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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! - school festival -





「じゃ、由希を呼んでこい。誰にも知られないようにコッソリな」
バレると大騒ぎになってしまう。
「はい」
「で、あとは南さんに連絡してくれ」
「南さん?」
南さんは伊集院の運転手だ。
俺もたまに一緒に学校まで送ってもらう。
「保健室に行ったあと、たぶん病院に連れていってもらわないといけなくなるから」
普通だったら親に迎えに来てもらったりするんだろうが、俺に迎えにくるような親はいないし、先生たちも文化祭の真っ最中で忙しい。

「ほら、行け」
ポン、と腕を叩く。

頼んだぞ、と言うと、真剣な顔をして頷いた。

それからは、由希に肩を貸してもらって保健室に行き、予測通りに病院へ行くことになった。
「保険証は?」
保健の先生が訊く。
「サイフに入ってます」
いつも持ち歩いている。なにかあったときに必要だから。
「親御さんに連絡は・・」
俺の家庭の事情を知っている先生はチラリと俺を見た。
「自分でします」
「そういうわけにもいかない。連絡は入れるよ」
「・・・はい」
仕方ない。これだから未成年は面倒くさい。
病院への付き添いは頼んであるからと言って断った。
これからまだ怪我人が出るかもしれないのに、保健室を空けるのはマズイだろう。
だが成人した人間が必要となることがあるので、タクシーじゃなく、南さんに頼んだ。

昔、護衛をしていたが、怪我をして運転手に転向した南さんはガタイが良く、あやうく お姫様抱っこされるところだった。
「歩けますから!」
そんな恥ずかしいことは勘弁してくれ!!
手伝ってもらって車に乗り込む。
「じゃ、由希、あとは頼む」
「ああ」
残念ながら沢田との対戦は見送りだ。
「階段から滑って怪我したってことでいいんだな」
鈍くさい、と由希の顔にありありと書かれている。
「そうそう」
「・・・」
伊集院はなにか言いたそうに俺と由希の顔を見ていたが、俺が黙っていろ、と言ったので黙っていた。

「伊集院」
「はい」
「大丈夫だから」
「・・・はい」
伊集院も病院についてくると言っていたのだが、まだ文化祭の仕事があるだろうと俺が止めた。

落ち込んだ顔をする伊集院に手をのばして、頬をつまむ。

「で、伊集院にも頼みがある」
「え」
「コレ」
赤いリボンをくいっと引っ張った。
「え・・あ」
「俺の抽選、やっといて」
「あ、はい」
「いいか、特賞だぞ」
「え?」
「温泉旅行!」
「は、はい」
「温泉旅行ゲットしろ!いいな!」
「はい!」
「よし!!」
俺につられたように大きく返事をした伊集院に、笑う。

「じゃ、頑張ってくれ」

ひらひらと手を振ってドアを閉めると、南さんが発車させた。
広い車内で寝転んで、やっと一息つく。
足は荷物の上に乗せて心臓より高い位置にした。

骨折の初期対応にはRICEが基本だからな。
伊達に道場で育ったわけじゃない。

Resting(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(高挙)

「南さん、すみません、付き添い頼んでしまって」
「いいですよ」
俺が謝ると、南さんは穏やかに応えた。
もともと護衛のほうで仕事をしていた南さんは、子供のころの俺を見知っているらしい。
今も訓練に指導として参加しているので、俺も伊集院のなかでは割と話す人だ。

「ありがとうございます」
「一宮くん」
「なんスか」
「着くまで寝てなさい。もう無理しなくていいから」
南さんの言葉に苦笑してしまう。

「痛いでしょう」
「・・・痛いっすよ」

でも、伊集院に罪悪感を持たせるわけにはいかない。

この怪我は俺の弱さが招いた結果だ。
俺がいつまでも昔のことなんて引き摺っているから。


もう、二度と混同しない。

間違えない。



そう誓って、目を閉じた。










つづく




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