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HAPPY、HAPPY、LOVELY ! − summer festival −





「ひゃっほう! わたあめー♪」
浮かれた声を出すのは もちろん俺        ではなく、川原だ。
日の長い夏らしく、辺りは まだ明るい。

「お前ら、よくそんなもんばっかり食べれるな」
げんなりと由希が言う。
「なに言ってんだ」
「祭りで食わなくて」
「どーするんだ!」
俺と川原と鈴木が返した。
川原は片手に綿菓子、もう一方にリンゴあめ。
俺も綿菓子に焼き鳥、鈴木はフランクフルト。
わた菓子なんて ただの砂糖と判ってるんだけどな。
由希は本当は来る気はなかったようだが、川原の勢いに押されて来たという感じ。
「活気ある祭りの様子は好きだしな」
並ぶ屋台の灯りに目をやりながら言う。
意外にお祭り騒ぎが嫌いじゃない男なのだ。
あ。
「お好み焼きがあるぞ!」
菓子じゃ腹はふくれないからな!
「あ、一宮」
「高岡?」
お好み焼きの列には、高岡、坂井、烏山(からすやま)の三人がいた。
「なに、やっぱり授業のあと来たの?」
「お前らも?」
川原が訊く。
「うん」
坂井と鈴木はお互いに知っていたようで、別に驚いた様子はない。
なに食べたの、と話している。
「あ! お前ら何でデートしないんだ!?」
川原が今 気がついたように叫んだ。
「俺らは違うの行くからいいんだよ」
どうやら地元のではなく、盆近くにある大きな祭りの方に行く約束をしているらしい。
「浴衣着てくんだよね〜?」
烏山はそう坂井をからかった。
「おお浴衣! いいなあ〜」
川原が羨ましそうに言う。
ぷっと高岡が笑った。
「なんか川原かわいいね〜」
よしよしと川原の頭を撫でる。
「え? そお?」
川原は大人しく撫でられながら、嬉しそうに笑い、由希もコイツは素直だからと笑った。
「んまい」
うーん、このソースとマヨネーズの絶妙さがまた…。
「って! そーいえば竜、真琴ちゃんは?!」
お前も別の祭りとか言うのか〜〜と川原が泣く。
「いいなぁ、彼女がいる男は…裏切り者〜〜(しくしく)」
「別に約束してないけど?」
バカかお前は!行け!
どっちなんだよ。
「真琴ちゃんなら会ったよ?」
烏山が言った。
「同じクラスの子達と来てたよ」
「ほらレッドで一緒だった里佳ちゃんと眞乃ちゃん」
「ああ、リカマノ」
伊集院が話しているのをよく見るし、話題にも登場する。
「三人とも浴衣だったよ〜」
「可愛かったよね」
「目の保養をさせて頂きました」
坂井が手を合わせて ごちそうさま、と頭を下げた。
いや、俺に言われても…
「うおおお! いいなー浴衣! 俺も見てえー! 竜、電話しろ!」
「えーやだよ、めんどくせー」
呼べ、今すぐ合流しよう!と川原が興奮する。

ピ!

あ、真琴ちゃん? そう、俺

おい、由希!!

「うん、綿菓子の向かいのお好み焼き屋、…そうそう、風鈴の店が横にある…」

ぴ。

「来るって」
来るって、じゃねーよ!!
「よくやった!由希!」
川原はガッと携帯を握る由希の腕を掴んだ。
「いやいや当然だよ」
にこ。
……………面白がりやがってコノヤロー。


「あ、由希センパーイ!」
と、滝口 里佳が手を振った。
その後ろから伊集院、塚原 眞乃が歩いてくる。
「あ、季里先輩、それどうしたんですか?」
塚原が訊く。
烏山と塚原は吹奏楽部の先輩後輩なのだ。
「あ、この風船? さっき大里に貰ったの」
「大里先輩も来てるんですか?」
「さっき会ったよー」
大里はドレッドにしたホワイトの団長だ。烏山とは幼馴染らしい。

「よ、伊集院」
「……」
ぷい。と横を向く。
シズカを誘ったことを まだ怒っているようだ。 (本人いわく、もともと誘われないと思っていたからいいが、シズカは誘った、ということが気に入らないらしい)
なんだよ。そんなの その場のノリだろ〜?
くそお、だから面倒臭いって言ったんだよ。
「……」
プクと頬を膨らませた伊集院を見下ろす。
少し紺がかった白地に、濃青紫と白桜色の大きな花が描かれた浴衣を着ている。
帯は花と同じ桜色だ。
着物を着ているのは見たことがあるが、浴衣は初めてかもしれない。
髪は一度上でまとめてから、ふわふわと下ろしている。
「真琴ちゃん可愛いね〜!」
川原が横から褒めた。
「ありがとうございます、川原先輩」
にっこりと返事をする。
…いい態度じゃねーか。
俺たちの様子をみて、鈴木が不思議そうな顔をした。
「なに、竜、なんか怒らせてんの?」
「別に〜」
「コイツも川原みたいに素直に可愛いって言えばそれで解決なのにねえ」
由希がニヤニヤと笑う。
ふん。
「知らねーよ。………いてえ!!」
「竜くんのバカ!」
伊集院が後ろから手に持った巾着で殴った。
「お前それ携帯入ってるだろ!」
「知らなーい。あースッキリした」
こっちは痛いわ!

伊集院はそれで気が済んだのか、袖口をもって手を広げ、浴衣姿を見せた。
「ね、竜くん、可愛い?」
「あーハイハイ。可愛いデス」
「つまんない! …本條さんはすごく褒めてくれたのにな〜」
本條?
「なに? アイツと会ったの?」
俺が訊くと、塚原が今日、浴衣を着に行った店で会ったのだと答えた。
「本條さんって格好いいですよね!」
滝口がうっとりと言った。
「へ?」
アイツに会って そういう感想?
目を丸くした俺に伊集院が笑った。
「今日は着流し姿で、よくお似合いでしたよ」
「へー」
本條もシズカと同じでいつも色んな格好してるからなぁ。

「おい、竜」
伊集院たちや高岡たちが合流したことで、大所帯になってしまった俺たちは、花火を見るために場所を移動することにした。

川べりには家族連れやカップルが場所を取っている。
「…伊集院」
「なあに」
「お前さ、あんま本條に近付くなよ」
「…どうして?」
伊集院が川の方に目を移したまま訊く。
「どうしてって、お前なあ…。アイツは やばいんだって」
この前そう言ったじゃねーかよ。
「…えへへ〜」
へにゃあ、と笑って伊集院が俺の腕に自分の手を忍ばせた。
「あ?」
なんだ?
「あのねー、本條さんが今日ね、私に会ったって言うと一宮クン嫌がるわよ〜って」
おお、本條、よく判ってんじゃねーか。
「竜くん、どうでもいい人には どうでもいい態度取るでしょ?」
「ああ、まあな」
だから?
「うん、だから嬉しくて」
コテン、と頭を俺の腕に預けて、伊集院が言う。
「??」
「もー鈍感なんだから」
呆れたように、しかし嬉しそうに伊集院は俺の指に自分の指を絡ませた。

「心配してくれて、ありがとう」

そう言って、浴衣と同じ桜色の頬で鮮やかに笑った。








つづく








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