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LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - summer festival -





嫉妬は、湧かなかった。

月子さんが愛しげに竜くんの頬に触れても。
竜くんが優しく笑っても。

あの指は、私が兄さまから貰ってきたものだから。
兄が妹に。
姉が、弟に。

それを見て、ぼんやり竜くんと月子さんの関係を理解した。

「あ、そういえば」
竜くんがパフェから顔を上げる。
「この前 本條に会った」
え?
知り合い?
私が月子さんに目を向けると、彼女は、
「そう」
と静かに応えた。
「別れたの?」
「え!?」
思わず声が出た。
月子さんは、竜くんの真っ直ぐな視線に、困ったように笑って、
「別れたわ」
と言った。
カラン、と意味もなくアイスティーを混ぜる。
目を白黒させている私に、竜くんが説明してくれた。
「高二んときかな?本條が店に月子さん連れてきたんだよ」
「竜くんのバイト先?」
「そー」
広いようで狭い、と竜くんは笑った。
「あのとき初めてイチの本名知ったのよね」
「あのサドが、珍しく優しいって話だったのにな」
「あんなの・・・」
月子さんはそう言い掛けて、やめる。

「あのね」
突然、私に向き直った。

「私、真琴ちゃんみたいな子、大ッ嫌い」

にっこり。

「・・・だったの。以前は」

にこにこと月子さんが笑いながら言った。
「・・・・・・」
び、びっくり。
びっくりした・・・。
こんな目の前で大嫌いって言われたの、はじめ・・・てじゃない、竜くん以来かも。

「私ね〜、ちょっと無理が祟って、冬に入院してたの」
明るい調子で話す。

 もうね、精神状態最悪でね。
 世の中崩壊すればいいのになあって思うくらい。

 青い空を恨みながら屋上でぷかぷか煙草を吸ってたの。

 『ちょっとおねーさん、クサイ』
 ムッスーと不機嫌な顔した女の子。
 『ここ、私のテリトリーなんだからタバコやめて』

 きっと、彼女も虫の居所の悪い日だったのだろう。
 はあ?何それ、というところから口論が始まって。
 気が付けばお互い泣きながら怒鳴り合っていた。

「可笑しいでしょ?初対面だったのよ私たち」

 相手には訳の判らない鬱憤をぶつけ合って。
 ギャアギャアわめき合って。


 彼女が、もう長くないことを知った。
 生まれたときから病院から離れられないのだと。


 『 馬鹿にしないで!!』

 同情が顔に出ていた?
 私よりこの子の方が不幸だと顔に?

 『 不幸な顔をしてれば満足? ねえ、それが相応しい!? 』

 『 嘆き暮らしてろっていうの!! 笑って過ごしちゃいけない!!? 』

 顔をクシャクシャにして、真っ赤にして、怒鳴り散らす彼女が。

 地団駄を踏んで泣きわめく子が。


 『 勝手に同情するな!! 勝手に私を不幸だと決めるな!!! 』


 綺麗だ、と心から感じた。


「それから何もかも馬鹿らしくなってね」
ふふ、と私を見る。
「真琴ちゃん、貴方みたいな子を恵まれていると妬んだり恨んだり。私より不幸な人を探して満足したり」
馬鹿みたい。
そう、月子さんが吐き捨てた。

自分は不幸だ不幸だと念じて過ごす日々は、それこそ、なんて。

「でね、脳みそは別のことに使おうって思って」
えへへ、と、何だかとても可愛らしく、月子さんは笑った。

「だから本條とは別れた?」
竜くんはパフェの溶けたアイスを捏ね繰り回している。
「うん」
少し哀しい目をして、月子さんは笑った。
「本條にとって恋人は、結局       人形だもの、ね・・・」






つづく






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