烈兄貴が、好き。
世界で一番。
大好き。
だから誰にも、渡さない。
「Wish Matrix」
− G side −
「お前、高校生にもなって居残りなんて恥ずかしいとは思わないのか・・・?」
声のしたほうを見ると、烈兄貴がドアにもたれながら
呆れ顔でこちらを見ていた。
「しかたねーじゃんっ。追試の追試の追試で受からなかったの、オレだけだったんだから・・・」
「・・・それを仕方ないと言い切るトコがお前だな」
追試の追試の追試なんて聞いたことないぞ、とかぼやきながら
兄貴が教室に入ってきた。
机に広がってるテストとノートを見てため息をつく。
「お前、今日居残りだってちゃんとジュンちゃんに言ったのか?」
「へ?・・・・やっべ、言ってねぇや!」
「アホ。ウチで待っててもらうように言っといてやるから
早く課題済まして帰ってこい」
「なんだよ、兄貴も帰るのか?教えていってくれたっていーじゃん!
兄貴ならこんくらい簡単だろ?」
「自分でやんなきゃ意味ないだろーが。ったく。
んじゃな。」
くぅ、薄情者め。
「今度からもう少し早めに聞きに来るんだな。
追試なんて受けらんないよーにタップリしごいてやるよ」
ドアから顔だけ出してそう言うと、そのまま教室を出ていってしまう。
兄貴とジュンが一緒に帰ってるところを想像して、嫌なモノが胸に広がる。
オレがいないところで兄貴が誰かの隣にいることなんて考えただけで吐き気がする。
相手が、誰だとしても。
もう1回くらい追試やってもたいしてかわんねーやと、
問題も見ずにテキトーに答えを書きなぐって、教室を出た。
オレは今、ジュンと付き合ってる。
ジュンはどーしてオレなんかのことを好きでいてくれるのかわかんねーけど
それでも側にいてくれる。
オレが、兄貴のこと好きなの、きっと知ってるのに。
兄貴といると、自分に歯止めがきかなくなる。
自分以外の人間を見ないで。
オレ以外の人間の声を聞かないで。
きっと兄貴は気づいてない。
兄貴の枷になるような想いは、気づかれちゃいけない。
ジュンと付き合ってる間は、兄貴はオレの気持ちに気づかない。
いつもみたいに、オレに安心しきった目を見せてくれるはず。
その為にオレはウソを重ねてく。