マニア。私はMJQによるジャズを室内楽ソナタのように聴くこともあります。ColtraneのアルバムCrescentにあるWISE ONEには宮城道雄の「春の海」との親近性を感じます。

Marantz #1: Marantz Audio Consolette (http://www.hifilit.com/Marantz/model1map.jpg)の回路図の一部です。

右半分のRC素子からRoll-off定数(time constant=RxC)を調べてみると次のようになります。

Roll-off

Application
time constant Hz  
0.000102 1560 LP-NAB
0.000076 2094 Ortho-RIAA
0.000062 2567 AES
0.000048 3316 FFRR & 78
0.00002 7958 Early 78
 - -  Flat

1560-3316Hz間ほぼ等間隔でロールオフが設定でき、特定のカーブへのチューニングというより個々のレコード再生のコントロールを目指したもののようです(Applicationは指標にすぎない)。

1957年頃の一般的な(=管球式で最終段はトランスドライブの)パワーアンプの低域特性も勘案しないとイコライザーカーブの低域bass limitだけを問題にしても意味を成しません。図5はPhilco CorporationのUSP2924461 Vibration Damping Meansにおける標準アンプの特性図を編集したものです(グレイの領域が標準アンプとしての許容範囲ー標準アンプのモデルは特定されていません)。アームの質量とカートリッジのコンプライアンスによる低域共振(当時20Hz前後)をダンプする特許でした。"Additionally, damping the swinging resonance peak reduces the possibility of overloading the amplifier at sub audio frequencies. These frequencies, which are ever present as a result of turntable vibration, drive the loud speaker and amplifier beyond their linear capabilities producing intermodulation in the useful band."と述べられています。古い録音特性にbass limitが記述されていなくとも、再生側アンプ等の特性により100Hz前後のbass limitが存在していた。現在のスピーカ特性は以下のアンプ特性より劣るのが一般です。その現実を無視して録音再生カーブだけを論じがちだと感じます。50Hz以下や15kHz以上が聴感上重要か如何かの問題についてはMusical Balanceのページをご覧ください。モノラル時代のIEC98(1958)では録音再生特性について50Hz-10,000Hzまでしか規定していませんでした。1964年の第二版で20Hz-20kHzに拡大され、IEC98(1987)では再生側等価特性だけ20Hzのbass limitが追加され(20Hz-6db/Oct)録音レベルとの差が20Hzで-3dBが推奨されています(その目的はPhilcoと同じ)。1964年NABは30Hz−15000Hzの範囲の再生特性を規定し、興味深い記述をしています:It is recommended that the system response below 30 cps and above 15,000 cps be attenuated at least 6 db per octave with the 3 db points at 20 cps and 16 kc. 高低端を無駄に再生しないように推奨している。20Hz以下カットはPhilcoやIEC98-1987と同様にアームとカートリッジの共振の影響で発生する混変調歪を避けるため、16kHz以上カットは高調波歪(トレーシング歪)を抑えるためのようです。先見の明に感心しました。

録音再生の連鎖(chain)における制約については以下の商業レコードの問題点を参照ください。

    録音側の諸特性:録音スタジオ/マイク/録音アンプとreverberation調整と録音補正/カッターヘッドと録音針形状/録音媒体〔ラッカーなど〕/モニタースピーカ

    再生側の諸特性:ピックアップと針形状/再生補償アンプ/再生するスピーカ/部屋の音響

聴取者の場合には録音側と再生側の整合は難しい。reverberationについては40年代から本格的に録音チェインに追加されはじめたーRCAのOlsonによる米国特許2493638-1950[Synthetic Reverberation System]に当時放送スタジオで採用されていたreverberation chambersの様子が描かれている[ピックアップした音をスピーカで再生し約3秒の反響特性を持った部屋で反響させてマイクで再度ピックアップすることによりreverberation simulatorを構成する]。そのような方式は場所をとり反響時間も固定なので、spring reverb(USP2230836)やtapeやdiscを使ってdelayを加える方式が実用化されていた。


IEC98(1958年初版)のAppendix(31頁-32頁)

<QUOTE>

 

APPENDIX

NOTES ON RECORDING AND REPRODUCING CHARACTERISTICS

 

Range of validity

Valid

If the velocity of the reproducing stylus is the same as the recorded velocity, then the reproducing characteristic is the inverse of the recording characteristic and vice versa. The relationship between them being fixed and known, it does not matter which is specified.

This condition is usually satisfied over most of the audible range when reproducing commercial disk records or other pressings by means of a pick-up with low mechanical impedance. It does not satisfied at frequencies high enough (wavelengths short enough) for the dimensions of the stylus tip to be significant or with pick-ups having a mechanical impedance high enough to produce substantial deformation of the groove walls.

Non-valid

If the velocity of the reproducing stylus is not the same as the recorded velocity (either because of the stylus tip size or because the groove walls deform under the stylus tip), then some additional equalization is required. This equalization must vary according to a number of factors; in the case of groove deformation effects, for example, it must vary with groove angle and with the hardness of disk material in relation to the mechanical impedance of the pick-up.

In such conditions the conception of recording and reproducing characteristics is not useful and standardization of the recording characteristic does not enable the reproducing characteristic to be fixed or vice versa, since different responses may be obtained from a pick-up when it plays two disks which have the same recorded velocities but different groove shape and material.

Those conditions may arise when reproducing direct (lacquer) disk recordings with pick-ups requiring a vertical loading on the disk of more than a few grams. They may also arise on commercial disk records and other pressings when using the "heavier" (higher mechanical impedance) type of pick-up and in all cases at frequencies high enough (wavelength short enough) for the stylus tip dimensions to be significant.

Standardization Procedure

Two basic procedures for standardizing the frequency characteristic of disk recordings are possible. The recording characteristic may be specified so that all makers of records can put the same (relative) recorded velocities onto their disks for the same electrical signal or, alternatively, the reproducing characteristic may be specified so that all records may be made to suit it. In the latter case it is clear, that if two manufacturers wish to obtain the same response from the standardized reproducing characteristic then they must put the same velocities onto the disks and the effect is therefore precisely the same as in standardizing the recording characteristic.

In a broadcasting chain, or in any other system where the signals equalized to the desired frequency characteristic before being applied to the recording equipment, it is clear that it does not matter which of the two procedures is adopted; within the range where either characteristic has any useful meaning the one is the inverse of the other and to specify either is to specify both.

In the special case of standardizing commercial disk records, however, the position is not so simple. On the recording side, it may not be clear how much of the total equalization between microphone and recording head is required for recording process and how much is compensation for microphone, studio, etc. It may therefore be difficult to decide at what point the recording chain proper begins, and it is tempting to try to avoid this dilemma by standardizing instead the response of the equipment on which disks are to be replayed. If the whole of the replay equipment could be specified this would present no great difficulties, but in the case of commercial disk records, once again, it is not so simple. In the first place it is of little use to standardize the response of all reproducing amplifiers if they are to be used to feed widely different loudspeakers yet, in practice, it would clearly be impossible to standardize the complete replay chain including the loudspeaker, the cabinet and the surroundings. Moreover, all normal equipments are provided with a tone control so that the user can adjust the response over a wide range to suit individual taste and listening conditions. Indeed, while the user does desire to have some uniformity (*1) in the characteristics of the records he buys he will continue to insist on being able to vary the replay characteristic according to mood and circumstance.

The achievement of the required uniformity among records, however, is not unreasonably difficult to attain. It is necessary, in principle, for each maker of records to decide what he shall regard as the average loudspeaker chain or, at any rate, what loudspeaker chain he wishes to cater for. Such a loudspeaker chain can then be used as a monitor connected at an intermediate point in the amplifier chain between microphone and recording head with the equalization ahead of the monitor point adjusted to produce the desired sound from the monitor output, and the equalization after the monitor point adjusted to give the specified recording characteristic.

The selection of what is to be regarded as a standard loudspeaker chain does present difficulties, though it must be remembered that the choice has always, in fact, been made implicitly every time a disk has been recorded. Certainly if one manufacturer were to choose a "standard loudspeaker chain" markedly different from that chosen by another then there would be a corresponding difference between their records even if identical recording characteristics were used. It is therefore desirable, if the full benefit of standardization is to be achieved, that the various manufacturer should endeavour to reach some measure of agreement on this, but it does not seem practicable at the present time to specify all the characteristics, electrical and acoustical, of a standard loudspeaker chain in a rigorous fashion.

 

(*1)Uniformity of recording characteristic does not, of course, mean that all recordings, even a single performance, either should or would sound alike. One maker may wish his records to sound "mellow" and another not; one may prefer one balance of the high and low frequencies and another a different balance.
Uniformity of recording characteristic ensures that these intentional differences do appear as corresponding differences in the records.

 

<UNQUOTE>

IEC98の第2版(1964)=BS1928(1965)では次のように記述されています。

3.4 Recording characteristic (C.4) The curves of recorded velocity versus frequency that would be obtained when recording various frequencies with fixed voltage level applied to that point in the chain where the normal signal has the frequency characteristic that it is desired subsequently to produce. NOTE 1. The point may not always be at the input or output of an amplifier, but it is the point to which a monitor amplifier and loudspeaker should be connected.

録音時のモニター環境を再現すれば解決するようにも思われますが、録音技師が自分のスタジオ・調整卓からの放送ではなく、商業レコードとして一般家庭で再生することを考えたとすれば、当時の機器を集めイコライザーを揃えても、必ずしも良い結果に結びつかないと思います。規格が発表された時にはすでに古臭くなっている! いろいろあるから規格だ! 製作現場は規格なんて知ったことではない!―そのような商品・生産物をあれこれ言っても詮無いこと(個々の感性の好き勝手)、だからオーディオは楽しい??? 上に掲載したIECの文章の”but in the case of commercial disk records, once again, it is not so simple”以下を読んで考えてみてください。問題の本質(機器と主体者と環境)はそこに集約されています。ところで、手っ取り早く整えやすいのは機器と主体者と環境のどれでしょうか?私の場合は機器で次に環境、そして最後に度し難い自分です。機器だけそろえて、不備・不満は機器の問題にしようとするーしかも機器の測定も自分の耳の測定もしないのが一般です。

個々の人間の聴感と環境は同一性がないと思っていますーというのもあるお宅を訪問した時に最初は低音が私の部屋で聴くものと異質な感じがしたのですが、聞いているうちに気にならなくなりました。同様に、他人様からは私の部屋の音響は特殊に聴こえるのだろうと想像します。周波数特性が同じようなスピーカでも違う印象を受けることが度々です。部屋特性によるものが大部分を占めていると思います。スタジオのようにある程度規格化された音響環境でのみ、本当の比較が出来ると思いますが、実際使用面ではエアコンや空気清浄機のように和室/洋室何畳向けという規格はありません。将来、宇宙船内のようにホームスタジオが規格化されて普及すれば音響特性が同じ環境が出来ると思いますが、他人との差異を求める人間の性からいうと余り実現性の無い無意味なことなのかも知れません。 音量についても室内楽を等身大以上の暴力的な大音量で聞く人もいます。逆に小音量派の人はloudnessやexpander効果を脳内に組み込んで聞いているので実演よりLPがよく聞こえたりするのか?オケを等身大では実際に再生できずしかもその必要が無いようにコンパクトに録音されている(細部拡大)のがアナログレコードだと思います。

IEC98-1958: E12 (commercial disks) Recording and Reproducing characteristic tolerances:

    E 12.1 Recording characteristic tolerances. Over the range from 50 Hz to 10 kHz records shall be recorded to conform to a smooth curve lying within +/-2 dB of one of the characteristics defined in Clause E11.1 taking as reference point the value at 1 kHz.

    E 12.2 Reproducing characteristic tolerances.  No tolerances are specified since commercial disk reproducers normally contain a tone control which may vary their frequency characteristics over a wide range.

Clause E11.1とはフォノアンプの項で示したNew SP/SP&LP(transcription)/LP(RIAA)の3種のイコライザーです(F11- transcription recordingについてはSP&LP第二カーブのみ適用)。モノラルレコードを規定したIEC98初版だけでなく、録音再生環境が改善され事情が変わったはずのIEC98-1987まで、上記の記述に基本的な変化はありません(もちろん現在はLP=RIAA特性だけ有効)。但し、第二版(1964)以降上記に加えて、ステレオ溝の場合は録音時チャンネル間1kHzで1dB、50Hz−10kHzで±2dB以内の偏差に収めるように勧告しているだけです。尚、放送用ディスク(transcription)は50Hz−10kHz間±2dB以内の再生特性許容量規定(F12.2)がありました。市販レコードの再生カーブ特性はE11.2で録音カーブの逆特性として提示されていますがその偏差許容量は規定されませんでした(機器の要件は規定できてもユーザーの好みや環境は規定できない)。残念ながら私の耳の左右感度と周波数感度は標準的ではありませんが、それでも音楽を楽しんでいます。通常、顔の左右が非対称なように、耳道の形や耳穴の大きさが左右均一な人は少ないそうです。


閑話

幻聴その1:雲取山を下山中、薄暗い沢沿いで妙な音を聞きました。小豆を洗っているような音がするのです。足を止めてしばらく聞いていましたが幻聴ではありません。少し引き返してみると聞こえなくなり、その場に来ると聞こえますが、横を向くと又聞こえなくなります。はぁ、これが<小豆洗い>というのだなと得心しましたーこの妖怪が山間の沢や橋の下に出現する理由は特殊な水音[波長の短いインパルス]と狭い空間に起こるフラッターエコーによるものだと思われます。古人の感受性・表現力に感心しました。古人の表現力と言えば、<ミミズの鳴き声>というのがあります。ミミズは鳴きませんので、不思議に思っていましたらある時、ベットの下からいかにもミミズが鳴いていそうな高く細い音(シーシー)が聞こえました。ベットをひっくり返して確かめたら、それはオケラの鳴き声でした。ここ20年以上モグラやオケラを見ていない! 妖怪話で思い出したが、祖父は謹直な人で冗談など言わなかったのに、少年時代に見た妙な話を父にしたという。その話とは、雲の中から武士の行列が押し出しだしてくる<雲の上の武者行列>の話だった。私は入道雲の詩的な表現だと思っていたが、田部重治の「母の郷里」(富山)という文章に同様のものを発見した:「村の或る人が東の方から昇る太陽を見ていると、不思議や、松倉の城跡から具足をつけ弓矢をもつもののふの一隊が、整然と雲にのって枡形の城に乗り込むのを見た」 幕末・明治期には似たような雰囲気が漂っていて、社会不安が象徴的に同じような幻想を生み出すのか?脳は見えるものを見るのではなく見たいものを見るそうです。実体験の記憶も後にその内容を変容させてしまうことがあり、他人の体験や話でさえ自分の体験にすりかわる。私の子供時代にも「雪男の話」が流布していました。今調べてみると「獣人雪男」という映画(昭和30年公開)や講談社・たのしい三年生 タップタップの世界めぐり昭和33年12月号 (ヒマラヤの雪男)などがあったようですが、私はどちらも直接見た覚えがありません。ただその線にそった体験だけは記憶にあります:雪上を大股で歩いた長靴跡が解けると巨大な雪男の足跡に見える!この話を妹にしたら、東京の日赤病院でも同じ頃、たまたま積もった雪に大股の巨大な足跡をつけた悪戯がありそれを雪男が出たと騒いだことがあったという。又、雲の上の武者行列については、平家琵琶(平曲)を子供時代に聞いたとしたら恐ろしい体験として心に残り<雲に乗った武士>のような幻視を生む原因になったのではないかという示唆には「さもありなん」と同感してしまった。

幻聴その2:あるとき高尾山の裏側を歩いていると、能管の笛の音がビョウビョウと聞こえました。ミュージックセラピー=ヒーリングのCDで能管(藤舎雄峰/名生)と鳥の鳴き声など自然音をミックスしたものによく似ていました。下に小屋がありますが、吹いている主は見当たりません。これはやはり幻聴の類だったのか?山などで周りに人がいないとき幻聴を聞きやすいそうですが、最近のテレビで山で試し吹きをする笛製作者がいることを知りました。虫の音や野鳥の声のレコードでは人間の演奏と競演している錯覚を覚えるものもありました。家で飼っているキリギリスはバイオリンの独奏を聞かせると良く鳴き出しますーこれはこの虫の性による感応なのかあるいは人間側の感応なのか?盂蘭盆会、知らぬ顔して啼くキリギリス。梅雨の晴れ間に勢いよく啼きだすキリギリス。人間の様々な思惑よりも悟りに近い虫たちの行為。郊外の我が家では日没前にはツバメが、日没直後には蝙蝠が飛んでいるのを再発見しました。子供の頃はよく見たのですが、大人になり勤め人になってから忘れていましたー現在隠居して毎日が日曜日の身分になってからいろいろ再発見しています。蝙蝠や、お前の棲みかは何処にある?

幻聴その3:ブラームスのチェロソナタ第ニ番の第2楽章中のフレーズがドボルザークの<わが母が教え給いし歌>にそっくりです。同時代で親交もあったのですからこれは盗作ではなく、自然にそうなっているのか?クラシックの作家はそんなことに頓着しないようです。自分の旧作の焼き直しをいろんな作品に取り混ぜるのは当たり前だった。そういえば二人ともジプシーの歌というのを作曲していた。ジプシーは国籍の無い漂流民で日本の山窩を連想させます。Mozartの『音楽の冗談/村の楽師』の曲想はシュバーベン地方の僧院バロックの作曲家Joseph Lederer(1739−1796)のミサop.4(1785年出版)第五番「Benedictus for Soprano, Organ & Orchestra」のパロディのように聴きました(それを指摘した記事が見当たらないので私の個人的な感想ですー元のSopranoのパートをホルンに置き換え)。パロディは元の作品を知らなければ成立しない事を痛感します。忘れられた音楽がたくさんある。レコードはそのような過去を発掘する手蔓でもあります。

幻聴その4:埃を被ったレコードを手にしました。ジャリジャリの中から音が聞こえます。摩擦*も多いので一部で針がワウを拾います。それでもエタノールや針で掃除しながら<なかなか味がある>じゃないかと感じていました。しかし溝のゴミを取って綺麗にすればするほど<普通の音>になり、掃除しながらきいていたときの<あの味>もゴミと一緒に雲散霧消してしまいました。平素聞く音量も日々大きさが違って聞こえるのは異常なのでしょうか、それとも集中力(はじめて聴くときには一般に高い)の違いや思い込み(記憶による偏向)によるものなのでしょうか? 霧雨の中で裏丹沢を登山中、ある場所に<立ち行ってはいけない神聖な美しい場所>を感じました。後日晴天の中で同所を訪れると神聖なるモノは既に消え失せていました。神韻縹渺(芸術の心趣は幽玄=とらえどころがない)と言う言葉もありますね。註*:通常のワウの原因は回転数の変化よりも針が溝上をスムーズに滑らないことにより針の縦方向の動きに変化が起きることの方が多いと思っています。

幻視その1:2005-2008年若葉台の造成地で雉の鳴き声をたびたび聞きました(ゴルフ場+多摩弾薬庫跡地の藪がサンクチュアリになっているようです)。駅周辺の造成期間には藪キリギリスと本キリギリスの鳴き声も盛んに聞こえました。2009年春のある朝、コープの傍のマンホール脇に狸が死んでいましたー帰り道に同所を通るときには居なくなっていたので狸寝入りだったのか?雉は暢気な鳥で大菩薩峠の登山道では先導するように歩いていました。立川の昭和記念公園でも雉がたびたび目撃されるそうです。

知人の葬式に出るついでに鹿島神宮周辺を散策したのですが、奥宮から要石方面に向かう途中で私が佇んでいると老人からいきなり声を掛けられました。「ここは東北征伐の前線基地だった」というのです。まさに私が「初期の神社は砦ではなかったか」と常々思っていた事と一致して驚きました。よほど私が間抜け面をしているのか由緒ある場所で佇むと何者かが現れて昔語りを聴くことが度々です。

感じたこと→事実の理解→意見の形成の間には極めて不確かな要素が介在します。同じものを見聞きしても人によって理解や感じ方が違うものなんですね。それが人間の面白い所か。


遺産としてのレコード保存

過去のレコードを正しく後世に伝えるためのフォーマット変換についてAESでもいろいろ議論がなされ始めたようです。

ドイツのミュンヘンで2002年5月に開催されたAES第112回集会でReport of the SC-03-02 Working Group on Transfer Technologies of the SC-03 Subcommittee on the Preservation and Restoration of Audio Recordingがなされたようですが、以下のような初歩的な調査研究にとどまっています。 

  1. Minimum Set of Calibration Tones for Archival Transfer (委員の一人から提案があったが無視)

  2. Test Methods and Materials for Archival Mechanical Media(EMIのSP用テストレコードの再発や他のテストレコードから有益なバンドを集め再カットプレスする計画)。これについては2007年進展がありました。77.92rpmのEMIのSPテストレコードの内容をシェラック盤ではなく塩ビ盤で復刻したと当事者の一人George Brock-Nannestad氏から直接メールがありました。驚くと同時に、この希少(2枚一組限定500セット)高価(百ドル以上)なテストレコードを買ってもらえるとの思惑なのかと勘ぐってしまいました。前述のSean Daviesもcutting engineerとして製作にかかわっているそうです。コスト面で報われない仕事をしているとも述懐しています。尚”We are considering to create further types of calibration record, and this would permit us to choose any practical rotational speed. For instance, from 1932 to ca. 1935 British Broadcasting Corporation (BBC) had an in-house standard of 60 rpm.”との由ー続編が期待されます。    http://www.aes.org/publications/standards/calibration.cfm

  3. Rosetta Tone for Transfer of Historical Mechanical Media(進展がないので中止)

  4. Analog Transfer of Audio Program Material(これも進展がないので中止)

  5. Styli Shape and Size for Transfer of Records (検討中)

  6. Compilation of Technical Archives for Mechanical Media (別な方面で検討)

コピーとしてふんだんにあるLPレコードよりもラッカー録音原盤やテープの保存の方が緊急の大事のようです。

UNESCOの依頼でIASA (International Association of Sound and Audiovisual Archives)は2003年184カ国の関係機関にオーディオ・ビジュアル記録の保存状態の調査[3段階分類:良好・一部劣化・明白劣化]をしました。一回きりの調査でその内容は100%信用できるものではないとしながらも、各媒体の経年変化の傾向を示す調査結果[表]として以下のように示されていました。劣化は外見の損傷だけでなく従来の機器でそのまま再生できない状態にあることを意味しています。日本の20の機関に調査依頼書を送ったのに一つも返事がなかった事実には驚くと同時に日本では技術面に注目し如何に文化面とその保護に無頓着かを思い知らされますーとはいっても184カ国2093機関のうち返事があったのは42カ国118機関だけだったそうです。

記録メディア種類 機関の数 保存アイテム数 保存状態良好 劣化の懸念 明らかに劣化
Cylinder recording 20 43965 14.65% 58.73% 16.62%
Shellac discs 41 614935 95.06% 4.93% 0.02%
Direct cut discs 23 60332 2.84% 35.03% 62.13%
Vinyl discs 55 1855120 88.43% 11.56% 0.01%
Magnet tapes 49 2161941 76.94% 21.28% 1.78%
Recordable CDs 48 193062 86.94% 9.95% 3.11%
Audio CDs 52 1128400 95.36% 4.58% 0.06%
R-DAT digital tapes 29 198477 45.40% 27.85% 26.75%

Direct Cut Discとは主にラッカー録音原盤[通称アセテート盤]のことです。ラッカー録音原盤はアルミ板などの基材の上にニトロセルロース・ラッカーを塗布したもので、基材と塗布面の膨張率の違いにより、経年変化でラッカー面が収縮しひび割れが生じやすいそうです。それらオリジナル録音のフォーマット変換による内容保存が急務とされています。そこからコピー・プレスされたシェラック盤とビニール盤の方は保存年数の割りに劣化が少なく<どうやっても再生できない>酷い状態にならないことが分かりますーそこがデジタルとの違いかもしれません。
注:アセテート盤というのは誤解を招きやすい用語です。プレス目的で録音するラッカーマスターに塗布されていたものはアセテートではないからです。アセテート盤は簡易録音再生ディスクで、メッキ処理をしてプレス(大量コピー)する必要のない盤(instantaneous recording)で数回再生できるー製作依頼者(確認)やラジオDJ(宣伝)や評論家(拡販)に渡されたそうです。テープ録音以前(1934-1950年代)一部のラジオ局やスタジオでも経済的理由からアセテート盤を使うことが多かったそうです。正式な録音ではなくテストに使われたものなのでその音源は一般に市販される物と異なる(オリジナルDirect Cut)ので一部のコレクター間では貴重なものとされています。カセットテープが出てからは本来の需要はなくなったのですが、最近はDJ mixdownや個人的記念としてアセテート盤(dubplate)を作るのがトレンドになっているようです。アセテート盤を作るサービスだけでなく、VestaxのカッターVRX-2000/東洋化成のHarmodisc(製造中止?ー日本とヨーロッパで特許公開までで特許取得に至らず:ラッカーではなくアクリル樹脂や塩ビ樹脂による硬質ディスクJP2001-34901, JP2001-93101 & EP1117090)と同様のものを提供する会社もある(スイスのVinyliumなど)。IREのInstitute News and Radio Notes1941年5月号では"About 1928, instantaneous recordings came into use and four years later plastic lacquer-coated discs were introduced"となっている。David L Morton JRの"Sound Recording"(P.97)では"Presto bragged that it was selling half a million blank discs per year by 1937. While a lacquer-based coating would eventually replace true acetate, the name "acetate" remained in use in recording industry through the end of disc era in the late twentieth century"と説明されています。家庭用録音機やdictating machineは各種のプラスチックがコーティングされたディスクを使っていました。現在のdubplateに実際にacetateが使われているかは疑問ですが、プレス用途のラッカーマスターより耐久性があり5回くらいまで再生可能とされています(VinyliumとHarmodiscは100回以上再生可能と謳っています)。同じラッカー盤でも硬さと耐久性の違うものがいろいろあるようです。サファイアのカッター針を加熱して録音するFairchild Thermostylus Systemのレポート(米国Audio Engineering 1950年7月号: Heated Stylus Recording Technique)によると、質問者「再生回数を増やすためにもっと硬い配合のラッカーディスクを使うことができるか?」回答者LeBel of Audiodisc「必要なだけ硬いラッカー盤は作れる。加熱した録音針を使えば確かに硬い盤もカットできるが、そのためにはディスク製作システムを一新しなければならずそれがネックになるだろう」  つまり原盤には用途とコストによりいろんなプラスチック組成がある。磁気テープが登場する以前はinstantaneous recording(通称アセテート盤)など簡易原盤が放送に多く用いられ、最初からプレスし販売する場合にはラッカーディスクが使われた。先に引用した本の中でMorton Jr.は次のように述べています:”Another reason for the acetate disc's success was related to its low cost. The economics of transcription recording were similar to the economics of making regular phonograph records. A wax master transcription disc could cost $100-$150. Once processed into a master stamper, the master could be used to make copies that cost about $1.25 to $2.00 each in quantity. Because of the expense, it was unusual for studio or a radio station to make transcription recording unless it was going to be duplicated in quantity for wide distribution. The acetate disc, by contrast, cost little to buy and could be used once or duplicated in quantity. This was a important difference." 

既に実用化されているレーザータイプのSP/LPプレーヤやエジソンのシリンダーを読み取る試作機はその使用が限定的で音溝を追って読み取るのでコピープロセスに時間がかかりすぎる欠点があるので、読み取り修復の方法は一括画像スキャン又は写真でフィルム化してから処理する方法が内外でいろいろ研究されています。溝の3次元スキャンも研究されています。永続的で簡便なバックアップ保存媒体はどれ(ネガフィルムかマグネットディスク/テープか光ディスク)なのかは現時点では未決定です。
邦文の関連文書としては2004年日本音響学会誌に早稲田大学研究グループが発表した「レーザー光全面読み出しによる蝋管・レコードの再生」がある。 2006年にも「音文化財のあるがまま記録・伝送に関する研究」がありました。明治時代のポーランドのピウスツキによるアイヌ伝承の録音蝋管が再発見されたことを契機に北大で光学式蝋管レコード再生装置の開発(1983年)が行われたのが先端技術を音源保存の面に応用する発端でした。

2004年IASA-TC 04 Guidelines on the Production and Preservation of Digital Audio Objectsでは”Discourages the use of CD/DVD recordables for institutions that cannot afford complex testing”としています。CD-Rの耐久性や記録読取精度について信頼が置けないのは上の劣化表にも表れています。又”Data and audio specific storage technology: File formats to be preferred over audio streams (R-DAT, CD-DA)"と記述しています。CD-DAは最初の内周が読めないと全く再生できなくなる危険があるからでしょうか?<CD-ROMとは異なり、CD-DAではセクタに対するアドレス情報が存在しない>そうですーこの辺私にはさっぱり分かりません。pre-emphasis curveが確定できない場合には圧縮しないwave fileにあるがままデジタル録音〔例えば24bits/96kHzサンプリング]し、後で再生する時にde-emphasis equaliser curveを按配(アンバイ)することなども提案されています。

AES SC-03で副議長をしたDietrich Schullerを主幹とするPhonogrammarchiv(オーストリア学士院の音声・画像アーカイブ)も保存修復についての論文を多数発行し、貴重な音源の複製作業もしています。上記IASA-TC 04ガイドラインの作成にはKevin Bradley(キャンベラのオーストラリア国立図書館)やウィーンのSchullerやデンマークのGeorge Brock-Nannestadなどが寄稿していますーまさに国際的な取り組みがなされています。さらに2006年にはKevin BradleyはUNESCOのMemory of the World Programmeの技術部会に"Risks Associated with the Use of Recordable CDs and DVDs as Reliable Storage Media in Archival Collections - Strategies and Alternatives"を提出しています。http://unesdoc.unesco.org/images/0014/001477/147782E.pdf 記録媒体は日進月歩で価格も安価になる可能性があり<永続的で簡便なバックアップ保存媒体が最終的にどれになるのか>を見定めることは難しいようです。文化財としての音源が日々朽ちていく一方なのでとりあえずデジタル中間媒体にバックアップ記録することも大事ではないかと思います。


AES関連文書

AESのサイト(http://www.aes.org/aeshc/pdf/standards.activity.before.1982.pdf)は1982年までのオーディオ関連の標準化の歴史を語っています。米国内の部分はAmpexにいたJohn McKnightが記憶ではなく文書にもとずいて叙述していますが、以下の部分に興味を引かれました。

 
  • NABが1941年に発表(IEEEの前身IREの1942年文書):33.3回転と78回転、縦記録と横記録の10-16inchの放送用ディスクの規格を作ったが米国の規格としては全面的に採用されなかった。1953年にはテープの規格も作ったが米国規格にならなかった。

  • AESが1954年出版したTSA-1-1954にて現行の横記録の再生特性規格を決め、それが同年RIAAによって<録音再生特性>として採用された。RIAAのドキュメントは番号も日付けもないものであるが、後に妥当な改定日を付され"Bulletin No. E1"とされた。(1954年のTSA-1-1954の内容はネットでは確認できませんでした)

  • NABが1964年レコード録音再生規格を改定、1965年にはテープの規格を改定。

  • 残念ながら各産業団体(EIA/RIAA/NAB)による諸規格の多くはその成り立ちの背景の記述を欠いており日付けのないものもあるので歴史的に位置づけることが難しい。

RIAA のBulletin No.E 1(録音再生等価特性)は見たことがないのですが、ネットRIAA Dimentional Standards (aardvarkmastering.com)で拾ったBulltin No.E 3:STANDARDS FOR STEREOPHONIC DISC RECORDS (October 16, 1963)、E 4:Dimensional Standards for Disc Phonograph Records (日付けはないがE3でE4を参照しているので同じ頃)を見ると、上記のE 1も同じ頃RIAAがその特性をステレオレコードについて再確認したものです(Bulltin E 3 C. Characteristic)。RIAAカーブはモノラル時代に規定されたが、RIAAの文書は内部文書(回報memorandum)の印象を受け、他の公式文書と同列には扱えない代物のようです。1978年のRIAAの文書はE4にE1を追記したものになっており内容的にはBS1928(1965)とそのAmendment slip(1972)を追従しているように感じます。しかもそのdB表示には揺らぎがあって納得できません(私のエクセルファイルVarious Phono Play-back Curvesの最初のシート末尾参照)。

LP/SP共用目的でAESが発表したといわれている1950年末頃のAES規格についてMcKnightは言及していない。Galo氏は<AESが承認した>録音特性という微妙な表現をしている。元来はCCIRと同様に折衷的再生カーブとして提案されたものを、一部のレコード会社が録音にも適用しただけ。後の多くの引用者はAESの暫定的な主意を無視し、勝手に規格に昇格させてそれが一人歩きした格好というのが真相らしい。AES Standard Playback Curveは1951年1月詳細に説明されています。 www.aes.org/aeshc/pdf/how.the.aes.began/aes_standard-playback-curve.pdf    「録音カーブではなく再生カーブを定義したのは標準化委員会側の思慮に基づく」とありますが、規格と現実の様々なレコードを折衷しなければならない苦慮だったようです。NABの極端なtopliftを訂正しturnover 400Hz roll-off 2500Hzとし、turnover 325Hz-500Hzで録音されたレコードの再生にほぼ適用できるとしている。low limitはNAB同様に規定されていません。"The new standard playback curve, if accepted by the Recording Industry, can achieve at long last a common platform for the reproduction of all recordings regardless of speed, groove dimensions, or manufacturer."と締めくくられています。

米国Audio Engineering Society(1948-)とAudio Engineering Magazine(1947-Jan 1954)/Audio Magazine(Feb 1954-)の関係を最近知りました。このAUDIO誌は専門技術解説だけでなく、新製品のレビューなども含む物で、日本には同じような趣旨の雑誌は見当たりません。日本オーディオ協会もAES日本支部も年史や協会誌を発行していますが一般には知られていません(Hobbyist=アマチュアの部外者=non-memberには閉鎖的な体質です)。部外者である私はネット検索を通して一部拾い読みすることがある程度です。

Fisherの共同設立者のVictor Brocinerは50年代初めからBrocinerというブランドでアンプやスピーカシステムを発表していました。1954年(モノラルLPの時代)のPhonograph Preamplifier-EqualizersモデルA100はturnoverとroll-offを個別に切り替え24パターンのイコライザーカーブを得るものでした。当時のチラシには"Includes new proposed standard NARTB-ORTHO-RIAA-AES curve"として共通のroll-off(10kHz-13.7dB)が示されていますが実際には-12dBのポジションで代用したものだったようです。このroll-offをグラフ上はNARTB= ORTHO= RIAA= NEW AESとしていますので上記McKnightの言うように新規格として1954年当時ほぼ各団体共通になったのは事実のようです(New OrthophonicとかNEW AESとかNEW NABと呼ぶのは各団体の勝手)。それでもAUDIO MAGAZINEの1962年9月号に”Phono curve data for Indolent engineers"(怠慢な技師のためのフォノカーブデータ)と題した文章があるのには笑ってしまいます。同年8月号には”Measuring and matching the phono equalization curve"(再生カーブ測定と組み合わせ)の記事もあります。

Audio Engineering Magazineには読みたいものが沢山ありますが特に以下の記事に興味があります(何方かロハで協力してくれないかなと虫のいい希望を抱いております)

  1. Recording Characteristics by McProud in Dec 1949 & Jan 1950

  2. Phonograph Reproductions by McProud in Feb/Mar 1950

  3. Crossover Filter for Disc Recording Heads by H E Roys (RCA) in June 1949

  4. Recording and Fine-Groove Technique by H E Roys (RCA) in Sept 1950

  5. Evolution of a recording curve by Moyer (RCA) in July 1953

  6. Disc Recording for Broadcast Stations by Mahoney in April 1949

追記:  https://worldradiohistory.com/index.htm Audio Engineering Magazine(1947-Jan 1954)/Audio Magazine(Feb 1954-)のバックナンバーがpdf化されて読めるようになりました。早速Evolution of a recording characteristic by Moyer (RCA) in July 1953を読みました。A discussion of the reason for the existence of "recording curves" and a presentation of the official specifications for the "New Orthophonic" curve currently used for RCA Victor records and well on the way to universal adoption of all record manufacturersという副題がついており後のRIAAカーブと同一のカーブです。いかにして1953年New Orthophonicに至ったかを録音の歴史と新技術の登場を絡めて解説しています。

McProudの一連の寄稿(1949年12月号から1950年3月)は自作の真空管コントロールアンプの設計に関するもので通称AESカーブとは無関係でした。"It is believed that the present design is satisfactory for general use in the home and that record reproduction is superior to much that is heard from many radio stations". 当時のラジオ放送局のレコード再生の大半が再生カーブに無頓着な音質だったことも窺えます。

因みに上記AUDIO誌にRIAAカーブが初めて登場するのは1954年5月号(Heathkit Preamplifier Model WA-P2)で"including the recently adopted RIAA recording characteristics now being used by major companies on recent release"とあります。同年8月号Harman KhardonのレシーバーFestivalシリーズ、9月号Altec A-339A Melodist Amplifier、The National Company's Horizon 5 preamplifier、Bogen DB15C等の製品紹介及び"Versatile Control Unit for The Williamson"の記事と続きます。9月号にはRIAAイコライザーカーブを念頭においていないプリアンプの設計も混在しており、再生機器でRIAAに対応し始めたのは主に1954年後半だということが分かります。当時イコライザーが要らない圧電形カートリッジ(従来のクリスタルに代わってセラミック素子を採用したTITONE/SONOTONEが1953年秋発売)が主流でイコライザーを云々するのは一部のマニアだけで、今では考えられないほどトーンコントロールが多用された時代でした。最近の傾向はソースダイレクトとか称して入力変換と音量調整ボリュームしか触らないユーザーが多いと感じます(私も億劫で触らないことが多い)。アンプがフラットと音質がフラットとは異なる問題なのですが。。。

合唱指揮者で「読者の声」を担当したEdward Tatnall Canbyがオーディオ雑感(Audio Etc.)の題名で1955年前後AUDIO誌に寄稿した文章が面白い。特に1955年1月号。読者と共に是々非々で素直に考えています:「何故再生レンジの狭い装置の方が音が良いと感じられるのか」など。ピックアップ周辺の静電除去装置などgadget(あまり役に立たない目新しい仕掛け)についても提灯記事では無く本音を書いています。カートリッジの小型化とシェル周りの変遷について当時の状況が垣間見られます。真っ当なオーディオ評論に感心しました。


日本でのLP製作

RIAJの「日本のレコード産業界の歴史」(pdf)を読むと面白い記述があります(2002年の60周年記念誌39頁〜51頁)。
1952年11月日本蓄音機レコード協会「レコード製作基準」制定
1955年塩ビ材料の国産化に成功
(これ以前はLP材料や盤そのものを輸入しなければならなかった。Vinyl Environmental Councilの年表を参照すると:1953年乳化重合8社が撤退、懸濁重合11社の方向へ。1955年6月 「塩化ビニル樹脂試験法」でJIS(K6721)制定。レコード用レジンが完全国産化)
1956年10月ディスクレコードJIS制定 
1958年10月レコード各社JIS表示許可工場となる
 同年12月基準ディスクレコードJIS制定
 同年RIAAが45/45Stereo規格を採用
1967年2月ステレオ基準ディスクレコードJIS制定
1969年4月日本蓄音機レコード協会、日本レコード協会に改称

英(BS1928は1955年)、米(モノラルLPの録音再生がRIAAになったのも同じ頃)の情勢からJISのLP用イコライザー規定は最初からIEC/RIAAと同じだったと思います。モノラル時代の基準レコードとはC5507(1958年発行1971年廃止)のことで1967年にはステレオ基準レコードC5514(1977年最終改定1984年廃止)に発展移行したようだ。最近C5507に準拠する東芝EMIの基準レコード入手しましたーその報告は別ページへ。

JIS S8502-1973(ディスクレコード)の解説文の前書から以下引用します:
「JIS8502は1956年10月制定以来JIS規格としての整備充実(1958年10月、1959年10月)のほか、ステレオ・レコードとグルーブガードの規格化(1962年11月)78回転レコードの生産打ち切りによる削除と自動演奏機の普及に伴う関連項目の整備(1966年2月)17cm45回転レコードのグルーブガードの復活規定(1969年8月)などを改正主眼として内外レコード市場の急激な変動に対処するため計5回の改正が行われた。この間、常に国際的な互換性を要求される商品であるところからIEC規格に近づける一方JISマーク表示品目としての立場から特に規定された品質関係項目について合理化する努力がなされた」

上記の「JISマーク表示品目」とあるのは何かの勘違いか、ともかく「電気かみそり」などと違いレコードは現在該当品ではないようです。RIAJの「レコード各社JIS表示許可工場となる」のほうが意味合いとしては正しいようです。規格も結構怪しいもので、JIS本文と解説文の著作権は別なのだそうです(本文=原案起草団体/解説=主な構成者)。つまりレコード盤に押されているJISマークは「個々の品質保証ではなく、JIS規定を満たすことができる工場で生産された」ことを示しているようです。だから規格外の不良品にJISマークがあったって不思議ではない? そういえばCDのJIS規格S8605はあるけれど、CDのディスクにはJISマークがない!

日本蓄音機レコード協会「レコード製作基準」制定とはハード面の規格ではなく、放送コード、映倫と同じく、歌詞の内容やジャケットの画像の規制をしたものと思われます。70年代のフォークの人たちのレコードがその歌詞によって発禁になったことがありました。


Obscure Time Line of RIAA recording/reproducing curve for LP (as I think)

At the advent of fine groove LPs in 1948 by Columbia Records, they were rushing to modify old NAB recording characteristics at hand by adding bass limit.
NAB curve from 1942 was originally designed for trascription disks and its extreme 100 microsecond pre-emphasis was a subject of discussions even for 78 rpm coarse groove era (see Audio Engineering October, 1947 P.32). Columbia curve was not proper for 33 1/3 rpm fine groove format technically.

Historical order: RIAA (year 1954 unofficial document without date) > BS 1928 (1955) > IEC 98 (1958) >JIS C 5507(Dec. 1958)
(these characteristics for LP are same essentially)

1952 Establishment of RIAA
1953 H. E. Roys from RCA was leading discussions on recording curve

        W. S. Bachman from Columbia joined in RIAA
        R.C. Moyer's article (Evolution of a Recording Curve/"New Orthophonic Curve" of RCA Victor)
        in Audio Engineering July 1953 suggesting "well on the way to universal adoption by all record manufacturers"
        According to NAB(1964): They introduced NARTB Recording and Reproducing Standards (June 1953) =later RIAA curve.    
        Each organization would like to say they were first. NAB document might have suggested when RIAA curve was being settled.
1954 February: The Engineering Commitee of the Record Industry Association of America finally decided to
recommend RIAA curve (High Fidelity Magazine 1954 March P.50: After Five Years: Uniform Equalization)
Accordingly from 1954 RIAA recording characteristics being used by major record companies
Much later in stereo age (October 16 1963) RIAA issued Bulletin No. E1 as reconfirmation that
their equalization curve for lateral recordings was applicable to stereophonic recordings (Bulltin E 3 C. Characteristic).


In other words, the adoption of RIAA curve proceeded one by one
1. settlement of discussions inside RIAA (1953): uniform curve based on "New Orthophonic Curve" of RCA Victor
2. recommendation of curve approved by the Boards of Directors for RIAA (February 1954)
3. major record companies (from 1954)

4. reproducing equipment suitable for RIAA was developed mainly from the late 1954
5. users at the time gradually and reluctantly until stereo age around 1958 (RIAA curve became only one for stereo LP).

Then popular ceramic cartridges were not requiring equalization and usual user would not care about equalizations.

About standardization of esp. reproducing characteristics

IEC 98 (1958) Appendix (complete text already shown above) told the problems of commercial records:
"If the whole of the replay equipment could be specified this would present no great difficulties, but in the case of commercial disk records, once again, it is not so simple. In the first place it is of little use to standardize the response of all reproducing amplifiers if they are to be used to feed widely different loudspeakers yet, in practice, it would clearly be impossible to standardize the complete replay chain including the loudspeaker, the cabinet and the surroundings. Moreover, all normal equipments are provided with a tone control so that the user can adjust the response over a wide range to suit individual taste and listening conditions. Indeed, while the user does desire to have some uniformity (*1) in the characteristics of the records he buys he will continue to insist on being able to vary the replay characteristic according to mood and circumstance."
*1)Uniformity of recording characteristic does not, of course, mean that all recordings, even a single performance,
either should or would sound alike. One maker may wish his records to sound "mellow" and another not;
one may prefer one balance of the high and low frequencies and another a different balance.
Uniformity of recording characteristic ensures that these intentional differences do appear as corresponding differences in the records."

IEC98-1958: E12 (commercial disks) Recording and Reproducing characteristic tolerances:

    E 12.1 Recording characteristic tolerances. Over the range from 50 Hz to 10 kHz records shall be recorded to conform to a smooth curve lying within +/-2 dB of one of the characteristics defined in Clause E11.1 taking as reference point the value at 1 kHz.

    E 12.2 Reproducing characteristic tolerances.  No tolerances are specified since commercial disk reproducers normally contain a tone control which may vary their frequency characteristics over a wide range.

IEC's attitude about tolerances remains unchanged essentially through 2nd edition (1964) and 3rd edition(1987).

Situation was much different from current trend: touching on volume or input knob only and not on tone control,
while flat outputs from amplifier are not equal to flat sound in respective room acoustics. We are used to discuss equipment without questioning replay-chain, room acoustics and personal taste.


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