books / 2003年04月16日〜

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鮎川哲也『竜王氏の不吉な旅 三番館の全事件I』
1) 出版芸術社 / 四六判ハード / 平成15年02月15日付初版 / 本体価格1900円 / 2003年04月16日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 本邦の本格推理というジャンルに貢献多大な鮎川哲也氏が晩年最も多く手掛けたバー《三番館》シリーズ。平成四年に最後の作品集『モーツァルトの子守歌』が発表されて以降新刊の発売がなく、長らく絶版状態が続いていたが、2003年に出版芸術社から発表年代順に編纂しなおした全集が、東京創元社から初出の形に近い復刻が相次いで刊行された。本書は東京創元社版に先駆けて刊行され、長篇化の予定があったために単行本収録が見送られていた短篇『竜王氏の不吉な旅』を鮎川名義の単独著書として初めて収めた作品集となった。
 以下、収録作品一覧。各編の感想は別ファイルに収めましたので、題名をクリックして移動してください。
 春の驟雨 / 新ファントム・レディ / 竜王氏の不吉な旅 / 白い手黒い手 / 太鼓叩きはなぜ笑う / 中国屏風 / 割れた電球 / 菊香る / 屍衣を着たドンホァン
 本巻収録分は小手調べと言おうか、これ以前の鮎川氏が多用していた倒叙スタイルから脱却し、本来のアリバイ崩しや犯人当ての趣向を短篇に持ち込むための実験をしていたという印象がある。トリックは長篇などで類例が見られるものが多く、動機は金銭と痴情の縺れが殆どで、続けて読むとマンネリの感が否めない。
 が、初っ端から完成されたレギュラーキャラクターの魅力と、鮎川哲也流に味付けたハードボイルドとも言える私立探偵の破天荒な行動と軽妙な語り口で、マンネリだと思いつつも結構読まされてしまう。何より、あれ程優れた長篇を世に送ったあとでなおも新しいシリーズキャラクターを構築し、本格ミステリとしか呼びようのない作品群を書き続けた情熱に圧倒される一冊。

(2003/04/16)


三谷幸喜『三谷幸喜のありふれた生活2 怒涛の厄年』
1) 朝日新聞社 / 四六判ソフトカバー / 2003年04月30日付初版 / 本体価格1100円 / 2003年04月21日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 2000年から朝日新聞夕刊での連載を開始した、人気脚本家・三谷幸喜によるエッセイの単行本第2巻。2001年9月から2002年12月までの連載分を収録している。
 題名通り厄年を迎えた著者の生活を、ほぼリアルタイムで発表したものが集められている。厄年の名に恥じず(?)トラブル続きの1年半で、この話続く、と振っておきながら放り出された話があったり何処か尻切れトンボなエピソードがあったりするのが、作り話にはない迫真味があって楽しい。
 前半、舞台初日を目前にして主役が病気によって降板し急遽代役を立てるくだりとか、2002年の後半から放映を開始したシチュエーションコメディ『HR』製作の苦労話など、ファンならずとも興味を惹かれるであろうエピソードが並ぶが、いちばん効くのは氏の劇団仲間であり名脇役であった伊藤俊人氏の死に纏わる話と、数年振りに役者として舞台に立った際の話である。
 一回あたりのページ数が少ないため、ひとつひとつの話は短くあっさりとした印象がある。もうちょっと突っ込んで欲しい、と感じることもままあるが、基本的に気楽な読み物として上質。気弱で根暗で一所懸命な人気喜劇作家の日常を堪能しましょう。
 ……それにしても梶原善さん留学してたんだ……へー。

(2003/04/21)


鮎川哲也『マーキュリーの靴 三番館の全事件II』
1) 出版芸術社 / 四六判ハード / 平成15年03月20日付初版 / 本体価格1900円 / 2003年04月21日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

『竜王氏の不吉な旅』に続く、《三番館》再編全集第2巻。1974年発表の『サムソンの犯罪』、1966年の初出時は《三番館》ものではなかった『ブロンズの使者』を除いて、75年〜85年の十年間に亘って発表された作品が収められている。
 以下、収録作品一覧。各編の感想は別ファイルに収めましたので、題名をクリックして移動してください。
 走れ俊平 / 分身 / サムソンの犯罪 / ブロンズの使者 / 夜の冒険 / 百足 / 相似の部屋 / マーキュリーの靴 / 塔の女 / X・X / タウン・ドレスは赤い色 / 棄てられた男 / 人を呑む家
 構造や動機の設定などで定型を志したような前巻収録作品とは全体に趣を違え、密室・人間消失などの不可能犯罪や盗難に夜の徘徊等々、謎の設定がバラエティに富んだ作品集となっている。キャラクターが完成されたことを受けてか、お定まりの描写にもいちいち捻りを加えることで、シリーズ読者にとっての楽しみを付加することも忘れていないあたり、娯楽作家としての著者の手腕が窺える。
 それぞれ尺が短めなこともあって、突出した出来のトリックは見当たらないのだが、それでも本格推理もののお手本ともいうべきシャープな作品ばかりが揃っていて、なかなかお買得感がある一冊。私のベストは、決着の苦さが独特の余韻を残す『X・X』。

(2003/04/22)


鮎川哲也『クライン氏の肖像 三番館の全事件III』
1) 出版芸術社 / 四六判ハード / 平成15年04月20日付初版 / 本体価格1900円 / 2003年04月28日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

『竜王氏の不吉な旅』『マーキュリーの靴』と続いた《三番館》再編全集最終巻。1982年から1992年の執筆活動最晩年に発表された作品14本と、初刊本のあとがき五本を収録している
 以下、収録作品一覧。各編の感想は別ファイルに収めましたので、題名をクリックして移動してください。
 同期の桜 / 青嵐荘事件 / 停電にご注意 / 材木座の殺人 / 秋色軽井沢 / クイーンの色紙 / 鎌倉ミステリーガイド / クライン氏の肖像 / ジャスミンの匂う部屋 / 写楽昇天 / 人形の館 / 死にゆく者の… / 風見氏の受難 / モーツァルトの子守歌
 作を追うごとに事件もトリックも簡略化されていき、決して目新しさはないものの純度の高い本格ミステリばかりが連なるようになった。併せて私立探偵氏の出番も減り、最後には語り手の役さえ追われるケースが見られるようになったのが少々寂しく思われる。ミステリとしての質は『マーキュリーの靴』に収録されていたあたりの作品群に及ばないが、晩年まで本格ミステリを手掛けようとした心意気が感じられる作品集である。
 バラバラに刊行され、それぞれが絶版になって久しかった《三番館》シリーズを一望できる形での復刻は非情に喜ばしい。がその反面、三冊通して誤字脱字がかなり目立ったのが気になる。句読点の置き忘れや「機会」を「機械」と間違えている箇所から推すに、データ入力の段階でのミスだと思われる。重版の予定が立つようであれば、細かく見なおして戴きたいところ。
 個人的なベストは、『クイーンの色紙』『鎌倉ミステリーガイド』の二本……って、あれ? 私立探偵氏の語る事件じゃないぞ?!

(2003/04/29)


江戸川乱歩『黄金仮面 乱歩傑作選7』
東京創元社 / 文庫判(創元推理文庫所収) / 1993年9月24日付初版(1994年8月12日付再版) / 本体価格534円(再版当時、2003年05月現在本体価格620円) / 2003年05月02日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 いつからともなくあちこちで囁かれるようになった、『黄金仮面』という怪人の噂。上野公園で催された大博覧会から大真珠を盗み、衆人環視の中から見事な逃亡を成し遂げたのを皮切りに、様々な事件にその影がちらつき始める。不安に怯える民衆に代わってこの怪人と対峙するのは、民間探偵明智小五郎――稀にみる大捕物、勝利するのは果たしていずれか?
 通俗長篇と呼ばれる作品群の中でも、乱歩のサービス精神が最も穏当な形で発揮された一篇ではなかろうか。犯行は大胆だが他の作品のようなえげつなさは薄れ、犯人の目的も基本は盗みに限られているので、起きる事件も反応も比較的スマートである。
 が、他の長篇ではまがりなりにも名探偵らしい聡明な反応をする明智が、本編ではかなり道化のように描かれているのが引っかかる。そして、実際そんな意見を耳にしたことがあるが、黄金仮面の正体には首を傾げざるを得ない。東西の探偵小説を渉猟した乱歩のこと、確証があってこういう造型を打ち出したのかも知れないが、それにしても納得の出来ない部分が多いのだ。
 多作であった時期の作品だけあって、それ故のぬるさが出てしまったか、事件も細切れになっているし捕物にも緊迫感を欠いている。細かい部分では猟奇趣味や独特のエロティシズムが発露しており、乱歩作品の愛読者であれば楽しめるだろうが、決してハイレベルな作品ではない。こと、彼が登場すると聞いて手にした読者が満足するかどうか。

(2003/05/02)


スティーブン・キング/白石 朗[訳]『ドリームキャッチャー』
Stephen King “Dreamcatcher” / translated by Ro Shiraishi

1) 新潮社 / 文庫判(新潮文庫所収)全四巻 / 1・2巻平成15年2月1日付初版、3・4巻平成15年3月1日付初版 / 本体価格(1)・(2)590円、(3)667円、(4)629円 / 2003年05月12日読了 [bk1で購入する()()()()/amazonで購入する()()()()]

 モダン・ホラーの巨匠として第一線をひた走るスティーブン・キング2001年の作品。のちにローレンス・カスダン監督、モーガン・フリーマン他の出演によって映画化もされた大長編である。
 ミステリ・ホラーを描いた小説や映画を愛読する好奇心旺盛な歴史学者ジョーンジー、独創的な悪態で仲間たちを楽しませる車のセールスマン・ピート、楊枝を噛む悪癖がいつまで経っても抜けない大工のビーヴァー、優れた精神分析医だが近年抱え込んだ心の闇に蝕まれ自殺を決意していたヘンリー。少年時代に起きたある事件と、ひとりのダウン症の人物を軸に特異な友情を結んでいた四人。中年を迎えてそれぞれに悩みを抱えながら、毎年の恒例行事である狩りはその年も行われた。ジョーンジーとピートが買い出しに向かい、ビーヴァーとヘンリーが森の中で留守番をしていたとき、それぞれが奇妙な人物との邂逅を果たしていた。エーテル臭に似たげっぷと屁を放ち、異様に大きな腹を抱えた彼らが、未曾有の悪夢を運んできたことを、ジョーンジーたちはまだ知らない……
 実はキング作品はほとんど読んだことがない。例外的に『スタンド・バイ・ミー』(というのは映画化に合わせてつけられた邦題で、もとは確か『死体』と言ったと思う)は読んでいるが、やや長めの中篇で青春ものの色合いを濃厚にしたこの作品がキングとしてはやや特例に属することは解るので、ホラー作家としてのキングはこれが初体験だと言っていい。
 実質上の初体験としては、これはちょっと強烈だった。全四巻という大部に加え、主題部分では僅か半日程度の出来事を微に入り際を穿ち描いているため、文章やストーリーに乗れないとただただ長ったらしく感じてしまう、という欠点は否めない。だが、有り体のモチーフを用いながらも決して定型に陥らないストーリー展開、細部まで視線の行き届いた伏線、そしてただの超常現象ホラーのままでは終わらない主題に一旦魅せられると、のめりこんでしまうことも請け合いである。
 本編に関して言えば、特に過去の使い方が巧みだ。メインとなる幼馴染み四人組が特殊能力を備えるきっかけとなった幾つかの事件、後半で重要な役割を果たす人物、それぞれの過去を当初は仄めかし、少しずつ明らかにしていく手管がストーリー展開ときっちり噛み合い、壮年の人々の話であるにもかかわらず一種の青春ものの趣を呈している。事態は凄惨なのだが人々の感情とその顛末は美しく、瑞々しくさえ感じる。
 退っ引きならない状況を打破するために用いられる手続も合理的であり、一部はミステリを彷彿とさせる。人物心理の細かな綾まで描いているために一回では読み切れない、読み解けない部分も多く残っているが、それ故に精読するのにも向いていると言える。
 それとは反対に、SF映画やミステリ、映画俳優にポップスなど、アメリカ特有の文化や風俗の知識がふんだんに盛り込まれているのが面白い。登場人物のイメージとしてクリストファー・ウォーケンやドルフ・ラングレンの名前が挙がったくだりなど、結構深刻な場面なのに笑ってしまった。
 複雑なプロット、重厚な人間描写、圧倒的なサスペンス、安易なヒロイズムに堕落しない主題、清澄だが決して単純ではない余韻を残す結末。全四巻はキングや翻訳小説に慣れていない人間にはかなり負担に思えるだろうが、それだけの価値を感じさせる傑作。翻って、後日鑑賞する予定の映画の出来が非常に心配だ。どうなる。鑑賞したならきっとこの辺に感想をアップしているはずだが。
 それにつけても当分ベーコンを目にするたびに思い出してしまいそうです先生。

(2003/05/12)


平山夢明『東京伝説 うごめく街の怖い話』
1) 竹書房 / 文庫判(竹書房文庫) / 2003年05月03日付初版 / 本体価格552円 / 2003年05月13日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

『「超」怖い話』シリーズの取材として「怖い話」を蒐集する著者だが、本来意図している「常識では説明のつかない話」「理由は解らないが因果のありそうな奇妙な話」とは焦点のずれた、現実的で生々しい「怖い話」を語られる場合がある。そうして図らずも集まってしまった、リアルな悪夢の話を一冊に纏めた「怪談集」。数年前にハルキ文庫から刊行された『東京伝説』の続刊という体裁を取っている。
 都市伝説の顕現化とも思えるエピソードがふんだんに盛り込まれていたハルキ文庫版と較べ、いわゆる「サイコな人」のエピソードが増えているのがいちばんの違いだろう。あとは前作同様、生々しく現実的であるが故になまじの怪談などよりも遥かにおぞましい話が積み上げられている。幾つかの話など、素材として著者に語ったことが発覚したら本当に命がないのではないか、という内容になっていて、別の意味で不安になる。……無論、『「超」怖い話』を通して「触れてはいけない話」の扱いには慣れているだろう著者のこと、匿名にしたこと以外にも素性が特定できないよう工夫を凝らしていることと思うが。
 人によっては生々しすぎて読み物として捉えられず、下手をすると夢に見る危険もあるのではなかろうか。ホラーや怪談にある程度耐性のある方、こういうものを現実として受け止めつつ折り合いをつけられる方(と言っても、人間そういう自覚を客観的に備えるのは困難なんだけど)にはお薦めできるが、そうでないと少々辛いかも知れない。
 私のベストは、いちばん最後の『フラスコ』。怖い、というよりは哀しい話である。

(2003/05/13)


稲川淳二『稲川淳二のこの世で一番怖い話』
1) 竹書房 / 文庫判(竹書房文庫) / 2003年05月21日付初版 / 本体価格524円 / 2003年05月14日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 独特の語り口による怪談で人気を博しているタレント・稲川淳二が、毎年行っているライブでもまだ披露したことのない怪談を語りおろした本。
 夏が近づくと幾つかの出版社からばたばたと刊行される稲川淳二氏の2003年たぶん初の怪談本。すべてライブ未発表、中には内容が内容なので公表を躊躇っていたものも含まれている、という触れ込みだが……全般にごく普通の出来。稲川氏の語りをそのまま文章に落としたのでなければ、半分くらいの紙幅で済んでいるのではないか、というのは今更追求するまでもないが、彼の語り口を想像しながらでないと雰囲気が出ないネタが多いのも、文章媒体では問題なのではないか。
 とはいえ、内容と語り口がうまく噛み合う(かたちで想像できる)と染みるような怖さが漂うエピソードもある。そういう意味でも、純粋な怪談本として読むよりは稲川氏のテレビやライブでの活動の延長として捉えるのが正しい楽しみ方だろう。
 但し、最終章、“「都市伝説」怖いです”という章題のもとに収録された作品の大半がいわゆる「都市伝説」とは大幅に隔たった内容であるのは流石にまずい。いちおう体験者が明確になっているエピソードが大半なのだから、下手に「都市伝説」などという表現を使うべきではない。

(2003/05/14)


スタニスワフ・レム/飯田規和[訳]『ソラリスの陽のもとに』
Stanislaw Lem “Solaris” / translated by Kiwa Iida

1) 早川書房 / 文庫判(ハヤカワ文庫SF所収) / 1977年04月30日付初版(2001年05月31日付27刷) / 本体価格640円 / 2003年05月31日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 ウクライナ出身のSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表した代表的長篇作。ロシアでいちど映画化され、今年(2003年)ジェイムズ・キャメロン製作、スティーヴン・ソダーバーグ監督、ジョージ・クルーニー主演によるリメイク版の公開が決定している。
 地球から遥かに隔たった、表面積の大半を海に覆われた惑星ソラリス。だが、その海は全体でひとつの意識を具え、複雑な惑星軌道を修正できるほどに高度な思考能力を備えた生命体であった。心理学者のケルビンは、調査のためにソラリスの海上を漂うステーションに派遣されるが、先行していた調査員の態度は奇妙なものだった。やがてケルビンの前に、十年も昔に死んだはずの恋人ハリーが現れる……
 終始思索的な語りが続き、粗筋で触れた恋人の出現を除けば派手な展開にも乏しい。が、奇妙な引力に満ちた作品である。人類が巡り会い、探求を重ねた挙句袋小路に迷いこんでもなおその謎を解くべく足掻いている「ソラリス」の魅力がそのまま作品に横溢しているのだ。
 登場人物同士の交流が最小限に留まり、描写が全般に内省的であるうえ、中盤に挟まれた「ソラリス学」の論考の数々が少々堅苦しく取っ付きにくいのが難点だが、いったん慣れればさほど気にはならない。寧ろ、ページを最後まで繰ったのちに戻り、繰り返し吟味したい気にさせられる。
 硬質だが不思議な優しさと情感に満ち、時を置いて再読したくなるような作品。残っているのも成る程と頷ける、古びない傑作である。
 ただ、本書については訳文がやや堅苦しいような印象を受けた。2003年6月に国書刊行会からレム全集が発刊され、その第一回配本として本書の新訳が採り上げられているとのことなので、或いはそちらと見比べてより肌に合うものを選ぶのがいいかも知れない。

 ところで本書、前述の通りハリウッド大物トリオによる再映画化の公開が間近なのだが、併せて今年の重版分からカバーが映画の宣伝用写真を流用したものに変更された。……好き好きだが、私は新しいほうがよかったなあ……手持ちのは昨年重版分なので、象徴的なイラストなのです。

(2003/06/02)


木原浩勝、中山市朗『新耳袋 現代百物語 第八夜』
1) メディアファクトリー / B6判ソフト / 2003年06月14日付初版 / 本体価格1200円 / 2003年06月04日読了 [bk1で購入するamazonで購入する]

 現代に「怪談」と「百物語」を書籍の形で再現するシリーズ『新耳袋』第八集。
 御存知の方も多いだろうが、著者ふたりはこのシリーズの取材で得られた怪談を実地に披露する試みを、新宿のトークライブハウス・LOFT/PLUS ONEにおいて不定期で実施している。かくいう私も頻繁に訪れているのだが、その現場で新しい怪異が発見されたり生まれたりすることがままある。今回、遂にそうしたエピソードのうち幾つかが章立てのうえ収録されており、「怪が怪を呼ぶ」現象を改めて証言する一冊になった。
 今回はその『新耳袋』から出来した話の他、エピソードを「外」と「内」に分けた都合三つの章立てを行っており、こと敢えて本文から話数の表記を外した(目次にはちゃんと記されている)「内」は、いま何処にいるのか解らない、けれど読んでいる自分のまわりで何かが起きそうな、そんな気配を呼び覚ましており、実に巧い。ここで初めて使った手法であることもポイントなのだが、その理屈は他の巻も何冊か読んだ方でないと理解しにくいかも知れない。
 贅肉を削ぎ落とし、怪異そのもののエッセンスだけを抽出するというスタイルがいよいよ顕著になり、原稿用紙にして一枚ちょっとぐらいしかないのでは、というエピソードも登場している。因果や原因の究明を望む向きにはいよいよ歯痒さを増す内容になっているわけだが、『超怖い話』とともに怪談文学の旗手としての面目はいよいよ強化された趣がある。
 第四集に収録された「山の牧場」クラスの大長編はないが、その代わりに同じ人物・家庭などが遭遇する連続した出来事は幾つかあり、また小さな話でも粒が揃っているので、全体の恐怖感は高まっている。
 ベストを選ぶのは難しいが、好き嫌いで言うなら『病院のロケ』がいい。何がいいって、最後のある人物の台詞が。

(2003/06/04)


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