本格的な商業・サービス業向け補助金を作る  

商業・サービス業支援の場合、人件費をどのように補助するかが重要ポイントです。

私が考えた対応策〜(h)人件費の簡易補助
明らかな不正は、一度は見つからずにすんでも、何度も繰り返せば見つかります。しかし、グレーな部分はなかなか規制がかけられません。

その一方で、「気持ちはわかる・・・」というような苦肉の策を講じているケースもあります。
例えば、補助金の対象項目に「人件費補助」が無かったとします。実のところ、人件費補助がないことの方が、普通です。
本来なら、企業内で内製化できる部品であっても、それでは補助金が充当されません。そのため、しかたなしに、わざわざ同業他社に発注するといったケースが生じます。

これは、制度そのものが作った悪手です。
それゆえ、私は補助対象項目に人件費を入れるべきだと、考えています。
ましてや、商業・サービス業向けの補助金を作るとしたらなおさらでしょう。

私の提案は、「最低賃金」を目安にした、みなし人件費補助制度です。

これまで、人件費が補助対象とされる場合でも、パートタイマーやアルバイトなどの「雑役務費」が主でした。
「人件費に補助金を出すのは雇用対策であって、産業振興は違う」というプライドがあったのかもしれません。
さらに、「正社員を非正規社員にすることによって、人件費を変動経費にすべきだ」という考え方が背後にあったようにも思えます。
「雑」と付けるのはたいへん失礼ではないかと、私は思います。

最近では、正社員の直接人件費が補助対象になったりする例が出てきました。が、今でも少数派です。

人件費補助が行われる場合、1日単価か1月単位で限度額が設けられることがあります。

ちなみに、都公社の創業助成事業(h28)だと、
「直接雇用の従業員の給与・賃金(パート・アルバイトを含む):助成金交付額の2分の1を上限。正規従業員の給与は1人につき月額35万円以内、パート・アルバイの賃金は1人につき1,000 円/時間、週 40時間を限度。作業日報の作成を要する。時間外労働部分を含まない」と、たくさんの条件が付けられています。
国の創業・第二創業促進補助金も、ほぼ都と同じです。

同じく国の受注型中小企業競争力強化支援事業助成金(h28)では、
組込ソフトウエアの技術開発者などのみが対象で、「700万円が上限、時間単価×従事時間数で算出、単価の上限は2000円、1日8時間、月150時間まで」です、「非正規雇用、パート・アルバイト・派遣社員は対象外、ソフトウエア開発以外の業務は対象外、時間外・休日勤務は対象外」となっています。
(※注:いずれも、平成28年度現在)
人件費補助は、ほんとに難しい→

他の補助金の人件費補助の例→


作業日報というのがくせ者なんです

補助率が設定されると、人件費を事業費と合算されて、3分の2とか、2分の1とかに削られて補助金が算定されます。
しかし、人件費補助と事業費補助は別モノと考えるべきです。

商業・サービス業を対象とした補助金制度だということを大前提として、考えを進めますが、
商業・サービス業支援を謳う以上、人件費は最大のコストなので、これを無視してしまうと制度が骨抜きになってしまいます。
売上総利益に対する人件費比率は、小売業の場合60%程度、生活支援サービス業の場合55%程度になります。つまりは、利益の半分以上は従業員の人件費ということです。
そういった商業・サービス業の経営を支援するとなれば、「人件費補助のない補助金などあり得ない」と言いきっていいのではないでしょうか。

(売上総利益対人件費比率)
  h27 h26 h25 
生活支援サービス業  55.2% 52.0%  57.1% 
 小売業 59.1%  57.7%  63.0% 
(出所:都公社「アーガス21」より加工)

さて、次の課題は、非正規従業員のみの人件費を補助対象するかです。
本案の補助金では、非正規従業員の人件費を補助対象としていません。
だって、そうでしょう。非正規社員を正社員化するのに補助金が出る流れなのに、非正規社員でなければ補助対象としないというのは、時代錯誤だと思います。

とはいえ、人件費は“消えもの”であり、不正に繋がりやすいので、チェックも厳しく行われます。
このため、すでにお話ししたように、作業日報などの裏付け資料の作成が不可欠ですが、これが企業にとって大きな負担になってしまいます。
何より不合理なのは、人件費補助の裏づけ資料作成とそのチェックにどんなにマンパワーを投入したとしても、それによって企業の経営には何の影響も与えないことです。
産業振興のための支援制度なのに、ムダな部分で消耗してしまうって、おかしくありませんか。
日報を作ると、検査時のチェックがしやすくなります。つまり、検査する側も仕事が膨大な量になるのです。つらいです。

そこで、人件費をまとめてポンと補助する方法がないか、いろいろと考えてみました。
税金に簡易課税があるならば、補助金に簡易補助があってもいいのではと・・・。

まず、不正行為で「これだけは絶対に阻止しなければならない」というのは、経営者によるピンハネです。
補助金が従業員給与に充当されていることを、当の従業員は知りません。だから、経営者はこれを横取りすることができます。


ところで仮に、
当該従業員の給料≧人件費補助の金額
が常に成り立つとしましょう。これなら、少なくとも企業側の搾取はないはず。
そこで思いついたのは、これ。
「当該従業員の給料≧最低賃金≧人件費補助の金額」

従業員の給料は、最低賃金額以上でなければならない。
そうでないと、企業は最賃法違反で労働基準監督署に通報されます。

そして、人件費補助額が最低賃金額以下ならば、少なくとも従業員の給料に補助金が全額充当されている。
そうじゃないと、企業はやはり、最賃法違反で通報されます。

だから、人件費補助額が、最低賃金を下回っている限りにおいては、企業が補助対象の賃金の上前をはねるようなことはしていない、と三段論法で判断できます。

最低賃金法に違反すると→

では、最低賃金がどのくらいか、計算してみます。
東京都の最低賃金額は1時間あたり932円です(平成28年10月1日適用)。
このことから、1年間の最低賃金額は以下のように推計されます。
1年365日−国民の祝日16日−土日(52週×2日=104日)−年末年始3日(除.土日祝日)=242日(月20.2日) 8時間×242日×932円=1,804,352円

1日7.5時間月20日勤務なら月額は、7.5時間×20日×932円=139,800
1日8時間月21日勤務とすると月額は、8時間×21日×932円=156,576

このように考えると、従事者1人につき人件費補助が月13万円程度であれば、最低賃金以下になるとみてよいでしょう。
補助金の人件費補助が、最低賃金の額を下回っている限りにおいては、企業は補助金の人件費補助額を全額、当該従業員に還元してると言えます。

もちろん、全勤務時間を補助事業に費やしているといえないので、キリがいいところで月10万円を補助限度額とすることにします。
一般に新規採用者の初任給は20万円くらいだから、2分の1補助だと考えれば、まずまず妥当な線だと思います。
そして、年間の限度額を100万円とします。つまり、10か月分補助です。

他の補助金のように、月35万円とか40万円とかを限度とするならば、それこそ1時間単位で日報を確認しなくてはなりません。実際の給与と逆転現象が生じるからです。
しかし、10万円/月なら、まずもってそういうことは生じません。
そこで、この額を「みなし人件費補助限度額」と定めます。

そうすれば、確定時の検査は、「ほんとうにその者が従業員であるかどうか(雇用保険で確認)」「念のため、それ以上の給与をもらっているか(給与台帳で確認)」を確認すればよいことになります。

これで事務量が格段に減ります。
現場で担当者が上記を確認し、確認済みの署名をすればOKということになります。
個人情報なので、コピーを取ったり持ち出したりするのは避けるべきですから、その面でも好都合です。

本来なら就業規則などと照らして、従業員が非正規ではないことを確認する必要があるのですが、給料の年額が103万円を越えていれば、事実上正規同等を見なすことができます(※150万円に上がるかも)

なお、途中で担当者が交代することもあると思います。このため、補助は年単位ではなく月単位で行います。
また、1か月未満の端数月がある場合は、補助対象としないことにします。
日単位で計算するのは面倒なので、そういう決め事にします。
ただし、(1)月初が休日で、それに引き続く日から月末まで従事した場合、(2)月末が休日でその前日まで従事した場合は、1か月として計算します。
わかりやすく言うと、(1)ついたちが日曜日で2日の月曜日〜月末が対象なら1か月を満たす、(2)月末が土日でその前の金曜日までが対象なら1か月を満たす、という決め方です。
商業・サービス業は人の出入りが激しい→

人材確保のやり方は一様ではない→


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