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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − school festival −





「りゅ〜〜〜〜!!」
がばぁっ!と抱きついてくるカタマリ。
態勢が崩れないよう抱きとめた俺は、もうだいぶ慣れたと言えよう。
「桐香」
抱きつくなと何度いっても、無駄。
言うのも諦めました。
「おかえりなさい♪」
「はいはいタダイマ。伊集院は?」
いつもなら桐香と一緒にお出迎えなんだが。
「まだ帰ってきてないよ? おけいこもお休みだったの。学校いそがしいんでしょ?」
「ふうん。まだなんだ」
そう呟いて、花の稽古で着物を着ている桐香をおろした。

りゅうくぅ〜〜ん、おかえりなさぁい!
「へ?」
なんかすっごい気持ちの悪い声が・・・
振り返り、がばぁあっ!と抱きついてきたのは・・・

「シズカぁ?!! なんだその格好は?!!」

着物姿(女物)のシズカ。

「いやぁん。あなたのマ・コ・トvvV
ウインク☆

やめろぉお〜〜!!

「りゅうも帰ってなくて さみしいって言ったらね、 いっしょにおけいこしてくれたんだよ!」
お花のお稽古をですか・・・
「ね〜 シズカくん」
「ねー」
首を傾げた桐香にシズカも同じように返す。

・・・って女物着る必要はないだろ!!

「いいんだ、みなまで言わなくていい。俺はわかっている」
シズカがぽんぽんと俺の肩を叩く。
なにをわかってるって?

「さみしい竜くんに♪ ほぉら、真琴の匂いが染み付いてるだろう」
ぎゅ〜っと言いながらシズカが抱きついてくる。
ああ、着物に匂いがね・・・って!!!
「遠慮なく 嗅げ!
ぎゅううと口に袖を押し付けられた。
いや お前それ 口塞いでるから!!  窒息させる気か!!

家に帰ったというのに休息の与えられない可哀相な俺であった・・・


「人の優しさがわからないヤツだな竜は!」
俺にボロクソ言われて着替えたシズカが不満をもらした。
「エイリアンの考えは人間にはわかりません」
「えっ! シズカくんエイリアンなの?!」
俺の言うことをほとんど信じてしまう桐香は、まじまじとシズカを見た。
それにシズカも真面目な顔で返す。
「そう、実は、とある星からやってきた王子様で・・・」
「ええ!?」
ヘンタイ星の王子だ。 ちかよるな 桐香


「調子はどうじゃ?」
猫を被ったジジイは、好々爺のようすで桐香に話し掛ける。
「とてもたのしいです」
にこにこと桐香が返事をした。
今日の夕食は、ジジイと桐香、シズカに俺、の4人。
大成さんと朝季さんは仕事だし、伊集院はまだ帰っていない。
「ごちそうさまでした」
キチンと両手を合わせて挨拶をする桐香は、兄の俺から見ても行儀がいい。
大津のばーさま(故)が厳しくしつけたんだろう。
「デザートを出してやりなさい、ウメ」
「はい、旦那様」
ウメさんが応えて、和室から出て行く。
この屋敷で一番の古株らしく、 ジジイの父親が総帥だったときからここで働いているそうだ。
ジジイの子供時代なんてのも知っているらしいので驚きだ。
それにしても・・・
「うまいか?」
「はい!」
まるで自分のひ孫のような可愛がりようだ。
羊かんを食べる桐香を楽しそうに見ている。
桐香も、こんな猫可愛がりしてくれる祖父母ではなかっただろうから嬉しいんだろう。
しっかり伊集院家になじんでいる。
「あ、りゅう」
甘いものに喜んでいた桐香が突然 顔を上げた。
「ママがね、こんど会いたいって」
「ふーん」
「だいじな話があるって言ってたよ」
「大事?」
なんだろう。
俺は首をひねる。

俺の母親は、親の決めた婚約者がいるのに、どこぞの馬の骨(俺の父親)に惚れて駆け落ちをした。
しかも、結局 離婚。
そんな過去を持っているもんだから、元々の婚約者の大津との結婚もいろいろ陰口を叩かれている。
ホントになあ。
最初っから大津にしとけば良かったのに。
(そうすると俺は居ないけど)
まあ子供(俺)さえ居なければ若気の至り、で済んだかもしれないけどなー。

10代で恋に走るなんてよくある話。

婚約者だった大津なんて中学生。
そりゃ惚れた女が男と逃げても、打つ手ないわ。

「んで? いつがいいって?」
「れんらくするって言ってたよ」
電話じゃ駄目なんだろうか。
大事な話、ねえ・・・

「えへへ 、いい話だよっ」
「ん?」
どうやら桐香は知っているようだ。
「なんだよ、言えよ」
「だぁめ! ママがりゅうに言うからって」





弟ができるって言っちゃだめって言ってたもん!!





・・・・・・バラしてんじゃん

いやいや、そうじゃなく!!!


弟ぉ〜〜〜?!!

「あ!!」
桐香がバッと口を押さえるがもう遅い。

おいおい俺18だぜ? 親子くらい歳ちがうじゃん!!
いや、それも違くて!
だいたい弟って、もう性別わかってんの?
何か月だよ?

「弟って・・・」
「桐香、弟がほしいもん! だから弟だよ!」

希望かよ!!


「・・・えーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・若いネ、あの二人も・・・」


とりあえず混乱した俺の頭から出てきたのは、そんな意味不明な言葉のみだった・・・



ぼーっと風呂の中で考える。
弟妹かー。
俺はどっちでもいいけどねー・・・

桐香は俺に話したことをナイショね!と口止めして帰っていった。
まったく、ナイショの意味わかってるのかと訊きたい。

本当のことをいうと、母親から聞くより桐香からで良かった。

俺の反応を母は気にするだろう。
だからこそ、自分から話すといったんだろうし。

相手が桐香だったから余計なことを考えずにあの反応だったけれど。
たぶん、母が相手だったら、俺は反応に困っただろう。

ただ喜んでやりたいのに。
裏の、裏まで考えてしまったはずだ。

妹か、弟か。
まあ       弟がいい、だろう。

桐香の純粋な希望とは、別次元の、ウラの話だ。

(・・・男なら、後継ぎになる)
母の、大津家での立場を確立するものになるだろう。

俺が男だから警戒されたこととは、逆に。

息子を引き取ることができなかった、母親。
財産をもつ家では様々な思惑が飛び交う。
俺に自由に会うことさえ後ろ指を差される原因となるのだ。

母は、俺を捨てなければ、ゆるされない。

俺に財産がいくことは許されない。
なんらかの権利が、俺にあってはならない。

俺は、大津の家にとっても母の実家にとっても、無いものでなければならないのだ。

俺の存在は、忘れ去られるべき汚点。




俺はバシャバシャと顔を洗った。
別に、俺の話はどうでもいい。
問題は、これから生まれてくる子だ。

弟か、妹か。
俺はどっちでもいい。
どっちでも、俺の弟妹(きょうだい)なんだから。

生まれてきてくれるだけで。
弟でも妹でもどっちでもいいんだ。


(あー・・・のぼせる! 出よう!)

「うわ!」
着替えて廊下に出ると、伊集院がいた。
壁に寄りかかって、どうやら俺を待っていたようだ。
髪を拭いていた手を放して、タオルを肩にかける。
「おう、おかえり」
「・・・ただいま、竜くん」
「?」
俺の顔をじっと見る伊集院に、首をかしげる。
なんだ?
「・・・あ、シズカに・・・」
話を聞いたのか?
「兄さま?」
シズカの名前を聞いて、伊集院が疑問符を浮かべた。
違うらしい。
まだ制服を着たままのようすを見ると、自分の部屋にもまだ戻っていないのかもしれない。
「なに?」
「・・・えーと・・・」
伊集院は俺の顔を見たり、床に目をおとしたり、なにやら言いよどんだ。
「なんだよ」
「・・・ええとぉ・・・」
落ち着かずに目線を泳がせている。

「あの!」
バッと思い切ったように顔を上げた。

「昼に会ったとき、竜くんの元気がなかったから!・・・だから! どうしたのかなって!!」

    え?」
「ほ、ホントは、もっと上手に、竜くんや兄さまみたいに慰めたり元気付けたりしたかったんですけど!」

「でもどう切り出したらいいかわからないし 理由も思いつかないし! 鈍くて自分でも情けないんです! でも何か役に立てることあったらと思ってそれで!」
伊集院は真っ赤な顔で言いつのった。
情けないと自分でいう伊集院は、どこか自棄になったように必死の形相だ。


俺に元気がなかった、それだけの理由で。


(・・・なんか)

もう、なんだかなあ・・・


クックック、と笑いが洩れる。
「竜くん!!」
それに気づいた伊集院がますます顔を赤くした。
「ご、ごめ・・・ぶっ!」
「もう!」
「い、いや、・・・あはははは!!」
茹でダコのようになっている伊集院の髪をぐしゃぐしゃと混ぜた。
「ご、誤魔化されません!」
俺の手を払う腕を、逆につかんで引き寄せる。
「ちょっ・・・竜くん・・・!」
「はいはい」
抱き締めて、ぽんぽんと背中を叩いた。

んー・・・

本当は、そのあとに憂鬱になることがあったんだけどさ。
まあ、いいよ。

もういいや。

「だから理由を・・・!」
「うんうん。もういいから」
離れようとする伊集院をしっかり腕の中に閉じ込めた。
やわらかい髪が鼻先をくすぐる。
何かを感じたらしい伊集院も、やっと大人しくなった。
おずおずと背中に腕が回る。

俺に 伸ばされた、腕。


     うん。


うん、 元気 出た。








つづく






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