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コラム「前向きに暮らしましょう」

病気を正しく理解し、改善し、そして自分の体と仲良くしつつ
「前向きな生活」を送る事ができるようにと書いてきた記事です。少しでも参考になる事があればと思います。


記事09「治療で治るのですか」のご心配に関して - 直腸瘤・直腸重積編 -

(2008.9.28)

「治療で治るのですか」膀胱瘤、膀胱造影検査に関する記事に続いて、今回は、直腸瘤など排便に問題がある場合に行われる、「排便造影検査」に関しての記事を作りました。さて、もう一度直腸、子宮、膀胱の位置関係を確認すると、下の図の様になっています。

 

排便造影検査に関しては私自身がよく理解していない部分も多いため、記事作成にあたっては、市立砺波総合病院の江川先生に解説文をお願いしました。

排便造影検査(デフェコグラフィー)について

バリウムと小麦粉などを混ぜたペースト(疑似便)を肛門から直腸内に注入し、排便しながらレントゲン撮影する検査を排便造影検査と言います。

この検査は、特に排便困難を来す疾患を鑑別するために行ないます。排便造影は座位で行ないますが、当院では、写真の左方向が腹側、右方向が背側になるように座って行なっています。また計測のために、1センチ幅の網を背景に置いています。

図(排便造影:正常所見)

図の左は安静時の状態を示します。安静時は、恥骨直腸筋が直腸下端部(肛門管と言います)を恥骨側に締めているため、図中の点線のように直腸と肛門管の角度が約90度になっています。この角度は、便が漏れないしくみ(便禁制)の一つとして重要です。

一方図の右は排便時の状態を示しますが、恥骨直腸筋を意識的に緩めることによって排便が開始されます。このとき、直腸と肛門管の角度は鈍角になり、さらに肛門管が緩んで腹圧とともに排便がスムースに行なわれます。 正常な排便を静止画で説明すると上述のようになりますが、実際の診療の場では、動きをみて正常か異常か、また異常ならどのような異常が排便障害の原因なのかを診断します。異常所見には、直腸瘤、直腸内重積、小腸瘤、アニスムス、直腸脱などがありますが、詳しくは本ホームページの病気を正しく知るための専門家のお話(大腸肛門科の立場から)を参照してください。

図(排便造影:異常所見)

図の左は直腸瘤です。膣内に直腸が大きく脱出しているのが分かります。網目の数から脱出(直腸瘤)は5センチを超えることが分かります。排便造影で見られる直腸瘤の大きさと訴える症状が一致しないこともよくありますが、このように大きな直腸瘤では、多くの場合排便困難や残便感を認めます。指で膣や会陰部を押さえないとすっきり排便できないと訴える人も多くいます。このような場合でも、まずは便通調整を行ないますが、それでも苦痛がとれない場合に手術を考慮します。

図の右は、直腸内重積を示します。直腸内の粘膜がもぐり込むように下がってきて、排便造影上切れ込みを認めます。本例では直腸瘤も合併していますが、 実際排便造影を行なう方の大半は、複数の疾患が合併しています。

治療を行なう際、特に手術に際しては、排便障害に関わる異常を正確に知る必要があります。たとえば、直腸瘤自体は内診だけでも診断可能ですので、メッシュ手術で直腸瘤も治したと説明される場合があるとします。しかし、手術後も排便障害が治らない原因として、直腸瘤が適切に治っていない場合だけでなく、他の原因(重積や直腸脱)が見過ごされている場合があることを知っておくと良いでしょう。

図(排便造影:手術前後比較)

図の左は直腸瘤ですが、メッシュを膣後壁側に埋めて補強することで、図の右にょうに直腸瘤が消失し、排便がスムースに行なわれています。先にも述べましたが、実際は動画で診断しているので、静止画では分かりにくいかもしれません。

“メッシュについて特に注意してほしいこと”

本例では、メッシュ手術で直腸瘤が消失し症状もとれて良くなっていますが、他のページでも説明したように、メッシュ手術が万能という訳ではありません。メッシュは一度入れると修正不能です。強い癒着のため、もし再発があっても再手術がほぼ不能になることや、他の病気(たとえば直腸の腫瘍など)が併存していたり、また将来そのような病気が生じた場合に不利益はないかといった問題、さらにはメッシュによる重大な合併症(膣と臓器との瘻孔形成など)が生じる危険性などについても知っておく必要があります。

当院では、最低限術前の大腸ファイバー検査で腫瘍性疾患を含む異常の有無と、排便造影や内圧検査等での排便障害の原因特定を行なってから手術の適応を決めています。嫌な検査ですが、排便障害を伴う骨盤臓器脱の手術では、必須の検査と考えています。

文責:市立砺波総合病院泌尿器科 江川雅之

 

排便造影でわかる異常所見として、直腸瘤と直腸内重積について造影写真で解説していただきましたが、更に私たちに解りやすい様簡単な図にしてみました。

 


左側が直腸瘤の状態です。
本来下方向に流れて行くはずの疑似便が膣の方向に行っています。
このため直腸瘤となると、息んでも、便は斜線の方向にたまり、このため指で膣を押すと排便しやすくなるという状態になります。
右側は直腸内重積の状態です。
本来下方向に流れて行くはずの疑似便が、アコーディオンの蛇腹に様な状態になっている直腸内に溜まっています。
私の場合は、この状態でしたので、直腸を仙骨に固定しています。

女性の場合は便秘に悩むことも多く、更に排便のメカニズムは私たちにはとても難しいものです。記事の中に出てくる恥骨直腸筋とは直腸を前方に引っ張り、直腸と肛門の角度を鋭角に保つ大事な筋肉です。

「排便造影」とは、そして造影でわかる 排便の異常の中の直腸瘤、直腸重積に関して少しお分かりいただけたでしょうか。

(2008.9.28)

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