派遣社員の雇用契約・通知
派遣先と結ぶ派遣契約と、
派遣社員と結ぶ雇用契約です。
派遣社員との雇用契約
派遣会社の雇用契約
基本なところからお話しさせていただきます。
派遣先の都合で派遣契約が解除になった場合、そうして派遣社員の仕事先がなくなっても、雇用契約は解消されません。
雇用契約期間中は、雇用し続けなければならないのです。
こんなときには、派遣会社(派遣元)は、
- すみやかに他の派遣先を見つける
- 派遣先が見つからない場合、休業補償として、最低でも平均賃金の6割を補償する
(参照「派遣社員の就業規則」)
ということをしなければなりません。
やむを得ず解雇する場合
- 解雇予定日の30日前に予告をするか
- 日数に相当する賃金相当額の解雇予告手当を支給するか
これが、手続き上、しなければならない措置です。
手続として、これをしたからといって解雇そのものが認められるわけではありません。
解雇が無効になる可能性は大。
労働法の実務では、解雇は厳しい要件があるのです。
ここまでは、派遣会社側の話です。
派遣社員の雇用契約
次に、派遣社員側の話。
派遣社員の雇用は、期間の定めがある雇用契約であることがほとんど。
期間の定めのある契約において、その期間満了前に中途解約することは、取り交わした約束を破ることになります。
それは債務不履行にあたり、損害賠償の対象になります。(民法628条)
期間の定めのある雇用契約を交わした派遣社員は、基本的に中途解約ができないのです。
ただし、これには例外があります。
平成18年12月31日までの経過措置が、労働基準法でとられています。
労働基準法の改正により、有期雇用契約の上限が延長されました。
これ合わせるようにして派遣法の改正も行われました。
それまでの派遣期間についての制限1年から、3年への延長です。
これにともない、
- 1年を超える期間の定めのある雇用契約を結んだ派遣社員は、
- 平成18年12月31日までの間は、
- 民法628条の規定にかかわらず、
- 雇用契約期間の初日から1年経過した後であれば、
いつでも退職することができることになったのです。
つまり、中途解約でも損害賠償には当たらない、ということです。
この場合、雇用契約が解除されても、派遣契約は解除になるわけではありません。
よって、派遣会社(派遣元)は、他の派遣社員に交代する措置をとらなければならなくなります。
雇用契約時の明示
派遣社員との雇用契約の際、明示しなければならない事項が決まっています。
まずは、「派遣社員」としての雇用であること。
そしてその他について、
- 労働基準法により、「労働条件通知書」に記載し明示する事項が、
- 派遣法により、「就業条件明示書」に記載し明示する事項が、
定められています。
この2つは別のものですが、共通する部分が多いです。
そこで、派遣会社が派遣社員を雇用するときは、「労働条件通知書兼就業条件明示書」として作成・交付すれば、一度で済み効率的です。
派遣期間の制限がある業務の場合には、派遣先から通知を受けた「派遣期間制限の抵触日」の通知もしなければなりません。(後述)
さて、この「労働条件通知書兼就業条件明示書」作成の際、特に注意する点を1つ。
それは、派遣社員の休日となる日を特定しておかなければならない、ということです。
ここで『休日は、派遣先に準ずる』という記載は好ましくありません。
これでは雇用契約において、派遣社員の休日を定めたことにはならないのです。
その場合、たとえ派遣先が休みであっても、その日は、派遣社員にとって休日ではなく労働日になります。
労働日なのに仕事ができないとなると、会社都合の休業となり、休業補償手当を請求される余地があることになります。
(参照「派遣社員の就業規則」)
特に、派遣先の夏期休暇や年末年始休暇などについては要注意です。
これらをしっかり確認して、特定しておくこと。
そして「労働条件通知書兼就業条件明示書」に特定した日を明示しましょう。
"労働条件通知書(労働基準法)による明示
- 雇用契約の期間
- 就業の場所
- 業務の内容
- 始業・終業の時刻、休憩時間、終業時転換、所定労働時間を超える労働の有無
- 休日
- 休暇
- 賃金の決定、計算、支払方法、締め日、支払日
- 退職
就業条件明示書(派遣法)による明示
- 業務の内容
- 派遣される事業所の名称、所在地その他就業の場所
- 派遣先の指揮命令者に関する事項
- 派遣期間、派遣就業日
- 派遣就業の開始・終了の時刻、休憩時間
- 安全衛生に関する事項
- 苦情処理に関する事項
- 派遣契約を解除するときに、派遣社員の雇用の安定のためにとる必要な措置に関する事項
- 派遣元責任者・派遣先責任者に関する事項
- 派遣就業日以外の日または派遣就業時間以外の時間就業させる場合の、就業日または延長時間
- 派遣先の福利厚生施設等、便宜供与に関する事項
派遣契約が紹介予定派遣である場合には以下の事項も必要です。
- 紹介予定派遣である旨
- 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に予定される雇用契約の期間の定めの有無
- 派遣先が職業紹介を受けることを希望しない場合、または職業紹介を受けた者を雇用しない場合には、派遣元事業主の求めに応じ、その理由を、書面の交付・FAXの利用・電子メールの送信等により、派遣元に明示する旨
- 紹介予定派遣を経て派遣先が雇用する場合に、年次有給休暇および退職金の取り扱いについて、派遣期間を勤続期間に含める場合はその旨
派遣契約が派遣期間の制限を受けない業務である場合は、それぞれ以下の事項も必要です。
専門的26号業務の場合 | 該当の政令番号 |
プロジェクト業務の場合 | 事業の開始、転換、拡大、縮小または廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されている旨 |
就業日数が少ない業務の場合 |
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育児または介護の代替業務の場合 |
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通知
派遣法では、派遣契約のほか、派遣会社・派遣先それぞれに「通知」しなければならない事項が決められています。
派遣契約時の通知(派遣会社→派遣先)
一般派遣業の許可を受けていることの明示をしなければなりません。
これは、派遣契約書の署名欄に許可番号を付記すれば足ります
派遣開始前の通知(派遣会社→派遣先)
派遣会社は、派遣契約に基づき、派遣社員を派遣先に派遣します。
誰を派遣するかは、派遣会社が決定することです。
派遣先は、それを受け入れるだけ。
ただし、業務遂行のため、最低限の情報は必要です。
派遣会社(派遣元)は、その項目を派遣先に通知しなければなりません。
- 派遣社員の氏名、性別
- 派遣労働者が18歳未満である場合、その年齢
- 健康保険、厚生年金保険、雇用保険の被保険者となったことの確認の有無 ([無]の場合はその具体的な理由→「手続き中」「被保険者非該当」など)
- 次の項目について、就業条件の内容と派遣契約の内容が異なる場合、その内容
- (1)派遣期間、派遣就業日
- (2)派遣就業の開始・終了の時刻、休憩時間
- (3)派遣元責任者・派遣先責任者に関する事項
- (4)派遣就業日以外の日または派遣就業時間以外の時間就業させる場合の、就業日または延長時間
派遣開始前の通知(派遣先→派遣会社)
派遣期間の制限のある業務についての派遣の場合、派遣先は、派遣会社に、その期間制限に抵触することとなる日を通知しなければなりません
- 原則1年
- 1年を超えて3年以内の期間を定めたときはその日
この期間は、派遣社員や派遣会社を代えてもダメ。
派遣先の就業場所ごとの同一の業務について、派遣期間を算定するのです。
派遣会社は、派遣先において、いつから派遣が始まっているのか分かりません。
したがいまして、派遣先から通知を受けることによって、派遣会社は、派遣可能期間を把握するのです。
とはいえ、派遣先はこのような通知の決まりを知らないことが多いもの。
派遣契約の際、派遣会社のほうで、この通知書をあらかじめ用意しておきましょう。
派遣先としては「期限の記入」と「押印」だけで済む状態にしておくのです。
通知は、電子メールやFAXでもいいことになっています。
しかし、これらの方法だと事後になりやすい。
後処理では、双方煩雑です。
書類を用意しておけば、すぐ完了。
なお、この通知がない場合は、派遣をしてはいけないことになっています。
ご注意を。
派遣開始前の通知(派遣会社→派遣社員)
派遣会社(派遣元)は、派遣先の期間制限に抵触する日を、派遣社員にも通知して明示しなければなりません。
派遣後の通知(派遣会社→派遣先、派遣会社→派遣社員)
期間制限抵触日の1ヵ月前から前日までの間に、派遣会社(派遣元)は、派遣先、派遣社員の両方に対して、抵触日以降派遣を行わない旨の通知をしなければなりません。
派遣先に対しては、書面で。
派遣社員に対しては、書面・FAX・メールのうち希望する方法で、行います。
派遣会社の2つの契約と通知
「派遣会社の派遣契約」と2ページにわたりました「派遣会社の2つの契約(派遣契約と雇用契約)と通知」については、以上です。
このテーマ、特に「契約」は、派遣会社と派遣先の接点です。
そして、ここから関係が公式にスタートする大事なものです。
また、派遣社員に関しては、雇用契約は、自社の「商品」を手に入れる第一歩であり、自社社員の労務管理の第一歩でもあります。
派遣会社の、根幹を成すところです。
あなたの派遣会社が、どちらも万全で臨めることを心から応援します。