日経225エネルギー分析
一関厚文
2010年8月25日
2010年8月24日、より一層の円高が進み、1ドル85円を割り、日経平均株価も9000円を割った。マーケットでは、政府と日銀が円高を容認しているとの声さえ上がり始め、円高阻止の姿勢(やる気)が見えない為、同日夜、1ドル83円台になり、円高が止まらない。それで、日経225のエネルギー分析はまだ完成していないが、途中経過であっても分析結果はしっかりしているので(完成度はまだ低いが)、ここに公表することにした。
スペクトル分析によるエネルギーの計算に関して、私が知っている限り最も詳しく説明されているのは、
M.B. Priestley (2004), Spectral
Analysis and Time Series, Elsevier, London , p9, p195, p205.
である。しかし、サンプリングされた不連続なデータからエネルギーを計算するには少し定義を変更する必要があるが、それを説明するにはかなりの時間と労力を要するので、連続関数の積分などから計算されたエネルギーとは少し計算方法が異なる事を、前置きとして注意しておきたい。なお、エネルギーの時系列の数値はその時点で確定された数値であり、後の株価の変動によって修正されることは全く無い、確定された数値です。
まず、グラフの説明からするが、 Ln Nikkei 225 (natural logarithmic Nikkei 225) のグラフにおいて、2500 = 1δ 、5000 = 2δ 、7500 = 3δ 、10000 = 4δ 、12500 = 5δ 、… とする。エネルギーが 3δ を超えると
turbulence と呼ぶ。 Turbulent period とは、エネルギーが 1δ を超えた時から始まり、エネルギーが 3δ を越えなければならず、エネルギーが 1δ を下回った時に終わる。Turbulent
period とTurbulent period の間の期間を Lull period と呼ぶ。NYダウ、ナスダック、S&P500のエネルギーグラフから分かる事は、
(1) Turbulent
period は 通常、下降トレンド もしくは 下降トレンドとその後の上昇トレンド のことである。Turbulent とは、通常、株価が下落する時に、下落に反対する力が加わりやすいので、株価が相対的に乱高下するので、エネルギーが大きく上昇する事を意味する。下降トレンド後の上昇トレンドをも包含する場合は、株価の下落で蓄積した空売りによるショートカバーが急な場合や転換点において株価を上げようとする力と株価を下落させようとする力が大きく対立する場合、やはりエネルギーが上昇し Turbulent になる。乱高下と高いエネルギーが関連付けられているのは、津波のエネルギーを思い浮かべれば分かりやすい。大まかに言うと、大きな波(波長が長い波)がより高いエネルギーと関連付けられている。さざ波は小さなエネルギーとなる。(量子力学における光電効果では、短い波長と大きなエネルギーが関連付けられているが、株価のエネルギー分析でも、同様の事が可能である。これは私の英語のサイトで後に説明するが、そのようなエネルギー分析でも興味深い結果が出る。)
(2) Lull
period は 通常、上昇トレンド のことである。 Lull period において、通常、上昇トレンドにおいて株価が上昇する時には、それに反対する力が余りかからないので、さほど乱高下せず、エネルギーは小さい。
驚くべき事に、この常識がバブル崩壊後の日経225で破られている。これは異常な事であり、日本のバブル崩壊は米国における大恐慌とも性質が異なっていることを示唆している。 Ln Nikkei 225 のグラフにおいて、特筆すべき異常事態が二つある。
第一に、1994年11月16日から1995年4月21日までが Lull period になっているが、その期間は下降トレンドになっており、下落がごく自然な株価の動きである事を意味する。米国では Lull period は例外なく上昇トレンドを意味するので、これは異常である。この期間に関連する顕著な出来事は、1994年10月から日銀が公定歩合を利用して民間銀行の金利を操作できなくなった事と、円高進行である。ドル―円レート月中平均グラフにおいて(データは日銀ホームページからダウンロード)、同一期間のドル円レートを茶色で示している。この期間は1ドル100円割れの円高が決定的になって、急激な円高が進んだ時であり、円安に転換してやっと、日経平均が下落から上昇に転じている。よって、1990年のバブル崩壊からの回復が成功しなかったという特異な状況は円高が大きな要因になっている事を示唆している。 Lull period が上昇トレンドであったならば、状況は大きく異なっていただろう。米国の大恐慌においては、1935年からの1936年の Lull period が上昇トレンドであった。米国はその後政策ミスでリセッションに陥ったが、その後の長期上昇トレンドの芽を残した Lull 上昇トレンドであったと言える。日本においては、この Lull 上昇トレンドが単に欠落しているだけでなく、むしろ、Lull 下降トレンドになってしまったのは、バブル崩壊から回復する力をかなり奪ったと言える。
第二は、2008年10月16日から2008年11月4日までで、16日にエネルギーが 5δを超え、異例なほどエネルギーが高まり、11月4日にエネルギーが8δを超えて局所的にピークアウトした時である。これ程エネルギーが高まり始めたのは、異常事態である。日経平均も、下降トレンドというよりもむしろ、free fall の状態だ。原因が米国発のサブプライム危機によるリーマンショックで日本の銀行はサブプライムに対するエクスポージャーが低いのに、なぜ日本株がこれ程下落しなければならなかったのか。再度 ドル―円レート月中平均グラフにおける、この期間のドル円レートを茶色で示そう。またしても、この期間は1ドル100円割れの円高が決定的になって、その後急激な円高が進んだ時である。
結果として、スペクトル分析によるエネルギー計算から導き出せるのは、日本における1990年のバブル崩壊後の異常事態と100円を割る円高進行との密接な関係である。上記の2つの特異状況は、100円を割った状態での円高進行が、バブル崩壊の後遺症を長引かせ、回復を遅らせている要因として際立っている事を示唆している。
もう一つ異例な状況は、1996年6月20日から1996年12月17日の期間にわたる Lull period である。その期間は、弱下降トレンドで、downward bias の期間と言える。これは、推測するに、1997年の消費税率引き上げと緊縮財政を予想しての弱下降トレンドと解釈できる。これも、バブルからの回復にとって大きな痛手となっている。この様に、日本においてバブル崩壊からの回復が滞っている要因は、金融と財政の両面が大きくかかわっていが(これらが全てではないが)、現時点で特に当てはまる状況は円高進行である。加えて、異常なことは1919年から2010年までのNYダウにおける
Turbulent period の回数と1985年から2010年までの日経225における Turbulent period の回数がほぼ同じという点だ。日本のマーケットがいかに不安定かを如実に物語っている。以上が現時点での分析途中経過である。少なくとも、1ドル100円を割っている状態での円高進行の日本企業と国内経済に対する破壊的影響を過小評価すべきではない。
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