第12回

「スリーピーホロウ」Sleepy Hollow(1999)

ティム・バートン

ティム・バートンほど、作家性を持ちつつ、かつメジャーでいつづけている監督も少ないのではないでしょうか。彼は彼自身に影響を与えた過去の映画や物語を引用しつつ、それらを独自の世界に昇華させ、私達に新鮮な感動を与えつづけてくれます。そんな彼の新作もまた期待を裏切らない作品でした。

− 今回は18世紀のアメリカを舞台にした、亡霊や魔女、魔術などを題材にした古典的ホラー「首なし騎士」の物語です。首が飛んだり、血が溢れたりといった今までの彼の映像ではあまり見られなかった残虐なシーンが数多く登場し、驚かされるの部分もあるのですが、一方で彼が頻繁に使ってきた要素もふんだんに登場してきますので、ファンとしてはうれしい限りです。そして今回、何よりも惹かれたのはその映像の美しさでした。今まで、彼は闇の映像に関しては非常に優れた才能を発揮していましたが、明の映像、特に太陽光の下の映像に関してはどうしても薄っぺらな感じがしていました。「エド・ウッド」ではモノクロ映像にも挑戦しましたが、映像を楽しむ映画ではないとはいえ、やはり明の映像は魅力的とはいえなかったと思います。ところが今回は、モノクロ映像に幽かに色をつける事によって映像に深みを与えることに成功しました。昼間といっても、いつもどんよりとした曇り空にすることで背景色を基本的にモノクロに統一し、登場人物の肌の色や、炎や木の葉などに極力色を抑えた淡い色を施すことによって、絵画のような、鳥肌が立つほど美しい映像に仕上がっているのです。

− ストーリー自体は、古典的な物語をそのまま使っているので、それほどの真新しさはありませんし、人物関係が入り混じり謎解きサスペンス的要素はあるものの、基本的には淡々と展開して行くため、登場人物達にあまり魅力が感じられないかもしれません。しかし、主演二人の物語よりも、騎士の魔女に対する淡い恋物語が実は裏にあることに気づくと、ちょっと見方が変ってきます。首なし騎士が、幼い日の魔女のせいで命を落とし、さらに彼女の復讐のために利用されていると知りながら殺人を繰り返すのは彼女の幼い頃の姿に一目惚れしたせいだと分かるのはラストシーンになってからなのですが、そう考え直すと、この物語は、バートンらしい魅力的なものに変ってくると思います。

ジョニー・デップ

− ともあれ、バートンらしいデザインと笑い、首なし騎士の格好よさ、派手に鳴り響く音楽、そして何よりも映像の美しさは十分魅力的で観ているものを飽きさせないと思います。ファンには彼の前からある魅力と新しい魅力が感じられる映画といえるでしょう。少なくとも私は観ている間中、口を開けっぱなしで熱中していました。

− 主演はバートン作品3度目のジョニー・デップと童顔のクリスティーナ・リッチ。首なし騎士にクリストファー・ウォーケン。彼は特別出演といってもいいほど出演シーンは少ないのですが(首なしですからね)、いい味出してます。他にドラキュラ映画で有名なクリストファー・リーも出演しています。彼とヴィンセント・プライスがバートン憧れの人だったようです。プライスには「シザーハンズ」に出演してもらってますから、憧れの二人と一緒に仕事が出来て幸せでしょうね。音楽はおなじみのダニー・エルフマン。サイレント映画のような曲という注文がバートンからあったようですので今までほど魅力的ではありませんが、十分盛り上げてくれます。美しい映像を作り上げた撮影監督はエマニュエル・ルベツキー。メキシコ出身で本国では相当有名だったようです。ハリウッドでも結構撮っているようですが、これほど魅力的な映像は他作ではないのではないでしょうか。スタッフ、キャストも含め、ファンは必見のバートン映画です。(2000.3.20)

(>DVDを買う)