自分はずっと、"被害者"だった。
"加害者"の彼女を憎んでた。
2人の立場が変わった時。
意味をなさなくなった感情は、どこへ行くのか。
「Wish Matrix」
− R side −
豪が、ボクのことを好き?
言ってることがメチャクチャだ。
そんなこと、あるわけないだろ。
教えてあげなきゃいけない。
豪が言ってることは、間違いだって。
「ごめん、兄貴の気持ちも知らないで、いっぱい傷つけた」
気にするな、傷つくことには慣れてる。
「本当に、好きなんだ」
いやだ、聞きたくない。
「兄貴だって、オレのこと好きだろ?」
呼吸が止まる。
息の仕方がわからない。
「豪には、ジュンちゃんがいるだろ?」
彼女の名前を出した自分の口の中に嫌な味が広がる。
「ジュンのことは・・・」
ほら。
何も言えない。
だったら、最初から好きとか言うなよ。
これ以上惨めになりたくない。
「オレ、ずっと兄貴のことが好きだった。でも、兄貴はオレのこと
そーゆー風には見てくれねぇと思ってた。
好きで好きで好きで、気が狂いそうだった。
いつか・・・そのせいで兄貴のこと傷つけると思って・・・・・怖かった」
・・豪?
「兄貴を傷つける前になんとかしなきゃと思って、ジュンと付き合うことにした。
そうすれば、兄貴はオレの気持ちにも気づかないし、
泣かせることもないと思って・・・」
「・・それじゃぁ、ジュンちゃんは・・・?」
声が震える。
だって、それじゃぁ・・・・
「兄貴を護るためなら、誰を傷つけてもオレはヘーキ」
"怖い"と思った。
そんな強い思いで自分をみてる豪のことが。
自分の存在が、誰かを傷つけてしまうということが。
なのに、嬉しくて死にそうだと思ってる自分のことが。
「それくらい、兄貴のことが好き」
怖くて、たまらないけど。
ボクは豪の胸に戻って、さっきと違う、涙をこぼす。
「・・・・ボクも豪が、好き」
ただ、豪が好きだという気持ち。
豪が、ボクを好きでいてくれるという気持ち。
何かを犠牲にしても、一緒にいたいという願い。
それがボクらのWish Matrix。