設立第1期に消費税免税は得策か
会社を設立した第1期に免税事業者でいることは、本当に得なのでしょうか?
消費税の課税事業者になるか・免税事業者になるかということについて、
「会社設立時の資本金と消費税」のページで基本的な話をしています。
あわせてご参照ください。
会社設立第1期、消費税は本当に納付する?
「会社の利益の計算」と「消費税納税額の計算」には違いがあります。
設立第1期目から黒字を目指す。
経営として当たり前ですね。
しかし、難しいのも事実。
でも頑張って利益上(決算書)は、「黒字」を達成したとします。
それでも、消費税計算上は「赤字」になる、というケースがあります。
「消費税の赤字」は、設立1期目に多い。
「消費税が赤字」ということは、「還付」=現金を返してもらえるのです。
なぜ、設立第1期目に多いか。
何期目であっても多額の設備投資(資産の購入など)をしたときは、消費税は「赤字」になることがあります。
中でも設立第1期目は、
- 初期投資が多額になることが多く、(= マイナスが大きい)
かつ、 - 売上もまだ「上がり始め」の段階であるときだから、(= プラスが小さい)
ということが原因です。
資産の購入は、利益計算と消費税計算とでズレる
資産を買っても、利益計算では、その購入額は全額費用(マイナス)にはなりません。
一部だけが費用になるのです。
残りの部分は将来へ持ち越しです。
次の期に少し、また次の期に少し、と一定期間、部分的に費用になるのです。
(=減価償却という制度で、この費用を「減価償却費」といいます)
(例:利益計算)
第1期目に、資産を100(税抜)で買いました。
5年使えるモノです。
第1期の減価償却費 → 100 ÷ 5年 = 20
第2期の減価償却費 → 100 ÷ 5年 = 20
(以下、第5期まで同じ)
第1期に、資産の購入のために100のお金を使っても、費用になるのは20だけ。
逆に、第2期から第5期は、お金を使わなくても、20の費用が発生します。
消費税計算では、資産の購入は、原則的にはその買った期に全部マイナスできるのです。
(=「仕入税額控除」といいます)
(例:消費税計算)
第1期目に、資産を100(税抜)で買い、消費税を5払いました。
5年使えるモノです。
第1期の仕入税額控除の額 → 5
(この資産については、第2期目以降なし)
だから、
利益上(決算書上)黒字でも、
消費税計算上は赤字、
ということがありえるのです。
(例:利益計算と消費税計算)
第1期目に、売上が80たちました。この消費税を4もらいました。
第1期目に、資産を100(税抜)で買いました。この消費税を5払いました。
5年使えるモノです。
第1期の利益計算 → 売上80 - 減価償却費20 = 利益60(黒字)
第1期の消費税計算→ 受けた消費税4 -払った消費税5 =差引した消費税 -1(赤字)
消費税計算でマイナスするものにはどんなものがあるか
消費税の計算でマイナスするものは、会社が、モノを購入したり、サービスを受けたりしたときに、その対価の支払いと一緒に払った消費税です。
[ 設備投資にかかる消費税 + 通常の費用にかかる消費税 ]
例えば、借入れの金利支払いなどは、消費税がかかりませんから、費用であっても、消費税計算ときのマイナスにはなりません。
設立したばかりの会社の、消費税がかかる支払いは
オフィスの改装や、PC・システムの購入・導入費用などは多額になりやすいですね。
事務用品・消耗品も、事業開始時に多くなりやすいものです。
それから、オフィス賃貸料。 (オフィス関連の支払いであっても、「保証金」や「敷金」など将来返還されるものは消費税がかかりませんから、消費税計算上のマイナスになりません)
人材募集費や広告宣伝費。
外部委託した研修費や、図書教育費。 (社内の社員による研修は「人件費」なので、消費税計算上のマイナスにはなりません)
光熱費や通信費、交通費など諸経費
これらの合計額です。
消費税計算上プラスである「売上」の多い・少ないは、第1期目の事業年度の長さ(=営業活動できる期間の長さ)にも関係するでしょう。
これらの差し引きで、消費税計算の赤字・黒字 ―「還付」か「納付」か ― が決まります。
消費税の「還付」を受ける
消費税の「還付」を受けるためには、会社が、消費税の「課税事業者」であることが必要です。
「免税事業者」は「還付」を受けることはできません。
払わない者は、もらえない、ということです。
消費税の「課税事業者」
「課税事業者」であるためには
2期前の課税売上が1000万円以上であること
または
課税事業者であることを自ら選択すること
のどちらかを満たすことが必要です。
設立第1期目と、第2期目の会社は、2期前が存在しません。
したがって、売上1000万円の判定ができません。
この条件では「課税事業者」にはならないことになります。
この場合には、自ら選択する方法によって「課税事業者」になることができます。
ここで、自ら課税事業者になることを選択するのであれば、1千万円以上の出資に対して、わざわざ、資本金1千万円未満として会社を設立し、資本準備金の制度を使ったり、期中に「増資」という手続きをとって、第1期目を「免税事業者」にする意味がないことになります。
「増資」には、手間、時間、コストがかかります。
消費税「課税事業者」を選択する
「課税事業者」を選択するには、税務署への「届出」が必要です。
新規設立の会社の場合は、この選択の届出は、その事業年度中にしなければなりません。
つまり、その第1期が終わる前までに提出しなければ、その第1期に消費税の還付が受けられるようなマイナスであったとしても、還付を受けられないということです。
事業年度が終了し、決算が確定した後であれば、消費税計算が「プラスか・マイナスか」は分かります。
それを見てから、課税事業者を「選択しないか・選択するか」を判断・実行できればいいのですが、そのタイミングでは、課税事業者の選択は適用されないのです。
あくまで「予測」で届出ることになります。
消費税「課税事業者」の選択することの縛り
「課税事業者」を一度選択したら、最低でも2年続けなければならないという決まりがあります。
設立第1期目が1年未満の場合で、第1期目に「課税事業者」を選択したときは、3期続けなければならないことになります。 (月の1日付で会社を設立して、12ヵ月後の末日を決算日とする以外は、すべて設立第1期目は1年未満になります)
設立第1期目は、「還付」になりそうだから、「課税事業者」を選択
第2期目は、「納付」になりそうだから、「免税事業者」に戻る
ということができないのです。
資本金1千万未満で設立した会社が、
- そのままの場合(「消費税課税事業者」を選択しない場合)
- 設立後、増資をして資本金1千万円以上にした場合
- 「消費税課税事業者」を選択する場合
と - 資本金1千万円以上で設立した会社
のそれぞれの第1期から第3期の納税義務を表Ⅳで見てみましょう。
資本金1千万円未満で設立 | |
第1期(消費税マイナスの可能性あり) | 納税義務なし(還付の権利なし) |
第2期 | 納税義務なし |
第3期 | 第1期の課税売上が1000万円超なら、納税義務 あり 第1期の課税売上が1000万円以下なら、納税義務 なし |
資本金1千万円未満で設立 第1期中に1千万円以上に増資した場合 | |
第1期(消費税マイナスの可能性あり) | 納税義務なし(還付の権利なし) |
第2期 | 納税義務あり |
第3期 | (第1期の課税売上の金額にかかわらず)納税義務 あり |
→ もし第1期目の課税売上が1000万円以下でも、第2期のスタートから資本金が1千万円以上なので第2期以降は、納税義務があることになります。
資本金1千万円未満で設立 第1期中に「課税事業者」を選択した場合 | |
第1期(消費税マイナスの可能性あり) | 納税義務あり(還付の権利あり) |
第2期 | 納税義務あり |
第3期 | (第1期の課税売上の金額にかかわらず)納税義務 あり |
→ もし第1期目の課税売上が1000万円以下でも、「課税事業者の選択」の効力が続いているので第2期と、ほとんどの場合の第3期は、納税義務があることになります。
資本金1千万円以上で設立 | |
第1期(消費税マイナスの可能性あり) | 納税義務あり(還付の権利あり) |
第2期 | 納税義務あり |
第3期 | (第1期の課税売上の金額にかかわらず)納税義務 あり |
(参考)
第1期目の課税売上の金額は、第1期が1年未満の場合には、年間算することになります。
例えば、3月設立、10月決算の会社の場合
第1期の月数は、8ヵ月です。(1ヵ月未満の端数は1ヵ月)
その期間の課税売上が、900万円だったとします。
900万円 × 12/8 = 1350万円 → 納税義務あり
結局のところ、還付を受けるために、第1期目に課税事業者を選択したとしても、第2期目が、第1期目の還付額を上回る納付額となった場合には、トータルとしてはキャッシュアウトが多くなります。
第1期目が、還付になるのか、納付になるのか。
第2期目が、納付になるとして、その金額はどれくらいになるのか。
予想通り、計画通りに事業展開するかどうかは、なかなか難しいものです。
会社設立時の資本金1千万円未満か1千万円以上かを、目先の納付義務だけをみて、「得だ」「損だ」とは決められないというものです。