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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − school festival −





「いやーー!すばらしい試合でした!」
「未知の相手に対して唐沢選手、善戦です!」
興奮したアナウンスに、わー!と拍手が起きる。

「一宮選手は今大会に出場するまで、何も資料がありませんでした」
「底知れぬ実力を発揮しましたねー」
「ますます謎の深まる一宮竜也!」

なんだソレは。俺は宇宙人か。

「そしてやはり一宮選手、容赦ありませんでした」
「ボディブロー、そしてハイキック、ですからね」
その言葉に観客がいっせいに頷く。

なんだよ、普通だろ!
試合だぞ?
ダウン取って勝敗が決まるんだぞ?
当たり前だろ?!

「よっ!さすがだぜヒール!」
「ブラッディ!!」
「戦うために生まれてきた男!!」

やめんかその声援!!

勝者ー!とレフェリーの小日向センセイに右手をあげられるものの、憮然とする俺。

「きゃー!」
「リョウくーん!」
「リョウさまー!こっち向いてー!!」

だから俺は リュウ だ!っつうの!!

黄色い声援を無視して、リングから降りる。
その途端、応援していたクラスメイトたちが寄ってきた。

「おつかれー!」
「ビックリしたぜー!」
「竜めちゃくちゃスゲエ!」
「一宮って強かったのねえ」
「負けねぇとか言ってたけど、ホントだったんだなー!」
うるせえな、もう!
「かっけーー竜!」
バンバン叩くな、川原!!
「まさかこんなに強かったとは・・」
「これからは怒らせないようにせねば」
「おお怖い!」
すでに俺は怒ってます!

「竜!ホントすげえな!」
「意外だわ一宮!」
「・・ッ 次に決勝もあるんだ!休ませろー!」
もみくちゃにされた合間で叫ぶ。

そんな中。


「竜くん!!」



おおきな赤いリボンがゆれて、駆け寄ってくる。

青いスカートが、ひらひら舞って。

ふわふわの髪が流れて。



「竜くん・・!」



 ゲフ !!


           た、タックル・・!



「い、伊集院、てめ・・」
「良かった・・!良かった竜くん!」
良かねーよ!
内臓 飛び出るかと思ったわ!!

『おお〜!ここで勝者にアリスから祝福の抱擁〜!』

抱擁じゃねえ! タックルだ!!

俺の腹にぐりぐりと頭を押し付けて、伊集院は良かったと繰り返す。

・・まぁ、俺も一発もらったからなあ。
心配するか。

仕方なく安心させるように頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

抱きついている柔らかな身体。
そっと肩に手を置こうとして・・


ハッ!
生ぬるい視線が!!?


ガバッと顔を上げて見渡すと、クラスメイト達の生あたたかーーい目がこっちを見ていた・・


「ばかっ!伊集院、放せ!!」
「イヤです!!」
「このっ!」
引き剥がそうとするのに、ますます抱きついてくる。

「やっぱり竜くんは強いです!格好いい!」
そんな当たり前のことはどうでもいいから!放せ!
「ああ、でもやっぱり私のときは手加減してたんだ・・!」
それも今さらですから!
「でもでも竜くんが勝って良かったーー!!」

安心するのか悔しがるのか喜ぶのか、1つに決めろ!!





「・・ったく」
どいつもこいつも勝手なことばっかり言いやがって。

騒ぐ周りを振り切って、俺は更衣室に逃げ込んだ。
次は沢田の準決勝があるので、そのまま見ておこうと思っていたのだが、どうも落ち着いて見れる雰囲気じゃない。
タオルで汗を拭こうとして、いっそ顔を洗うかとコッソリ武道場の外へ出た。

「はーー」
火照った体に、涼しい風が通る。
もうすっかり秋の気配だが、日中はまだ暑かった。
武道場の裏、渡り廊下から隠れた位置にある水道まで行くと、蛇口の下に頭を突っ込んで、水を被る。

あーー気持ちいー。

冷たい水が頭から流れていく。
水音の裏でかすかに、歓声が聞こえた。
次の試合が始まったんだろう。

蛇口の下から頭を出して、乱暴に顔をじゃばじゃばと洗った。

久しぶりのちゃんとした試合(文化祭のお遊びだけど)をして、脳が興奮していた。
師匠やボディガードのおっさん達との組み手も面白いが、こういう緊張感も楽しい。

なつかしい気分になった。

ぷるぷるっと頭を振って、水を飛ばす。

「はぁ」
濡れて額にへばりつく前髪をあげ、空を仰いだ。
水気を風が飛ばしていく。


「・・竜くん」
「伊集院」
振り返ると、タオルを持った伊集院が立っていた。
「もう・・風邪ひきますよ。ちゃんと拭いてください」
差し出されるタオルを受け取る。
ホントは肩から自分のタオルを掛けていたけど、伊集院もそれは気づいていると思ったけど。

「さんきゅ」
「いえ」
伊集院は短く応えて、俺が顔を拭くのをじっと見ていた。

「竜くん・・声援すごかったですね」
「あー? ああ」
あれは声援といえるのか?
ヒールとかブラッディとか散々な言われようだったぞ。
がしがしと片手で髪を拭く。
まだ湿っていたが、風でそのうち乾くだろう。

・・にしても。

「伊集院・・」
「なんですか?」
「なにって・・」
それはこっちの台詞。

なぜにそんなに暗い?

試合に勝ったんだから、いつものように褒め言葉とか浮かれた態度をとるとばかり思っていたんだが。
「なんかあった?」
「何かって・・」
じぃと恨めしそうに俺の顔を見る。
な、なんだよ。
「竜くんの馬鹿」
「へ?」
「なによ、鼻の下のばしちゃって」
「はあ!?」
なんの話だよ!
「黄色い声援にデレデレして!」
なに、あの『リョウくん』声援のことか?
あんなのに焼餅やいてんの?
「してないだろ」
「してました!」
「いつ、どこで」
「試合中!私の後ろから声援があって、竜くんこっちに目を向けて笑ったもん!」
「それって、おまえ、・・」

あのなあ・・

それは伊集院に向けたんだろー。

あんまりにも必死な顔して、心配そうな顔してるから。
大声で俺を呼ぶから。
だから安心しろって、大丈夫だからって。


「・・勘違い、それ、めっちゃ勘違い」
「ええー?!」
そんなことない、となおも言う伊集院を眺めた。

語気のつよい話し方をしていても、でも、手が震えている。
握り締めた手が、心情を表している。

昨日のことといい、コイツはそんなにも不安なんだろうか。
きっと俺が見てきたよりももっと、何倍も、何度も、泣いてきたんだろう。
俺の見ていないところで。

はぁ、と俺のつく溜息にも、びくりと背中を震わす。

「大丈夫だから」
「え?」
手を取る。
「だから、大丈夫だって」

右手は左手に。左手は右手に。
ぎゅっと握って。

伊集院が俺を見上げた。
透明な目が俺を見て、そうして伏せられる。

俺の肩に額を乗せて、小さく息をついた。






「・・・ちゃった」
「え?」

「ライバル増えちゃった・・」
ぽつり、と伊集院が言う。
「ライバル?」
俺が問うと、伊集院は顔を上げて、
「竜くんを好きな、ライバル!」
と言った。
「あのな、あんなのお祭りのノリだから」
本気にするなよ。
「そんなことないです。竜くん格好よかったもの、好きになった子、絶対いる」
「あー?」
確かに勝負に勝ってたら格好よくは見えると思うけど。
でも、それって。
「サッカー選手がサッカー上手いと格好よく見えるのと同じレベルだぞ」
普段から俺は学校で格闘しているわけじゃないし。
「ロナウジーニョは確かにサッカーのときは格好よく見えるけどな、でも顔だけ見たらそうは思わないだろ(失礼!)」

今は騒いでたって、すぐに俺がただの普通の人間だって、気がつく。

「竜くんはわかってないなあ・・」
オンナゴコロを全然わかってない、と伊集院がボヤく。
なんだよ。
わかってたまるか、そんなもん。
こっちはオトコゴコロしか持ち合わせてないんだ。

「別に、そんなん関係ねーだろ」
「ありますー」
「ねぇよ」
口を尖らせて拗ねる伊集院に呆れる。


――― オマエこそ、全っ然、わかってねえな。


「やるって言っただろ」
「え?」
「言っただろ?」

まさか、この俺が、そんなセリフ、簡単に言ったなんて思ってんじゃねぇだろうな。

「ライバルにさえ、なんねーよ」

大きな目を瞬かせる伊集院にチョップをかます。

ばーか。

呆然とする伊集院をおいて、俺は更衣室へ戻った。






つづく




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