オリンパス事件に見るニッポンムラ社会の深層心理オリンパス事件の追跡はこのへんでひと休み。その前に、この事件の激震による地殻変動で現れた断層を見てみましょう。
大手メディアが追っかけ記事を細切れに報道する中で、だれもが問いたいのに、ニッポンメディアが口にしようとしない疑問がありました。それは、もしもFACTAの調査報道がなく、したがってそれを読んで真相を追及しようとしたウッドフォード氏がいなかったら、そしてまた、海外メディアが彼の解任劇を報道せず、英米の捜査機関が動かなかったら、いったいこの事件は事件になっていたのだろうか、という素朴な疑念。
つまり、今回の事件は表沙汰になったために、三面記事ではなくて、国際的な事件として認知されたけれど、もしもフタをされたままだったら、だれが「被害」を被ったのだろうか? 不正取引が発覚しないでいたら、取締役会は安泰、株価も安定、株主も安心。指南役の証券マンはしこたま儲けてとんずらし、名前だけ(かどうか知らないが)で余禄を貪っていた社外取締役も人知れず蓄財ができていた、はず?
いったい、だれが損をして、だれが迷惑を被ったのか? 表沙汰にならなかったら、みんながハッピーだったのではないか?
げんに、オリンパス首脳陣は消火活動に必死だったし、ニッポンメディアも、積極的か消極的かは別として、それに協力していたようなフシがあります。
ここで、同時にメディアをにぎわせた大王製紙の借入金スキャンダルとの共通点が浮かび上がります。イケメン風の顔立ちの前会長が、以下の書き出しと結びで、幼稚な内容の「詫び状」を発表していました。
法を犯したことではなくて、「騒がせた」ことを詫びる文脈になっています。逮捕理由はなんだったのか、理解していないようです。まあ、どうせ他のスタッフが書いたものでしょうが、この世間を「騒がせた」こと、「ご迷惑をかけた」ことを詫びる作文が、当たり前のようにメディアのスタンダードになっていることにあきれます。この度は、私と大王製紙株式会社の関連会社との借入問題に関しまして、世間の 皆様を大変お騒がせいたしておりますこと、心からお詫び申し上げます。 (主文略) この度の私の不祥事について皆様に多大なるご迷惑とご心配をお掛けし、お騒がせ いたしましたことを重ねてお詫び申し上げます。 『逮捕の井川前会長が「お詫び」 「借入金の殆どをギャンブルに使った」「カジノで儲け深みに」…』 産經新聞 2011.11.22 13:07両者とも、表沙汰になったことで、世間に迷惑をかけた、ということは、表沙汰にさえならなければ、だれも迷惑しない、ということの裏返しの心理ではないか。これが露になった「断層」から見えてきます。
その断層が問いかけているのは、法と正義の意味。欧米では、不正をはたらいて法を犯したものを裁くことを、「正義をおこなう」という言い方をするときがあります。不正と迷惑とは全くの別物。不正を暴き、正義を掲げるのが本来のジャーナリズムの役割のはずですが、ニッポンメディアは統治者の犬のように吠えることがしばしばです。
いまや、ニューヨークまでウッドフォード氏を追っかける、みっともないニッポンメディアですが、かんじんの不正支払い疑惑の核心には迫る用意があるのかどうか。
日本に在住していないために取材もされずにいたファンドの中心人物に、ニッポンのメディアではなくて、ロイターが接触したことを報じています。
また、オリンパス高山社長は29日、「ガバナンス体制チーム」を立ち上げると発表しました。『オリンパスM&A仲介の中心人物、中川氏を香港で確認』 ロイター 11月28日(月)6時36分配信 記者は建物の前で取材を試みたが、中川氏は記者に対し「ここから出て行け」と 何度も叫び、会話を拒否した。また、マンションの管理人に「この者をここから 追い出してくれ」と依頼。記者がM&Aで得た高額な手数料の行方について質問 したところ、中川氏は管理人に「警察を呼べ」とだけ告げ、足早にエレベーター に向かった。それをニッポンメディアは「一連の不祥事の原因は、不十分なガバナンスにあると見ており、社内外の意見を踏まえながら、企業の再生案を描く構え」(産經新聞)と伝えています。そういう問題かい? 高山社長は、24日に辞任した3人の役員のしわざと限定したはずなのに、こんどはガバナンスに責任を負わせるつもりかい? 不十分なガバナンスは「不祥事の原因」だったかも知れないが、その「リーダーシップ」のおかげでオリンパスが大きくなれた「成長の原因」でもあったんじゃないのかな。今後の企業不祥事を防ぎ、内部管理体制を強化するための新たなコーポレート ガバナンス(企業統治)の仕組みとその体制作りを検討 「オリンパス プレスレリース」11月29日もし「新たなコーポレートガバナンス」が必要というなら、それはオリンパスだけの問題ではないはず。大阪の市長・知事選での維新組の勝利は、ニッポンムラのガバナンスにNoを突きつけた結果のようにも見えます。
日本では絶滅したサムライがイギリスにYahoo!ニュースのトピックス欄を見るだけでも、オリンパス事件の記事が連日のように次々とアップされています。では、その記事数に見合った展開があったのかというと、ひと月前の10月19日に最初にここで取り上げたときから、問題の核心そのものはまだ解明されないままでいます。それは、得体の知れないコンサル会社に払われた6.87億ドルの金が、だれにどれだけずつどうやって渡ったのか、という疑惑。
そもそも、これだけでも刑事犯罪の可能性が強かったのに、メディアも監督当局も、ことの重大さが分かっていたのか分からなかったのか、穏便に済まそうと、消火活動をしているかのようでした。福島原発事故の対応と似ていると言えなくもない。
第三者委員会なるものをこさえて時間かせぎをさせて、その間にムラの住民たちは落としどころを模索しているのでしょうか。その第三者委員会は、これまでニッポンメディアにリーク情報を流して報道操作をしていたようですが、昨日21日には、調査中でありながら、いきなり「反社会的勢力への資金流出は認められない」と発表しました。
報道をくわしく確認すると、第三者委員会が自分から会見を開いたのではなくて、オリンパスが第三者委員会の甲斐中辰夫委員長名の文書をもらって発表したもののようです。
うまく連携がとれている印象を拭いきれません。上場維持の工作にも見えてしまいます。『オリンパス、反社会的勢力への資金流出は認められない=第三者委』 ロイター 11月21日(月)18時57分配信 オリンパスは21日、企業買収時の資金が反社会的勢力に流れた可能性が あるとの一部報道について「これまでの調査において、かかる事実は認め られない」との文書を第三者委員会から受け取ったと発表した。「一部報道」とはニューヨークタイムズのこの記事のことで、
その中で、証券取引等監視委員会、東京地検、警視庁の三者が最近持った会合で配布された資料により、反社会的組織に資金が流れた可能性について日本の当局が捜査している、と報じたもの。"Billions Lost by Olympus May Be Tied to Criminals" By HIROKO TABUCHI The New York Times November 17, 2011これについて、ニッポンメディアはNYTの記事を紹介するだけで、後追いも、裏付け調査もしていませんが、その最新号でオリンパスの不正人脈を特集している(購読していないので、わたしは読んでいませんが)FACTAの阿部重夫氏はそのブログで、オリンパス人脈図には「そこに組織犯罪(ヤクザ組織)は直接登場しません」、とその可能性に否定的です。
ただ、直接でなくても間接的に組織犯罪が関与していたかどうか、全面的な調査はまだまだこれからでしょう。今分かっているだけでも、2008年のジャイラス買収にかんして、
さらに、計734億円を投じた国内3社の買収にからんでは、アクザム(AXAM)はオリンパスが最後の支払いを済ませた3カ月後の10年7月に 清算されたが、関係者によると、出資者であるOB2人が最終的に百数十億円を 分け合ったという。この「ヤクザ関与」の否定報道にかんして、フィナンシャル・タイムズはウッドフォード氏のコメントも紹介しています。21日に第三者委員会にロンドンで会う2時間前にニュースを聞いた元社長は、捜査にとほうもない時間がかかるものを早々と第三者委員会が否定したことについて、この委員会の信頼性を疑わせるものだ、と批判。オリンパスは09年3月期決算で、3社の株式価値が目減りしたとして、734 億円のうち557億円を損失に計上した。この分が飛ばし損失の穴埋めに流用され、 差額の約170億円がファンドに残ったとみられる。 『オリンパス損失隠し 報酬額は200億円超』 産経新聞 11月21日(月)7時55分配信さて10月19日から変わっていない良いことがひとつ。それは「いつでも日本に戻ってオリンパス再生のために働く用意がある」とのウッドフォード氏の意思。"Olympus panel says no Yakuza involvement" By Michiyo Nakamoto in Tokyo FT November 21, 2011 4:27 pmオリンパスの元専務宮田耕治氏は、ウッドフォード氏を社長に復職させる以外に道はないと訴える、オリンパス社員向けブログを開設しています。
その呼びかけに前向きに応える社員の投稿もありますが、中には、東電のように、社会的に影響が大きいから会社は潰されない、と現行役員とどっこいの社員もおられるようです。<オリンパス再生に向けて、社員が立ち上がるサイト>ウッドフォード氏は23日に来日。捜査当局への協力とともに、なんと孤軍オリンパスの取締役会へも出席する意向だと言います。
これは、日本人が長らく忘れていた正義感と信念を呼び覚ましてくれます。ニッポンのサムライ魂は、なにもスポーツの国際試合のためのものではありません。「同僚たちの目を見て言いたい。私が彼ら(取締役会)を恐れていないこと、 そして真実を明らかにしたいことを」(ウッドフォード元社長) 『オリンパス元社長、第三者委に不信感』 TBS系(JNN) 11月22日(火)12時36分配信
オリンパスの小出し発表にニッポンメディアのはしゃぎっぷり第三者委員会設置による時間稼ぎ戦術も無理があったらしく、オリンパスはとうとう耐えきれなくなって昨日8日、いつものように急遽、高山社長が会見を開き、「損失隠し」があったと発表しました。そして「会見待ち」だったメディアが大喜びで一斉に沸き立っています。
そのメディアのはしゃぎぶりに目を奪われてしまいそうですが、そもそもオリンパスの会見発表の内容にもおかしな点が目立ちます。会見で高山社長は、
というが、損失規模の数字も上げず、90年代という雑な時期特定となっています。ただ「森取締役より聞いた」というだけで、裏付け数字もなしに会見を開くとは、よほど切羽詰まってのことではないか。それと同時に、まだまだ疑惑解明の序の口であることを示唆しているとともに、こんな会見がないとなにもしないニッポンメディアとニッポンの国家ガバナンスの裏側が露になっています。「昨日夕方、当社、森取締役より報告を受けました。その中で、当社が 1990年代頃から有価証券投資にかかわる損失の先送りを行っており、」 【オリンパス損失隠し会見ライブ】 SankeiBiz 2011.11.8 13:01ウッドフォード氏は、オリンパス不正疑惑の資料を英米の捜査当局に送り、この2国はただちに捜査に入るとともに、ウッドフォード氏への聴取なども行っていますが、日本の証券取引等監視委員会も同じ資料を送付されているのに、
資料の提供を受けたら、捜査するしないの決定の前に、まず受け取った旨の返信を出すのが礼儀でしょうに、だんまりを続ける無礼の理由はなんでしょう?「証券取引等監視委員会からも連絡はありませんし、日本の捜査当局からも ありません。私は中心人物なのにですよ。世界は日本を不思議な目で見ると 思いま す。もし不正があって、証拠を保全しようとしても、既に数週間が 経っています。証拠が曲げられたり、(いくつかの疑問は)答えれないままに なるかも知れま せん」(マイケル・ウッドフォード元社長) 『ウッドフォード氏「日本の監督当局遅い」』 TBS系(JNN) 11月9日(水)7時0分配信ニッポンメディアはそれを擁護するかのように、
と言及しているのはいいが、結局は監視委はオリンパスからの「自供」があるまで傍観していたことを伝えています。傍観ではなくて、談合でもしていたのか? 証券取引等監視委員会は「証券界の原子力安全・保安院」と呼ばれないようにしないとね。監視委はこれまで、オリンパスが過去に実施したM&A(企業の合併・買収) について、開示情報が適切だったかなどについて調査を行ってきた。先月14日 に解任された同社のマイケル・ウッドフォード元社長から送付された資料や開示 情報の分析が中心で、当面はオリンパスが設置した第三者委員会の調査結果を 見守る方針だった。だが、オリンパス側が不透明なM&Aの「動機」について、 有価証券投資の損失隠しだったことを認めたため、監視委は長年にわたって 同社の決算で粉飾が続けられていた疑いが強いと判断。投資家を欺くため、 有価証券報告書に虚偽の記載をした金融商品取引法違反の疑いで裏付け調査を 進める方針だ。 『オリンパス損失隠し 証券監視委が本格調査』 産経新聞 11月9日(水)11時25分配信以前、毎日新聞の社説を引き合いに出しましたが、今回もそのウェブ版で公開されているので引用すると、
前回と同じ論説委員かと思いますが、内容も前回の繰り返し。それよりも、問題の発端がウッドフォード氏の解任という事実歪曲までおまけについています。問題の発端は、月刊誌FACTA8月号の記事であって、その展開が、オリンパスとニッポンメディアがそれを無視していたこと、ウッドフォード氏が解任されたときも、ニッポンメディアは調査報道に乗り出すこともなく、オリンパス会見報道に徹していたこと。ニッポンメディアは恥ずかしくてFACTAの名前を出せないでいます。今回のオリンパスをめぐる問題の発端は、マイケル・ウッドフォード元社長の 解任だった。英国の医療機器メーカー「ジャイラス」の買収に伴う投資助言会社 の高額の支払いに疑問が投げかけられた。 (中略) 日本企業のガバナンス(企業統治)が問われており、海外からの疑念を払拭する 意味からも、証券取引等監視委員会や東京証券取引所などには、厳正な対応を 求めたい。 『社説:オリンパス粉飾 不正の根源の解明を』 毎日新聞 2011年11月9日 2時30分
「第三者委員会」待ちのニッポンメディアは恥をさらすことにオリンパス疑惑の調査報道の口火を切って今や海外メディアも注目するFACTA誌。その主幹・発行人の阿部重夫氏は11月2日、そのブログでオリンパスの第三者委員会についてこんなコメントを出しています。
阿部氏のブログ更新は2日の9:38AMと記録があるので、ウッドフォード氏は目を通していないと思いますが、ロンドンの1日夜に時事通信がインタビューした際に、「同日設置されたオリンパスの第三者委員会への不信感を示し、全容解明へ日本の関係当局による捜査を求めた」といいます。『オリンパス第三者委員会はいらない』 FACTA ONLINE 2011年11月02日 実はオリンパス、あちこち第三者委員会のメンバーを探していました。で、 日比谷パークにも声をかけ、久保利英明弁護士はどうですかと言われたそう です。持ち帰って検討した結果が「久保利さんだけは勘弁してください」と 断ったという。それもそのはず、久保利弁護士は東電のていたらくを見て 日本企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)に強い疑問を呈している ので、オリンパスを調べたらカンカンに怒ることは目に見えています。弊誌 10月号でも久保利弁護士のインタビューを載せているので、ご参考まで。 (中略) 予告します。第三者委員会が調査を始めようとした矢先、FACTAの次号で事件 の全貌が解明されるでしょう。第三者委員会は何もしないうちに役割を終える かもしれません。次号でオリンパスに群がったピラニアたちは素っ裸になります。さらに、すでにFACTA8月号でも指摘されていたことですが、
そのITXの社外監査役だった人物が現在オリンパスの社外取締役に収まっています。しかも、野村証券出身者。同じく社外取締役の一人は、日本経済新聞の専務取締役と日経BPの副社長を務めた人物。こういう顔ぶれの取締役会が、ウッドフォード氏に発言もさせずに、満場一致で解任した、という事実をどの大手メディアも、そしてそれにぶら下がってきたジャーナリストたちも、触れることを怖がっているかのようです。2000年に大手商社の日商岩井(現双日)から独立した情報通信企業で、オリンパス が今年完全子会社化したITXについて、「恐らくITX買収が問題の発端だった」と 述べ、同社の買収にも疑念があると指摘。他の案件を含め、徹底した巨額資金の 流れの解明が不可欠との認識を示した。 『ITX買収にも疑念=「第三者委、信用できない」- 早急な捜査を・オリンパス元社長』 時事通信 11月3日(木)2時32分配信
日本語メディアとしてのWSJオリンパス側からの一方的な「記者会見」や「第三者委員会」待ちのニッポンメディアを尻目に、WSJが日本で、日本語で、調査報道を進めています。
ニッポンメディアの中にも、同様な調査取材をしている現場記者はいたはずでしょうが、記事にならなかったことでしょう。これまで、「一部海外メディアの報じるところによると」とか、「英紙が報道した」とか、断りながら海外の他社報道を引用してきた大手メディアは、さて日本発の日本語のWSJ記事を、ソースを明示して追従する姿勢を示すでしょうか? 見ものです。『オリンパス買収の3社、当初休眠状態だった−信用調査などで判明』 2011年 11月 1日 13:55 JST by Daisuke Wakabayashi and Juro Osawa ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版 【東京】過去の不透明な企業買収問題に揺れるオリンパスは2006年、焦点と なっている国内の企業3社に投資し始めた際、3社は売上高がなく、ほとんど 事業履歴もない会社であったことが、商業登記や信用調査報告で明らかに なった。
オリンパス疑惑はメディア疑惑時事通信が、フィナンシャル・タイムズの野田首相インタビュー記事を以下のように伝えています。
ヤフーニュースにはFTの元記事へのリンクがあり、それに目を通すと、時事通信の記事は忠実な訳であることが分かります。野田首相は、民間企業に関して首相が論評するのは不適切かもしれないと断り ながらも、「日本企業1社の出来事が一般化され、日本が資本主義のルールに 従わない国と言われるようになることを危惧する」と述べた。その上で「日本 社会はそのような社会ではない」と強調した。 『オリンパス問題に懸念=野田首相、英紙で表明』 時事通信 10月31日(月)8時30分配信でも、ちょっと考えると、おかしなことに気づきます。まず、この首相の懸念は、10月26日付けのこのコラムで引用した毎日新聞の社説と全く同じなのです。
これは、もちろん首相が毎日新聞の熱心な読者であるからではなくて、この毎日の社説が日本のメディアの気分を代弁しているだけの話です。そして、そのような気分を共有した首相が海外メディアで発信した、ということでしょう。
おかしなことはまだまだ気づきます。ニッポンメディアは、オリンパス疑惑が海外でどのように報道されているかを熱心に翻訳しますが、自国で起っていることなのに、オリンパス疑惑そのものの調査報道はしていないのです。つまり、日本の主要メディアの記事が、FTなりWSJなり、海外のメディアに翻訳紹介されることはありません。つまり、相手にされていないのです。
その点、世界にニュースを配信する通信社はニッポンメディアが伝えない細部も記事にすることがあります。たとえば、このロイターの記事。
他紙が「オリンパス第三者委、公正な人選求める 東証社長」(産経新聞)とだけ伝えているのと比べると、ずいぶんと違います。『オリンパスのM&Aめぐる混乱、残念の一言に尽きる=東証社長』 ロイター 2011年 10月 28日 17:13 JST 東京証券取引所の斉藤惇社長は、オリンパスの過去のM&A(合併・買収)を めぐる混乱について「残念の一言に尽きる」と述べた。28日の定例会見で 語った。(中略) オリンパスは第三者委員会を立ち上げ事実関係を調べる方針をすでに示して いるが、斉藤・東証社長は、第三者委員会の設置を東証が提案したことを明ら かにした。まず、東証社長が「残念」とは、これまたおかしな感想で、常識的に考えれば、「不正があったかどうか、ただちに調査する」というのが立場ではないか。さらに、オリンパスが「第三者委員会」を持ち出して追及をかわす戦術に出たのはだれの入れ知恵かしら、と疑問でしたが、それが東証だったことに呆れます。同じニッポンムラの住人同士ということが、バレてしまいました。
前回27日のコラムでオリンパスの新社長の会見を引用しましたが、あのQAの書き起こし文だけでも「第三者委員会」という発言が、数えたら、35回もありました。疑惑について問われるたびに、答えは第三者委員会待ち、というわけです。
こうしたニッポンの企業とメディアの問題は、WSJがはっきりと指摘しているところです。日本語で。ニッポンメディアは「英語メディア」で日本企業への不信が高まっている、と言いますが、さて、これは英語メディアか、日本語メディアか?
コーポレート・ガバナンスの最大の問題といえば、東京電力だ。(中略) 日本には、経営者に説明責任を持たせる規制の枠組みと文化が欠けている。 オリンパスは時価総額の半分を失った。何が起きたかについてわずかでも真実 を明らかにし、それが一般に示されるべきである。しかし、それに持続的な影響 力は期待できない。これほど派手な失敗でも、日本のエリートが結束して隠ぺい する企業セクターの慢性的な経営ミスに比べれば重要性は低い。 『【社説】説明責任を回避する日本企業 - 問題はオリンパスだけか』 ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版 2011年 10月 27日 15:24 JST
FACTAがオリンパス会見から排除されていた昨日のオリンパス社長交替会見にFACTAが締め出された、とその主幹・発行人の阿部重夫氏が10月26日に自身のブログで暴露しています。「会見場に入れるのは彼らがよしとするメディアだけで、FACTAはその中に入らないという説明だった」と言います。FACTAは今回のオリンパス疑惑を最初に調査報道した月刊誌として、海外メディアでは常に明示、言及されています。
どうりで、会見を伝えるニッポンメディアの記事がつまらないわけでした。ところが、そのブログを会見前に見たらしいロイターの記者が、質疑応答の終わりのほうで、これを質していました。
「分かりません」とは、新社長のガバナンス感覚がぽろっと出てしまいました。それと同時に、記者クラブメディアもグルになっていることが海外メディアにも暴露されたことでしょう。 ヤフーニュースには、FACTAが会見から締め出されたことを報じたJ-CASTの記事が紹介されています。Q(ロイター):トップの刷新で信頼回復ということだが、新社長は菊川レジーム からの決別を標榜するのか。 A:今日、菊川がここにいないということもこの表れだとご認識いただきたい。 私は私自身の考え方でやっていきたい。 Q:その中でもこの会見自体、都合の悪いメディアは入れていないという話もある。 A:私は分かりません。 『傀儡新社長ではオリンパスは立て直せない』 阿部重夫 FACTA ONLINE 2011年10月27日その中で、『疑惑報道の火付け役「FACTA」出席できず オリンパス記者会見の不可解』 J-CASTニュース 10月27日(木)20時22分配信と記者クラブメディアでは報道されない実態を付け加えてから、「既存メディアと癒着とうがった見方も」あるようだ、とこらえた表現をとっています。J-CASTニュースの場合は、事前にオリンパスの広報・IR室に2011年10月26日の会見 出席を申し込んだところ、開始時間や会場について教えられないとの答えだった。 その理由については、明確な説明はなかった。(中略) 弊社では27日の会見についても申し込んだが、今度は記者クラブだけの案内で、 ほかのメディアはお断りしているとのことだった。今後については、「申し上げる ことはありません」とだけ言っている。
英語も障害、日本語も障害 <ニッポンメディア>おととい引用したJBpressの記事は、その後にこう続いていました。
その期待どおり、日経ビジネスは今日付けのWEB版にウッドフォード氏のインタビュー記事を掲載しています。だとすれば、週明けの日経ビジネスが楽しみだ。恐らく月刊誌であるFACTA 以上の調査報道がなされているのだろう。調査報道の権化との触れ込みで 前金で驚くほど高い購読料を取っているのだから。10月20日ロンドンでの「2時間を超えるインタビュー」というので、期待して読んだのですが、内容は表題どおり、たんに解任劇をくわしく語ったもので、すでにFTやWSJの報道で知っていることばかりです。いくつか新事実もあり、たとえば、「(菊川会長に)涙を流してCEO退任を懇願したとの報道が日本で流れているが」という質問に、『オリンパス社長解任劇、すべての真相を話そう 渦中のひと、ウッドフォード前社長の告白(1)』 石黒 千賀子 日経ビジネス 2011年10月26日(水)との答えを引き出してはいるものの、こういう記事なら週刊文春あたりに任せればいいものです。これを読むと、日経ビジネスのうろたえぶりが想像されます。とにかく直接インタビューしなくちゃ、と英語に堪能な副編集長の石黒氏を送ったのはいいけれど、インタビューする目的が明確でなかったようです。インタビューされるウッドフォード氏のほうは、取材を受ける目的をちゃんと「とにかく詳しく話をして真実を世に広めたい」と言っています。そのことばどおり、今日はANNが25日にインタビューした映像がニュースになっていました。「それは、事実ではない。誰かに足でも折られたら涙を流すかもしれないが、 こんなことで私は泣かない」そんななか、今日オリンパスは突然に菊川会長兼社長が辞任したと発表しました。そして会見に出てこない菊川氏は「取締役にとどまる。オリンパスは<不正はない>とし、ウッドフォード氏とは全面対決する姿勢だ」といいます。ここでおかしいのは、それを報道するマスメディアのどれひとつとして、<不正がなかったのなら辞任する必要がないではないか>と突っ込んでいないこと。
問われているのが、オリンパスの企業ガバナンスではなくて、そもそもガバナンス欠如のメディアであることに気づかないようです。
それを代表しているのが、以下の、だれだか分からない毎日新聞論説委員の記事。
事実を取り違えている。日本企業が情報開示で後進国であり、ガバナンスなんて建前でしかないのはすでに世界では知られたこと。日本人だって、東電や九電をみれば分かる。今回はそれだけではない。オリンパスのこの支出疑惑はすでにFACTAがこの夏に日本語で報道していたのに、ウッドフォード氏が取り上げるまで、どのニッポンメディアも無視してきた。そして今になってロンドン詣でを繰り返す始末。けっきょく、英語が障害なのではなかった。そもそも、日本語も障害なのです、ニッポンメディアには。『社説:オリンパス 早く真相を明らかに』 毎日新聞 2011年10月26日 東京朝刊 気がかりなのは、今回の問題が、日本企業の経営風土を象徴する例として 海外で報じられていることだ。事実究明が長引けば、「日本の企業社会は 相変わらず情報開示に消極的で事なかれ主義だ」とのマイナスイメージを 増幅させかねない。
オリンパス報道に見る内弁慶メディアの右往左往オリンパスの不正支払い疑惑は刑事犯罪の可能性がだれの目にも分かるのに、相変わらずニッポンメディアは株価の下落情報だけを報道したり、中には「内紛劇」と呼ぶものさえいて、ただ傍観している気配です。こうした記者クラブメディアは、だれかが「記者会見発表」でもしてくれるのを待っているのでしょう。自ら取材や調査分析をする能力がないようです。
ニッポンメディアがおろおろしているうちに、アメリカではThe New York Timesが、関与した二人の日本人の実名を挙げて、FBIが調査に乗り出した、と報じています。
NYTは早くからヒロコ・タブチの記事でこの事件を追っていましたが、その扱いから、おそらく捜査当局が動くだろうと予想されていました。日本では調査・捜査すべき機関の動きが見えないけど、当事者と談合でもしているのかしら。"2 Japanese Bankers at Heart of Olympus Fee Inquiry" By BEN PROTESS The New York Times October 23, 2011, 9:01 pmウッドフォード氏のインタビュー記事をいち早く報道したのはフィナンシャル・タイムズですが、そのFT記事を、コピー掲載する権利をもらっているらしい日本経済新聞は、いくつかの記事を翻訳掲載しているものの、自ら調査したり論評することがありません。自分の守備範囲である経済界における経営者の犯罪疑惑なのに、経済紙としての分析能力が疑われます。
その日経は、場違いの政治問題には「分析能力」を発揮して、小沢一郎の追い落としには異常なほどの執念を燃やしています。 日経のオリンパス記事にひととおり目を通そうとしてGoogleで検索したら、日経の記事以外に、ほかならぬ日経自身とオリンパスとの怪しげなつながりを指摘するニュースサイトがヒットしました。
マスメディア、記者クラブメディアと呼ばれるニッポンメディアの日本支配は、少しずつガタが出てきています。それらに取って代わる新しいジャーナリズムが台頭してきているからです。『あのオリンパスに「日経ビジネス」が社外取締役 〜JBpressを叩き潰すと言うなら読みたい「敗軍の将兵を語る」〜』 JBpress 2011.10.22(土) 日経グループの場合には、「日経ビジネス」を発行する日経BP社の辣腕副社長 として現在の日経ビジネスの局長以上の人事に深く関われた方が、今年の6月から オリンパスの社外取締役になっている。 それ自体、別にとやかく言うことではないが、オリンパスの事件と時を同じく して、私たちは日経ビジネスの局長に呼ばれ、「JBpressに宣戦布告する」と言わ れた。私たちが無料で高品質な記事を提供しているのが気に食わないのだろうか。
これって内弁慶メディア14日にオリンパスのウッドフォード社長解任のニュースがありました。
なにか臭いな、と思ってヤフーニュースを見ると、そこにフィナンシャル・タイムズのインタビュー記事【原文】へのリンクがありました。最近、ヤフー編集部は海外サイトのニュースソースを取り上げることが多くなっています。オリンパスは14日午前に開いた取締役会で、マイケル・ウッドフォード社長を 同日付で解任し、取締役に降格させたと発表した。社長は菊川剛会長が兼任する。 同社は「ウッドフォード氏と他の経営陣で経営の方向性で大きな隔たりが生じた」 と説明。生え抜きの外国人社長として注目を集めたウッドフォード氏だが、わずか 半年での退任となった。 『オリンパス社長解任 「独断専横な経営」「一刻の猶予もない」と菊川会長が説明』 産経新聞 10月14日(金)13時3分配信解任された当日に東京でインタビューされたものと思われます。その中で、Gyrus買収にあたってEx-Olympus chief questioned payments By Jonathan Soble in Tokyo The Finacial Times Last updated: October 14, 2011 9:40 pmことを明らかにして、このことを調査し始めたために解任されたと思う、と述べています。オリンパスはケイマン諸島に登記されているAXAMというコンサルタント会社に アドバイザー料として6.87億ドルも払っている、 そのAXAMのオーナーが明らかでない、 AXAMはオリンパスから最終の支払いを受けると、その3ヶ月後に消えた、 6.87億ドルという金額は、Gyrus買収価格22億ドルの3分の1にもなる、17日付けのウォール・ストリート・ジャーナル日本版では、さらに「ウッドフォード氏は、日本の月刊経済誌に掲載された記事を読んだことがきっかけで過去の買収案件について疑問を抱くようになったと語った」と伝えています。
その日本の月刊経済誌とは『FACTA』のことで、その記事とは2011年8月号『オリンパス「無謀M&A」巨額損失の怪』。これもヤフーがリンクを掲載しておりました。
ところが、その後のニュースを追跡していると、奇妙なことに気づきます。まず、日本の大手メディアはこれらフィナンシャル・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルの記事を引用しているのに、このアドバイザー料について「支払いが不適切だった恐れがある」と述べるだけで、上記の明細については無言です。これは、買収の判断ミスではなくて、むしろ刑事犯罪の可能性も浮上します。
もっとおかしいのは、ニッポンメディアのどの記者もウッドフォード氏に直接インタビューしないこと。それでいて、オリンパスの日本での日本語会見だけ報道している。いったい、英語でインタビューできる記者ってニッポンメディアにいるのでしょうか。英字新聞まで出している新聞社のグローバル度って、この程度。日本語環境の中だけでいばっている内弁慶、というか、漱石ふうにいえば、こんにゃく閻魔。
BBC News のインタビューでは、社長を解任されて現在は役員のウッドフォード氏は「いつでも日本に戻ってオリンパス再生のために働く用意がある」と語っています。
Ousted Olympus chief Woodford: Ready to revive company BBC News 19 October 2011 Last updated at 06:42 GMT
鉢呂前経産相の辞任誘導報道 その舞台裏ひと月前、「失言」報道で辞任に追い込まれた鉢呂吉雄前経済産業相。そこにクサイ匂いを嗅ぎ取って、「中長期のエネルギー政策を議論する「総合資源エネルギー調査会」に原発に批判的なメンバーも加える意向を表明。すでに人選を始めていたが、後任人事次第では白紙に戻る可能性もある」(毎日新聞 【野原大輔】)との記事を引用して、「原子力ムラにとっては歓迎されない大臣だったことも背景にあったのではないか」とコメントしました。(疑惑の「放射能つけた」報道 9/12)
その鉢呂氏が、上杉隆「ニュースの深層」にゲストとして対談したときの放送がYouTubeにアップされています。
ニュースの深層10/11(火)「鉢呂氏と考える 震災復興とメディア」そこに、あの大手メディアによる「放射能つけた」報道に隠された事実が明らかにされています。さらに、エネルギー調査会の人選については、以下のような経緯と結末だったそうです。エネルギー調査会のメンバーは、鉢呂大臣が自分で人選して、これまでの原子力政策に批判的な人が半分になるようにした。経産省が「3分の1でいいですよね」と言っていたのをはねつけての政治主導。辞任に追い込まれたために、後任の枝野大臣に申し送りをしたが、批判的な意見のメンバーは3分の1になった。一部大手メディアは、鉢呂氏の人選が生かされていると報道しているが、事実は経産省の思うままになっただけのこと。(3/3 の 09:07 から)大手メディアの作為的な報道の実態が、これからも露呈してくるはずです。
ふたたび "Insanely Great"スティーブ・ジョブズの追悼記事は、いまのところアップルに復帰してから発表したiMac, iPod以降、アップルの企業としての快進撃の原動力になった製品への言及ばかりで、マッキントッシュ誕生の奇蹟が語られるようになるのは、まだまだ先のことでしょう。
そのマック誕生を象徴するのは、歴史的なCM作品『1984』ですが、これは以前から動画が流布していました。ところが、そのマックが初めて披露された発表会場の映像記録は、長いこと失われておりました。そして、たとえば以下の著作で、そのときの興奮を想像していたものです。
今回、あらためてYouTubeで捜したら、その「失われた映像記録を2004年に発見、修復した後、2005年1月24日(マッキントッシュ21周年記念の日)に公開した」という映像が見つかりました。スピーカーから映画「炎のランナー」のテーマ音楽、バンゲリスのネオワーグナー風 の旋律が流れ出すと、観衆は再び沸き立ってきた。そして、私がバンドレー3の会議室 でバーバラ・コールキンが持ってきたときに初めて見たのと同じカンバス地のバッグから、 会社の将来そのものを意味し、人類の将来を暗示するコンピュータをジョブズが取り出し た。そして言った。「マッキントッシュに自分でしゃべってもらいたいと思います」 発せられた合成音は、このコンピュータの抱く野心にふさわしく、すばらしいもの だった。「ハロー。私がマッキントッシュです」 「バッグから出してもらえて本当に嬉しく思います」 Steven Levy "Insanely Great" (1994) 武舎広幸訳「マッキントッシュ物語」200ページ)The Lost 1984 Video: young Steve Jobs introduces the Macintosh上記のスティーブン・レヴィの記述とは細部が違っていますが、文面から想像していた会場の雰囲気は全くそのままです。今となってはあまりにも当たり前になっているので、だれも注意を払いませんが、1984年の時点で、白地に黒のモニター、テキストと画像を同等に扱えること、テキストにたいして数多くのフォントを導入したこと、ソニーのカセットディスクを採用したこと、アニメーションばかりでなく音も再生できたこと、そしてもちろんマウス。これらすべてが個人向けコンピュータの革命でした。商業的にはIBM互換機のDOSコンピュータに敗北したものの、これこそが Think different の原点であり、記念碑であり続けたと思っています。
このマッキントッシュはやがてDTPを誕生させて、印刷出版の歴史にも革命を引き起こしました。トッパン小石川の印刷博物館には印刷文化の歴史をたどるプロムナードが(たぶん今でも)ありますが、私が以前訪れたときは、その最後、つまり現代の部には、このちっちゃなマックが展示されていました。
'Death is life's best invention'アップルの創始者の一人で前CEOのスティーブ・ジョブズがなくなったことを知ったのは、iMacで開いたアップルサイトの画面ででした。
テレビのニュースやヤフーニュースで見る記事には、「カリスマ」という時代遅れの形容をしているものがありますが、visionary と呼ばれるべき天才でした。その visionary ぶりを印象づけているのは、2005年スタンフォード大学の卒業式での特別スピーチ。スタンフォード大のサーバーは一時繋がりにくくなりましたが、この動画はYouTubeにもアップされていて、そのうちのひとつはアクセスが急増して、いまや視聴数が650万ビューにまでなっています。さらに、献花のようなコメントが、秒単位、分単位で寄せられています。
このスピーチが今注目されているのは、そこで話された「3つの話」のひとつが「死について」であることも関係しています。BBC News のサイトでも、この演説を背景に使ったアルバムが、もっとも多く見られているページになっています。Steve Jobs' 2005 Stanford Commencement AddressSteve Jobs: 'Death is life's best invention' BBC News 6 October 2011 Last updated at 10:45 GMT
国家が法を破りたいときあまり大きく取り上げられていない重大ニュースのひとつ。
ヤフーニュースには、それを報じたTBS系のニュース動画があります。『被ばく限度:原発復旧期「年1〜20ミリシーベルト」』 毎日新聞 2011年10月6日 2時34分 国内の被ばく線量基準を検討する文部科学省の放射線審議会(会長・丹羽太貫 京都大名誉教授)の基本部会は、東京電力福島第1原発事故を受け、一般住民 の年間被ばく線量の限度について、原発事故などからの復旧期は、年1〜20 ミリシーベルトの間に設定することを許容する考え方を提言する方針である ことが明らかになった。平常時の一般住民の限度は、国の告示などで年1ミリ シーベルトと定められている。6日に開く部会で議論する。国民を年間1mSv以上の被曝から守る、という国の法を反古にしようという文科省の意図が見えます。法を破れば犯罪だけど、犯罪を犯してしまったので法律のほうをを変えようという、とんだ法治国家。昨夜のたね蒔きジャーナルがいち早くこの問題をとりあげています。『被ばく限度で見解「年1〜20mSv」』 TBS系(JNN) 10月6日(木)5時23分配信そのインタビューの最後で、原発推進の旗を降り続けている前原民主党政調会長について、小出氏は「彼はたしか松下政経塾だったと思いますが、幸之助さんが泣いているだろうな、と思います」とグサリ。『20111005 たね蒔きジャーナル 京都大学原子炉実験所助教 小出裕章』 小出:(年間1mSvは)日本という国が、日本に住む人にたいして、これだけの リスクしか与えない、といって決めた数値なんですね、それを、原子力を推めて きて、事故がおきてしまえば、その事故を起こしたことにたいして責任のあった はずの国家が、法律を変えてしまえ、といっているわけで、ほんとうに私たち 国民ひとりひとりがこんなことを許していいのか、あるいは、こんなことを 生み出してしまった原子力をこのまま見逃すのか、そういうことだと思います。
同時代史講義たまたま見たのがきっかけで、それから毎回見ているBSジャパンの番組があります。
これは先月、信州大学で行った集中講義の記録。池上彰氏はNHKのこどもニュースで顔は知っていましたが、このような講義ができる人とは知らずにおりました。あらためて調べると、『そうだったのか!現代史』というシリーズ本も書いていて、この講義はほぼその内容に準じているものの、かんたんなメモだけで、よどみなく話す内容に、聴いていて興味が途切れることがありません。『池上彰の現代史講義 〜歴史を知ればニュースがわかる〜』 BS JAPAN 日曜・月曜 夜9時どうやら公開講座だったらしく、現役の学生に混じって年配の聴講生も見受けられました。きのう3日の放送は「キューバ危機と核開発競争」。意外だったのは、池上氏がその年配の学生さんたちに、キューバ危機のときの記憶を尋ねたところ、多くが知らないでいた、という反応だったこと。
池上氏と私は同じ学年で、キューバ危機が起ったのは、ふたりとも小学6年生のときでした。ただ、池上少年は自分で報道記事などから、世界が核戦争になって自分も死ぬかもしれない、と思ったそうですが、わたしは新聞嫌い少年で、学校で先生から、核戦争の一歩手前だったんだ、と聞かされたことが鮮明な記憶として残りました。それは、戦争回避のラジオニュースを教室で聞いていたときのことで、それまで、そんな重大なことが起っていたとは、自分も知らなかったし、まわりで話題にもなっていませんでした。受講生の中でひとり、キューバ危機を記憶している方がいて、その人は当時高校一年生。やはり、先生から後になって説明してもらった、といいます。いったい、あのとき日本では、テレビ、ラジオ、新聞はどんなふうに報道していたのか、疑問が湧いてきます。
この池上講義の現代史とは、大戦後、冷戦が始まったときからをいいます。時代区分は、この際どうでもいいことで、通史としてではなくて、その中での大きな出来事をテーマ別にまとめています。そのテーマというのが、どれもわたしが生きてきた中でおおきな疑問だった出来事で、「そうだったのか」と頷くことしきり。今現在がその歴史の延長線上にあり、かつその歴史を同時体験してきた、という意味では、現代史というより、同時代史のようなものです。
現在の福島原発事故問題も、たんに地震が起った、想定外だった、安全神話が崩壊した、といった問題ではなくて、日本と世界の歴史の転機になった事件として、歴史に刻まれるものです。ところが、被害を小さく見せようとしている大手メディアの報道は首をひねるものばかり。キューバのときもこうだったのだろうか、とふと思ったりします。いまも復興増税が上っ面の報道だけされています。きのうの「たね蒔きジャーナル」には、この復興増税の舞台裏の取材報告があります。
そのなかに、こんな話が。経済通といわれる議員には2種類の人種がいる。かたや会社経営者などビジネス界の出身者で、増税に反対の議員。かたや、大蔵省、財務省官僚出身者、またはそこから官費でアメリカの大学院などに留学させてもらった経歴のある議員で、増税論者。結局、議論がされているのではなくて、はじめに結論ありき、の人種戦争。歴史の内幕って、分かってしまうと、いつもばかばかしいほど単純なものかも。20111003 [1/2]たね蒔きジャーナル「復興増税は許されるのか?」
疑惑だらけの東電賠償手続き 続報昨日の朝日新聞朝刊に、東電が、経産相や首相の指示を無視して、賠償請求書を簡略化せずに発送する、との記事がありました。Web上でのこの記事に該当します。
他の新聞には見当たりませんでした。この短い記事には「被害者から批判が出ている」とあるだけで、野田総理と枝野経産相も批判していることに言及がないのは、弱腰なのか東電への配慮なのか。一国の首相の指示を無視できる東電とはいったいいかなる権力を持つ組織なのか、考えさせてくれます。『東電の賠償請求書、簡略化せず 手引を10月初旬発送』 朝日新聞 2011年9月30日23時16分 東京電力の広瀬直己常務は30日、原発事故の損害賠償請求書の記入を助ける手引を つくり、10月初旬に被害者へ送ることを明らかにした。東電が作成した請求書は 60ページ近く、案内冊子も156ページと分厚い。被害者から批判が出ているが、 東電は請求書を簡略化せず、手引で対応する。
疑惑だらけの東電賠償手続き東電の複雑かつ高圧的な賠償手続きについて、批判が上がったことで、東電が「記述内容を一部改める考え」を示したことが、小さく報道されました。
まあ、これはたとえて言えば、自分の過失で人をはねて重傷を負わせたドライバーが、保険金で賠償してやるからおまえは申請書を出せ、それでチャラにしろ、と言っているようなもの。東電が郵送した個人向けの請求書類は約60ページ、案内冊子は約160ページ に及ぶ。このため被害者向けの電話や相談窓口では、1人あたり1時間から1時間半 かけて説明することもあるという。また、合意書の見本には「上記金額の受領以降は、 一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」と記載され、被害者の反発 を受けていた。 これらについて、枝野幸男経済産業相は同日午前の衆院予算委員会で、「とんでも ない話だ。抜本的な改善を求める」と述べた。 『東電、賠償請求の手続きを簡素化』 産経新聞 9月26日(月)21時31分配信これに枝野経産相と野田首相が批判したのは当然だが、同時に、現政権が東電からナメられていることをも浮き彫りにしました。
そもそも、加害者が被害者に一方的に指示書を送りつけるとはなにごとか、そこからして論外であることを指摘する大手メディアがありません。上記の記事も短いので、一読しただけでは、東電の犯罪性にちょっと気づきません。
いつもたね蒔きの小出裕章氏のインタビューをYouTubeにアップしてくださる方が、最近はこの番組の他の特集もアップされています。9月28日の放送では、この東電の賠償問題を取り上げていました。
現場と報道内容とのあまりの落差にも驚きます。このたね蒔きは関西圏でのラジオ放送で、パソコン向け配信も放送エリアに準じたもの。ポッドキャストしてくれればいいのに、惜しいことです。『20110928 [1/2]たね蒔き「驚くべき東電の賠償姿勢〜福島の農家の思い」』