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「お疲れ様でしたー!」

俺はそう挨拶すると、店を出た。
店はまだ営業時間なのだが、マスターが俺を働かせてくれる条件は、授業に支障のない形でということだったので、明日が学校がある限りは決まった時間に帰らされる。

ふう、と溜息を吐いて、‘ANYTIME’と書かれた看板を見上げる。この店のお陰で、俺は寝るとき以外一人にならずに居られる。
ANYTIMEは繁華街の通りの小さな横道に入るとある。あまり治安がいいとは言えない。
だから、本当はテツにも来させたくない。アイツは自分がムチャをしているとは判っていない。まだまだガキだ。

ふと、後ろに気配を感じた。
これは…早く大通りにでなくては。
バッと前を塞がれた。
さっき伊集院に絡んでいた大男だ。後ろにも二人。
(全部で三人…)
チッと俺は舌打ちをした。ストリートファイトは好きじゃない。

「アンタが女連れてっちゃったからさぁ、俺ら暇になっちゃってサ」
大男の顔は、興奮で上気していた。
後ろの奴らも楽しげな笑い声を上げている。
(ああ…いるんだよなぁ、こういうヤツらって)
俺は、デカい男の阿呆面を片眉を上げて見た。
セックスも喧嘩も同じ。
退屈を紛らわせてくれる、興奮できるもの。

なんの脅えた反応を出さない俺が、馬鹿にしているようでムカついたのか(実際馬鹿にしていたんだが)、後ろの奴らに合図をした。
俺は掴もうとしていた奴らの腕を逆に取って、関節を少し捻ってやる。
俺にとって喧嘩は興奮するものじゃない。

冷静な頭、気配を探る、静かに張った水面。 冷たい中に、心の芯では火がついて―――
(ありゃ? 俺もやっぱ興奮してんのか?)
くすっと笑った。
でも、やはりストリートは嫌いだ。
戦いに集中できない。相手の安全まで確保してやらないといけない。
下手して投げてしまえばコンクリートで頭がパックリという可能性もあるし、相手にどんなバックがあるかもわからないから、怪我させるのも極力避けたい。慰謝料を出せとか言われても困る。さっきの関節だってかなり手加減したのだ。

(なまってるなぁ)

アレから身長も伸びてるから、距離感が少し変わっている。
身体が思うように動かないのと、闘いに集中できないことにイライラした。

外傷を作らないように適当に大男らをやり、俺はドンッと細い路地の壁に自分の背中を押し付けて、そのままズルズルと沈み込んだ。

「じいちゃん…」

手で顔を覆って、もう居ない人を呼ぶ。


「なんじゃ?」

「へ???」

俺は答えのあった方に顔を向けた。

確かにそこにいたのは 『じいちゃん』 だった。

つまり、 お年寄り(男)。

「大したものじゃのぅ」
「はあ」
「息も切らしておらんのか」
ジイサンは俺の横まで来て、伸びている男たちを見ている。俺は立ち上がり、ペコッと頭を下げてその場を去ろうとした。
係わり合いにならないほうがいい。
着物を着て杖をつき、後ろにはいかにもな黒服の男たち。きっとココらを仕切っているお偉いさんか何かだ。
やばいじゃん俺〜〜。と自分に突っ込みをいれてみたり。
あ、駄目だ。思考がおかしいぞ。

「こら!待たんか!!」
ぐぇ
杖を襟にひっかけられて、俺は蛙の潰れたような声を出してしまった。
「ワシはお主が気に入った。どうだ、一杯やらんか?」
「あ〜…」
どうやって上手に断るか。
「奢るぞ?」
「……」
あ、しまった。一瞬ついて行きそうになってしまった。
奢りって言葉に弱いよな〜。
しかしタダより高いものはないっていうしな。
「スミマセン、今日はもう疲れてしまって」
「ん〜〜、ま、こんな誘いに乗ってくるようじゃただのアホじゃしの〜」
(わかってんなら帰らせろ!)
「じゃ、失礼しまーす!」
脱兎のごとく俺はその場を去った…筈が。
キキィーーー!! バタン!!!
細い路地を車が塞ぎ、中から男たちが…ぎぇー!!マジかよ!
俺が何したっていうんだーー!! 俺はくるりと振り返った。
ジイサンの周りは二人。こっちの方がまだ可能性がある。
さっきと違い、訓練を受けたドデカい男たちとマトモにやったら体力が持たないし、勝てるかどうかも定かじゃない。
今ならまだ子供だと思って舐めてるだろうから、勝負は一回。
一撃で仕留めて―――。

一人。…二人。
綺麗に急所に入った。
よし!!
「じゃあな!ジイサン!!」
俺は走りながら片手を上げて爽やかに挨拶をした。
が。
「え??」
ふわっと身体が浮いて、反転した。
「まだまだじゃの。相手の力量は正確に読み取らんと」
バンッと背中が地面に叩きつけられる。
茫然としていると、ジイサンが覗き込んできた。
…………もしかして、このジイサンに投げられたのか?
「騒がれると面倒じゃから、少し眠ってなされ」
男たちに両腕を掴まれ、身体を起こされて、ドカッと……乱暴だぞ、畜生。

意識を失った俺の横で、
「気に入った!真琴の婿はコイツじゃ!!」
とジイサンが叫び、俺の意志を無視して伊集院に婿入りすることが決定されてしまった…というのは後で知った話。





つづき







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