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INFORMATION
ギンザめざましクラシックスVol.9
〜難曲物語 ザ・超絶技巧スペシャル〜
Produced by ちさ子&軽部

1999年10月9日(土) 銀座4丁目・王子ホール
18:00開場 / 19:00開演
プログラム
−第1部−

●モンティ●
チャルダーシュ

●クライスラー●
中国の太鼓

●ビゼー(ボルヌ編)●
カルメン幻想曲

●一柳慧●
源流

●リスト●
メフィスト・ワルツ

●ファリャ●
火祭りの踊り

●サラサーテ●
序奏とタランテラ
−第2部−

●ロッシーニ●
ウィリアム・テル序曲

●アンダーソン●
フィドル・ファドル
タイプライター

《いっこく堂スペシャル》
●ヴェルディ●
「椿姫」より 乾杯の歌

●ハチャトゥリヤン●
剣の舞
出 演
高嶋ちさ子[Vl.]
軽部真一

いっこく堂

斎藤雅広[Pf.]
古川展生[Vc.]
池上英樹[Mar.]
高木綾子[Fl.]
安宅 薫[Pf.]
■ ギンザめざましクラシックスVol.9
1999年10月9日(土) PM7:00
気がつけば、早いもので「めざクラ」も第3期に突入。毎回様々な趣向をこらして公演されてきためざクラだが、 今回の公演はスペシャルゲストが腹話術師のいっこく堂。クラシックと腹話術をどうやって組み合わせるのかまったく見当がつかないけど、 大っきな期待と、小っちゃな不安を胸に開演を待った。
■ オープニング
・開演のためにすべての明かりが消されたホール。そして、真っ暗なステージに1本のスポットライトに照らし出され、軽部さんが登場。 ここで軽部さんよりテーマ紹介。「今回のテーマは〜難曲物語 ザ・超絶技巧スペシャル〜と題しまして、数々の超絶技巧を駆使した難曲ばかりを集めてお送りします。」 軽部さんは安宅さんの弾くゆったりとしたピアノの曲をバックに、「ところで安宅さんが弾いているこの曲、有名な“難曲(なんきょく)”なんですが分かりますか?」と言っていたが、 ゆったりとした旋律でそんなに難しそうには聴こえない。どこかで聴いたことのある曲だけど、どこが難しいんだろう...?と考えていると、 「実は、映画“南極物語”のテーマ曲なんです(笑)。」う〜ん、確かに“なんきょく”だ(笑)。
・そんな見事なつかみで始まったこの日の「めざクラ」。演奏する曲がどれも難しい曲ばかりということで、出演者のみなさんは張りつめた雰囲気の中、 開演直前までステージ裏で練習していたそうです。そしてトップバッターの高嶋さんが演奏したのはモンティの『チャルダーシュ』。 お得意のこの曲で華麗なテクニックと早弾きを見せてくれました。
■ 「めざクラ」おなじみの古川さん
昨年の9月からめざクラ5回連続出演ということで、すっかりおなじみとなった古川さん。 「今回はテーマが超絶技巧と聞いて、(出演した事を)後悔してます。」と苦笑。 古川さんが言うには、チェロはヴァイオリンよりも大きいために、高い音から低い音を弾くときの左手のポジション移動が多くてとても難しいそうです。 しかも今回演奏してくれた曲は、本来ならヴァイオリン用に作曲されたクライスラーの『中国の太鼓』を 「難しい中にも、どこかオリエンタルな中国の太鼓をイメージしてもらえるように」と、古川さん自身が編曲。 左手のポジション移動に注意しながら見ていたが、長い指板の上を素早く、正確に移動する様はお見事でした。
■ “循環呼吸法”ってなぁに?
古川さんに代わって登場したのはフルートの高木綾子さん。「めざクラ」初登場の高木さんが演奏前に見せてくれたのが“循環呼吸法”。 “口で息をはきながら、同時に鼻から息を吸う”という呼吸法で、日本でもわずか20人足らずの人達しか使えない難しい呼吸法だそうです。 そこで軽部さんが「それでは循環呼吸法がどれだけスゴイのか実際に見てみましょう。」と言うと、ステージの上にストローを差した水入りのグラスが2つ用意されました。 このストローで息を吐き、ブクブク...とどれだけ長く続けられるかを高木さんと軽部さんで比べてみる事に。2人でせーので始めると、
軽部さんが「ブクブク、ブクブク...プハッ。」とギブアップした後も、
高木さんは「ブクブク、ブクブク.....................」と、見ていたらいつまででも続けられそうな様子。
軽部さんも、アナウンサーという職業がら独特の呼吸法を習っていて、肺活量には自信があったようですが、“循環呼吸法”にはかなわなかったようです。 この後、高木さんは先ほどの循環呼吸法を織り交ぜなから、ビゼー作曲・ボルヌ編曲の『カルメン幻想曲』を演奏してくれました。この呼吸法が使えれば、どんなに長い音符でも、 スラーがあっても演奏できるのだから管楽器の演奏がしやすいだろうな。でも修得するまでが大変そう。
■ 「めざクラ」初登場!マリンバ&現代曲
次に登場したのはマリンバの池上英樹さん。一見するとクラシックのアーティストというよりも、ロック系のアーティストっぽい印象。 (「GLAYみたい」と言っていたのは高嶋さん(笑)。) 池上さんは8歳からドラムを習い始めたのですが、高校卒業と同時にクラシックに転向し、パーカッションやマリンバを演奏するようになったという珍しい経歴の持ち主。 なぜクラシックに転向したのかと聞かれると、「クラシックのストイックな格好良さに惹かれたから」と語っていました。その池上さんよりめざクラ初登場のマリンバについて 解説をしてもらいました。マリンバというのはとにかく大きく、幅が3メートルもあり、部屋に置くのもひと苦労。あまりにも大きいためにそのままの形では運べないので、 運ぶときは分解して運ぶそうです。そしてぎっしりと敷きつめられた鍵盤は、低い音から高い音になるほど細くなり、演奏するのも難しいらしい。 イメージとしては「小学校の木琴を大きくしたような感じ」(高嶋さん)。
今回マリンバを使って演奏されたのが一柳慧の『源流』。この曲はめざクラ初の現代曲。現代曲というと難解なイメージがあったけど、この曲はアフリカの民族音楽を元にして作られた とても躍動感のある曲でした。4本のスティックを巧みに操り早いパッセージを弾く姿が印象的でした。マリンバって片手に2本づつ、計4本もスティックを持って演奏するものなのだと 初めて知りました。
■ ピアノの名手は名パフォーマー
・マリンバの余韻が残る中を登場したのはピアノの斎藤さん。斎藤さんはリストの『メフィスト・ワルツ』と、ファリャの『火祭りの踊り』の 2曲を演奏。 『メフィスト・ワルツ』はゲーテの戯曲「ファウスト」をもとにリストが作曲したもの。この日は、まず軽部さんがゲーテの戯曲の一節を朗読し、その後に演奏という形で行われた。 朗読の場面は村の酒場。悪魔メフィストフェレスがファウストを言葉巧みにそそのかし、ついには契約を結ぶという一節。朗読に続く斎藤さんの『メフィスト・ワルツ』は 荒々しい程の激しさが感じられる大熱演でした。“芸大のホロヴィッツ”と呼ばれるのも分かる気がする。
・『メフィスト・ワルツ』の演奏後には斎藤さんと軽部さん、高嶋さんのゆかいなトークが聞けました。斎藤さんは軽部さんと2人で“しんちゃん・まーちゃんビックリコンサート” (本当にこのタイトルなのかな?)というコンサートシリーズで共演していたそうですが、ついに「めざクラ」に登場。ステージに3人並ぶとなぜか斎藤さんだけ後ろに下がり気味に立ち、 「根が奥ゆかしいもので(笑)」とおどけてみせる。ここで斎藤さんから裏話。この日の出演者の会場入り時間はPM2:00だったのですが、安宅さんはPM3:30とカン違いしていたらしく なかなか現れない。すでに会場入りしていた斎藤さんは、「安宅さんはどこに行っちゃったんだろう?まさか、 王子ホールと間違えて北区の王子にあるホールへ行っちゃったんじゃないか?」と、しきりに心配していたそうです(笑)。 こんな話をしながらも、また徐々に後ろに下がっていく斎藤さん。「根が奥ゆかしいもので(笑)」。 ゆかいなトークで、とても“芸大のホロヴィッツ”とは思えないようなギャップがおもしろかった。
・そんな斎藤さんがピアニストを目指したのは、映画「カーネギーホール」の中で、ピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインが演奏していた姿に感動したのがきっかけだそうです。 この映画の中でルービンシュタインが演奏していたのが、次に斎藤さんの演奏してくれたファリャの『火祭りの踊り』。もともとは魔除けの曲だったということで、 斎藤さんは「会場のみなさんのご健康とご発展を祈って(笑)」演奏をしてくれました。その演奏の中で圧巻だったのが、大きく手を振り上げ、鍵盤を両手で交互に叩きつけるかのような 豪快な弾き方。斎藤さんのダイナミックな演奏は聴いて素晴らしいだけでなく、見ていても楽しめるものでした。 そして、盛大な拍手に送られてステージ裏へと戻っていく斎藤さんでしたが、 実は斎藤さんはこの後も意外なところで名パフォーマーぶりを発揮してくれました。
■ 伴奏の楽しみ
第1部の最後を飾る曲は高嶋さんによるサラサーテの『序奏とタランテラ』(この曲は、「あまりにも難しい曲だから避けたい!」と言う 高嶋さんに、「それでも素晴らしい曲なんだから、ぜひ!!」と言う軽部さんの強い押しがあって決定したらしい)。ここでは、普段はわき役になりがちな伴奏について 安宅さんからお話を聞きました。ピアノ伴奏とヴァイオリンやチェロ、フルートとの関係というのは、野球に例えればピッチャーとキャッチャーの関係に似ているそうです。 例えば、“キャッチャーがその日のピッチャーの調子に合わせてリードする”のと同じ様に、“伴奏者もその日の共演者の調子を見て、それに合わせて伴奏する”そうです。 「名サポートがあってこその名演奏。という事ですね。」(軽部さん)。なるほど、演奏中はあまり目立たないけど、共演者の良い部分を引き出すことのできる名伴奏も 超絶技巧と呼べるのかも。
安宅さんの言葉を念頭に置きながら演奏を聴いてみると、確かに安宅さんは、演奏中たびたび高嶋さんの方を見ながら合わせるように伴奏していました。 高嶋さんの演奏もその伴奏に乗って冴えわたっていました。始めのゆっくりとした旋律から徐々にテンポが上がり、早いパッセージの最中に両手を同時に使ったピチカートなど、 高度な技がふんだんに盛り込まれた曲を見事に演奏し、大きな拍手の中第1部は終了しました。
■ 超絶技巧でアンサンブル
それぞれの楽器で超絶技巧を見せてくれた第1部に対し、第2部では打って変わってアンサンブルの中で超絶技巧を見せてくれました。 第2部のスタートはロッシーニの『ウィリアム・テル序曲』。どこかで聴いたことのある曲だと思ったら、「これって“ひょうきん族”のオープニングですよね。」(高嶋さん)。 この曲は高嶋さん、古川さん、安宅さん、高木さん、池上さんの以上5人で演奏されました。池上さんはマリンバのみならずパーカッションとしても活躍、 高木さんはフルートとピッコロを使い分けていました。さらに、どこからか聞こえてくるトライアングルの音。誰が叩いているのかと思えば、なんと安宅さんでした(笑)。
続いて演奏されたのが、ルロイ・アンダーソンの『フィドル・ファドル』。“ヴァイオリンが踊る”という意味のこの曲、通常はオーケストラで演奏されるものを、 この日はヴァイオリン、チェロ、ピアノだけで演奏したため「とっても大変でした。」(高嶋さん)。
■ 軽部’Sコーナー
続いての曲も同じく、アンダーソンの『タイプライター』。旧式のタイプライターを打つ音で演奏してしまうという珍しいこの曲。 さっそくステージには旧式のタイプライターが運ばれてきました。しかし気になるのが、“このタイプライターを誰が演奏するのか?”ということ。 すると軽部さんから「今回は素晴らしいタイプライター奏者をお呼びしています。」との言葉が...。すかさず軽部さんは上着を脱ぎ、黒い肘カバーをはめ、頭にはバイザーをかぶって、 「あっ」という間にニューヨークの事務員姿をしたタイプライター奏者に早変わり(笑)。今回の軽部さんのコスプレはコレ。 軽部さんはタイプライターを用いてプロ顔負けの超絶技巧を見せてくれました。いざ演奏に入ると、素晴らしいリズム感(高嶋さんも絶賛!!)で軽快にタイプライターを叩く軽部さん。 パチパチパチッとキーを叩き、改行するときには「チーン」とベルを鳴らす。そしてラストはタイプライターから打ち出された紙を「ビッ」と切り取って立ち上がり、両手を上げてポーズ。 ピタリと決まった瞬間の軽部さんはカッコ良かった。これだけのリズム感の持ち主なら、まじめに楽器に取り組んだらメキメキと上達しそう。
■ スーパー腹話術師“いっこく堂”
・軽部さんによる超絶技巧の後は、お待ちかねのスペシャルゲストいっこく堂さんの登場。まずは鳥の“サトル”、 はずかしがり屋でおっちょこちょいの“ジョージ君”の2体の人形を同時に使っての腹話術を見せてくれました。高い声でサトル、低い声でジョージ君、 そして普段の自分の声と3種類の声を巧みに使い分けながらの腹話術に会場は大爆笑。 そういえばジョージ君は、あこがれ(笑)の軽部さんの着けている蝶ネクタイをしきりに欲しがっていた。中でも、最も驚いたのが“声が時間差で遅れて聞こえてくる”というもの。 口を開けてしゃべっているのに声は聞こえず、口を閉じた後にさっきの声が聞こえてくるというもので、見ているととても腹話術でやっているとは思えないような不思議な芸で、 まさに超“舌”技巧でした。
・そんないっこく堂さんに、めざクラならではの事をやってもらいましょう。ということで、ヴェルディの歌劇「椿姫」より『乾杯の歌』を、テノールとソプラノのパートを 腹話術を使ってサトル、ジョージ君、いっこく堂さんの3人(?)で歌ってもらうことに。ところがこの『乾杯の歌』、歌詞が「日比谷ぁ〜、いや、ここは銀座だ〜...」というような感じで 全編替え歌になっていました(笑)。この歌詞の中でもジョージ君は軽部さんの蝶ネクタイを欲しがるため、それにつられて軽部さんも一緒に歌い出す展開に。 会場に爆笑を巻き起こし、お客さんのみならず出演者をも魅了して、いっこく堂さんはステージ裏へと戻っていきました。
■ 最後の曲でハプニング
いっこく堂さんが去った後、演奏されたのはハチャトゥリヤンの『剣の舞』。プログラム最後を飾るこの曲は、ヴァイオリン、チェロ、 ピアノ、フルート&ピッコロ、パーカッションという構成で演奏されました。特に弦楽器とパーカッションによる早いフレーズが印象的だったのですが、曲の中盤当たりで突然、 高嶋さんのヴァイオリンの弦が切れてしまいました。コレには高嶋さんもビックリ、会場もビックリ、たぶん出演者のみなさんもビックリしたことでしょう。 それでも切れた弦を素早くはずし、ラストのピチカートの部分をキッチリ弾きこなした高嶋さん。思わぬハプニングにも動じない、これぞまさにプロフェッショナル。
■ アンコール
・『剣の舞』の演奏が終わって、高嶋さんが弦を張り替えるまでなんとか時間をかせぐため、急遽、出番のまわってきたのが斎藤さん。 “しんちゃん・まーちゃん”コンビで強引に場をつないでいるうちに、高嶋さんが弦を張り替えて復帰。高嶋さんは「今夜一番の超絶技巧は、この早さで弦を張り替えたことでしょう。」 と言っていたが、実際、本当に早かった。正確には計ってないけれど、ステージ裏へ戻ってからわずか2〜3分たらずだったように思う。
・気を取り直してアンコールの曲は、リムスキー=コルサコフの『熊蜂の飛行』。この曲をヴァイオリン、チェロ、フルート、パーカッション、 そしてピアノを斎藤さんと安宅さんの連弾で演奏。ピアノのソロパートではまたしても斎藤さんのダイナミックな演奏ぶりが見られ、会場からは笑いが起こっていました。 アンコールが無事終了し、軽部さん、いっこく堂さんもステージに現れ、出演者のみなさん全員で盛大な拍手に応えていました。 そんな中、お客さんから高嶋さんに花束が贈られてうれしそうにその花束を受け取る高嶋さん。 それを見たいっこく堂さんは、誰も花束を渡していないのにうれしそうに受け取る仕草だけをして見せて、最後まで会場の笑いを呼んでいました。
・公演後、ロビーに出てみると出演者のCDが販売されている場所で、斎藤さんが「みなさん、今夜の記念に高嶋さんのCDはいかがですか? 今なら美しい高嶋さんにサインがもらえますよ。さあさあ、そちらのお客さん1枚いかがですか?」というような具合にCDを売り込んでいました(笑)。 う〜ん、今回は最後の最後まで楽しませてもらえました。
■ 今回のひとこと
今回の「めざクラ」は見てスゴイ!聴いてスゴイ!という内容の公演で大満足。出演者全員の卓越したテクニック、そして先の読めない展開。 軽部さんの言葉を借りるなら“ハラハラ、ドキドキ、ジェットコースターのような”一夜でした。