会社設立時の資本金と消費税
ここでは、消費税に関する制度のうち、関係する部分だけとりあげます。
なるべく簡潔にお話しするためです。
したがいまして、消費税の体系的な話や、細かい部分の話は、割愛させていただきます。
どのような状況でも当てはまるものではない、ということをご了承ください。
次の前提で、進みます。
- 会社であること(=個人事業ではないこと)
- 決算は1年に1回であること
- 会社の事業年度と、消費税の課税期間が一致していること
- 会社は、継続して存続すること
- 海外取引はなし
「事業年度」とは、
会社設立から決算までの1年間以内の期間と、その後は、決算の翌日から次の決算までの、各1年ごとの期間。
この1つの期間を、「第○期」として表します。
「課税期間」とは、
消費税を計算するための期間的区切り。
消費税の納税義務のしくみ
通常の場合(=設立後3年以上経っている会社の場合)
通常、消費税は、2期前(前々事業年度)の、売上やその他の収入(消費税がかかるものだけ)の金額により納税義務の有無が決まります。 (2期前の事業年度 =「基準期間」) (消費税がかかる売上やその他の収入 =「課税売上」)
その金額は、1000万円です。
つまり、
2期前の課税売上が1000万円を超えていたら、 | 今期の消費税納税義務は → あり |
2期前の課税売上が1000万円以下であったら、 | 今期の消費税納税義務は → なし |
(注)
この「2期前」というのは原則としての話です。
平成23年6月の消費税法改正により、この「事業者免税点制度」が見直されました。
前期(1期前)のスタートから6ヵ月間の、課税売上高と給与支払額の両方が1000万円を超えたら、当期は消費税の納税義務が「あり」となります。
(参照「消費税:事業者免税点制度の見直し(23年6月改正)」)
また、資本金1千万円未満で設立した法人でも、一定規模の子会社である場合は、1期目、2期目から消費税の納税義務が「あり」となります。 (参照「消費税:事業者免税店制度の不適用(25年改正)」
会社は、原則的には納税義務があるのです。 (納税義務のある会社=「課税事業者」)
特例的に、小規模の事業者(売上が少ない事業者)については納税義務が免除されるのです。 (納税義務が免除されている会社=「免税事業者」)
設立したばかり(第1期目)の会社、第2期目の会社の場合
設立第1期目、第2期目の会社には、「2期前」がありません。
本来ならば、消費税の納税義務はないことになります。
ですが、消費税法上、資本金の額によって、第1期・第2期の納税義務が表Ⅰのように決められています。
資本金1千万円以上 | 第1期・第2期から消費税納税義務 → あり |
資本金1千万円未満 | 第1期・第2期は、消費税納税義務 → なし |
このように設立時点の資本金の金額によって、消費税の納税義務が決まります。
第1期・第2期は、消費税の免税事業者でいたいが、資本金は1千万円以上必要な場合
資本金は1千万円以上必要。
でも、第1期・第2期は、消費税の免税事業者でいたい。
それに対応する方法が2つあります。
- 資本準備金の制度を使う
- 設立後に増資する
資本準備金の制度を使う
会社を設立する際、株主から出資を受けます。
例えば、1400万円の出資を受けるとします。 (中小企業の場合は、事業を始めようとする経営者本人が出資することが多いでしょう)
出資を受けた会社は、この1400万円を・・・ → 全額「資本金」にすることもできます。 → 一部だけを資本金とすることもできます。
一部だけ資本金とした場合、例えば1400万円のうち900万円を資本金とした場合、残りの500万円は「資本準備金」となります。
資本準備金は、その名の通り、資本金の備えにするためのものです。
資本金の一歩手前。
「資本金のようなもの」です。
自己資本であることには変わりません。
いくらを資本金にするか、いくらを資本準備金にするかは、会社の任意です。
ただし、資本準備金には上限があります。
出資を受けた金額の1/2を超えない金額、つまり、出資の半分までです。
上の例でいうと1400万円の半分の700万円が上限ということになります。
さて、消費税の話です。
消費税は、「資本金」そのものが1千万円以上か・未満かで納税義務の有無が分かれます。
「資本準備金」は関係ありません。
したがって、出資が1400万円でも
資本金 900万円
資本準備金 500万円
とすることで、
「第1期・第2期は免税事業者」でいることができ、
「自己資本(=自己資金)は、1400万円」ということが可能になります。
ところで、資本準備金は、出資金額の半分までが上限です。
つまり、出資が2000万円になってしまうと、資本準備金は1000万円が限度となり、資本金は1000万円。
消費税は、「1期目から納税義務あり」ということになります。
例えば、人材派遣業を行う会社を設立するには、その一般労働者派遣事業の許可の要件から、2000万円の出資が必要になります。
そのようなケースで、消費税の免税事業者になろうとするなら・・・
設立後に増資する
消費税の納税義務の有無を左右する「資本金」ですが、関係するのは「金額」だけではありません。
「時点」も関係するのです。
「いつの時点の資本金」の金額なのか、ということです。
その「時点」とは、「事業年度開始の日」です。
「事業年度開始の日」の資本金の金額で、消費税の納税義務を判定するのです。
新規に設立された会社の場合は、「設立時」の資本金の金額です。
その時点を過ぎた後に「資本金」の金額が増えても、減っても、その期についての消費税の納税義務の判定には影響しません。
つまり、期中に「増資」をした場合でも、その期は、増資前の資本金の金額で消費税の納税義務を判定するので、表Ⅱのようなことになります。
第1期 | 資本金990万円で設立 | 第1期は消費税納税義務 → なし |
第1期 | 決算 | |
第2期 | 開始(資本金990万円) | 第2期は消費税納税義務 → なし |
第2期 | 期中 資本金1千万円に増資 | |
第2期 | 決算 | |
第3期 | 開始(資本金1千万円) | 第3期は消費税納税義務 → あり |
人材派遣業の許可を受ける場合、表Ⅲのような資本政策をとることも可能です。 (設立1期目に許可申請する場合は、第2期目から消費税課税事業者になる)
第1期 | 資本金990万円で設立 | 第1期は消費税納税義務 → なし |
第1期 | 期中 資本金2千万円に増資 | |
第1期 | 増資後 派遣許可申請 | |
第1期 | 決算 | |
第2期 | 開始(資本金2千万円) | 第2期は消費税納税義務 → あり |
「当初から資本金2千万円で会社を設立」にくらべて、第1期目の消費税の納税がなくなり、資金のプールに役立つように見えます。
「設立第1期に消費税免税は得策か」もご参照ください