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 □話し手 後藤 隆一先生 『人間主義経済学序説』著者
 □聞き手 山本 克郎 「小島志ネットワーク」代表幹事

 小島慶三の生態系との共存と生命系の産業



 
 前2回のロエブルのヒューマノミックスについてのお話しは、さすが、要の理論と言われるだけあって、目から鱗というような、非常によい勉強になりました。また私の質問にも丁寧にお答え頂き有難うございました。
 小島先生は“ヒューマノミックス”とは、「文明はともすれば、人間を見えなくする。自給自足から市場の経済へ、商品が氾濫し、機械化や情報化が進むにつれ、その中で見えなくなったのが人間である。学問の世界でもそうだ。もともと生きた人間の学問であった経済学が、純粋な科学性を追うあまり、人間を疎外して久しい。ヒューマノミックスはヒューマンとエコノミックスの合成語。ゆきづまった産業社会をよみがえらせ、人間復興を求めるのがその悲願である。」(「水はいのち−新しい文明の創造と貢献−」めいけい出版 平成8年10月刊)と述べておられます。
 これまでのお話しを伺っていて、「人間」を取り戻す、復興させることが必要だと改めて痛感します。
 後藤先生はこの春、「人間主義経済学序説」を公刊されました。この対談でも、「人間」が切り捨てられてきたことが、屡々指摘されました。


 ヒューマノミックスの「human」とは「人間」です。私は、人間とは何か、人間はどこから来て、何処へ行くのか。人間の本質は何かと考える時、それは「いのち」だと思います。人間は命が与えられて生まれ、命が失われれば、死にます。これはすべての生きものに共通しています。
 その「いのち」は38億年前に地球の海で誕生して、長い進化の歴史を辿ってきました。人間とその「いのち」は、この事実と歴史と進化の過程をしっかりと認識することで、人間をどう捉えるべきか、に貢献します。
 人間とその社会の在り方はその真実と道理に規定されるべきものです。価値観、人生観、世界観等パラダイムの基礎にはこの生命史観、生命誌が必要と考えます。何時の世も、宗教や哲学は、「人間とは何か」を問うことで人間社会の在り方を求めて来たように思います。その意味でも、後藤先生が、「法華経の生命哲学」によってと言われ、ロブエルが、「戦中、戦後の実践的な体験と11年間に及ぶ独房生活での思索」等のお話等は、いずれも、根本的には「人間とその命」を根底に据えたパラダイムと、これによって立つ社会システムの在り方が問われていると思います。
 その意味でも、私達は、今、また、人間とは何か、その本質を「生命」として、問い直す理論構築が求められています。ここから、現在人類が直面している危機的な状況や困難な課題をみると問題の所在が解明され、解決の方向が見えてくるように思われます。
 これまで、この対談で「ヒューマノミックス」の三人の先駆者のうちの二人の思想についてお話し頂きましたが、最後の一人、小島慶三の人とその思想についてお話頂きたいと存じます。




  小島先生の提起された「ヒューマノミックスとは何か」、これについては、先生の著書もあり、先生から直接伺うこともできるでしょう。ここで、私は、その意味をどう受け止めるべきかを考えてみたいと思います。それをこういう形で後世に残すことが出来るのを最高の喜びと考えております。


 私の申し上げたいことはいくつかあります。小島塾の皆さんは、小島先生について、よくご存知と思いますが、勿論、先生の問題意識によるものですが、前世紀の70年代の初め、シューマッハーやロエブルと同時期に、日本で、ヒューマノミックスの旗を揚げられたということは、大変なことだったと思います。
 それは、当時の日本の一般的状況のなかでは、一種のカウンター・カルチャーではなかったかと思われます。正義というものは、そういうものだと思いますが、決して権力者の喜ぶことでも、はじめから世間から賞賛されるものでもありません。その旗は、平和主義であり、自然との共存であり、道徳の復興であり、逆にいうと、利潤追求の過当競争批判であり、減反政策による農業軽視政策の批判であり、官僚主義、とくに外郭団体や天下りに結びついた権力の批判であり、根本問題としては、人間復権であり、自然の生態系との共存であり、循環のシステムの創造でした。この共存と循環という概念は、生態的永続性を表すサステナブル・デベロップメントといぅ環境問題のキーワードと同じです。
 それらに関連した概念として問題解決学とか、目的論的経済学という言葉が出てきました。私達の時代が直面している問題は、多面的です。それに対して近代経済学は、純粋に抽象化され、理論化され、それに当てはまらないものは切り捨てる学問になっている。その切り捨てられた最大のものは人間であるというのが、小島先生の批判でした。今日の経済学には、現代の人類が直面している真の問題に対しては解決能力がない。それは、もつと多面的、学際的なものでなければならないというお考えでした。後に私が体系化したシステム論には、このような小島先生の見解が反映されています。


 今、このような小島先生の思想の特徴をキーワードで示して見ますとシューマッハーの思想のキーワードがスモールであり、ロエブルの思想のキーワードが、道具としての貨幣であるとするなら、小島の思想のキーワードは、共存と循環でした。それは、生態システムの特徴であると共に、今日の環境問題のキーワードであるサステナブル・デベロップメントと同じ意味です。この思想は、いうまでもなく、シューマッハーにもロエブルにもあるものですが、小島先生の場合は、自然の生態系との共存という意味と共に、社会システムの原理としての共存と循環という意味で、まさに、文明的危機に対応する根本として提起されたものでした。
 文明的危機とは、文明そのものが存続不可能になって行く危機という意味です。化石燃料に依存しながら、利潤の無限追求を運命づけられ、生存の基盤である自然を破壊し、地球の砂漠化と温暖化を進めて行くことの批判がシューマッハーの預言者的性格であり、それに対する問題解決学としてのパラダイム論と社会システム論を示したのがロエブルでした。ロエブルは、それを道具としての貨幣論の創造によって成し遂げました。それは、哲学の根底からの変革でしたが、貨幣というシンボルの問題を主題とするものでした。
 これに対し、実物の問題を主題とするのが、小島の農業を主題とする産業構造の問題であり、環境政策の問題であり、産業技術の問題なのです。ここに小島先生の役割があったと思います。先生は、日本立地センター、日本テクノマートの理事長、扶桑石油社長、そして、参議院議員と歴任され、その間、いろいろの審議会、研究会のメンバーとして、知識と情報を収集し、問題解決学を求められました。そうした情報を印刷物として私にも与えてくださいました。また、経済同友会の農業部長として、健筆を振るわれました。ダイヤモンド社から出版された「文明としての農業」などの三部作は、その広い見識と、豊かな思想に魅せられるものです。


 最後に、小島先生のヒューマノミックスにおいて、見落とすことのできない二つの概念がると思いますので、それについて少しお話したいと思います。「砂漠の緑化」と「生命系の産業」です。
 小島先生にとって砂漠化の問題は、文明との関係において考えられるものでした。『古代文明のあとは、みんな砂漠化した。砂漠化によって古代文明は滅亡した。日本は唯一つの例外である』と言うとき、文明の質の問題が問われているのである。古代文明といえども、そのエネルギー消費量は、山林の樹木の成長量よりはるかに大きかった。人口の増加と技術の進歩は、砂漠化を拡大し、温暖化を高めた。エネルギー源を化石燃料に転換することにより、近代文明は、質的に変化した。循環のシステムを失ったのである。それは破たんへ向かっての行進である。小島先生の最大の関心事はいかにして、循環のシステムを創造するか。その一つは、砂漠の緑化を地球規模で、人類の課題としてプロジェクト化する。私が、ロエブルの貨幣システムを問題解決学の要とするのは、こういうプロジェクトができるシステムだからである。それを、貨幣の触媒機能というのである。
  もう一つの「生命系産業」とは、現代工業を主体とする産業を、農業と水産業と林業、つまり、生命系の産業を主体とするものに変えることである。工業生産は、50%以上の循環不能の廃棄物を生むが、農産物は100%微生物によって分解され、循環する。生命科学によって、生命系の産業を高付加価値の産業にする。また、エネルギー源を化石燃料から、クリーンエネルギーに転換する。などのアイデアである。以上です。
 
 話がとびますが、今日の新聞(2007年10月14日)に、アメリカの前副大統領アル・ゴア氏が、地球温暖化問題について、その世界的な知名度のもとに講演や映画製作によって、啓蒙活動を続けていることに対して、ノーベル平和賞が与えられるというニュースが伝えられました。私は、このニュースに強い感動を覚えました。何故なら、地球温暖化とか砂漠化という 問題こそ、所謂、文明論的危機の問題として30年以上前から私達の取り上げてきた問題だからです。それが今、ノーベル賞の対象となる時代がきたのです。ゴア氏と共に、地球温暖化の実情と原因の研究をし、情報と警告を発信してきた国際的科学者集団IPCCも受賞することになりました。
 ここで私が思い出したのは、ゴア氏が、前回の大統領選挙で、全体の得票数が多かったにも拘わらず、制度上最後の勝敗は、フロリダ州の勝敗によって決まることになり、ついに裁判に持ち込まれ、結果、フロリダの勝利とアメリカ大統領の権力をブッシュ氏にもたらし、それが、その後の世界の運命を決定してしまったということです。
 どのような偶然の連鎖が誰に幸運をもたらしたかは、私の関心事ではない。しかし、当時、水の惑星地球と人類とが抱える危機的な問題は二つありました。
 一つは、確実に忍び寄る地球の温暖化、砂漠化です。気候異変は食糧危機につながり、種の絶滅につながる問題です。


 次の問題は、パレスチナ問題です。アメリカの巨大な財力と武力を背景に、イスラエルは強い軍事力を持ち、パレスチナを絶望と死を賭した反発に導く。それが全アラブとイスラムに伝播する。
 この二つは避けられうる問題でした。膨大なアメリカの軍事費のほんの一部を彼らの自立を助けるために使うなら、恨みを緩和することはできたでしょう。
 しかし、実際には、逆のことをして、パレスチナの人々を絶望させ、死によってのみできる最大の抵抗に身を賭けさせたのです。財力や権力を持つものは、それに頼らず、知力と余裕を活用すべきです。
 ブッシュ大統領は、アフガンを焦土化し、イラクを近代兵器の実験場にしたのです。近代兵器による殺戮と自爆テロとの戦いの連鎖反応によって、どれだけの人命と富と自然が破壊されたことでしょう。戦争は、意味も目的もなしにいつまで続くか分からない泥沼に陥っています。
 その結果、ブッシュ大統領は、最も支持されない大統領となり、そして、世界で、最も憎まれる権力者になりつつあります。そして、ゴア氏は、地球と人類を救うための一つの希望の星となったのです。アメリカという国は、みんながブッシュ氏でなかったように、みんながゴア氏になったわけではないという人もいますが、ヒューマノミックスとしては、ブッシュ時代という長いトンネルを出ようとしていることに注目します。
 それは30年以上前に旗揚げしたヒューマノミックスの先駆者、小島慶三の勝利ではないだろうかと私は思うのです。今回は、此処で、小島先生に、お祝いの言葉を述べて、終わりにしたいと存じます。




 小島先生が「ヒューマノミックス」を掲げて、研究会をつくり、小島塾を作ってこられました。そのヒューマノミックスを集大成する前に、目がご不自由になり、ご高齢でお身体も思うようならないことから、研究会も活動停止になり、塾も閉じることになりました。
 小島先生が「ヒューマノミックスこそ人類の未来と地球生命共同体を救うものだ」と言われました。私達は、その志を継承してKJKnetを開設しました。
 是非このネットを通じて、ヒューマノミックスの集大成に貢献したいと思います。それは、日本の進路、世界の進路に光明を掲げ、人類社会を衰退と破綻の淵から救出し、21世紀の進むべき道へ転換する海図や羅針盤となるパラダイムやシステムを提唱していきたいと願っています。
 今後とも宜しくご指導下さい。有難うございました。


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