「あ、馬鹿、声が大きい」
思わず叫んだ俺の口を、由希が押さえた。
しかし、すでに遅かった。
周りの目がいっせいに俺たちに向いてしまった。
「 一宮ぁあーー!!」
「竜!」
「リョウさまだ~~!」
ワッと体育館が沸く。
「くそ、由希のせいで」
「いや竜也のせいだろ」
俺が睨むと由希は冷淡に答えた。
「おおー、ホントに骨折してる」
「ばっかだなー竜」
「うるせえ」
周りには同級の奴らや格闘マッチの奴らが寄ってきたが、俺は不機嫌に固めたギブスの足で蹴る仕草をした。
『 おおっ、ここで一宮竜也の登場だーー!! 』
壇上のマイクからも声がかかる。
抽選の司会をするのは、大沢、実行委員長の朝居だ。
『 映画「夏の日」のリョウ! かつ、陵ONEの立役者! 』
『 そして!! 』
『 決勝直前に 階段から落ちて骨折した マヌ・・・
悲劇の男 だー! 』
うるっせえ!
「まぁまぁ、竜」
川原が憤慨する俺の肩をポンポンと叩く。
「いいじゃん、温泉は当たったんだからさ」
「あ、それ」
やっぱり当たってんだな?
「俺も行きたい温泉あったのになあ」
「そうよー。ペアチケットうらやましい」
「くそー、こうなったらiPod 狙うぞー!」
みんなの目はすでに次の賞品に向いているようだ。
「で、俺は賞品どう受け取ればいいんだ?」
キョロキョロと体育館内を見渡すと、賞品は壇上に積み上がっている。
そこに、伊集院がいた。
賞品の箱を握りしめて、舞台の上から俺をまっすぐに見ている。
アリスの格好で、賞品を渡す係りだろうか。
思った通りの、泣きそうな顔。
心配でたまらないとその表情が語っていた。
やっぱり、電話くらいでは安心しないだろうと思った。
俺の言葉なんて信用しないで、不安に思っているだろう、と。
唇が動く。
音にならない声が、
竜くん、と。
・・・ったく。
大丈夫って言っただろ?
ばぁーか。
「 ・・・っ 竜くん・・・ッ!」
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