cinema / 『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』

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ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
原題:“Fantastic Four” / 監督:ティム・ストーリー / 脚本:マーク・フロスト、マイケル・フランス / マーヴェル・コミック・ブック原作:スタン・リー、ジャック・カービー / 製作:ベルント・アイヒンガー、アヴィ・アラド、ラルフ・ウィンター / 製作総指揮:スタン・リー、ケヴィン・フィージ、クリス・コロンバス、マーク・ラドクリフ、マイケル・バーナサン / 共同製作:ロス・ファンガー / 撮影監督:オリヴァー・ウッド / プロダクション・デザイナー:ビル・ボース / 編集:ウィリアム・ホイ,A.C.E. / 衣装:ホセ・I・フェルナンデス / 音楽スーパーヴァイザー:デーヴ・ジョーダン / 音楽:ジョン・オットマン / キャスティング:ナンシー・クロッパー,C.S.A. / 出演:ヨアン・グリフィス、ジェシカ・アルバ、クリス・エヴァンス、マイケル・チクリス、ジュリアン・マクマホン、ハミッシュ・リンクレイター、ケリー・ワシントン、ロウリー・ホールデン、デヴィッド・パーカー、ケヴィン・マクナルティ、マリア・メノウノス / 配給:20世紀フォックス
2005年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:林完治
2005年09月17日日本公開
公式サイト : http://www.f4movie.jp/
VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズにて初見(2005/10/05)

[粗筋]
 リード・リチャーズ(ヨアン・グリフィス)は志高き天才科学者である――が、如何せんあまりに人が良すぎるのが欠点だった。研究に没頭するあまり資金繰りが悪化し、破産の憂き目を見るまでになったリードは恥を忍んで、かつてのライバルであり、今は自らの研究で財を成し実業家となったヴィクター・ヴァン・ドゥーム(ジュリアン・マクマホン)のもとを訪れ、収益の75%を与えるという契約のもと、どうにか計画中だった実験を行う目処を立てる。それは、あらゆる進化の源が宇宙線にあることに着目し、ヴィクターの会社が保有する宇宙ステーションにて、間もなく地球軌道まで到達する宇宙嵐の遺伝子に対する影響を調査し、遺伝子治療技術の向上に役立てようというものだった。
 実験のため宇宙ステーションに赴いたのはリードと彼の古い友人で警護役を自認する宇宙飛行士のベン・グリム(マイケル・チクリス)、それにリードのかつての恋人で今はヴィクターの元で働くスーザン・“スー”・ストーム(ジェシカ・アルバ)と、その弟でベンの元部下ジョニー(クリス・エヴァンス)、そしてヴィクターの五人。
 大気圏の外側で実験を始めようとしていた矢先、五人を思わぬ事故が襲った。リードの計算より数十時間も早く宇宙嵐が到来、シールドを張る間もなく、五人全員が宇宙線を浴びてしまったのだ。
 地上に帰還、被爆を隠していたヴィクターを除く四人は感染症の危険を考慮して隔離されたが、これといった異常が見出されることもなかった。だが、そろそろ解放されようかという矢先に、想像を絶した異変が四人の身に生じる。
 リードの躰はまるでゴムのように伸縮が自在になった。全身を意のままに伸ばすことが出来、僅かな隙間からの侵入も出来る。スーは感情が激した拍子に、躰が透明になるようになってしまった。ジョニーは体温が上昇し、常識を超えた炎を全身から発することが可能になった。
 しかし、誰よりも顕著な異常が発生したのはベンであった――病室で自らの躰が変容していくさまを目の当たりにした彼は、妻に一目会うために壁をぶち破って我が家へと駆ける。だが、妻はあまりに変わり果てたベンの外見に拒絶を示した――ベンは全身が岩石のようになっていたのである。
 失望のあまり鉄橋の上で悲嘆に暮れていたベンは、そこで自殺を図る男と遭遇、他人の心配をしていられる状態でないにも拘わらず説得を試みるが、当然のように男は怯え、鉄橋から激しく車の行き交う道路へと転落してしまう。それをベンが助けようとしたことで、鉄橋の上で思いもかけないパニックが発生した。
 大混乱で被害の拡大する鉄橋に、やがてベンを追っていたリード、スー、ジョニーの三人も現れる。三人はそれぞれの能力を活かしてベンの救出と事態の収拾に奔走した。ベンもまた、自らの外見に人々が恐れをなすのにも構わず、怪力でもって人命を救った。
 かくして、四人は一躍英雄となり、その日からマスコミのつけた“ファンタスティック・フォー”の名で呼ばれることとなる。若く無邪気なジョニーは自らの能力にも英雄視されることにもあっさりと順応したが、分別あるリードとスーはその状況を決して快く考えない。何せ、外見まで変わってしまったために、ベンは愛する妻を喪ってしまったのだ。リードは全身全霊を籠めて、ベンが元の姿に戻る手段を見つけてみせる、と誓いを立てる。
 一方、ヴィクターもまたそうして四人が持て囃されることを快く思っていなかった。実験の失敗のために新規株式が低迷、損害を与えられた銀行は彼を見捨てる。加えて、生涯のパートナーと見定めていたスーはあの事故以来、リードへの想いを甦らせつつあった。日に日に募る苛立ちと妬心とが、彼もまた浴びていた宇宙線の影響を、不吉なかたちで結実させていく……

[感想]
 近年、アメコミの映像化が盛んである。ティム・バートン監督による『バットマン』を筆頭に、その潮流は昔から存在していたが、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』の大ヒットあたりを境に一大勢力にまで成長した感がある。来年には第三作の公開を控える『X−MEN』、スピンオフ企画も実現した『デアデビル』、独特な色彩感覚が印象的だった『ハルク』、現実的でダークな色彩を帯びた『バットマン・ビギンズ』、さきごろ公開された『シン・シティ』まで、多くの作品がボックスオフィスを賑わせている。
 本編はそういった作品群に先んじて登場、アメリカにおけるヒーロー・コミックの地歩を築いたとして映像化の待ち望まれていた作品であるという。生憎わたしはアメコミに関する知識も興味も一切なく、ほとんど予備知識ゼロで本編を鑑賞したのだが、なるほど原点らしい、と感じる場面が多かった。
 まず、主人公たちが特殊能力を得るきっかけとその内容がかなり破天荒だということ。現代になっても企業や一般人が宇宙に出ていくのは大変だというのに、実験のためと称して主要キャラクターがあっさりと宇宙に赴き、すべての原因である宇宙嵐を浴びることになる。そして、ほぼ同じ条件下で同じものの影響を受けたはずなのに、何故五人それぞれに現れた症状が異なるのか。宇宙ステーションの外で直撃を受けたベンが外見から変わるのは兎も角、他の四人がそれぞれにまるで違う種類の能力を発現させているのはどう考えても解せない。だいたいあれだけのパワーを維持するためのエネルギーはどこから供給されているのか。
 しかし、原作の第一作が発表されたのが1960年代であることを思うと、これは自然なことでもあるだろう。まだヒーローものの定石が確立されてもおらず、当時は宇宙の神秘に対する憧れが強かった。新たな力の源を宇宙に求めるのは不思議な成り行きではない。このあたりの無邪気さはまさに黎明期に誕生したヒーローらしい趣がある。
 舞台を現代に置き換えたこの映画版では、そうした設定を踏襲しながら、その滑稽さを自覚的に楽しんでいる節がある。たとえば全身が岩石となったベンが他のメンバーと共にエレベーターに乗ろうとするとあっさり重量オーバーになってしまいやむなく階段を利用する。迂闊に外に出たら途端に野次馬に囲まれてしまい、厭々服を脱いで透明になるスー。リードは何枚も横に連ねた黒板を前に、腕を伸ばして端っこまで数式を記し、疲れてキーボードに俯せて寝ていると、起きたときには顔に癖がついている。当初から自分の能力を謳歌しているジョニーの行動は終始道化師的だ。彼らに与えられた特質の滑稽さを理解して、それを楽しげに描いているので、ジョニー以外の三人はそれぞれ悩みが深いのだけれど、決してトーンが暗くならない。相談するものさえ存在しない『スパイダーマン』や、能力者すなわちマイノリティという線を明確にした『X−MEN』などの沈鬱なカラーと比較すると、いっそ脳天気と言ってもいいほどだ。
 そうして能力を巡る状況や心境の変化を追いながら、クライマックスの激戦へと実にスムーズに筋を進めており、物語全体にスピード感が満ちあふれている。ただ、憎悪に心を奪われたヴィクターが四人をバラバラにするため、うちの一人に接触、言葉巧みに誘導していくくだりについては些か万事が思惑通りに運びすぎているきらいがあり、違和感ゆえにちょっと目敏い観客にはブレーキに感じられるであろうことが少々残念だ。基本的に新たな展開に至るための伏線はすべて丁寧に張ってあるのに、このくだりについては若干ながら説得力を欠いているのが問題なのだろう。
 また、能力が明確であるが故にラストの戦いが思いの外あっさりと終わってしまうのにも少々拍子抜けの感がある。悪役側がもっとリードらを圧倒する場面があり、激しい抵抗を示してくれれば更にカタルシスが膨らみ、より完成度は増したように思う。
 とはいえ、全体に製作者がこの世界観を楽しみつつ観客にもそれを分けようとする、紛う方なきエンタテイナーの精神が横溢していて、快さを感じさせてくれる作品である。観終わったあとに残るものは何もないが、そのスッキリ爽快な後味こそが娯楽の本領、と考えている方にはこれほどお誂え向きの作品もそうそうあるまい。噂では既に続編の準備が始まっているそうだが、この陽性の雰囲気は喪わないで欲しい。

(2005/10/06)


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