「なん・・」
なんでアンタがここに。
その疑問は声にならなかった。
女は一歩一歩と近づいてくる。
俺の背中にはもうすでに窓があって、入口には女がいて、身動きもできない。
「ねえ、びっくりしたのよ」
ゆらゆら揺れるスカート。
覗く細い足首が、また一歩、近づく。
「だって、あんなところで会うとは思わなかったんですもの」
細い肩、華奢な身体。
涼やかな女の声。
どれも嫌悪を呼ぶ。
「驚いたわ、まさかパーティで会うとは思わなかった」
そうだ、俺だって会うとは思ってなかった。
少し考えれば判りそうなものだったのに、気がつかなかった。
ああいう場にこの女が出てくることなんて、予測範囲のことだったのに。
「すぐに向こうへ戻らなければいけなかったから、声を掛ける間もなかったけれど」
目が合ったと思ったのは、勘違いではなかった。
俺に気がついていたんだ。
「ねぇ、伊集院に居候ですって?」
なでるような声。
俺の不快感を引き出す甘い香水のにおい。
「・・だから、どうした。関係ないだろ」
「そうね」
ふふ、と笑う。
「相変わらず、取り入るのが上手ね?」
「・・っちがう」
取り入ったわけじゃない。
たまたまジジイがじいちゃんと同門の弟子だったというだけだ。
「会いたかったのよ、竜也」
差し伸ばされる白い腕。
赤いマニキュアの指。
俺の頬にふれる前に振り払う。
「触るな」
「あら、ごめんなさい」
くすくすと笑う、女という生き物、そのもののようなオンナ。
「なんの用だよ」
「つれないこと言わないで。もう何年ぶりかしら?」
「知るか」
女らしい仕草、ひとつひとつにおぞましさを感じる。
「あなたのお父様ったら、なにひとつ教えて下さらなくて。探してしまったわ」
「アンタに用はない」
「ふふ」
なにを言っても、泥濘ぬかるんだ沼に沈み込むように反応はない。
「高校の名前はパーティで聞いたの、でも人出の多い文化祭で会えるとは思っていなかったのよ? そうしたら、あなたの写真が貼ってあるんですもの」
「人気者ね?」
馬鹿にされている。
ああ、ちがう、言いたいことは。
「ねえ、いつも、あなたは」
「アンタに関係ないだろ!」
声を荒げた俺に、やっと満足したように女は笑った。
「遅れてしまったけれど、18歳の誕生日、おめでとう」
また会いに来るわ、と微笑んで女は階段を降りていった。
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