books / 2003年02月24日〜

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若竹七海『クール・キャンデー』
1) 祥伝社 / 文庫判(祥伝社文庫所収) / 平成12年11月10日付初版(同20日付2刷) / 本体価格381円 / 2003年02月24日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 祥伝社の400円文庫シリーズ第一回配本のなかの一冊として刊行された、若竹七海書き下ろし中篇。
 杉原渚14歳、誕生日と夏休み初日が重なるその前の日、兄の嫁が病院で絶命し、同じ時刻にその死のきっかけを作ったストーカーが別の場所で不審な事故死を遂げ、嫌疑は渚の兄にかかった。その噂で友情は台無しになるわ、変な噂は立てられるわ、最悪の様相を呈しはじめた夏休み。平穏な日々を取り戻すために、渚は兄のアリバイを証明しようと奔走する――
 色々と批判の多い400円文庫シリーズだが、これは質・量のバランスが絶妙。これ以上長くては蛇足が過ぎるし、これ以上短くても駆け足になってしまう。14歳の世間を知ったような口を利く女の子の一人称も、彼女におじさん呼ばわりされる世代から見ると不自然さが無く、また変な媚びもなくて心地よい。
 ミステリとしてはやや中盤の捜査が緩く、実際の動きが少ない割りに簡単に色々な事情が割れてしまうのが物足りないが、終盤に判明する真相と立て続けの捻りが巧い。そして、爽やかに決着するかと思いきや、最後の数行で突き落としてみせる。――いわゆる青春ミステリを期待するとかなり衝撃の強いラストだが、それだけに余韻も深い。
 意外と、こういう分量とスタイルこそ若竹七海氏の本領なのではないか、とさえ思う。お見事。

(2003/02/24)


江戸川乱歩『吸血鬼 乱歩傑作選6』
東京創元社 / 文庫判(創元推理文庫所収) / 1993年12月24日付初版(1995年10月13日付5刷) / 本体価格612円(5刷当時、2003年03月現在本体価格720円) / 2003年02月24日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 昭和五年九月から翌年三月まで報知新聞紙上に連載された、乱歩の通俗長篇。とある地方の温泉旅館で、ひとりの婦人を巡って二人の男が決闘を行った。若く美しい一方が勝利し、無事に婦人を陥落するが、その時を境に、婦人の周囲には不気味な影が付きまとい始めた。脈絡のない無数の事件の目的や如何に? 我らが明智小五郎探偵が、この謎を快刀乱麻に解き明かす。
 売り上げの面では最も脂の乗っていた乱歩は、しかし多く仕事を抱えすぎたために筋を決めずに連載を始めてしまう場合も多かったという。本編はその弊害が非常に目立っており、実に様々な事件が起きるのに焦点がぼやけていていまいち興が続かない。
 その代わり、事件ひとつひとつの猟奇性や、独特の自己言及的(或いは自己隠蔽的、とでも言うか)趣向が非常にくっきりと現れている。悪夢のような事件の結末に、哀しい情感を留めるドラマ性の演出も巧み。
 敢えて大衆の猟奇趣味に迎合した当時の乱歩の作風に愛着がある向きには楽しい一冊だが、物語としてはどうしても大味な印象がある。本編と一部地続きになっている『魔術師』と並べて読み解いてみたりといった穿った読み方の出来る方にはお薦めだが、それ以外の方には微妙だと思う。

(2003/03/01)


法月綸太郎『法月綸太郎の功績』
1) 講談社 / 新書判(講談社ノベルス所収) / 2002年06月05日付初版 / 本体価格820円 / 2003年03月08日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 綾辻行人らとともに「新本格」の初期に登場、作者と同名の探偵役・法月綸太郎のシリーズを中心にクイーンのひそみに倣った本格推理小説を手掛ける著者の三年振りとなる作品集。2002年度の日本推理作家協会賞短篇部門受賞作『都市伝説パズル』を含んだ全五篇を収録する。
 クイーン後期問題という幽霊に取り憑かれている、と言ってもいい著者は創作面での執筆速度が遅く、15年になるキャリアで長篇は未だ七冊しか発表していない。こと近年はそちら方面がご無沙汰で、本書は創作では三冊連続となる作品集である。そのうえ各編は掲載誌の締め切りに追われて急いで執筆した、とあとがきで自嘲するが、どうしてなかなかに端正かつ本格ミステリの見本市とも言えるような作品ばかりが揃った。長篇では探偵役の綸太郎が盛んに吐露するミステリ創作と探偵術における悩みが、期限と枚数を区切られた短篇というフォーマットでは顕在化しない故だろう、飾りも乏しいがだからこそごく真っ当なミステリの醍醐味が味わえる。
 歪な密室ミステリ『中国蝸牛の謎』やミッシング・リンクテーマの『ABCD包囲網』には手が込みすぎた故の無理が感じられるが、他三篇はシンプルな仕掛けに綺麗な捻りが加えられており、いずれも結末が印象深い。なかでもやはり、推理作家協会賞を獲得した『都市伝説パズル』の切れ味はお見事としか言いようがない。
 ただひとつ、各編でちらほらと見られる、発表時期にしか通用しない描写は、あまり経年変化の認められない探偵役を据えたシリーズとしてはどうかと、個人的には思う。『都市伝説パズル』でそのものズバリの洋画『ルール』に言及したり、「DV法が施行されていないから夫婦間の揉め事に介入するのは問題がある」云々といった言動は、時流を反映すると共に後年こうした描写をもって風化説を唱える向きもありそうで不安がある。一部を除いて、簡単に色褪せる仕掛けではないのだが――

(2003/03/08)


若竹七海『プレゼント』
1) 中央公論社 / 四六判ハード / 1996年05月07日付初版 / 本体価格円 / [bk1で購入するamazonで購入する]
2) 中央公論社 / 文庫判(中公文庫所収) / 1998年12月18日付初版 / 本体価格705円 / 2003年03月10日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 滅亡寸前の生物「フリーター」の肩書のもと、各種の身に覚えのない災難に見舞われながら様々な職を転々としてきた二十代後半のトラブル・メイカー葉村晶。娘のピンクの自転車に跨って現場に駆け付け、傍目に凡庸な態度の奥に優れた捜査能力を備えた刑事小林舜太郎。ふたりがそれぞれに出逢った事件を計8本収録した作品集。
 若竹七海という作家は論理的な謎解きよりも、痛烈で穿った人間観察と歪んだ人間描写の巧みさ、それらを踏まえつつ意表を突いた結末に主眼を置いた作品が多い、というのが私の印象である。そう考えた場合、この作品集は氏の特徴が最もよく現れている。
 とりわけ、極めて屈折したヒロイン(寧ろ「ヒーロー」と呼びたい気もする)葉村晶のキャラクター造形は飛び抜けて魅力的である。外形は描写すらされないほど凡庸らしいし、実際に近くにいたら無駄な緊張を強いられそうだが、探偵役=道化役としては理想的なトラブル・メイカーっぷりと穿ったものの見方は痛快ですらある。
 惜しむらくは、キャラクターの完成度の高さに対して、各編の捻りがやや見劣りすること。いずれも捻りと共に登場人物の価値観に痛烈な皮肉を突き付けるような決着が用意されているのだが、キャラクターが巧いだけに却って想像のつく顛末が多いのが少々物足りない。この辺はより最近の作品である『死んでも治らない』のほうが纏まっていて、洗練された印象がある。葉村と小林警部補が唯一共演する最終話も、少々筋書きがばたばたして見えるのが勿体なかった。
 とは言え、決して安易なハッピーエンドに至らない作風は、単純なドラマでは満足しない向きをも楽しませてくれるはず。秀作である。

(2003/03/10)


若竹七海『依頼人は死んだ』
1) 文藝春秋 / 四六判ハード / 2000年05月30日付初版(2000年12月25日付2刷) / 本体価格1762円 / [bk1で購入するamazonで購入する]

 ある事情から、珍しく三年という長期間務めていた探偵調査所を辞めていた葉村晶は、所長の厚意もあってフリーの調査員として復帰した。関わる事件に冷淡な眼差しを向けながら、葉村は容赦なく真相に迫っていく……
『プレゼント』では小林舜太郎警部補のエピソードとのカップリングで、最後のエピソードにおいて図らずも連携を行うという筋立てで活躍していた葉村晶が、本格的に探偵役として起用され、全編において活躍する初の作品集。ロジックよりも終盤のサプライズを重視する作品中心のため、どうしても舌足らずな印象を随所に残すが、全編で一貫する葉村晶の姿勢と、最終章のインパクトは強烈。個人的には、ラストで美味しいところを攫っていく長谷川探偵調査所のメンバーについて、それ以前の章でもう少し掘り下げていて欲しかった、と思うが望みすぎだろうか。
 各編それぞれに虚無的な、だが深い余韻を残す点で秀逸なのだが、敢えてベストを挙げるなら『詩人の死』だろうか。この結末はあまりに凄まじい。

 ……ところでこの葉村晶というキャラクター、おそらく本書に収録された作品群を手掛けるに当たって初めて探偵役への本格的な起用を考えたのではなかろうか。『プレゼント』では『ヴィラ・マグノリアの殺人』や『死んでも治らない』、『クールキャンデー』に登場する架空都市・葉崎を舞台にしていたのだが、本書の「詩人の死」で友人のマンションに身を寄せてから以降は東京の描写が明らかに増えている。葉村の情熱と冷静とが入り交じったような生き様と、コージィ・ミステリの舞台として用意された雰囲気のある葉崎とは馴染まないと思ったか、はたまたトラブル・メイカーとしての真価を発揮させるには実在の都市圏が相応しいと考えたのかは解らないが、いい選択だと思う。

(2003/03/12)


若竹七海『悪いうさぎ』
1) 文藝春秋 / 四六判ハード / 2001年10月15日付初版 / 本体価格1810円 / 2003年03月13日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 フリーの調査員・葉村晶にとって人生最悪の九日間は、簡単と思われた仕事がきっかけだった。家出した平ミチルという少女を連れ戻す、という単純な仕事を、同行した世良という調査員が働いた乱暴でぶち壊しにされてしまった。葉村はとばっちりを食い、ミチルを匿っていた少年に刺された上右足の甲を骨折する。その一件が縁で葉村は、ミチルの親の友人である滝沢喜代志から娘の美和の捜索を依頼される。負傷をおして依頼を引き受けた葉村は、更なる少女の失踪事件に友人の恋愛問題、更には世良の逆恨みなど立て続けのトラブルに見舞われる……
 探偵役がいきなり刺される、冒頭はシンプルだが強烈。だが、それが終わると途端に複数の事件が並行して動き出すいわゆるモジュラー形式の雰囲気に変わり、はたしてどこへ着地するのかという不安を煽り、かなり後半まで保って読者を惹き付ける。
 中盤までの混乱から終盤のサスペンスに至るまでの筋道が見事で、後半は巻置く能わざるという表現が相応しい面白さである。題名にまつわるサプライズも、かなり重い。
 ただひとつ、葉村の身辺で起きたトラブルのうち、大きなもの以外は最終章においていきなり片が付けられてしまった点が物足りなかったが、それでも括りは葉村シリーズの他の単行本と較べて爽やかで後腐れがない。
 やや超然とした印象のあった葉村が、本編を経ていくぶん地上に降りてきている。更に人間味を増した彼女の今後の物語にも期待したい。

(2003/03/13)


若竹七海『サンタクロースのせいにしよう』
1) 集英社 / 四六判ハード / 1995年08月30日付初版 / 本体価格1553円 / 2003年03月14日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]
2) 集英社 / 文庫判(集英社文庫所収) / 1999年11月刊行 / 本体価格438円 / [bk1で購入するamazonで購入する]

 わたしこと岡村柊子は、失恋をきっかけに引っ越しを決意した。そんな矢先に友人の彦坂夏見が紹介してくれたのは、一戸建て2LDKしかも家賃光熱費不要、ただし同居人に代わって家事一切を取り仕切ることという奇妙な条件付き。この際何でもいい、と飛びついた私だったが、同居人は大物俳優のお嬢様で色々と感覚のずれた松江銀子さん、しかも玄関先には老婆の幽霊つき。様々なトラブルに遭遇しながらも、私は次第にこの空気に馴染んでいく。
 最初は若干戸惑った。というのも、私がここひと月ほどに読み漁った若竹作品と異なり、露悪的とも言える造型の人物がない。エピソードもいわゆる「日常の謎」と呼ばれるもので、サプライズの演出にこだわりを見せる近年とは作風が異なっている、ような印象を受けた。
 それだけに、五話目の『虚構通信』で突如、吹き出すように「悪意」を描いてみせたのがやたら強烈だった。厳密には、誰にも「悪意」がないが故に漂う「運命の悪意」とでもいうべきものが主題なのだが、いずれにしてもこの作品を境に急激に近年のダーティな表現が浮上してくるのが興味深い。
 そうした作風の変化が窺えることもそうだが、作品ごとに雰囲気がまるで違っていて、ややバランスの悪さを感じさせる。登場人物たちの設定が全体を通した作品の雰囲気作りにあまり奉仕していない点も物足りない。
 一篇一篇の出来はなかなかだと思う。友人の夏見が思いかげない冴えを見せる数編を除くとやや論理性を欠いた印象があるが、いずれも「日常の謎」を題材にしたミステリとして、美しい雰囲気を具えた秀作となっている。それでも、『虚構通信』の持つ強烈なインパクトを超えるものはなかった、というのが正直なところ。
 まだ未読の若竹作品が多い私には断言できないことだが、或いは若竹七海という作家の個性を決定づけるターニングポイントの役割を果たした一冊なのかも知れない。なかなか興味深い一冊でした。

(2003/03/14)


若竹七海『ヴィラ・マグノリアの殺人』
1) 光文社 / 新書判(カッパ・ノベルス所収 / 1999年06月発売 / 本体価格848円 / [bk1で購入するamazonで購入する]
2) 光文社 / 文庫判(光文社文庫所収) / 2002年09月20日付初版 / 本体価格648円 / 2003年03月17日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 葉崎市のなかでも孤立した環境下に佇む集合住宅ヴィラ・葉崎マグノリア。その空き家の三号棟で、頭部と指先を砕かれた死体が発見された。いつまで経っても判明しない死者の身許に、いつしか住人たちは疑心暗鬼に陥る。言わなくてもいい秘密が暴露されるわ、余計な疑いをかけられるわ……そして僅か二日後、「事件当日、怪しいふたり連れを見た」と騒ぎ立てていた主婦が殺害されて……。
 それまで短篇中心だった作者だけに、複数の事件や不幸話がミックスされたような雰囲気がある。視点が頻繁に移動し、読者側として感情移入する対象がないため、どっぷりと作品世界に浸かることが出来ないのが難。
 少々皮肉な眼差しを籠めた、丁寧なキャラクター造形は巧みで、話が進むほどに登場人物に妙な愛着が湧いてくる。少しずつ各人の秘密の真相が明らかになっていくさまはミステリというより週刊誌ネタのような感覚があるものの、最後に示される事件の真相に至る伏線の張り方はなかなか面白い。論理的ではないが、こう説明されると他に当て嵌まる犯人像はなかったのだ、と思わされる。
 コージー、と呼ぶには踏み込みがやや甘いが、組み立ては巧い。論理ミステリではない分、中盤にもう少し膨らみが欲しかった気がするが、読後感の心地よい佳作。

(2003/03/17)


内田康夫『贄門島(にえもんじま)
1) 文藝春秋 / 四六判ハード・上下巻 / 2003年03月15日付初版 / 本体価格各1600円 / 2003年03月21日読了 [bk1で購入する(上)(下)/amazonで購入する(上)(下)]

 1982年『後鳥羽伝説殺人事件』での初登場以来、内田康夫作品の看板となっている浅見光彦シリーズ89冊目の作品。
 20年前、浅見光彦の父・秀一が亡くなるその一年前に、房総半島の外れにある美瀬島という土地で生死の境を彷徨う事故に遭っていた。島の人々の尽力で一命を取り留めた父は、夢うつつにさながら死神のものと思われる奇妙な会話を耳にしていた。大原のはだか祭りの取材に託けて、浅見は当時のお礼と称し美瀬島を訪問することを思いつく。大原で知り合った平子というルポライターと共に現地を訪れた浅見は、収穫に恵まれ、経済的にも独立した島には生贄を送る習慣が島にあることを知る。やがて、島の関係者が立て続けに死亡、失踪する事件が相次ぎ、浅見は島を巡る謎に挑むことになる……
 初登場から20年を経ても浅見光彦というキャラクターが変わらないように、内田康夫という作家のタッチもこの10数年まったく変わっておらず、それが良さでもあり悪さでもある。論理性よりも直感と情緒によって推理を積み重ねていく浅見の姿勢も、現在進行形の社会情勢を折り込みつつ恣意的ながら読者の意表を衝いてリーダビリティを持続する作風も従来通り、実に安定した筆運びである。
 扱われている問題が微妙なため、終盤での浅見の態度は賛否が分かれそうだが、切ない余韻を残すラストは秀逸。浅見シリーズ中、結末の美しさで群を抜く(と個人的に感じている)『皇女の霊柩』に匹敵する仕上がりと思った。
 ほぼ従来通りの雰囲気のため、旧作数編を読んで「合う」と思った方は安心して読めるだろうし、「合わない」と思った方にはやはり難しい作品だろう。内田作品との相性は、初期数作を除いてどこから接触しても計ることが出来るので、未経験の読者が現代の社会情勢が反映された本編から触れるのは悪くない。
 往年の愛読者にしてみれば、久々に浅見がある意味においてかなり追い詰められているのが読みどころである。今回ばかりは、本当にやばかった。どういう意味かは読んでのお楽しみ。

 ……感想を書き始めて気づいたのだが、本編で浅見光彦が美瀬島を訪れる契機となった父・秀一の奇禍があったのは21年前、なんと浅見光彦が内田作品に初登場したのと同年である。「サザエさん時空」に存在する彼らの経歴について細かな詮索は無意味だ(そもそも光彦の兄・陽一郎がこれ程長期間にわたって警察庁刑事局長に就任していること自体が異常だ)、というのは理解していても、その符合に思わず苦笑いしてしまう。この作者のことだから、決して意図的ではなかったのだろうけれど。

(2003/03/21)


『新本格猛虎会の冒険』
1) 東京創元社 / 新書判 / 2003年03月28日付初版 / 本体価格820円 / 2003年03月27日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

収録作品:
 前書――逢坂 剛『阪神タイガースは、絶対優勝するのである!』
北村 薫『五人の王と昇天する男達の謎』
小森健太朗『一九八五年の言霊』
エドワード・D・ホック/木村二郎・訳『黄昏の阪神タイガース』
白峰良介『虎に捧げる密室』
いしいひさいち『犯人・タイガース共犯事件』
黒崎 緑『甲子園騒動』
有栖川有栖『猛虎館の惨劇』
 解説――佳多山大地『虎への供物』

 2003年の優勝を祈願して(?)編まれた、前代未聞の阪神タイガース応援ミステリ・アンソロジー。熱烈ファン、刷り込みファン、外人助っ人にアンチまで揃え、更に前書きと解説を含めて九名の作品を収録する。
 昨年前半は優勝確実とさえ思わせる大活躍を見せながら結局Bクラス止まりとなり、今年こそはとファンを歯噛みさせる阪神タイガースを応援するアンソロジー……とは言うが、そこはそれ、このメンバーが揃ったからには一篇一篇きちんと持ち味を活かした本格ミステリとなっている。
 ただ、タイガースというテーマに託けたお遊びがないと、いまいち鋭さに欠ける、といった印象の作品が多いのも事実である。北村 薫『五人の王と昇天する男達の謎』はそもそも有栖川夫妻を道化役にしたあたりから遊びが過ぎて辟易させられるし、小森健太朗『一九八五年の言霊』は整然としながらも「果たしてただの阪神ファンはこの論理の遊びについてこられるのか?」と思うぐらいに趣向が走ってしまっている。エドワード・D・ホック以降の作品は、阪神にまつわる蘊蓄は楽しいのだけれどミステリとしてはオーソドックスで、しかも仕掛けとして緩いものばかりになっている。
 とは言え、前衛趣向に走ったような冒頭2作品を除けば、ただ阪神ファンと言うだけで本書に手を出したようなミステリ初心者にも受け入れやすいアンソロジーになっている。まして、ここ数年間続いている優勝への期待に乗っかった一種の「お祭り本」としての興趣には溢れており、読んでいて妙にニヤニヤさせられることも事実だ。ファンならば登場人物たちの動向に頷きときとして涙ぐみ、ファン以外の読者もそういう読者像を想像して楽しむことも出来る。
 出来不出来を別にした楽しみ方のある、稀有な一冊だと思う。但し、野球に興味のない方は相応の大らかさを以てページを繰るよう予めご忠告さし上げたい。なお、個人的なベストはいしいひさいち『犯人・タイガース共犯事件』……え? 駄目? なんで。

 しかしほんとに、いったい誰が企画したんでしょうね、こんな本。

(2003/03/27)


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