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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − school festival −





筋肉。
夏が明けてますます黒くなった筋肉が、これまた一回り小さい筋肉と頭をつき合わせて話している。
「コースケもかなりイイ動きするようになってきたんで」
「うーん、そりゃわかるけど一高とは相性が悪いと思んだよなあ・・・」
元ラグビー部部長と現部長である。
西田は体育祭のあと丸坊主にしていたが、夏休みのあいだに髪も伸びて、ハリネズミみたいになっている。

まあ、それはいいとして。

「でかい図体を並べられると大変ジャマです」
文化祭の準備でダンボールを抱えさせられた俺は、扉の前にいる二人に言った。
その後ろからヒョイと高岡が顔を出す。
「黒木くん。ひさしぶり」
「あ、どうも、高岡先輩!」
現ラグビー部部長は、ぺこっと元気よく頭を下げた。
高岡とは 去年の体育祭のカラーが同じだったらしい。
「黒木くんブルーだっけ? 飲食店 勝ち取ったよね」
「そうなんですよー。ぜひ来て下さい!」
オマケしますよ!と二年の黒木は愛想よく宣伝した。
「是非お願いね。調子はどう?」
高岡が笑いながら訊く。
「うっ・・・それが・・・」
とたんに元気よく話していた黒木が情けない顔になった。
「今年、野菜が高いんですよ〜〜!」
「ああ・・・」
なるほど。
「今年、台風 多いもんねえ」
高岡も納得した顔になった。
「お好み焼きやるんだっけ?」
西田が訊いた。
「そうなんです! キャベツとか例年の3倍以上はしてますよ!」
「へー」
知らなかった。
去年だったら一人暮らししてたから打撃だったろうなあ。
伊集院家にいるから全然 気がつかなかった。
ちなみに食費は入れたほうがいいのかと考えてみたところ、ジジイにいらんと言われた。
(食材を考慮にいれたら絶対 払えない上に、払ったところで彼らにとってみれば一般人の10円の価値にもならない・・・むなしすぎ

「まさか9月半ばになっても台風が来るなんて・・・」
黒木は、へにょと情けない顔をする。
「大変ねー」
「たぶん最初に設定してた値段より上がりそうです・・・ああ〜〜絶対に売り上げに影響が〜〜!」
黒木が頭をかかえて苦悩した。
なんとも元気のいいヤツだ。
ポンポンと西田が黒木の肩を叩いて慰める。
「まぁまあ。本当に大変なのは農家の人たちだからさ。そういえば高岡、去年わりと安く仕入れてたよな?」
「うん、まあ。仕入れ先きまってるの?」
「や、それで今、決めかねてて」
「紹介しようか?」
「お願いしまっす!」
うっす!とでも言いそうな、いかにも 体育会系の黒木である。

しかし俺の関心といえば。
「関西風?広島風?」
重要だ。
黒木は、にや〜と笑って、
「両方です」
と言った。
「2つやるの?」
高岡が訊く。
「ふっふっふ。両方ですよ。気になるなら味比べにどっちも食ってください」
「あ、そーゆー戦略か」
なるほど。
確かにどっちも捨てがたい・・・

と、俺が一人密かに考えていると。
「あ」
黒木がポンと手を叩く。
「竜センパイ、伊集院さんと来て下さいよ」
「は?」
「サービスしますよ」
いや、なんで伊集院と行くとサービス?
「実行委員に参加するんでしょ? オレ、賞品ねらってるんですよ」
「賞品?」
なにそれ、という顔を俺がすると、その場にいた三人に呆れた目で見られた。
「真琴ちゃんに聞いてないの?」
「実行委員で助っ人ってのは聞いている」
雑用のコトじゃなかったのか。

そういえば、俺、あんま伊集院のこと知らないよなあ。

ふと、そう思った。
いつも伊集院が話してるのを聞いてるだけで、質問したり話を振ったりとかしたこともない。
今みたいにコイツらの方が色々知ってる。
実際、俺が一番 知らないくらいかもしれない。

・・・だって、黙ってても喋ってるし。
俺が話すより前に、訊かれるし。

会えば、俺が声をかけるよりも前に駆けてくる。

俺から何かをしなくてはならない場面なんて、ない。

「竜、全然 知らないのか?」
西田が訊いてきた。
「知らん」
「まぁ噂でしかないけどな、実は、」
「あーー! センパイ、待った待った。競争相手は少ない方が」
西田が言いかけたのを黒木が大声で遮る。
その横で高岡も頷いた。
「そうね。 私も狙ってるし」
「??」
一体なんだ?

あとで伊集院を問い詰めよう。




と。

思っていたものの。

伊集院は文化祭の準備が忙しいのか、帰りも遅く、ぜんぜん会わず。

そのうちに残暑がだんだんと穏やかになり、秋の気配が強くなってきた。
食欲の秋だったり、読書の秋だったり、世の中の人はそれぞれ色々いそがしい。

受験生の俺は、勉学の秋といきたいところだが・・・

「 -tion とか -sion , -ion で終わる単語は、その前の分節にアクセントがくるだろ?」
「うん、知ってる知ってる」
「これと同じように、-ity, -ety, -ic, -ical, -ics で終わる単語も、その前の分節にアクセントがくる。他にも -cial, -tial, -tious, ・・・と結構あるから、アクセントの法則性を覚えとけば知らない単語が出てきても予測はつくってわけだ」
「ほぉー」
「・・・・・・」

くぉら、聞いてんのか竜!
「いてっ」
鈴木のチョップが俺の脳天に入った。
「もーお前にはこのプリントはやらん」
そういって、鈴木は予備校プリントのコピーをしまおうとする。
「あー! 待った待った、鈴木! 鈴木さま!」
俺は慌てて鈴木に(プリントに)すがりついた。
それを川原がギャハハと笑ってみている。
「なんだよ、竜はガラにもなくセンチメンタ〜ルな秋か?」
「んー?」
別にセンチってわけでもないけど。
なーんか、こう、モヤモヤと変な・・・
「あ、もしかして視線を感じるっていってたやつ?」
「いや・・・」
そういえば、ここんトコあんまり感じないな。
なんだったんだろう。
「ま! キミたちと違って繊細ですからボクは」
「誰がだよ」
ふたり同時にツッコミを入れられた。
失礼なヤツらだ。

「お、いいもん持ってんねー」
西田がヒョイ、と背後から俺のプリントをとった。
「夏の講習で俺もコレもらったぜ」
単語のアクセントの法則や、接頭語の意味など、語彙力をのばすためにまとめられたものだ。
簡潔でわかりやすい。
「便利だよなー」
それにウンウンと川原と俺が頷く。
「お前ら…今までどうやって覚えてたんだ」
鈴木が呆れた声を出した。
「えーと、こう、なんか見た感じとか形とかデコボコとか」
ワキワキと手を動かして答える。
「なんていうか、どりゃ!うりゃあ!って感じで」
「うおおぉ入れ入れ!覚えろぉおー!・・・って詰め込む」
そうそう、と俺と川原と西田は三様に頷いた。

お前ら 脳みそ筋肉か

これだから体育会系は・・・と鈴木が溜息をついた。

「竜は真琴ちゃんに教えてもらえばいいじゃん」
手取り足取り、と川原がニヤニヤと笑う。
「そーだそーだ」
「あんな物心つく前から話してるヤツなんか聞いても無駄だよ」
気がついたら話していた、ってな人種なんだから。
俺だって、どうやって日本語 話せるようになったかと聞かれても教えられない。
「お、噂をすれば」
鈴木が廊下側の窓にアゴをやる。
そこには、音楽の教科書をもって移動している伊集院や後輩たちがいた。
「真琴ちゃーん」
「つぎ音楽?」
川原たちは窓から上半身を出して、廊下を歩く伊集院たちに声をかけた。
「こんにちは」
と伊集院は笑顔で挨拶をする。
目が合ったので、俺は席についたまま軽く左手を上げた。 伊集院が嬉しそうに小さく手を振り返してくる。

「あー・・・」
「真琴ちゃんカワイイなー・・・」
ペコと一礼して音楽室へ入っていった伊集院の後姿に、窓にへばりついていた男どもの溜息がもれた。
人が増えてるぞ。
「なんで竜なんだー?!」
「世の中おかしいぞ!!」
うるせえなー。
俺が知るかよ。
「付き合い始めたっていうし!」
「そのうえ同じ家・・・!」
「『おかえりなさい、竜くん! お食事? お風呂にしますか?』」
「『いや・・・キミが欲しいな』」

「・・・なーぁんてやってるんだろう!」

するか !!
気持ち悪いモノマネするなって!
「親と同居だっつーの」
バカバカしい。

「親と同居・・・」
「隠れた情事・・・密会・・・」

ヒソヒソとみんなが囁きあう。


『竜くん? どうしたんですか? こんな時間に・・・』
『・・・真琴の顔が見たくなったんだ・・・』
『あ! ダメです・・・こんな・・・』
『大丈夫・・・』
『聞こえちゃう・・・』
『しぃ・・・』



「 竜、お前ってヤツはぁあー !! 」




アホかーーー!!!




俺は、ヘッドロックをかましてくる連中に顎アッパーをお見舞いしてやった。

・・・ったく、伊集院がいいふらしたお陰で俺は大変な被害だよ。
「はぁ〜〜〜」
大きな溜息も出るってもんだ。
「あれ?」
「ノリ悪いな」
「なんだなんだ幸せ一杯じゃなかったのか」
訝しむ連中に、川原がダメダメ、と手をふった。
「なんか竜は 『憂いの秋』 らしいんだよ」
「うれい   ?」
「おセンチなんだよなっ、 竜」
なっ、ってそんな明るく訊かれても。
「別に・・・」
なーんかモヤモヤするってだけで。

「変なヤツ〜。ラブラブで他になにが不満なんだか」
ラブラブって。
思わずツッコミを入れる。

だいたい、別に前となにも変わったことはない。
それどころか、 伊集院は二学期が始まって文化祭の準備がいそがしいのか、毎日遅くに帰ってくる。
話す時間もあんまりないくらいだ。

「んーー・・・」

なーんか不調だなー。
なんでかなあ、と俺はガラにもなくお空などを眺めてしまった。





つづく




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