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LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - summer festival -





お店を覗くと、更紗さんが忙しく動いているのが見えた。
(ちょっと時間早いし…出直そうかな)
私がそんなことを考えていると、更紗さんが私に気がついた。
「真琴ちゃん」
入って入って、と手で合図してくれる。

元々は、更紗さんはモデル相手の仕事をしていた。
更紗さんが担当したモデルさんを見た私の母が、
『 私のもして?』
と言ったのが、今の仕事に移る切欠らしい。
特定の人だけでなく色々な人相手に仕事をしたいと思い始めていた更紗さんは、 母の融資の話を受けて、今の店を持った。

「ゴメンねー、足を運んでもらっちゃって」
「いいえ、もともと更紗さんのものですから」
以前 私がもらった浴衣を、更紗さんの姪御さんが着たいというので、持ってきたのだ。
「んもう、あの子 真琴ちゃんにライバル心燃やしてるものだから…」
いい迷惑でしょう、と更紗さんが苦笑した。
姪御さんは駆け出しのモデルで、私とは同い年だ。何度か会っている。
更紗さんが余りに可愛い可愛いというので、気になったらしい。
「代わりに他のを持っていかない?」
「え、でも…」
「持ってきてもらっちゃったしね」
…でもまた彼女が欲しいって言うかもしれないし…
「大丈夫、キッパリ要らないって言ったもの」
私の思考を読んで、更紗さんが言う。
「じゃあ、この間 迷ったもの、いいですか?」
「ああ、あれね」
ちょっと待ってて、と更紗さんは奥へ行った。
待っている間、ぐるりと店内を見回すと、紺の浴衣が目に入った。
着付けの宣伝用に飾られているらしい。
広げて掛けられているその浴衣は、紺地に艶やかな色彩の蝶が舞って、幻想的な雰囲気がある。

「月子さんに似合いそう…」

思わずポツリと漏らした。
大人っぽいけれど、どこか儚げな彼女にピッタリだ。

「なに? 月子ちゃん知ってるの?」
「え?」
更紗さんの声に振り返る。
「更紗さん、ご存知ですか?」
「ゴゾンジも何も・・・本條と付き合ってたでしょ?」
本條さんが店に連れてきて、担当したことがあるらしい。
「いい素材だったのになあ…。本條なんか関係なく来てくれないかなぁと思ってるんだけど」
むしろ本條は来ないでいい、と更紗さんはイヤ〜な顔を浮かべた。

「な、なんでそんなに嫌いなんですか…?」
訊いてもいいのだろうかと思いながら、更紗さんを見る。
「え?馬鹿だから」
当たり前でしょ、といった様子で、更紗さんが言った。
「ええっと・・・」
なんとコメントすればよいのやら。
「馬鹿っていうか・・・オロカ?愚かしい?」
更紗さんは容赦なく切り捨てる。
「サドだしねー」
悪口を言い始めたら100は言える、と断言した。
うーん・・・。
コメントできるほど本條さんを知らないし。
「でも月子さんには優しかったって」
この前の竜くんと月子さんの会話を思い出して言う。
「ああ、あれ…」

「あれは自分を可愛がるのと一緒でしょ」

「え?」
意味が掴めずに訊き返した。
「自分と似てたから・・・・似てるから、本條は月子ちゃんに自分を重ねて、月子ちゃんに優しくすることで、自分に優しくしていただけ」

だから絶対に、月子ちゃんは幸福になってはいけない。
本條と同じように、不幸でいなくては。

「別れて正解よ、あの子」
不幸でいるから、優しくしてもらえるんだもの。

「お人形は聞分けがよくないとね?」
「・・・あの、よく、意味が・・・」
「ああ、真琴ちゃんはそうかもしれないわね」
想像もつかない精神構造でしょう?と更紗さんは嘲笑する。
「たった一人の恋人では、いつでも都合のいいように自分と会えるわけでもないし、気分に合わせて性格が変わってくれるわけじゃないでしょう? だから一人じゃ駄目なの」

「絶対的なモノが欲しくてたまらないのよ」
馬鹿な男、と吐き捨てた。


      絶対?


何か、頭に引っ掛った。


『 もう 』

『 もう絶対 諦めない! 』

『 …絶対? 』

『 絶対! 』


・・・竜くん。
竜くんも、絶対が欲しいの?

不安で、たまらないの?






つづく






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