GrandPa Talks about Old Times
ほぅっと煙を吐いた。一宮は濁る空気に眉を寄せて私を見たが、何も言わなかった。
昇る煙の先に薄雲の散った青が見える。
私の隣に立った一宮は、その生真面目な性質のまま、どうするのかとは聞かなかった。
きっと私自身が決めればよいと考えている。
「じゃぁ」
長い別離文句は避けた。自分達の関係が変わるとまだ確定していなかったからだ。
火葬場を出て、さて、これからどうしたものかと頭を掻いた。
伊集院の新しい総裁候補を送る車は当然用意されていたが、それは帰した。
蕩然と歩いた。
妻が偉そうだと馬鹿にする歩き方だ。姿はどこにも見当たらなかったが、梅花の香りがした。
家と関わるつもりは無かった、そのつもりで飛び出していた。
死んだ兄は殊更無能だった訳ではないし、次男である自分は権力争いという邪魔にこそなれ助けにはならなかった。
伊集院を出る、本家とは関わりを持たない。
それを告げた幼馴染の女は器用に片目だけを細めた。
「だから?」
そして、妻になった。
道路脇に、一匹の獣の子を認め、
遠慮なく視線を向けていると顔を上げて鋭く睨め付けた。
何やらいつもの感覚に掛ったので、獣を暴れさせたまま連れ帰った。
娘が、面白そうに獣にじゃれた。
妻は呆れ、そして風呂に放り込んだ。
名を訊くと「ひろなり」とぶっきらぼうに告げ、大成と書くものだからタイセイと呼ぶことにした。
呼名は気に入ったようであった。
ぽかぽかと暖かく庭の桃花も開き始めていた。
その下ではタイセイが戸惑いながらも娘の我侭を聞き入れた形で遊んでいた。
妻がお茶を入れている。
彼女は物事をまた悠然と受け入れるだろう。
なんとなく脱ぐ機を逸した喪服と縁側に座り香典返しの甘菓子を齧りながら、これも運命かと思った。
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