「ねえ、竜くん、もう放して」
あまりに伊集院が必死なので、少しだけ腕をゆるめた。
「・・もう、ホントに大丈夫な・・・、の、・・・」
「 きゃーー! あ、足!」
伊集院が耳元で叫ぶ。
「な・・!?」
「竜くん、足!あしーー!」
キーンと耳鳴り。
「なんだ、いったい」
「 足が変な方向に曲がってるー!!」
あー?!
俺から飛び降りた伊集院が見ている、自分の足に目線を移す。
あ、折れてたのか・・・俺の足・・
階段のすぐ下だけは四方がコンクリートになっていて、折れた右足はその上にあった。
土の上じゃなくそこに落ちて、それで足が折れたのだろう。
背中の衝撃のほうが大きかったから気がつかなかった。
これは、もしかしたら肋骨も折れているかもしれない。
・・・面倒くさいことになったなー。
これから受験なのに、あー、クソ。
チ、と舌打ちを漏らすと、伊集院がビクッと俺から離れた。
「あ・・」
伊集院が真っ青になる。
「どうしよう・・・また私のせいで・・」
口を押さえる右手は、涙を我慢しているためか震えていた。
「ごめんなさ・・」
「 伊集院! 」
強い声を出して、伊集院の腕を掴んだ。
「落ち着け」
ギュ、と左手を握る。
「いいか、これは俺のミスだ。俺の不注意だ」
むしろ、俺が伊集院を巻き込んだ。
「落ちたのは、俺のせいだ」
俺が言いつのるのを、大きな濡れた目で伊集院が見返してくる。
「・・でも」
「伊集院」
さらに言おうとする伊集院の言葉を止めた。
「お前のせいじゃない」
「・・・」
「いいな?」
「・・・・・・」
俺が引かないことが判ったのだろう、伊集院は無言でコクリと頷いた。
「よし」
ぐしゃぐしゃ、と頭を混ぜる。
赤いリボンも一緒になってシワくちゃになったが、ことさら乱暴に髪をかきまわした。
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