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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − summer festival −






「ちーっす」
まだ日の暮れる前、バイト先に行くと、本條がいた。
店の準備をしているマスターと話しながら、カウンターでちびりちびりとやっているようだった。
「一宮クン」
「仕事はどーしたんだよ」
「やーねえ、愛しの本條さんコンニチハ、とか可愛らしく言えないの?」
あほだ。
可哀想に 最近 暑いからな。(いや、もともとか・・・)
「この間 真琴ちゃんに会ったわよー」
うふふ〜と本條が言う。
珍しくスーツ姿だ。
といっても、ホストにしか見えない。
「知ってるよ」
「相変わらず可愛かったわぁ」
「ロリコン」
まっ!失礼ね!と言う本條を無視した。
30目前男が女子高校生。ロリコンだろう。
服を着替えようと奥に向かう。
「なんかねぇ・・・」
背中から声が追ってきた。

「欲しくなっちゃった。あの可愛い子」

振り返って、本條を見た。
「やだ怖い」
「・・・子供のオモチャじゃねーぞ」
欲しい欲しいって言ったら貰えるわけじゃねえんだよ。
「でもねえ、真琴ちゃん、片思いって言ってたわよ?」
だったら真琴ちゃんフリーでしょ?
一宮クンが駄目って言っても聞く必要ないわよね?
「誰がアプローチかけても自由よね」
にっこりと本條が笑う。

・・・自由。
そりゃ自由だ。塩谷にもそう言った。
俺には関係ない。

「抱き締めたくなっちゃうわ」
本條は、ゆっくり長い脚を組み替えた。

「どこもかしこも柔らかそうよね」
軽薄な顔で、笑う。


       あの身体に。

伊集院に他の誰かが触る?

違う男にああして笑う? 顔赤くして嬉しそうに?
抱きついたりキスしたりするのか?


・・・・・・なんか、

なんか 、 すげえ 、

む か つ く んで す けど 。



「ハイ、そこまで」
マスターが言った。
緩やかに微笑んで、本條を見る。
「本條さん、真琴ちゃんに手を出したら、私はもうあなたに何も作りませんよ?」
「ええーー!ヒドイ!」
すぐ最終兵器を持ち出して!とカウンター越しに抗議の声を上げた。
「せっかくイイトコだったのに邪魔して〜〜〜」
いいとこ?
「竜も」
「・・・へ?」
俺?
「あんまり本條さんを煽るなよ」
はい?
あおる?
「本條さん大喜びだぞ」
はいぃぃい?

「ああ、やっぱりいいわぁ・・・あの眼!」
うっとりした声に恐る恐る振り返った。
「殺しそうに睨んでくる顔!」
たまんないわ!とイっちゃってる。

・・・ななななんでしょうか、あれ。

「ま、マスター・・・」
「興奮させる竜が悪い」
俺ッスか?!!
なんで!?
「一宮クンやっぱ、私とやらない?」
やらねーよ !!

「本條さん」
「ハイハイわかってるわよ」
諌めるマスターの声に、残念そうな本條の声。
マスターさえ怒らなければ襲っちゃってるトコなのに〜、と聞き捨てならないセリフ。
「無理矢理やっちゃったら絶対ゆるしてくれなさそうだモン、一宮クン」
「ゆるすわけねーだろ!」
なに考えてんだ!
「ぜってーゆるさん!」
睨み付ける。


「・・・・・・一生、絶対に?」


声が変わった。
俺の答えに、うっすらと目を細くして本條は微笑んだ。


絶対を、くれるのね?


餓えた目。

・・・やばい。
やっぱりコイツは、やばい。


「追い出しますよー、本條さん」
マスターの緊張感のない声が、その場の空気を破った。
「もうそればっかり!」
本條はさっきまでの餓えた狩人のような顔はどこに行ったんだというクネクネした仕草で イヤーンとか言っている。

・・・脱力。

「別れて正解だな」
最近のマメ情勢(本條はマメを扱っている会社の跡取だ)から話題は移って、 新しい恋人の話をされた。
本條が何股かけてるのかは、知りたくもない。
「月子さんに会ったよ、この間」
「ふーん」
俺の言葉に、心底どうでもいい、といった様子で本條がグラスを揺した。


「興味ないわ、逃げた子なんて」






つづく








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