単純でバカな豪が、好き。
明るくて可愛いジュンちゃんが好き。
嘘。
豪が嫌い。ボクの気持ちに気づかないから。
ジュンちゃんが嫌い。当たり前の顔で、豪を独り占めしてるから。
だけど。
それでも笑ってる自分が、一番キライ。
「Wish Matrix」
− R side −
ジュンちゃんに豪の部屋に上がってもらって、お茶を入れる。
課題があるからと嘘をついて、自分の部屋に戻った。
ジュンちゃんと喋るのは嫌いじゃないけど、豪が戻ってきた時のことを思うと、
なんだかそれだけで、息苦しくなってしまうから。
気づかなければよかったのに。
こんな気持ち。
そうすれば、こんな苦しい思いしなくてすんだのに。
もう、嫌だ。
疲れちゃった。
誰か・・・助けて。
「ただいまーっ」
元気な声と、ドタドタという階段を駆け上る派手な音がする。
一直線に自室へ飛び込んで、豪の部屋のドアが閉まる。
聞き慣れた音なのに、すごく大きく響いて、胸がイタイ。
お願い、助けて。
『豪、ずいぶん早いじゃない』
『なんだよ早く帰ってきちゃ悪いみたいな言い方じゃねーか』
『そういうわけじゃないわよ。
でも、ちゃんと課題終わらせたわけ?』
『・・・・・』
『・・・・・』
『ま、いーじゃねーかっ。はっはっはー』
『もーー、昔っから変わらないんだから、そーゆートコ!』
壁越しに聞こえて来る声を聞きながら、
胸がつぶれそうになる。
苦しい。
ハヤク・・・助けて。
『なんだよ、ジュンが待ってると思ったからこーやって急いで帰ってきたんじゃねーか』
『・・・・・』
『あっれー?赤くなってやんの。かわいーヤツ』
『うるさいわねっ!』
耳を押さえてしゃがみ込む。
ハヤク、助けて。
ボクをここから・・・・助けてよ、豪。